2020(02)

■がっぽり山分けベジタブル

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「思ったより多いなー……どーする」

 ミドリさんが「彩人は1人暮らしだしジャガイモ使うよね!」とジャガイモをケースでくれた。ジャガイモは1人暮らしの基本的な野菜だし、最近じゃスーパーで買おうにも高くなって来てたから、あればあるだけ助かるだろうと思って喜んでたんだけど。
 いざもらった段ボールを開けて見ると、何かすげーデカイ、スーパーで買うと今なら1個98円とかしそうなヤツが、これでもかとゴロゴロ入っていて。本当にこんなモンを箱でもらっていいのかとビビっている。だけどミドリさん曰く「もらってくれることが人助けだから!」とのこと。
 さすがにケースでは量が多すぎるし、何よりこんなモンを独り占めなんかすると罪悪感に苛まれる。それなら近場で1人暮らしをしてる同士たちにお裾分けをすればいいのではないかと思い立つ。ただ、高木さんは受け取り済みらしいので、星ヶ丘中心に攻める。

「何このジャガイモ。彩人、本当にもらっていいの?」
「ああ。持ってってくれ。みちるなら俺より上手く使えるだろうし」
「ジャガイモは最近高くなってるし、もらえるなら助かるけど。ありがと。でも、こんなにどうしたの?」
「合宿で一緒になった星大の先輩がくれたんだよ。たくさんあるからもらってくれっつって」
「へえ。あるところにはあるんだね」

 ――とか何とか話していると、ピンポーンとインターホンが鳴る。受話器を上げて応答すると、ドアの向こうにいたのが朝霞さんだとわかる。はーいと返事をして、ドアを開けると、何と朝霞さんも段ボール箱を抱えていたのだ。

「ふー、重かった。彩人、ジャガイモくれるんだって? サンキュ」
「いえいえ」
「朝霞さんこんにちは」
「ようみちる。ご無沙汰だな」
「つか、この箱は」
「ああ、これな。宇部の学部の友達が趣味で作ってる野菜なんだけど、良かったら食ってくれっつって配ってたからもらってきたんだ。お前らがいること前提で多めにもらってるから、好きなだけ持ってってくれ」
「えー! いいんすか!」
「これだけの野菜をもらえるなんて、凄いですね」
「自分でも食うらしいけど、野菜を育てるために育ててるみたくて結果食い切れないんだと」

 箱の中には本当にいろんな種類の野菜が入っていた。パッと見ただけでもトマトやキュウリ、ナス、とうもろこし、ピーマンなどなど……1人暮らしの人間なら十分すぎるくらいの種類が揃っていて、ここは移動販売所か何かかと錯覚しそうになる。

「あ、シソだ。私これもらおう」
「シソなんか何に使うんだ?」
「豚肉と一緒に巻いて焼いたら多分美味しい」
「絶対美味い。ビールとの相性も最高だな。俺ならスライスチーズバージョンも作る」
「朝霞さん、前から思ってましたけど食事をビールとの相性で決める節がありますよね」
「ああ、まあ、夏だし、多少はな? 多分戸田も同意してくれると思うけど」
「枝豆は朝霞さん持って行きます?」
「枝豆は既に俺の部屋にキープしてあるんだ。だからお前らで分けてくれ」
「うわっ、この人抜かりねえ!」
「ここまで分かりやすいとある種の清々しささえ感じる」

 各々が特別に欲しい野菜以外のよくある野菜たちを3人で平等に分けても、買うといくらするんだという量になっている。トマトやキュウリ、ピーマンといったスタンダードな野菜が本当にたくさんあるんだよな。みちると朝霞さんはオクラも分け合ってたけど、俺は普段の料理には使わなさそうだし辞退した。
 朝霞さんによれば、夏のステージは本当に体力勝負になってくるので、食えなくなると終わりなのだという。自分は台本を書く時間を捻出するためにゼリー飲料とレッドブルで済ませてたけど、お前たちは真似しないようにと忠告された。でも、戸田さんから既に聞いてたんだよなあ。

「朝霞さんジャガイモどーします? 調理のバリエーションとかあります?」
「ぶっちゃけない。レンチンでじゃがバターかカレーかって感じ」
「えっ、レンチンでじゃがバタ出来るんすか」
「厳密には蒸かし芋な。水で濡らしてラップで包んで3分から3分半だけど、これはデカいから4分くらいかかるかもな」
「へー、そんなモンでいいんすね」
「2個だとその分時間も伸びますよね」
「ああ、そうだな。その辺はまたネットとかで調べてくれ」
「はい。でも、レンジで蒸かし芋が出来ればポテトサラダを作るハードルも下がりそうです」
「料理をするのが女ばかりじゃないのはわかってるけど、やっぱポテトサラダを作るっていう発想が女子だなと」

 みちるは料理がそんなに得意じゃないみたいなことを言ってたけど、俺からすれば十分日頃から料理をしているし、しっかり作ってるなと思う。朝霞さんは料理が得意な人が周りにいるからそういう人たちに甘えてしまいがちなんだそうだ。……そう言えば、リクって料理するのかな。

「そういや、朝霞さんの彼女さんてすげー料理上手なんすよね」
「そうだな。ジャガイモ料理だったら、ポテトパイが凄く美味かったな。あー、話してたらまた食いたくなってきたな。頼んでみようかな」
「ポテトパイ!? なんすかそれめちゃ美味そうじゃないすか!」
「実際美味いからな」
「うわー、惚気だ惚気」
「うるせえ」


end.


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Pさんのレベルからすればこれだけでも十分どちゃくそな惚気なんだよなあ……洋平ちゃんやちーちゃんが聞いたら感動するレベルの惚気だよ
星大のジャガイモは分配するところにいろいろ配られてるようですが、今では野菜の価格が高騰してるみたいなので助かる人には本当に助かるのね
みちるはまだ自炊も結構頑張ってるみたいですね。本人曰く得意ではないとのことだけど、十分頑張ってます。えらい。

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