2020(02)
■轟く雷鳴 避ける6階
++++
「うう……やだー、助けてー! 朝霞さーん!」
……と部屋の壁をドンドンしてみても反応はなし。って言うか今日は豊葦で用事があるからいませんとは聞いてたし。この雨だったらきっと待ってても帰ってこないよなあ。雨と雷がヤバすぎる。3階だから大丈夫だとは思うけど、音が! こっちに来てから初めてだし、真面目に怖いんだよな。元々雷ってあんま好きじゃないし。
如何せん隣の部屋のちょっとした音も筒抜けになるレベルのアパートだから、雨と雷、それから風の音が異様に大きく聞こえるんだよな。ニュースは茶色い濁流の映像ばっかりで怖くなって消した。今の俺はちょっとした不安でも一気にメンタルがやられる可能性がある。だから1人でいたくなかったのに朝霞さんったら留守だなんて!
大学でも友達はいろいろ出来たけど、この近所に知り合いがいるかって言われると、それこそ一番近いのが隣の朝霞さんで、次がみちるか。でも同じ班員、それも同期に雷が怖いとかそういうのを知られると恥ずかしい。あとは、リクとか? でもリクは豊葦だしな、距離がなあ。近所、近場……誰かー!
「あ!」
――と思いついてからは早かった。送られてきたマップを頼りに辿り着いたマンションは、見上げなきゃテッペンが見えないくらいのマンションだ。何階建てだこれ。エントランスのインターホンを鳴らすと、オートロックの自動ドアが開いてマンションの中に入ることが出来た。
「高木さーん」
「あ、いらっしゃい。場所すぐわかった?」
「ナビ使ったんで」
「あと、さっきも言ったけど、エイジもいるからそこはよろしく。立ち話も難だし上がって」
「お邪魔します」
夏合宿の打ち合わせで、班長の高木さんが確かこの辺に住んでるって言ってたんだよな。ダメ元で連絡してみたら快く来ていいよって言ってくれて、マジで感謝しかない! 高木さんと同じ緑ヶ丘の先輩も来ているとは聞いていたけど、それはもう気にしませんと即返事をして。
「エイジ、この子が星ヶ丘の彩人。谷本彩人くんかな。それで彩人、これが俺の同期の中津川栄治。山浪に住んでて、大雨で帰れないから今日はここで過ごしてもらうことになってて」
「マジすか、エージさん大変じゃないすか。あ、自分、星ヶ丘の谷本彩人っす。……うう、エージさんの事情がガチ過ぎるのに、自分の事情が恥ずかしいっす」
「何で? いいじゃない。不安な時に1人でいたくないっていうのは別におかしなことじゃないよ。俺も大雨のときは不安になるし、2人がいてくれてよかったよ」
「そーすか?」
「そーそー。細かいことは気にすんなっていう。6階なら多少の冠水もへっちゃらだべ!」
「彩人、服びしょ濡れだけど大丈夫? さすがに濡れたままだと冷えるよ」
「あー、でも着替えとかないんで」
「丈が足りないかもだけど、俺ので良ければTシャツがあるよ。星ヶ丘さんはステージ前で大事な時期だし、1年生はテストも多いでしょ。風邪ひいても大変だし」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「どーせしばらくいるんだろっていう。濡れたモン貸して。洗濯するし」
エージさんが高木さんの部屋に来るのは緊急事態だけじゃなくて、割といつもの事なんだそうだ。水回りのことは家主よりも把握しているというレベルで。俺の服も、これまで溜まっていた物と一緒に洗濯機で回されてしまった。
替えのTシャツはクローゼットの中から勝手に引っ張り出していいよと高木さんは言うけど、そこは家主がやった方がいいんじゃないのかな。でも高木さんはコーヒーを淹れる方が優先順位高めだし。リクが言ってたけど、ラジオ関係以外のことだと凄いマイペースらしいし、その一面なのかな。
「あ、あの……高木さん…!?」
「なに?」
「こ、これ……これって…!? ブラ、ブラジャー!?」
「ちょっ、どこから出て来た!?」
「そこの奥っす! ホントすんません! えーっとぉ……彼女、さんの、とかっすか…?」
「だーっはっはっは! 高木に彼女!? ないない!」
「でも実際ブラジャーっすよ!? どう見ても女物で」
「えーっと、彩人? 笑わずに聞いて欲しいんだけど、あと、ササには言わないで欲しいんだけど、これは去年の大学祭で女装した時の備品なんだよ」
「女装」
インターフェイスの1、2年生で飲み会を開いた時のじゃんけん大会で負け続けた結果、いろいろ過程を経て緑ヶ丘の大学祭で行われた女装ミスコンに出ることになってしまったんだそうだ。で、この紫のブラジャーはそこで使った備品だと。
今後使う予定もないけどそれなりの値段がしたし、捨ててしまうのも何となく勿体ないという気持ちがあって引き出しの奥底に封印していたそれを俺が掘り起こしてしまった形だ。ちなみに、ペアのパンツもあったけど、そっと元あった場所に返しておいた。
「現状コイツは緑大の準ミスだっていう」
「へー、凄いっすね! やっぱ形から入るのも大事なんすね」
「あー、恥ずかし」
「いいじゃねーか、こんだけゲラゲラ笑えるネタになったんだから」
「よくないよ、もう」
高木さんには悪いけど、確かにゲラゲラ笑って雷の事は全然気にならなくなってたんだよな。でも、高木さんのメンツもあるしリクには言わないでおこう。避難させてもらった恩もある。
「はい。コーヒー入ったよ」
end.
++++
彩人は雷が苦手らしい。だけど頼れる隣人がない場合、どうするんだろうと思ったら何故かこんなことになってました。タカエイwith彩人回。
星港で大雨避難と言えばやっぱり10階建てマンションの6階の部屋になるので、頑丈だろうし3人揃ってきゃっきゃしてたらいい。不安も和らぎそう。
あと、去年の大学祭の遺品も発掘されたようで……MBCCにいる発掘系の子たちに見つからなければいいが。
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「うう……やだー、助けてー! 朝霞さーん!」
……と部屋の壁をドンドンしてみても反応はなし。って言うか今日は豊葦で用事があるからいませんとは聞いてたし。この雨だったらきっと待ってても帰ってこないよなあ。雨と雷がヤバすぎる。3階だから大丈夫だとは思うけど、音が! こっちに来てから初めてだし、真面目に怖いんだよな。元々雷ってあんま好きじゃないし。
如何せん隣の部屋のちょっとした音も筒抜けになるレベルのアパートだから、雨と雷、それから風の音が異様に大きく聞こえるんだよな。ニュースは茶色い濁流の映像ばっかりで怖くなって消した。今の俺はちょっとした不安でも一気にメンタルがやられる可能性がある。だから1人でいたくなかったのに朝霞さんったら留守だなんて!
大学でも友達はいろいろ出来たけど、この近所に知り合いがいるかって言われると、それこそ一番近いのが隣の朝霞さんで、次がみちるか。でも同じ班員、それも同期に雷が怖いとかそういうのを知られると恥ずかしい。あとは、リクとか? でもリクは豊葦だしな、距離がなあ。近所、近場……誰かー!
「あ!」
――と思いついてからは早かった。送られてきたマップを頼りに辿り着いたマンションは、見上げなきゃテッペンが見えないくらいのマンションだ。何階建てだこれ。エントランスのインターホンを鳴らすと、オートロックの自動ドアが開いてマンションの中に入ることが出来た。
「高木さーん」
「あ、いらっしゃい。場所すぐわかった?」
「ナビ使ったんで」
「あと、さっきも言ったけど、エイジもいるからそこはよろしく。立ち話も難だし上がって」
「お邪魔します」
夏合宿の打ち合わせで、班長の高木さんが確かこの辺に住んでるって言ってたんだよな。ダメ元で連絡してみたら快く来ていいよって言ってくれて、マジで感謝しかない! 高木さんと同じ緑ヶ丘の先輩も来ているとは聞いていたけど、それはもう気にしませんと即返事をして。
「エイジ、この子が星ヶ丘の彩人。谷本彩人くんかな。それで彩人、これが俺の同期の中津川栄治。山浪に住んでて、大雨で帰れないから今日はここで過ごしてもらうことになってて」
「マジすか、エージさん大変じゃないすか。あ、自分、星ヶ丘の谷本彩人っす。……うう、エージさんの事情がガチ過ぎるのに、自分の事情が恥ずかしいっす」
「何で? いいじゃない。不安な時に1人でいたくないっていうのは別におかしなことじゃないよ。俺も大雨のときは不安になるし、2人がいてくれてよかったよ」
「そーすか?」
「そーそー。細かいことは気にすんなっていう。6階なら多少の冠水もへっちゃらだべ!」
「彩人、服びしょ濡れだけど大丈夫? さすがに濡れたままだと冷えるよ」
「あー、でも着替えとかないんで」
「丈が足りないかもだけど、俺ので良ければTシャツがあるよ。星ヶ丘さんはステージ前で大事な時期だし、1年生はテストも多いでしょ。風邪ひいても大変だし」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「どーせしばらくいるんだろっていう。濡れたモン貸して。洗濯するし」
エージさんが高木さんの部屋に来るのは緊急事態だけじゃなくて、割といつもの事なんだそうだ。水回りのことは家主よりも把握しているというレベルで。俺の服も、これまで溜まっていた物と一緒に洗濯機で回されてしまった。
替えのTシャツはクローゼットの中から勝手に引っ張り出していいよと高木さんは言うけど、そこは家主がやった方がいいんじゃないのかな。でも高木さんはコーヒーを淹れる方が優先順位高めだし。リクが言ってたけど、ラジオ関係以外のことだと凄いマイペースらしいし、その一面なのかな。
「あ、あの……高木さん…!?」
「なに?」
「こ、これ……これって…!? ブラ、ブラジャー!?」
「ちょっ、どこから出て来た!?」
「そこの奥っす! ホントすんません! えーっとぉ……彼女、さんの、とかっすか…?」
「だーっはっはっは! 高木に彼女!? ないない!」
「でも実際ブラジャーっすよ!? どう見ても女物で」
「えーっと、彩人? 笑わずに聞いて欲しいんだけど、あと、ササには言わないで欲しいんだけど、これは去年の大学祭で女装した時の備品なんだよ」
「女装」
インターフェイスの1、2年生で飲み会を開いた時のじゃんけん大会で負け続けた結果、いろいろ過程を経て緑ヶ丘の大学祭で行われた女装ミスコンに出ることになってしまったんだそうだ。で、この紫のブラジャーはそこで使った備品だと。
今後使う予定もないけどそれなりの値段がしたし、捨ててしまうのも何となく勿体ないという気持ちがあって引き出しの奥底に封印していたそれを俺が掘り起こしてしまった形だ。ちなみに、ペアのパンツもあったけど、そっと元あった場所に返しておいた。
「現状コイツは緑大の準ミスだっていう」
「へー、凄いっすね! やっぱ形から入るのも大事なんすね」
「あー、恥ずかし」
「いいじゃねーか、こんだけゲラゲラ笑えるネタになったんだから」
「よくないよ、もう」
高木さんには悪いけど、確かにゲラゲラ笑って雷の事は全然気にならなくなってたんだよな。でも、高木さんのメンツもあるしリクには言わないでおこう。避難させてもらった恩もある。
「はい。コーヒー入ったよ」
end.
++++
彩人は雷が苦手らしい。だけど頼れる隣人がない場合、どうするんだろうと思ったら何故かこんなことになってました。タカエイwith彩人回。
星港で大雨避難と言えばやっぱり10階建てマンションの6階の部屋になるので、頑丈だろうし3人揃ってきゃっきゃしてたらいい。不安も和らぎそう。
あと、去年の大学祭の遺品も発掘されたようで……MBCCにいる発掘系の子たちに見つからなければいいが。
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