2020(02)
■長い夏の計画
++++
「いや、つかお前何でいるんだよ」
「何でいるんだよって、俺がいるから先輩が来てるんじゃないんすか?」
「いねえだろうと思ったら上から音はするし、かと言ってお前以外の人間がいるような感じでもなかったから覗きに来たんじゃねえか」
高崎先輩が酒瓶片手に部屋へ殴り込んで来た。こういうのはよくあることだけど、自分が来ておいて「何でいるんだ」というのは何気に酷くないかと思う。いや、そう言われる理由はわからないでもないけど、いろいろな事情が重なった結果だとは言っておかなければならないだろう。
カシスソーダを作って先輩と乾杯をする。先輩が言いたかったのは、今日は俺の誕生日なのに直とデートの予定でも入ってなかったのか、という意味だろう。何でいるんだよというそれだけで意味を酌めというのも横暴だとは思うけど、それもよくあることだ。
「今日は向舞祭の練習だったんすよ」
「ああ、定例会でか」
「そうっす。で、緑大とか青女とかの私大は明日からテストじゃないすか。別にそこまでヤバいってワケでもないんすけど、一応はちゃんとしとかないとっつーことで今日は練習だけっていう感じで」
「ふーん。真面目なこった」
「高崎先輩はさすがにテストなんかほとんどないっすよね、4年生っすし」
「そうだな。もうゼミくらいしか履修してないしな。火曜以外はほとんどバイトか卒論かって感じで」
やっぱり4年生にもなると履修コマがガクンと減るんだな。実際俺も3年になってからは必修の学部固有科目が少なくなってきて、一般教養の科目を取る余裕も出て来た。秋学期にはもう少し余裕が出て来ればいいんだけど。
高崎先輩はゼミが火曜4限ということで、もう1教科の履修も火曜3限に設定しているそうだ。そして授業が終われば夜にやっているFMにしうみでの番組に移動する。火曜日が一番規則正しく動けているから、そこで曜日感覚を保っているという感じらしい。
「先輩、就活は」
「まあぼちぼちっつー感じだな」
「そうっすか」
高崎先輩の志望する業界なんかは恐ろしくて聞けたことはないんだけど、試験が必要な職種だとは聞いている。学内で開講されている講座なんかは取ってないらしいけど、独学で頑張っているそうだ。俺ももうちょっとしたら進路のことについて考え始めないと。
「テストが終わった後はどーするんすか? 就活とバイトすか?」
「テストの後はよ、卒論のフィールドワークに出ようと思ってんだよな」
「へー、凄いっすね。何を調査するんすか?」
「バイクひとつで全国巡って、コミュニティラジオがどういう役割を果たしてるのかっていうことをな」
「え、バイクで全国行脚って、え、ガチすか!?」
「まあ、火曜日には戻って来なきゃいけねえから、ずーっと旅しっぱなしっつーワケにもいかねえんだけどな。本当はバイクで一筆書きとかしたかったんだけどな」
「学生の夏休みならではの時間の使い方っすよね」
「金ならある程度あるしな」
基本バイクで移動するけど、よほど遠いところは時間のことも考えて公共交通機関を使わざるを得なくなるだろうとのこと。だけど、それでもこの夏でいろいろなところを巡る計画を立てている先輩のイキイキした様は。これが4年生かと羨ましく感じる。
燃料費や宿代などの経費もそこそこ掛かって来るだろう。だけど出すところでは惜しまない先輩だ。俺も4年生になって、インターフェイスのことも入って来ないまとまった休み
に何をしたいかを考えて金を貯めておく必要があるかもしれない。
「いいっすね先輩、悠々自適って感じで」
「お前も向舞祭が終わったら好きにすりゃいいじゃねえか」
「まあそうなんすけどね」
向舞祭が終わってからの1ヶ月半くらいをどう過ごすかの計画はまだない。実家にはどれくらい帰るのか、バイトはどうするのかとか、考えることはまあまあるんだけど。まあでもぶっちゃけ実家からでもたまに用事があるときだけ向島に帰るみたいなことは出来る距離だからな。
「まあ、定例会のことがあるんでずっとのんびりも出来ないっすし、学祭とか昼放送とか、考えることも多いっすね」
「そうか。どうだ、定例会の改革の方は」
「ぼちぼちっすね。今のところはみんなにも受け入れてもらってるような感じで。でも、何か問題が出るとすればこれに馴染んだ後だと思うんで、まだ油断は出来ないっすね」
「MDストックのファイル変換と? 機材保障費についても何かしたんだっけか」
「そうっすね。対策委員主催行事の場合は対策にも半分分けることにしました」
「そいつはいいな。夏合宿の参加費をぼったくって稼ぐしかなかったことを考えるといい時代だ」
「ちなみに参加費ってどれくらいぼったくってたんすか? 参加費って毎年7700円だったじゃないすか」
「1人4000円はぼったくってたな」
「マジすか!?」
今年の対策委員が、夏合宿の参加費を機材保障費込みの6500円にしますって宣言してたんだ。対策委員にも安定した収入があれば合宿の参加費が一般のみんなの財布を圧迫することもなかったんだと改めて思い知ったと言うか。つかマジか、先輩たちの時代はそんだけぼったくってたのか。
「何にせよ、物事にはいろいろ事情があるんだ」
end.
++++
L誕であることを完全に後から思い出したものの、毎年テスト期間だからって高崎とサシ飲みしてるだけだったのはフェーズ2でも継続のようです。
今年は直クンいるしちょっとは変わるかなと思ったけど、何だかなあ。でも、何となくそれもまたL直っぽいかなと。まったりペースでいいんですよ。
で、高崎は結構壮大な計画を練っているようですね。バイクでどこでも行ってフィールドワーク。確かに学生の時間がないとなかなか出来ないですね
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「いや、つかお前何でいるんだよ」
「何でいるんだよって、俺がいるから先輩が来てるんじゃないんすか?」
「いねえだろうと思ったら上から音はするし、かと言ってお前以外の人間がいるような感じでもなかったから覗きに来たんじゃねえか」
高崎先輩が酒瓶片手に部屋へ殴り込んで来た。こういうのはよくあることだけど、自分が来ておいて「何でいるんだ」というのは何気に酷くないかと思う。いや、そう言われる理由はわからないでもないけど、いろいろな事情が重なった結果だとは言っておかなければならないだろう。
カシスソーダを作って先輩と乾杯をする。先輩が言いたかったのは、今日は俺の誕生日なのに直とデートの予定でも入ってなかったのか、という意味だろう。何でいるんだよというそれだけで意味を酌めというのも横暴だとは思うけど、それもよくあることだ。
「今日は向舞祭の練習だったんすよ」
「ああ、定例会でか」
「そうっす。で、緑大とか青女とかの私大は明日からテストじゃないすか。別にそこまでヤバいってワケでもないんすけど、一応はちゃんとしとかないとっつーことで今日は練習だけっていう感じで」
「ふーん。真面目なこった」
「高崎先輩はさすがにテストなんかほとんどないっすよね、4年生っすし」
「そうだな。もうゼミくらいしか履修してないしな。火曜以外はほとんどバイトか卒論かって感じで」
やっぱり4年生にもなると履修コマがガクンと減るんだな。実際俺も3年になってからは必修の学部固有科目が少なくなってきて、一般教養の科目を取る余裕も出て来た。秋学期にはもう少し余裕が出て来ればいいんだけど。
高崎先輩はゼミが火曜4限ということで、もう1教科の履修も火曜3限に設定しているそうだ。そして授業が終われば夜にやっているFMにしうみでの番組に移動する。火曜日が一番規則正しく動けているから、そこで曜日感覚を保っているという感じらしい。
「先輩、就活は」
「まあぼちぼちっつー感じだな」
「そうっすか」
高崎先輩の志望する業界なんかは恐ろしくて聞けたことはないんだけど、試験が必要な職種だとは聞いている。学内で開講されている講座なんかは取ってないらしいけど、独学で頑張っているそうだ。俺ももうちょっとしたら進路のことについて考え始めないと。
「テストが終わった後はどーするんすか? 就活とバイトすか?」
「テストの後はよ、卒論のフィールドワークに出ようと思ってんだよな」
「へー、凄いっすね。何を調査するんすか?」
「バイクひとつで全国巡って、コミュニティラジオがどういう役割を果たしてるのかっていうことをな」
「え、バイクで全国行脚って、え、ガチすか!?」
「まあ、火曜日には戻って来なきゃいけねえから、ずーっと旅しっぱなしっつーワケにもいかねえんだけどな。本当はバイクで一筆書きとかしたかったんだけどな」
「学生の夏休みならではの時間の使い方っすよね」
「金ならある程度あるしな」
基本バイクで移動するけど、よほど遠いところは時間のことも考えて公共交通機関を使わざるを得なくなるだろうとのこと。だけど、それでもこの夏でいろいろなところを巡る計画を立てている先輩のイキイキした様は。これが4年生かと羨ましく感じる。
燃料費や宿代などの経費もそこそこ掛かって来るだろう。だけど出すところでは惜しまない先輩だ。俺も4年生になって、インターフェイスのことも入って来ないまとまった休み
に何をしたいかを考えて金を貯めておく必要があるかもしれない。
「いいっすね先輩、悠々自適って感じで」
「お前も向舞祭が終わったら好きにすりゃいいじゃねえか」
「まあそうなんすけどね」
向舞祭が終わってからの1ヶ月半くらいをどう過ごすかの計画はまだない。実家にはどれくらい帰るのか、バイトはどうするのかとか、考えることはまあまあるんだけど。まあでもぶっちゃけ実家からでもたまに用事があるときだけ向島に帰るみたいなことは出来る距離だからな。
「まあ、定例会のことがあるんでずっとのんびりも出来ないっすし、学祭とか昼放送とか、考えることも多いっすね」
「そうか。どうだ、定例会の改革の方は」
「ぼちぼちっすね。今のところはみんなにも受け入れてもらってるような感じで。でも、何か問題が出るとすればこれに馴染んだ後だと思うんで、まだ油断は出来ないっすね」
「MDストックのファイル変換と? 機材保障費についても何かしたんだっけか」
「そうっすね。対策委員主催行事の場合は対策にも半分分けることにしました」
「そいつはいいな。夏合宿の参加費をぼったくって稼ぐしかなかったことを考えるといい時代だ」
「ちなみに参加費ってどれくらいぼったくってたんすか? 参加費って毎年7700円だったじゃないすか」
「1人4000円はぼったくってたな」
「マジすか!?」
今年の対策委員が、夏合宿の参加費を機材保障費込みの6500円にしますって宣言してたんだ。対策委員にも安定した収入があれば合宿の参加費が一般のみんなの財布を圧迫することもなかったんだと改めて思い知ったと言うか。つかマジか、先輩たちの時代はそんだけぼったくってたのか。
「何にせよ、物事にはいろいろ事情があるんだ」
end.
++++
L誕であることを完全に後から思い出したものの、毎年テスト期間だからって高崎とサシ飲みしてるだけだったのはフェーズ2でも継続のようです。
今年は直クンいるしちょっとは変わるかなと思ったけど、何だかなあ。でも、何となくそれもまたL直っぽいかなと。まったりペースでいいんですよ。
で、高崎は結構壮大な計画を練っているようですね。バイクでどこでも行ってフィールドワーク。確かに学生の時間がないとなかなか出来ないですね
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