2017(02)

■枠の中の自由

++++

 星ヶ丘大学でも大学祭が近付いているのだと実感するのは、部長会に出ていてもその話題の比重が大きく、どの部活がどのように動いているのかということが耳に入るようになっていくとき。
 放送部でも現段階では水面下での打ち合わせが続いていて、どこのステージを何時から、どのようにという交渉が大学祭実行委員会との間でなされている。タイムテーブルや班ごとに与えられる枠については現在調整中。

「次は、来週のリーダーズキャンプについてか」
「2泊3日の研修の間に部ごとの情報交換をしたり、交友関係などを築いてもらえればと思います」

 リーダーズキャンプという行事について、私はどこか他人事のように聞いていた。部長会に出ているとは言え私は監査。基本的には文化会役員と部長が集うこの行事に参加することはないと思っているから。
 すると、文化会監査席の萩さんと目が合う。正直、このタイミングで目が合うのはいい予感などない。それは、私が“そう”言われているのだと理解していなければ、放送部の部長席に座る資格などないのだと、放送部前監査の目に悟る。

「――というわけで、放送部からはお前が出てきてくれ」
「はい」
「急だし、資金面の問題もあるが。それと、お前の場合は畑と研究か」
「2泊3日程度であれば友人に任せることも出来ます」

 本来は部長が出るべき行事に部長が出てこないのは大問題。そもそも、部長会という会議に部長が出ていない時点で放送部の事情はお察し。そんな部長よりは日頃代理出席している人間が出てこいというのはわからないでもない。

「本来なら部長がここまで出てこないのは始末書物だが、代々放送部は部長よりも代理出席者の方が話が通じやすいと文化会側も思っているようだ」
「それは、去年の萩さんも然りですか」
「その通りだ。去年だけでなく、それ以前からだと言っておこう」
「行き先は西京でしたよね」
「ああ。研修旅行と銘打ってあるが実際は観光や宴会の時間の方が長い」

 それだけ聞いていると、本当に何をしに行くのかわからなくなってしまう。それなら、私は宴会の時間に程良く顔を出した後は部屋に籠もってステージのタイムテーブルのことなどを考えていた方がよほど有益な時間を過ごせるかもしれない。
 部長会に知り合いがいないというわけではないけれど、私はそこまで活発に交流をする方ではない。自由時間もある程度設けてあるなら漬け物を買いに出かけたりも出来るんだろうけど。

「あの、萩さんすみません。この、2日目のタイムスケジュールが空欄なんですが、これは」
「自由時間だ。ちなみに、1日目夕方と、3日目朝のここの時間帯も自由時間だ」
「……ほとんど自由時間しかないような気が」
「情報交換や友好関係の構築など、ほぼほぼ夕飯……もとい飲み会の間に済ませようという合宿だ。察してくれ」
「門限や出発時間までに宿にいれば、どこを歩いても?」
「可だ。あまり遠くには行かない方がいいとは思うが、確実に帰ってこられるなら問題ないだろう。そうか、お前はある程度土地勘があるのか」
「6、7年も離れていれば、変わっているとは思いますが」
「だが、西京ともなれば変わらない物も少なくないだろう」

 中学2年の頃までは西京にいたから、土地勘と呼ばれる物もある程度は残っているのかもしれない。確かにそれを頼りに歩こうともしていたけれど、新しい物も少しは見て回りたいかもしれない。

「宇部、3日目の朝、土産を選ぶのに付き合ってほしい」
「はい、もちろん。萩さんがお土産と言うと、ご家族など」
「家用と雄平と水鈴、それから――」

 お土産を渡したいのであろう顔を萩さんは指折り数えて行く。家族と越谷さんと水鈴さん、ここまでは私もうんうんと納得しながら聞いていた。私も野菜の件で助けてもらったし、朝霞に何か買っていこうかしら。
 正直ちっとも楽しみではないし巻き込まれた感が強いリーダーズキャンプだけど、自由時間の方が長いくらいだったら暇の潰し方や西京の歩き方を予習していくのもひとつの手段だと思って。

「そうとなれば、行くまでにひかりに頼むことのリストを作らないと」


end.


++++

星ヶ丘のリーキャンの件です。どのようにして宇部Pが出席しなければならなくなったのかと言えば、やっぱり現時点で文化会のキャラクターとして確立している萩さんが出て来るワケで
なんかもう萩さんがこっしーさん大好きすぎてアレなヤツ。かんなとか彼女の「か」の字も出てこないのにこっしーさんの名前が家族の次に出て来るとかな
ひかりに頼みごとのリストを渡したら「メグー! 西京行くんやったらアレ買うてきてーな! 切らしてもーてんよ」とかって頼まれごとをするんやろなあ

.
89/100ページ