2020(02)
■投げ込むなら直球を
++++
「リクごめん、この後はステージの準備を優先したいから、しばらく合宿の話は出来ないけど」
「いいよ。それは最初から聞いてたし。ちゃんと想定して打ち合わせてるつもりだから」
お互い、テストやステージといった事情で7月末から8月の頭にかけては打ち合わせも出来ないし、盆には俺も実家に少し帰る。だから7月のうちにちょっと詰めて、8月は実践練習に時間を取りたいということになっていた。特に俺は普段は扱わないミキサーの練習をしなきゃならないし。
班全体の番組のカラーは、ミドリさんの提案で去年の高木さんがやっていたカッコいい、アソビのある構成で行こうということになった。星ヶ丘や青敬という普段ラジオをやらない大学の人間は、比較的そういうことには順応しやすいらしい。実際俺や当麻はラジオの固定概念がない。逆に苦戦していたのは緑ヶ丘のリクだ。
「そういや、高木先輩から聞いた。彩人、こないだ大雨の時に高木先輩の部屋に避難したんだって?」
「あ、聞いてたんだ。……リクにだから言うけど、俺、雷が苦手でさ。マジで怖くて。そういや高木さんが近くに住んでたなーと思ってダメ元で連絡したら快く受け入れてもらってさ。生きた心地とはこのことだーって」
「ちょっと、悔しいな。俺も星港に住んでたら頼る候補に入れてもらえた?」
「余裕で入った。リクの顔は実際浮かんだけど、豊葦だもんなーって。しかも呼び付ける前提で考えてたの俺最低だ、今から考えると。うわー、何であんなときに呼びつけようとしてんの? でもリク優しいから絶対来てくれちゃうじゃんか! うわー」
「うん、呼ばれてたら実際行ってたよ」
もうこれ下手に頼れないヤツじゃねーか、と真面目に思う。如何せんリクは優しすぎる。それはもういい奴だ。だけどそれが原因で悪い奴に付け込まれないかとすら思う。俺みたく素でやらかす奴の面倒を見る羽目になってそうだ。実際既にうるさいシノの保護者らしいし。
今の件にも、頼る候補に入れてもらえて嬉しいって言うじゃんかリクは。言われてるこっちが恥ずかしくなるようなカッコいい顔なワケ。女子はこういうのでオチんのかな、と思ったりもする。いや、女子じゃねーからわかんねーけど。
俺の事情はリクには言ってある。何せ、目の前で女にビビって軽く体調を崩しちまったら、言わざるを得ないっつーか。その時にリクの複雑な事情もひとつ教えてもらっていた。何つーの、ポリアモリー? ってヤツらしい。
リクは緑ヶ丘の同期の女子と付き合ってるけど、他にも好きな人が出来れば関係者の合意を得た上でさらに付き合うということもあるらしい。イマイチよくわかんないけど、よくある1対1の恋愛とは違うことはわかった。恋愛対象も、女性に限らないみたいだし。
「リク、お前さ、優しいのは結構だけど、悪い奴に騙されんなよ」
「その辺の線引きはちゃんとしてるよ。心配してくれてありがとう。あと、彩人には優しくしてるって言うよりこれが自然体。困ってるなら助けたいし頼られたい。いつも一生懸命なところとか、いいなって思うし」
「だからお前さ、ナチュラルに口説くのやめろって。マジで照れる」
「じゃあ、本当に口説いていい?」
「え」
「割と真面目に忠告するけど、彩人も結構思わせぶり。俺みたいな悪い奴に付け込まれないように気を付けた方がいい」
「思わせぶり」
「彩人って恋愛対象女性だよね」
「まあ、基本的には」
「だけど、もうちょっと押したらイケるんじゃないかって思うくらいには思わせぶり」
この文脈に変な意味が含まれてなくて、それを普通に考えればリクが俺を落とそうとしてるっていう、それでいい、のか? いや、自分で考えといて自信過剰って言うか自意識過剰って言うの? でもどう考えてもそうとしか思えないって言うか!
「待てリク、言葉を曲げるな。言うならストレートに言ってくれ」
テンパって意味わかんないこと言ってるのは重々承知だ。でも頭が回らない。
「彩人のことが好きだ」
「やっぱそうだ! 文脈の読み方合ってた!」
「ふふっ。やっぱ彩人面白いな。俺男だけど、みたいな性別の確認とかじゃなくて文脈の読み方合ってたって。くっ、ははっ、あっはっはっは!」
「いや、待てよ! 告っといて人のリアクションでツボるな!」
「悪い…! でも、面白くて…!」
「これ俺どーすりゃいーんだよ」
「あ、ゴメン。伝えたかっただけだし、付き合うのがダメなら全然フッてもらっていいんで。合宿に私情は挟まないし」
「いや、待てよ。それもどうかと思うんだよ。もうちょっと押されたらオトされちまいそうって思うくらいには俺もお前の存在がデカくなってんだぞ? 男とか女とか別に……いや、男と恋愛したことないからよくわかんないけど。でも、不安なときは、いや、それ以外でも側にいて欲しいとは、思う」
多分、それを突き詰めれば好きだってことになるんだろう。俺は男で、リクも男で。俺の恋愛対象は女性だけど、今は知らない女が怖くて。だから男に走るのかと見られても仕方ないような気もする。少なくとも、フることで手を引かれるのは嫌だと思う。
「つーか、彼女には言ってあるのかよ、俺の事」
「もちろん。好きな人が出来たから攻勢かけますとは。応援してもらってるし」
「はー、なるほど。そういう感じね。後は俺次第、と」
「そういうことです」
「でも、付き合うのはちょっと待って!」
「やっぱり俺じゃ」
「そうじゃない! ただ、その前にステージがあるから! 今付き合ったら優先順位がごっちゃになる。俺はまだそれを器用に切り替えられないから、ステージが終わるまでちょっと待ってて! それが終わったら付き合おう!」
「わかった。はー……そういうところが好きなんだけど、長いなあ、あと1週間とちょっと」
「バカか! 丸の池ステージっつったら星ヶ丘放送部にとっての一大イベントだぞ! 今回はまだ俺の書いた本じゃないけど、ここで俺は次に向けて虎視眈々とスタートを切ってだなあ、学祭では」
「見に行くよ、丸の池」
「それはそれで緊張するんだけど」
end.
++++
なんか気付いたらこんなことになっていたのでこれからはこういう感じになっていくのでしょう
ただ、いくら作中でちょこちょこ語られてるからと言って実際に何の問題も起こらないはずもないと思うので、そのときどうなるか。
男と恋愛したことないと彩人は言うけど、実際のところは女性相手の恋愛経験も結構微妙なラインじゃないかと思うの
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「リクごめん、この後はステージの準備を優先したいから、しばらく合宿の話は出来ないけど」
「いいよ。それは最初から聞いてたし。ちゃんと想定して打ち合わせてるつもりだから」
お互い、テストやステージといった事情で7月末から8月の頭にかけては打ち合わせも出来ないし、盆には俺も実家に少し帰る。だから7月のうちにちょっと詰めて、8月は実践練習に時間を取りたいということになっていた。特に俺は普段は扱わないミキサーの練習をしなきゃならないし。
班全体の番組のカラーは、ミドリさんの提案で去年の高木さんがやっていたカッコいい、アソビのある構成で行こうということになった。星ヶ丘や青敬という普段ラジオをやらない大学の人間は、比較的そういうことには順応しやすいらしい。実際俺や当麻はラジオの固定概念がない。逆に苦戦していたのは緑ヶ丘のリクだ。
「そういや、高木先輩から聞いた。彩人、こないだ大雨の時に高木先輩の部屋に避難したんだって?」
「あ、聞いてたんだ。……リクにだから言うけど、俺、雷が苦手でさ。マジで怖くて。そういや高木さんが近くに住んでたなーと思ってダメ元で連絡したら快く受け入れてもらってさ。生きた心地とはこのことだーって」
「ちょっと、悔しいな。俺も星港に住んでたら頼る候補に入れてもらえた?」
「余裕で入った。リクの顔は実際浮かんだけど、豊葦だもんなーって。しかも呼び付ける前提で考えてたの俺最低だ、今から考えると。うわー、何であんなときに呼びつけようとしてんの? でもリク優しいから絶対来てくれちゃうじゃんか! うわー」
「うん、呼ばれてたら実際行ってたよ」
もうこれ下手に頼れないヤツじゃねーか、と真面目に思う。如何せんリクは優しすぎる。それはもういい奴だ。だけどそれが原因で悪い奴に付け込まれないかとすら思う。俺みたく素でやらかす奴の面倒を見る羽目になってそうだ。実際既にうるさいシノの保護者らしいし。
今の件にも、頼る候補に入れてもらえて嬉しいって言うじゃんかリクは。言われてるこっちが恥ずかしくなるようなカッコいい顔なワケ。女子はこういうのでオチんのかな、と思ったりもする。いや、女子じゃねーからわかんねーけど。
俺の事情はリクには言ってある。何せ、目の前で女にビビって軽く体調を崩しちまったら、言わざるを得ないっつーか。その時にリクの複雑な事情もひとつ教えてもらっていた。何つーの、ポリアモリー? ってヤツらしい。
リクは緑ヶ丘の同期の女子と付き合ってるけど、他にも好きな人が出来れば関係者の合意を得た上でさらに付き合うということもあるらしい。イマイチよくわかんないけど、よくある1対1の恋愛とは違うことはわかった。恋愛対象も、女性に限らないみたいだし。
「リク、お前さ、優しいのは結構だけど、悪い奴に騙されんなよ」
「その辺の線引きはちゃんとしてるよ。心配してくれてありがとう。あと、彩人には優しくしてるって言うよりこれが自然体。困ってるなら助けたいし頼られたい。いつも一生懸命なところとか、いいなって思うし」
「だからお前さ、ナチュラルに口説くのやめろって。マジで照れる」
「じゃあ、本当に口説いていい?」
「え」
「割と真面目に忠告するけど、彩人も結構思わせぶり。俺みたいな悪い奴に付け込まれないように気を付けた方がいい」
「思わせぶり」
「彩人って恋愛対象女性だよね」
「まあ、基本的には」
「だけど、もうちょっと押したらイケるんじゃないかって思うくらいには思わせぶり」
この文脈に変な意味が含まれてなくて、それを普通に考えればリクが俺を落とそうとしてるっていう、それでいい、のか? いや、自分で考えといて自信過剰って言うか自意識過剰って言うの? でもどう考えてもそうとしか思えないって言うか!
「待てリク、言葉を曲げるな。言うならストレートに言ってくれ」
テンパって意味わかんないこと言ってるのは重々承知だ。でも頭が回らない。
「彩人のことが好きだ」
「やっぱそうだ! 文脈の読み方合ってた!」
「ふふっ。やっぱ彩人面白いな。俺男だけど、みたいな性別の確認とかじゃなくて文脈の読み方合ってたって。くっ、ははっ、あっはっはっは!」
「いや、待てよ! 告っといて人のリアクションでツボるな!」
「悪い…! でも、面白くて…!」
「これ俺どーすりゃいーんだよ」
「あ、ゴメン。伝えたかっただけだし、付き合うのがダメなら全然フッてもらっていいんで。合宿に私情は挟まないし」
「いや、待てよ。それもどうかと思うんだよ。もうちょっと押されたらオトされちまいそうって思うくらいには俺もお前の存在がデカくなってんだぞ? 男とか女とか別に……いや、男と恋愛したことないからよくわかんないけど。でも、不安なときは、いや、それ以外でも側にいて欲しいとは、思う」
多分、それを突き詰めれば好きだってことになるんだろう。俺は男で、リクも男で。俺の恋愛対象は女性だけど、今は知らない女が怖くて。だから男に走るのかと見られても仕方ないような気もする。少なくとも、フることで手を引かれるのは嫌だと思う。
「つーか、彼女には言ってあるのかよ、俺の事」
「もちろん。好きな人が出来たから攻勢かけますとは。応援してもらってるし」
「はー、なるほど。そういう感じね。後は俺次第、と」
「そういうことです」
「でも、付き合うのはちょっと待って!」
「やっぱり俺じゃ」
「そうじゃない! ただ、その前にステージがあるから! 今付き合ったら優先順位がごっちゃになる。俺はまだそれを器用に切り替えられないから、ステージが終わるまでちょっと待ってて! それが終わったら付き合おう!」
「わかった。はー……そういうところが好きなんだけど、長いなあ、あと1週間とちょっと」
「バカか! 丸の池ステージっつったら星ヶ丘放送部にとっての一大イベントだぞ! 今回はまだ俺の書いた本じゃないけど、ここで俺は次に向けて虎視眈々とスタートを切ってだなあ、学祭では」
「見に行くよ、丸の池」
「それはそれで緊張するんだけど」
end.
++++
なんか気付いたらこんなことになっていたのでこれからはこういう感じになっていくのでしょう
ただ、いくら作中でちょこちょこ語られてるからと言って実際に何の問題も起こらないはずもないと思うので、そのときどうなるか。
男と恋愛したことないと彩人は言うけど、実際のところは女性相手の恋愛経験も結構微妙なラインじゃないかと思うの
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