2020(02)
■短い夏の思い出を
++++
「それじゃあ改めて、朝霞クン誕生日おめでと~」
「ありがとう」
今日は朝霞クンの誕生日だということで、丸一日俺がエスコートしてお祝いをして歩いてた。最後にたどり着くのはやっぱり店だったんだけど、今日は俺も働くんじゃなくて、純粋にお客さんとして朝霞クンとのサシ飲みを楽しむ。
先月の俺の誕生日には、店を貸し切った派手な誕生会を朝霞クンが開いてくれたんだけど、さすがに今回はそこまで手を回す時間が取れなかった。それに、朝霞クンの人脈って広すぎるから、俺が声をかけるだけじゃカバー出来ないんだよね。
「本当なら、あずさチャンと一緒に過ごしてたはずなのにね~。俺になって残念でした~」
「いや、お前に祝ってもらえるだけで十分嬉しいぞ」
「うわっ! 1年前からじゃ考えられないセリフでしょでしょ~!?」
「まあ……前までだったら誕生日なんかよりステージが最優先だったしな。この時期にそんなことやってる余裕なんかなかったし」
「今年なんか特に、3日後だもんね。こんな話持ちかけたらステージに立つ前に星になってたね」
「ああ。冗談じゃなくてボコボコにしてただろうな」
本当に、去年と今年じゃいろんなことが違いすぎて、戸惑いすら覚えるけれど。鬼のプロデューサーとステージスターが明るく健全な親友になっただけで、こうまで変わるとはって感じ。前までの関係も悪くなかったけど、今が最高だね。
「朝霞クン、はいこれ、プレゼント」
「えっ、欲しかったら自分で頼んだのに。つかお前皮いいのか」
「俺が追加で頼めばいいだけのことだし。朝霞クン皮好きでしょ。食べてよ」
「それじゃあありがたく」
もちろんちゃんとしたプレゼントもあるんだけど、それはもうちょっと後で。ひとまず5種盛りの中から皮の串をプレゼント。朝霞クン、皮を長くもぐもぐするのが好きなんだよね。そうするとその間、俺が1人で喋り続けなきゃいけないんだけど。
「でもホントに、あずさチャンと会う予定とかなかったの?」
「……一応あったけど、映研の作品制作会議が入ったなら仕方ないだろ。アイツが映研で今後書ける脚本の数なんか高が知れてる。やるからには最高の物を書いて欲しい。そのためのサポートは惜しまないし」
「朝霞クンなりの愛だね~」
「茶化すな。お前には合わないかもしれないけど、アイツの書く話は本当に良いんだぞ。繊細な機微があってだな」
「何回も聞きました~」
朝霞クンなりの惚気なんだろうけど、やっぱり映研の脚本の話になるのがね。部活の話ばっかりなのが嫌~っていう不満もあるとは聞くけど、そもそもあずさチャン本人が部活に熱を上げてる鬼の朝霞Pに惚れたっていうのが矛盾してるんだよね。
キラキラした鬼の朝霞Pのままでいて欲しいなら部活の話は切っても切れないし。かといって優しい朝霞クンと甘いムードで付き合いたいなら刺激の少ない、ただのいい人な朝霞クンになっちゃって物足りなくなるはず。どっちを取るかだね。
「そうだ山口」
「なに~?」
「週末か。丸の池に行かないか?」
「あっ、ステージ~?」
「ああ。戸田たちがどんなステージをやるのか見に行こうと思って」
「行く行く! あっでも、土曜日はちょっと都合が悪いから、日曜日でもいい?」
「わかった、日曜な。あと、その次の8日になるんだけど」
「今度は何?」
「大石からの誘いなんだけど、海でベティさんの店の人たちの慰労会的なバーベキューがあるらしいんだ。俺も友達誘って来いって言われてて」
「お店の慰労会でしょ? 朝霞クンは大石クンの友達だからともかく、俺が行っても大丈夫なの、それ」
「大石はお前でも誘えって言ってたぞ」
「あ、ご指名なのね。ならお呼ばれしようかな」
思いがけなく夏の予定が少しずつ埋まり始めてる。海でのバーベキューは素直に楽しみ。海で遊びたいなら水着の準備もお忘れなくとも聞いているそうなので、水着も買いに行かなきゃね。朝霞クンと一緒に行こうか、水着なんか絶対持ってないだろうし。
「大石クンの他には誰がいるの? やっぱりあずさチャン? 幼馴染みで常連なんでしょ?」
「アイツは映研の合宿があるとかで今回は不参加だ。他にはミーナが呼ばれてるし、確かミーナはなっちに声をかけるっつってたな」
「え~! 議長サン!? いいね~、超絶インドア派で夏の日中とか絶賛引きこもりまっしぐら、闇の眷属の議長サンが夏の海に!? 奇跡じゃん!」
「随分な言い様だな。つかなっちってインドア派か」
「向島さんの子だしね」
「ああ、そう言われれば確かに――って、向島に対する偏見が過ぎる!」
対策委員だった時も議長サンは夏の屋外をかなり嫌がって、高崎クンにどやされるまでがテンプレだったからね。でも、議長サンもいるのはとっかかり的な意味でも本当に助かる。人見知りに絡む体で俺も場に馴染めるし。
「議長サン水着着るのかな、そうだとしたら楽しみ~!」
「いや、お前何でなっちの水着にそこまでテンション爆上げしてるんだよ」
「男の摂理でしょ、カワイ~子の水着が楽しみなのって。疚しくないからこそ逆にここまでオープンに楽しみ~って言えるの」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
「そうは言うけど、議長サンだってきっと大石クンの肉体美にはキャーキャー言うからね、あの子そーゆーの好きだし。俺のコトも見直してくれるかな~」
「肉体美。……ああーっ! は!? お前と大石がいて!? 水着!? そのメンツの中で脱げるワケねーだろふざけんな!」
「あ~、スイッチ押しちゃった。失敗した~でしょでしょ」
「羽織必須、っと……」
ど~しよ、朝霞クンいじけちゃった。でも、そのときになればどうにでもなるよね。あ~、いろいろ予定が入ってきて楽しみだな~。今まで出来なかった分、朝霞クンとステージ以外の思い出をいーっぱい! 作るんだもんね!
end.
++++
朝霞Pの誕生日をやまよが祝っていたはずだったんだけど、この先の予定を埋めるだけの話になった。
でも、これまでの夏とは比べものにならないほど楽しくなりそうでよかったなやまよ、明るく健全な親友だからな!
と言うか、やっぱナツよはお互いのことをよくわかってるし知ってるなと。基本的に敵対関係だけど、ビジネス不仲くらいには進展するか?
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「それじゃあ改めて、朝霞クン誕生日おめでと~」
「ありがとう」
今日は朝霞クンの誕生日だということで、丸一日俺がエスコートしてお祝いをして歩いてた。最後にたどり着くのはやっぱり店だったんだけど、今日は俺も働くんじゃなくて、純粋にお客さんとして朝霞クンとのサシ飲みを楽しむ。
先月の俺の誕生日には、店を貸し切った派手な誕生会を朝霞クンが開いてくれたんだけど、さすがに今回はそこまで手を回す時間が取れなかった。それに、朝霞クンの人脈って広すぎるから、俺が声をかけるだけじゃカバー出来ないんだよね。
「本当なら、あずさチャンと一緒に過ごしてたはずなのにね~。俺になって残念でした~」
「いや、お前に祝ってもらえるだけで十分嬉しいぞ」
「うわっ! 1年前からじゃ考えられないセリフでしょでしょ~!?」
「まあ……前までだったら誕生日なんかよりステージが最優先だったしな。この時期にそんなことやってる余裕なんかなかったし」
「今年なんか特に、3日後だもんね。こんな話持ちかけたらステージに立つ前に星になってたね」
「ああ。冗談じゃなくてボコボコにしてただろうな」
本当に、去年と今年じゃいろんなことが違いすぎて、戸惑いすら覚えるけれど。鬼のプロデューサーとステージスターが明るく健全な親友になっただけで、こうまで変わるとはって感じ。前までの関係も悪くなかったけど、今が最高だね。
「朝霞クン、はいこれ、プレゼント」
「えっ、欲しかったら自分で頼んだのに。つかお前皮いいのか」
「俺が追加で頼めばいいだけのことだし。朝霞クン皮好きでしょ。食べてよ」
「それじゃあありがたく」
もちろんちゃんとしたプレゼントもあるんだけど、それはもうちょっと後で。ひとまず5種盛りの中から皮の串をプレゼント。朝霞クン、皮を長くもぐもぐするのが好きなんだよね。そうするとその間、俺が1人で喋り続けなきゃいけないんだけど。
「でもホントに、あずさチャンと会う予定とかなかったの?」
「……一応あったけど、映研の作品制作会議が入ったなら仕方ないだろ。アイツが映研で今後書ける脚本の数なんか高が知れてる。やるからには最高の物を書いて欲しい。そのためのサポートは惜しまないし」
「朝霞クンなりの愛だね~」
「茶化すな。お前には合わないかもしれないけど、アイツの書く話は本当に良いんだぞ。繊細な機微があってだな」
「何回も聞きました~」
朝霞クンなりの惚気なんだろうけど、やっぱり映研の脚本の話になるのがね。部活の話ばっかりなのが嫌~っていう不満もあるとは聞くけど、そもそもあずさチャン本人が部活に熱を上げてる鬼の朝霞Pに惚れたっていうのが矛盾してるんだよね。
キラキラした鬼の朝霞Pのままでいて欲しいなら部活の話は切っても切れないし。かといって優しい朝霞クンと甘いムードで付き合いたいなら刺激の少ない、ただのいい人な朝霞クンになっちゃって物足りなくなるはず。どっちを取るかだね。
「そうだ山口」
「なに~?」
「週末か。丸の池に行かないか?」
「あっ、ステージ~?」
「ああ。戸田たちがどんなステージをやるのか見に行こうと思って」
「行く行く! あっでも、土曜日はちょっと都合が悪いから、日曜日でもいい?」
「わかった、日曜な。あと、その次の8日になるんだけど」
「今度は何?」
「大石からの誘いなんだけど、海でベティさんの店の人たちの慰労会的なバーベキューがあるらしいんだ。俺も友達誘って来いって言われてて」
「お店の慰労会でしょ? 朝霞クンは大石クンの友達だからともかく、俺が行っても大丈夫なの、それ」
「大石はお前でも誘えって言ってたぞ」
「あ、ご指名なのね。ならお呼ばれしようかな」
思いがけなく夏の予定が少しずつ埋まり始めてる。海でのバーベキューは素直に楽しみ。海で遊びたいなら水着の準備もお忘れなくとも聞いているそうなので、水着も買いに行かなきゃね。朝霞クンと一緒に行こうか、水着なんか絶対持ってないだろうし。
「大石クンの他には誰がいるの? やっぱりあずさチャン? 幼馴染みで常連なんでしょ?」
「アイツは映研の合宿があるとかで今回は不参加だ。他にはミーナが呼ばれてるし、確かミーナはなっちに声をかけるっつってたな」
「え~! 議長サン!? いいね~、超絶インドア派で夏の日中とか絶賛引きこもりまっしぐら、闇の眷属の議長サンが夏の海に!? 奇跡じゃん!」
「随分な言い様だな。つかなっちってインドア派か」
「向島さんの子だしね」
「ああ、そう言われれば確かに――って、向島に対する偏見が過ぎる!」
対策委員だった時も議長サンは夏の屋外をかなり嫌がって、高崎クンにどやされるまでがテンプレだったからね。でも、議長サンもいるのはとっかかり的な意味でも本当に助かる。人見知りに絡む体で俺も場に馴染めるし。
「議長サン水着着るのかな、そうだとしたら楽しみ~!」
「いや、お前何でなっちの水着にそこまでテンション爆上げしてるんだよ」
「男の摂理でしょ、カワイ~子の水着が楽しみなのって。疚しくないからこそ逆にここまでオープンに楽しみ~って言えるの」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
「そうは言うけど、議長サンだってきっと大石クンの肉体美にはキャーキャー言うからね、あの子そーゆーの好きだし。俺のコトも見直してくれるかな~」
「肉体美。……ああーっ! は!? お前と大石がいて!? 水着!? そのメンツの中で脱げるワケねーだろふざけんな!」
「あ~、スイッチ押しちゃった。失敗した~でしょでしょ」
「羽織必須、っと……」
ど~しよ、朝霞クンいじけちゃった。でも、そのときになればどうにでもなるよね。あ~、いろいろ予定が入ってきて楽しみだな~。今まで出来なかった分、朝霞クンとステージ以外の思い出をいーっぱい! 作るんだもんね!
end.
++++
朝霞Pの誕生日をやまよが祝っていたはずだったんだけど、この先の予定を埋めるだけの話になった。
でも、これまでの夏とは比べものにならないほど楽しくなりそうでよかったなやまよ、明るく健全な親友だからな!
と言うか、やっぱナツよはお互いのことをよくわかってるし知ってるなと。基本的に敵対関係だけど、ビジネス不仲くらいには進展するか?
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