2020(02)

■来期への積み上げボーダー

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「サ~サ~……」
「うわっ!? どうしたシノ! 大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
「ヤバい~、テスト~、めっちゃムズかった……」

 火曜2限のテストを終えて、3限、4限に向けて昼食でも食べて頑張ろうとシノと待ち合わせをしたまではよかった。テストを終えてやってきたシノは、いつもの元気印といった調子ではなく、晴れることのない雲に覆われたようにどんよりとしていた。
 本人が言うように、テストが難しくて落ち込んでいるのだろう。ただ、それの何が問題かと言うと、俺たちが今受けていた2限のテストだ。科目名は「マスコミ論Ⅰ」、授業を担当するのは「佐藤久」とある。そう、俺たちが希望する佐藤ゼミの、佐藤先生だ。

「ヒゲさんの授業だからめっちゃ勉強したんだよ! お前に借りたノートとプリントもめっちゃ見てさ! でも、その結果が論述式テストってなんだよ…!」
「と言うか、大学のテストなんだから論述式が基本なんじゃ…? 英語とかならともかく」
「全体的に成績が悪くてもマスコミ論がイケればワンチャンセーフかと思ったら……ああーっ! ダメな気しかしねーよぉー!」

 こないだ、果林先輩と高木先輩から佐藤ゼミに入りたいならこのテストをしっかりとやっておけという風に忠告を受けていた。佐藤ゼミは毎年倍率が高く、先生も近年ではキャラの濃さだけでなく学業の成績も重視して選考活動をしていると聞いている。
 ただ、例外で高木先輩がMBCCのミキサーであるというだけの理由で他に特に強みもないのに採用されているそうだけど、そんな特殊な事情でもない限り、ちゃんと勉強をした上でこれという強みをアピールしていかないといけないそうだ。
 ……と言うか、本人はアピールポイントがないって言ってたそうだけど、高木先輩は普段MBCCでもパソコンを使った音声編集などをやっているし、十分ゼミに生きる強みだとは思う。あと、キャラクター的にも実際はかなり面白い人だと思う。
 高木先輩のことはともかく、問題はシノだ。シノは授業中にも居眠りするようになってしまっていて、普通にやってたんじゃいい成績が取れるとはお世辞にも思えない。シノと一緒に佐藤ゼミでラジオをやりたくて俺はノートを貸したりシノが抜けてるポイントを教えたりしてたけども。

「埋めるには埋めたのか?」
「埋めた。書いてる内容全然覚えてないけど、書くトコの8割は埋めた」
「……その努力を先生がどう見るかに賭けるしかない」
「ちなみに秋学期もヒゲさんの授業ってあんの?」
「えっと、確かメディア論っていうのがあったかな。果林先輩によれば、ゼミに入りたいなら取っとけと」
「なるほどー……はー、なかなかキビいな~…!」

 何にせよ、初めての大学のテストはわからないことだらけだ。問題が、とかじゃなくてどう立ち振る舞えばいいのかが、だ。座席は学籍番号の順に指定されている。そして学生証を机の角に置いておかなければならない。顔写真のある身分証明書だからだろう。
 テストが始まってから20分後までは入室出来るけど、それ以降はテストを受けられないそうだ。そして退室も30分後から可能になる。それ以上やることがないと思えば退室してもいいそうだけど、本当に大丈夫かと思って俺は1時間フルに使っている。
 通常講義期間と時間割と言うか、タイムテーブルがちょっと違う感じで動いて行くのが変な感じがする。授業は90分なのにテストは60分だったりするし。テストじゃなくてレポートの授業だったら、レポート提出後は次のコマまでずーっと暇だったりする。

「成績のボーダーってめちゃ残酷だと思う。今からでも何かオタク的な趣味を見つけたらいいのか?」
「そういう物でもないと思うけど。と言うか、趣味の観点で言えば俺も十分薄いから危機感が」
「お前は成績がいいだろ! 俺は! 多分成績もダメなら趣味も濃くないのが問題なんだ!」
「でもお前はミキサーじゃないか。それだけで俺より頭一つ抜けてるんだぞ」
「成績もちゃんとしろって言ったのはお前だろ~…!」
「それはもちろん」
「どーやったら確実に佐藤ゼミに入れるんだよ~…!」
「いや、だからお前の場合は勉強を頑張るだけでいいんだって」

 高木先輩によれば、今の2年生にもいかにもなサブカル的趣味のある人はそんなに多くないそうだ。自分がわかるだけで片手に収まるくらいの人数しか確認出来ていないと。だから趣味の点はさほど気にしなくても大丈夫だそうだけど。それよりも先生が興味を引かれる人間である方が選考を勝ち抜くには重要であるらしい。

「そう言えば、ササの趣味って?」
「読書かな」
「うわ、普通」
「何だよ。そういうシノはどんな趣味があるんだよ」
「趣味って言えるかはわかんないけど、モータースポーツを見るのは好きだな。サーキット行ったり、競艇場行ったり。あの音と臨場感がたまんないよな~!」
「へえ、そんな趣味があったのか」
「そうそう。だからさ、レナがバイク乗ってるじゃんか、あーゆー機体も実際好きだし」
「自分で乗ろうとは思わないのか? 1人暮らし始めたら、足も必要になるだろ」
「維持費かかるし原付が一番現実的じゃね?」
「まあな。豊葦の中なら原付で十分だよ」
「1人暮らしを無事に始めるためにも最低限の成績は必要なんだよ俺には」


end.


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ササシノは安定のシノが苦戦中ですが、やっぱりいつ見てもササが進んで助けてあげてて他の出来る子&出来ない子のコンビとは一味違いますね
一緒に佐藤ゼミに入ってラジオをやるというところが共通目標なので、入るだけじゃなくてラジオもとなると3年生くらいまで油断は出来ないのよね
そしてシノの秘めたる趣味がここで明らかになりました。モータースポーツとかが好きなのね。したらやっぱレナのバイクとか好きそうね

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