2020(02)

■Rainy Rainy Rainy

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「やァー、ホントすいヤせん、急に泊めてもらッて」
「事情が事情だし、僕の方は全然構わないよ」

 りっちゃんから救援要請が来たのは4限が終わった頃だから、夕方の4時過ぎだったかな。地元の方で大雨の特別警報が出たので帰れません、泊めてくださいと。豊葦も少し雨が降っていたけどいつも通りという感じだから、僕の部屋で良ければどうぞと返事をした。
 このところはいつ、どこで大雨になるかはわからない。1日で1ヶ月分の雨が降ると言われても、ニュース映像で見るような濁流しか想像出来ないし、もし自分のいるここでそんな雨が降ったらどこへ行くのが正解かと考えた場合には、割と真面目に向島大学が正解なんだろうと思う。

「一応星港に姉2人がそれぞれ住んでるンすけどね?」
「星港もそこそこ雨が強くなかったかい?」
「そーなンすよ。でもって、どーせ明日も授業なら移動距離を短くしたかったっつー。いやはや、圭斗先輩にはホントサーセン」
「まあ、豊葦はこのまましばらく雨の量も落ち着いてるそうだから、友人が遊びに来たような感覚でいるよ。ところで、実家の様子なんかは誰かに聞いたりしたのかい?」
「一応親からは避難してるっつー話と近所の川の動画が送られてきヤしたね。で、今日は帰って来るなと」
「りっちゃんの家は山浪の中でも山の方だったね」
「そースね。川の氾濫だけじゃなくて土砂的な意味でも危ない場所スね」
「ご家族が無事なら良かったよ。後は家に被害が出なければいいね」
「そースね」

 りっちゃんから連絡があって、実際に彼を拾うまでには少し時間があったので僕は夕飯の買い物に出ていた。だけどもりっちゃんは律儀にも自分の食べる物を学内の購買で調達していた。お湯を入れるだけのカップ麺だ。だけどもそれではちょっと味気ない。
 スーパーで買って来たのはカレーの材料と惣菜のトンカツ。今日のメニューはカツカレーだ。だけどもよくよく考えたら適当な食材だけ買って、バイト先で鍛えられているという即興料理でも見せてもらえばよかったかなと思ったけど、お客さんにさせることではなかった。

「久々に圭斗先輩のカレーも美味いスわ」
「お口に合ったようで何より」
「圭斗先輩とサシメシ、それも直々に作ってもらったカツカレーと来たら、野坂に自慢すればもれなく恨まれるヤツすわ」
「はは……まあ、野坂はなあ。ところで、サークルの様子はどうだい? 遊びに行ったばかりで聞くのも難だけど」
「ゆーて自分らは集大成の学年で、夏合宿に出るワケでもなくいつものよォーにぐだぐだとやってるだけスよ」
「夏合宿か。出る子たちはどんな感じかな?」
「奈々はまあ、あーゆー子なンで、安定してきゃっきゃしてヤすよ」
「ん、想像には難くないね。1年生は?」
「カノンがサドニナの班で、あの子はコミュ強な方なンで班員ともそこそこ仲良くなってるような感じスわ。萌香は……もしかするとー、今年の地雷枠の可能性がありヤすわ」

 地雷枠という表現が正しいかはともかく、何かしらトラブルを起こす予感がするとニュアンスのことを言いたいのだと思う。去年で言う三井みたいなものか。ただ、三井と1年生では事情が違い過ぎる。りっちゃんが言うだけあって決定的な何かがあるんだろうけど。

「カノンによれば、そもそもがMMPの活動には消極的で、イケメン探しに活動範囲を広げたっつー感覚なんだそーです?」
「まあ、それも大学のサークルのイメージとしては間違ってないけどね。何故それをMMPに求めた?」
「バドサーの先輩からMMPに入ればイケメンと知り合える率は高まる的なことは言われてたみたいスね。実際4年生は粒揃いスけど、引退済みの4年生情報を鵜呑みにされてもっつー感じではありヤす。ま、知る由もないスわね」
「女子版三井みたいなことかな?」
「それはまだわかりヤせんけど、あの様子だとどーうも班にそれらしいイケメンもいなかったらしく、ペアもハナとだったらしーンで」
「あー、女子はお呼びでないと」
「奈々によれば、ハナが結構苦労してるみたいスよ、萌香の扱いに。で、その話を聞いた野坂がまーあブチ切れてヤして」
「露骨にイケメン狙いだからか?」
「それもありヤすけど、不純な動機でインターフェイスの活動に出て、思うように行かなかったからっつって露骨にやる気をなくして周りを振り回してるワケじゃないスか。夏合宿の管轄は対策委員スからね。お堅いヘンクツの前議長はそりゃァ、ねえ」

 萌香を見る野坂の目が三井を見る目とほぼ同じ、あるいはそれ以上の侮蔑や憎悪の念を湛えていると。割と真面目に雰囲気が険悪なので、りっちゃんと神崎は野坂には極力萌香の話を振らないようにしているそうだ。と言うか、野坂でも人を嫌いになるんだな。
 で、その野坂の扱いにりっちゃんと神崎が苦労している、と。怒鳴って暴れてキレ散らかすということはないけど、静かに淡々と切れるタイプだから逆に怖いとりっちゃんは言う。やる気がないなら辞めてもらって結構、でも今辞められると合宿の方々に迷惑をかけるし、的な葛藤があるようで。

「圭斗先輩、酒はありヤすか」
「ん、飲むのかい? いいけど、さすがに今日は飲まない的なことを言ってなかったかな」
「どんだけぐだぐだでも前代表会計、圭斗先輩にしか話せない積もる話っつーのもあるンすよ」
「それは、褒められてるのかな?」


end.


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りっちゃんが圭斗さんのお部屋に緊急避難してきました。雨が降ると身動きが取れなくなるということも増えてきました。
だけども話がどんどんサークルの方に行って、りっちゃんの苦労なんかもちらほらと。貫禄はあるけどそれなりに苦労もしているらしい。頑張れ。
どうやらノサカがちょっと不穏な感じになってるのかしら。誰かー、ノサカを浄化してー! 闇堕ちから引き摺り上げてー

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