2020(02)

■心の友とアインプロージット

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「やっぱこういうときに嫌な顔ひとつせずに出て来てくれるお前は心の友だよ! なあ朝霞! アインプロージット!」

 今日は菅野に引き摺られ、星港のオクトーバーフェストにやってきた。オクトーバーフェストとは言うけど7月だし、ただのビアガーデンと言う方が正しいのかもしれないけど、こうして昼間から外で飲むのは最高に気持ちがいいのでこの誘いには素直に感謝している。
 何でも、菅野は俺の他にも菅野とか、とにかくいろいろな方面に声をかけたらしかったんだけど、あえなくフラれたとか。そうやって最後に行きついた俺がかなり乗り気で出て来たので救われた気持ちになったそうだ。たまにあるよな、誰かと飲みたいときって。

「何か、こうやって音楽ステージがあるビアガーデンなのがお前の選ぶ場所らしいな」
「オクトーバーフェストな。そう呼ぶ方が祭り感が高まって楽しいだろ」
「一理ある。フードも美味そうだな、何食おう」
「出て来てくれたしちょっとくらいなら奢るぜ、友よ」
「じゃあ一緒にチーズの盛り合わせ食おうぜ」
「オッケ、買って来る!」

 チーズの盛り合わせのついでにビールをおかわりした菅野はちょっとハイペース。よほど気分が高揚しているのだろうか。俺もガンガン行きたいけど引き摺られてぐだぐだになっても良くないからほどほどにしとかないと。

「いやー音楽はいい。音楽は最高だよ朝霞」
「お前、相当音楽が好きなんだな」
「当たり前よ。就職だって音楽で獲りたいと思ってるし」
「マジか。音楽で食ってく気か」
「何だよ、無理ってか?」
「いや、お前なら出来ると思うよ。負けず嫌いでセンスがある上にすげー努力家だし、市場調査みたいなことも欠かさないだろ。やっぱゲーム音楽がやりたいのか?」
「そうだな。まずゲーム音楽がやりたい。ゲーム音楽もやりたいけど、ゆくゆくはどんな人の耳に馴染む音や曲も作りたい」

 俺はもういくつか内定も持ってて就活もそろそろ一段落かなと思ってるくらいだけど、菅野はまだまだこれからが勝負なんだそうだ。言ってしまえば、みんな一列に並んでよーいどんという世界でもないワケだから。どんなことにも対応出来るよう、日々曲や音を作り続けているそうだ。
 進路の話で言えば、リン君や菅野は大学院への進学が第1希望だそうだ。理系ともなるとやっぱりそういうのも視野に入る人も多いんだろうなと思う。大学院と言えば京川さんが向島の院生らしいけど、その肩書きが本当なのかどうかは未だに怪しい。何年学生やってるんだあの人。

「やっぱUSDX的には俺とお前のスケジュールが比較的余裕っぽい感じだから、どうしていくかよ」
「プロソルさんたちは? まあ、塩見さんは普通に社会人だから忙しいだろうけど」
「アイツは盆過ぎから10月末くらいまでは絵に描いたようなガチ社畜になるぞ」
「あ、噂のツミツミ動画ラッシュか……」
「それな。あと、キョージュは学生でいたいから今年は留年しようかなーとは言ってたけど、どこまでガチなのか」
「留年しようかな…? 経歴が謎過ぎる。つか年齢も本当なのかどうか」
「今年26なのは本当らしいぞ。ソルが今年27で、俺たちが22になる年な」
「26とか27……5年後か。どうしてんだろうな俺たち。USDXやってんのかな」
「キョージュ次第じゃね? アイツが飽きれば明日にでも辞めるだろうし。ま、ひとつ言えるのはスガは結婚して須賀泰稚になってんだろっつーコトだな!」
「……え、菅野って婿入りなのか」
「アイツ兄貴いるし、星羅ん家は2人姉妹だからその線が濃厚らしいぞ。ま、菅野だろうが須賀だろうがスガはスガだ」
「まあ、確かに。スガだな。そうか、菅野って兄貴いたのか。何か意外だな。弟っぽさがないと言うか」

 俺が5年後に結婚するかどうかと聞かれると、絶対してないだろうと思う。それを言うと何か怒られそうな気もするけど、結婚というものに関するビジョンが今のところ全く見えないし、現状のやりたいことリストにも入っていない。うーん、宮林さんにも聞いてみたい話だ。

「ゆーてアイツらは姉さん女房になるじゃんな。1コしか違わないっつっても1コ違うっつーだけでスガはもーう星羅には甘えたさんよ」
「……え!? 須賀ってタメじゃないのか!?」
「あ。聞かなかったことにしてくれ。あんま公にしてないっぽいから。星羅は俺らの1コ上だよ。何か高校で1年遅れたとかって言ってたな」

 人っていろいろわからないなと思う。京川さんにしても須賀にしても。あと、菅野の事に関しても、菅野だから知ってるようなことを聞けて面白いなと。あの菅野が須賀には甘えてるのかと想像すると……いや、想像出来ねーなこれ。

「あーあー朝霞クン、お前も抜け駆けで彼女なんか作りやがってよ!」
「そうは言うけど菅野、お前も何だかんだで浦和とは一時的に別れてるだけで実質付き合ってるみたいなモンらしいじゃねーか」
「それはお前、俺らには修業期間っつーモンが必要なワケよ。……アイツが今どこの班にいるか考えろよ。俺の付け入る隙なんかねーんだよクソ野郎」
「何で俺がクソ野郎って言われなきゃいけないんだクソ野郎」
「なんか班の1年Pがどこでかは知らねーけど極秘訓練してるとかでうかうかしてらんないんだと!」
「戸田班の1年P? ああ、彩人か。それなら俺が指導してるけど、まあ、うん、めんどくさくなるから浦和には黙っといてくれ」
「ビール1杯で」
「わかった。アインプロージット」


end.


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ただただ朝霞PとカンDがきゃいきゃいとくっちゃべってるだけの話。進路とかUSDXとかいろいろ。結婚してもスガはスガ。確かに。
そういやもうすぐ塩見さんが噂の社畜モードに入るのね。ちーちゃんもたくさん働けそうでよかったね! 今年は向舞祭もないしな。学費学費。
マリンからすれば自らを脅かす1年Pを指導してるのがどちゃくそ嫌いな朝霞Pってわかったらそらキーッ!ですよ

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