2020(02)
■蒸し焼き上昇気流
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オープンキャンパス当日、緑ヶ丘大学にはたくさんの人が来ていた。大学祭より多いかな、同じくらいかな。とにかく歩くのにも苦労するほどの人がいて、夏にこの人口密度は相当しんどいなとこれから始まる仕事を憂う。
佐藤ゼミは特設のラジオブースで丸1日放送をやる。2年生は3年生のやるアナウンスの仕事の合間を縫ってちょっとした番組をやることになっている。俺たち3班は一発目に組まれていて、それ以降は各々の仕事に集中してくれという意味合いがあるとかないとか。
本来2年生は3日間あるオープンキャンパスのどこか1日だけ出て来ればいいという話らしいんだけど、俺たちは毎日出て来なくてはならないことになってしまった。俺は毎日昼休みに果林先輩との番組をやるし、他のメンバーにもそれぞれの仕事が先生から振られている。
「人が多いねえ」
「人は多いし歩くにも邪魔だし、暑いしむさいしこんなトコで1日なんかいらんないわ」
朝1番、俺たちは特設ラジオブースを見下ろせる場所に陣取って、カメラ番をすることになっている。ビデオ撮影は佐藤ゼミの活動を記録するという一環として行われていることで、これも班ごとに時間区切りで番をすることになっている。
人がわんさか歩いているのは表通りと言うか、それこそ大きい通路が主。こんなカメラ番の細い通路に高校生はなかなか来ない。一応密集から回避出来てるけど、それを見下ろしてるだけでもげんなりして出歩きたくなくなるとは。
「とりあえずカメラは設置出来たし、あとはここでぼさーっとしてるだけでいいけどこれはこれでたるいわ。暇だし」
「でも、実際自分の関係しない時間帯って好きにしてていいんでしょ?」
「一応は。でも、呼ばれたらいつでも出れるようにはしとかないといけないかと」
「正直、バイト断って来てんの結構気まずいじゃんな。オープンキャンパスの期間中って普段より学食の稼働率が上がるっぽくて、極力全員出て欲しいみたいな感じで言われてたけど、こっちにいなきゃいけないじゃん?」
「あー、そっか。ちょっとした空き時間に働きに行くことも出来ないんだね」
「正直こっちに俺の仕事ってそんなにないじゃんな。強いて言えば始まる前と終わった後の運搬作業くらいで。正直、合間の時間がヒマすぎる」
みんなそれぞれに3日間フル出勤シフトに不満不平があるようだけど、それを先生に正面から言うワケにもいかず……という感じ。1日とか2日とかならまあまだいいんだけどって感じ。テスト前の4連休の、3日間をここで潰すっていうのも。うん。多くは言わない。
正直、俺も3日間あれば1日くらいは対策委員の会議とか夏合宿関係の打ち合わせとかに使いたかった気持ちがないワケでもない。ただ、それなりにやることのある俺はまだマシなのかもしれない。いや、だからと言って休みがなくてもいいってワケでもないんだけど。
「ちなみに、飲み物とかはあそこで配ってるのをもらってもいいらしいよ」
下の方では、お祭りとかでよくある氷水で冷やした飲み物が配られている。見た感じお茶とかジュースとかいろいろな種類があって、もらっていいと言うならそれはありがたい。この暑い中、密集地帯の中では実際の気温以上に熱気が籠もるから。
「ああ、あのどぶづけのな」
「あれってどぶづけって言うの?」
「アイスボックスって言う方が正式名称かもしんないけど。あのサイズだったら500ミリペットが100本くらい入るのかな」
「へー、さすが鵠さん。詳しいなあ」
「でも、この人数歩いててたった100本で回る?」
「こういうのがあるのはここだけじゃなさそうだし、両サイドに2機ずつあるからここだけで4機じゃん? 何とかなるんだろ」
「へー。何にせよ、高校生じゃなくてももらっていいと」
「果林先輩は去年普通にあそこで飲み物もらってたって言ってたなあ。だから大丈夫だと思うけど」
「……さっそく誰か貰いに行く? 勝負はこれで」
そう安曇野さんが出した拳の意味は、一発勝負のジャンケン大会。一応今はカメラ番をしているから全員で動くワケにはいかない。あと、あんなところにみんなで突っ込むのも非効率だということで、誰か1人が代表で飲み物をもらいに行こうという話だ。
「最初はグー、じゃんけんぽん」
「あっ」
「はい高木の負け。アタシ爽健美茶」
「えっと、他の人は何がいい?」
「俺はオレンジ」
「安曇野さんは爽健美茶で鵠さんはオレンジ、佐竹さんは?」
「そしたらアタシもお茶で」
「爽健美茶でいい?」
「ウーロン茶があればウーロン茶がいいけど、お茶なら何でも。緑茶でも紅茶でも」
「わかったよ」
お茶をもらいに歩いていると、人混みに近付くにつれ高揚感を肌で感じる。この中で番組をやるのか。2年生番組もやりつつ、来たる昼の番組に向けて調子を上げて行きたい。
「お疲れさまです。飲み物ってもらえますか?」
「あっ、大丈夫ですよー」
end.
++++
今年のオープンキャンパス話は飲み物は貰える物だというのがちょっと推されてますね。あのケースどぶづけっていうんだって。
何気にタカちゃんてここぞというときのジャンケンがちょっと弱そう。ジャンケンに負けて去年女装してるし。
そういやフェーズ2になってからまだタカちゃんが疫病神って言われてないわ。あ、これからか。
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オープンキャンパス当日、緑ヶ丘大学にはたくさんの人が来ていた。大学祭より多いかな、同じくらいかな。とにかく歩くのにも苦労するほどの人がいて、夏にこの人口密度は相当しんどいなとこれから始まる仕事を憂う。
佐藤ゼミは特設のラジオブースで丸1日放送をやる。2年生は3年生のやるアナウンスの仕事の合間を縫ってちょっとした番組をやることになっている。俺たち3班は一発目に組まれていて、それ以降は各々の仕事に集中してくれという意味合いがあるとかないとか。
本来2年生は3日間あるオープンキャンパスのどこか1日だけ出て来ればいいという話らしいんだけど、俺たちは毎日出て来なくてはならないことになってしまった。俺は毎日昼休みに果林先輩との番組をやるし、他のメンバーにもそれぞれの仕事が先生から振られている。
「人が多いねえ」
「人は多いし歩くにも邪魔だし、暑いしむさいしこんなトコで1日なんかいらんないわ」
朝1番、俺たちは特設ラジオブースを見下ろせる場所に陣取って、カメラ番をすることになっている。ビデオ撮影は佐藤ゼミの活動を記録するという一環として行われていることで、これも班ごとに時間区切りで番をすることになっている。
人がわんさか歩いているのは表通りと言うか、それこそ大きい通路が主。こんなカメラ番の細い通路に高校生はなかなか来ない。一応密集から回避出来てるけど、それを見下ろしてるだけでもげんなりして出歩きたくなくなるとは。
「とりあえずカメラは設置出来たし、あとはここでぼさーっとしてるだけでいいけどこれはこれでたるいわ。暇だし」
「でも、実際自分の関係しない時間帯って好きにしてていいんでしょ?」
「一応は。でも、呼ばれたらいつでも出れるようにはしとかないといけないかと」
「正直、バイト断って来てんの結構気まずいじゃんな。オープンキャンパスの期間中って普段より学食の稼働率が上がるっぽくて、極力全員出て欲しいみたいな感じで言われてたけど、こっちにいなきゃいけないじゃん?」
「あー、そっか。ちょっとした空き時間に働きに行くことも出来ないんだね」
「正直こっちに俺の仕事ってそんなにないじゃんな。強いて言えば始まる前と終わった後の運搬作業くらいで。正直、合間の時間がヒマすぎる」
みんなそれぞれに3日間フル出勤シフトに不満不平があるようだけど、それを先生に正面から言うワケにもいかず……という感じ。1日とか2日とかならまあまだいいんだけどって感じ。テスト前の4連休の、3日間をここで潰すっていうのも。うん。多くは言わない。
正直、俺も3日間あれば1日くらいは対策委員の会議とか夏合宿関係の打ち合わせとかに使いたかった気持ちがないワケでもない。ただ、それなりにやることのある俺はまだマシなのかもしれない。いや、だからと言って休みがなくてもいいってワケでもないんだけど。
「ちなみに、飲み物とかはあそこで配ってるのをもらってもいいらしいよ」
下の方では、お祭りとかでよくある氷水で冷やした飲み物が配られている。見た感じお茶とかジュースとかいろいろな種類があって、もらっていいと言うならそれはありがたい。この暑い中、密集地帯の中では実際の気温以上に熱気が籠もるから。
「ああ、あのどぶづけのな」
「あれってどぶづけって言うの?」
「アイスボックスって言う方が正式名称かもしんないけど。あのサイズだったら500ミリペットが100本くらい入るのかな」
「へー、さすが鵠さん。詳しいなあ」
「でも、この人数歩いててたった100本で回る?」
「こういうのがあるのはここだけじゃなさそうだし、両サイドに2機ずつあるからここだけで4機じゃん? 何とかなるんだろ」
「へー。何にせよ、高校生じゃなくてももらっていいと」
「果林先輩は去年普通にあそこで飲み物もらってたって言ってたなあ。だから大丈夫だと思うけど」
「……さっそく誰か貰いに行く? 勝負はこれで」
そう安曇野さんが出した拳の意味は、一発勝負のジャンケン大会。一応今はカメラ番をしているから全員で動くワケにはいかない。あと、あんなところにみんなで突っ込むのも非効率だということで、誰か1人が代表で飲み物をもらいに行こうという話だ。
「最初はグー、じゃんけんぽん」
「あっ」
「はい高木の負け。アタシ爽健美茶」
「えっと、他の人は何がいい?」
「俺はオレンジ」
「安曇野さんは爽健美茶で鵠さんはオレンジ、佐竹さんは?」
「そしたらアタシもお茶で」
「爽健美茶でいい?」
「ウーロン茶があればウーロン茶がいいけど、お茶なら何でも。緑茶でも紅茶でも」
「わかったよ」
お茶をもらいに歩いていると、人混みに近付くにつれ高揚感を肌で感じる。この中で番組をやるのか。2年生番組もやりつつ、来たる昼の番組に向けて調子を上げて行きたい。
「お疲れさまです。飲み物ってもらえますか?」
「あっ、大丈夫ですよー」
end.
++++
今年のオープンキャンパス話は飲み物は貰える物だというのがちょっと推されてますね。あのケースどぶづけっていうんだって。
何気にタカちゃんてここぞというときのジャンケンがちょっと弱そう。ジャンケンに負けて去年女装してるし。
そういやフェーズ2になってからまだタカちゃんが疫病神って言われてないわ。あ、これからか。
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