2020(02)

■食べて寝てせめてもの休息

++++

 オープンキャンパス2日目。昨日1日が終わって大体こんな感じで進んでいくんだなという流れは掴むことが出来た。今日は単純に昼の番組だけをやりに来たような物で、それ以外の時間は割と自由にしていられる。こっそりスタジオやサークル室に籠ったりとかね。
 相変わらず学内は物凄い人だかりだ。世間的には4連休だから、遠方からも来てるんだろうなとは。遠くから向島に来てオープンキャンパスを回って、その後で星港を観光したり買い物してまた帰るっていう流れが想像できるもんね。

「タカちゃんおはよう」
「あ、果林先輩おはようございます」
「経済学部のクリームパンゲット~。ちょっと得しちゃった」
「え、いいですね。その辺歩けば俺も貰えますかね」
「貰えると思うよ」

 オープンキャンパスではちょっと歩けばいろいろな物を貰えてしまうということを昨日の時点で体験した。果林先輩が見せてくれたのは経済学部が授業の一環で開発しているというクリームパンだ。パンの表面には緑ヶ丘大学の校章が焼き印としてプリントされている。
 それから、本来は高校生を対象に配られるノベルティなんかも貰えてしまう。今年のノベルティはA4ファイルもしっかり収納して持ち運べるファスナー付きのクリアバッグとお手頃サイズのエコバッグ、それからクリアファイルとボールペンという筆記具セット。
 クリアバッグが突然の雨にも対応出来て個人的にはとても助かるなと。今使ってるトートバッグは普通に布製だから、雨が降ると濡れて大変なことになってしまう。雨が多いこの季節、大学に来る程度の外出ならこっちのバッグに切り替えてもいいかなと。

「出番が昼なのに朝イチから来なきゃいけないのって何気に拷問だわ」
「本当ですよね」
「今日金曜日じゃん、アタシ普通にバイト明けなんですよねー」
「えっ、バイトしてから来てるんですか!?」
「そうだよ。だって木曜日だもん」
「ええー……果林先輩、普通にこの時間で仮眠を取った方がいいです」

 果林先輩は小さい体で本当にタフだなと思う。3日間のオープンキャンパスに全日来なきゃいけないにも関わらず、普通にバイトまでやっているとか。しかもそのバイトが深夜帯で、朝の6時とかに終わることも知っている。今は朝の9時半。絶対睡眠時間が足りてない。
 昼休みは12時から1時までの1時間だ。11時半くらいまでなら普通に寝てても大丈夫なくらいだ。果林先輩は3年生がやる模擬講義のアナウンスにはほとんど関わらず、昼のラジオだけを重点的に任されているらしい。それなら番組前後に仮眠を取っても全く問題ないはずだ。

「確かに、今からなら2時間は寝れるね」
「バイト明けなんですからちょっと休んだ方がいいですよ、いくらバイタリティに自信があったとしても」
「そしたらタカちゃんもスタジオかどっかにしばらく引き籠もる?」
「そうですね。正直俺もここにいる理由は今のところないので。11時半ごろに戻って来ればいいですよね」

 スタジオに行く途中で経済学部が配っていたクリームパンをもらう。8号館の社会学部スタジオの扉は開け放たれているけど人はなく、ソファもすっからかんだ。果林先輩は奥の防音スタジオを一瞬覗き、仮眠を取るならこの部屋ですよね、と予約を取った。
 クリームパンを食べるタイミングを考えながら、俺は改めてキューシートを確認する。まあ、昨日の感じで行くなら確認したところでという感じでもある。ムチャ振り上等のアドリブ合戦みたいな感じで凄く遊んだ番組になってたから。
 作ったキューシートに沿って番組をやるかと思ったら、それを崩しながらやってたよね。まさかそれを1000人単位の人が歩く場所でやるかって思ったけど、案外やれてしまったし、やってるうちに楽しくなってた。また同じ番組をやれと言われても無理だ。

「タカちゃん、アタシ奥のスタジオで仮眠取るし、いい時間になったら起こして」
「わかりました」

 防音スタジオの鉄扉に「仮眠中」と書かれた紙を貼って、果林先輩はそこに籠ってしまった。果林先輩の凄いところはどこででもちょっと目を閉じれば眠れるところだ。MBCCでは高崎先輩が睡眠に特化してるけど、果林先輩も何気に睡眠のとり方が特殊なんだよなあ。
 俺はと言えば、奥のスタジオの門番をするように暇潰しを続けた。このスタジオにはパソコンもあるし、スマホの充電器も持って来てるから電気を借りることだって出来る。2時間くらいならすぐだろう。と言うか、俺も仮眠を取りたい気がするけど、寝たら起きれる気がしない。

「……普通だなあ」

 さっきもらったクリームパンは、特別美味しいということもなくごくごく普通のクリームパンだ。でも、小腹を満たすにはちょうどいい。そう言えば、いい時間になったら起こしてとは言うけどお昼ご飯ってどうするんだろう。食べてから番組をやるのかな、それとも1時になってから食べるのかな。


end.


++++

昔やってた36hours a dayくらいの話だなあと思いつつも、現代風にちょっと変わってるかな。そもそも読み返してないし
果林は体力に自信があるのでちょこちょこキツめのスケジュールにしがちなのですが、それっていうのもどこででもすぐ寝れるっていう特技の所為でもあると思うの
仕事のないタカちゃんもしばらくはこっそりスタジオでサボっているのですが、それくらいしてもいいわよね、フル出勤なんだもの

.
35/100ページ