2020(02)
■夏の労働には希望もある?
++++
「定例会です。えー、去年よりはちょっと連絡が遅くなりましたが、今年も向舞祭のスタッフとして出てくれという依頼がフィネスタさんから入ってますのでよろしくお願いします」
向舞祭というのは星港を中心に、向島エリア全体にサテライトステージを設けて行われるヨサコイ系の祭りだ。インターフェイスが世話になっているフィネスタという企業がこの向舞祭の協賛だか何だかのスポンサーなので、夏になると俺たちに働けと声がかかる。
フィネスタが世話してる学生団体は他にもいるはずだけど、多分向島インターフェイス放送委員会がこういう祭りのステージイベントとは相性がいいんだろう。やることがステージMCと音響スタッフ、それぞれの補佐がメインだから。
「L先輩、向舞祭のスタッフって具体的に何をするんですか?」
「アナウンサーはステージMC、ミキサーは音響スタッフだな。もちろん本職の人がいるから俺たちは補佐になるワケだけど、それでもまあまあ仕事はある」
「もしかして向舞祭が終わるまで帰れない系ですか? お盆ですよね? だったらしょぼんなんですけど」
「あーそうだそうだ。それは本当に申し訳ない。地方から出て来てる子はちょっと帰るタイミングがアレになるんですけど」
「えー! 夏合宿もあるのに! しょぼーん!」
「地方から出て来てるのってハナと? ミドリと、あやめか」
「私は所詮白影なのでいつでも帰れますし問題ないですよ」
「そうか。ハナとミドリには申し訳ないけど、お願いします」
「俺は大丈夫です。元々帰省は9月の予定でしたし」
俺も去年圭斗先輩とカズ先輩から圧力を掛けられたなあと淡い記憶が蘇る。あの人たちホント俺に対しては容赦なかったもんなあ、いろいろな意味で。それはそうと、地方組にも何とか帰省時期の事には納得してもらい、次の内容に進む。
「ちなみに、今年は時給930円の短期アルバイト扱いになりますのでよろしくお願いします」
「あ、今年は最初から時給が発生する前提だったんだね」
「そうだな。その点に関しては圭斗先輩様様で」
「あ、給料が入るんですねー」
「今から契約書を配るんで、次の会議には署名とハンコをして提出してください」
本当に、短期アルバイト扱いになったのはせめてもの救いだと思う。向舞祭のスタッフとしての働きに時給が発生するようになったのは、去年からだ。それまでは完全なボランティアで慈善事業だったそうだ。
だけど「このクソ暑い中やりがいだけで働けるか、金寄こせやボケ(意訳)」と前議長の圭斗先輩がお上と交渉した結果、俺たちは時給900円のスタッフとして働くことになったのだ。今年は向こうから時給の話が振られたので軽く感動した。先人に感謝。
「練習はみんな一緒にやってた感じだけど、前日のリハーサルからはみんなバラバラになって行くことになります。で、場合によっては別の仕事が入って来るケースもあるっぽくて」
「別の仕事?」
「自分が付くMCさんの母体によってはいろいろあるよっていう話。去年で言うと大石先輩のケースがな。例えば、MCがテレビ局のアナウンサーさんだったりすると、テレビ中継の補佐もすることになる。食レポしたり、想定外のことをやらなきゃいけなくなる場合もあるよってことも念頭に入れといてください」
「L先ぱーい」
「どうしたあやめ」
「ミキサーは音響のお手伝いがメインだそうですけど、映像のお手伝いをさせてくれるところはありませんかー?」
ミキサーは音響の手伝いをするものだと思ってるけど、確かに向舞祭の本体でも動画やカメラでの写真撮影を結構やってんだよな。多分動画サイトやSNS用にやってるんだろうけど。去年は青敬さんがいなかったから想像もしなかったけど、映像に強い大学さんだしアリっちゃアリだよな。でもなあ。
「それはフィネスタじゃなくて向舞祭の本体に聞かないとわからない」
「あっ、あやめお前抜け駆けすんな! 撮影スタッフだったら俺もやりたい! 合法的にドローン飛ばしたい!」
「――って、ハマちゃん、アナウンサーにそれをやられるとツラいんだけどな」
「あ、そっか。でもさ、やっぱAKBCの血なワケよ」
「まあ、アナは他に4人いるし、撮影スタッフ関係の仕事があるか聞いてみて、あったら青敬さんはそっちに回ってもらう感じで行こうか」
「ありがとうございます!」
「Lお前マジパねえ! 最高かよ!」
「まだそうなるって確定したワケじゃないからな。それだけは覚えといてくれ」
「おうよ!」
向舞祭の話ひとつ取って見ても、年が変わると空気も変わるなって感じがする。去年は絶望感が強い感じだったけど、今年は何となく前向きというか、ポジティブな感じがする。多分最初から時給があるおかげでもあるだろうけど。詳細がわかってるって強いなやっぱ。
「もしかして、奈々って姉妹共演あったりする? 水鈴さんMCやるよね?」
「ミーちゃんは向舞祭のMCのお仕事受けてるけど、うちはミキサーだから会場が同じでも共演とは言えなくない?」
「あ、そうだ。一応定例会がスタッフとして出る体になってますけど、誰でも参加してもらって大丈夫なので、一応各々でスタッフ募集の声をかけてみてください」
「水鈴さんの名前で釣れそうなのが1人いるですよ……」
end.
++++
今年の向舞祭の話は何となくいい感じに丸くまとまってますね。去年は圭斗さんが不穏すぎたんや。帝王の圧ってヤツです。
ところで、Lって定例会議長として結構ちゃんと働いてるような感じですね。議長が板について来てると言うか。やるねえ。
そして青敬の存在感が増して来てるのと、水鈴さんの名前で釣れそうな某グレミュー……。果たしてどうなる。
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「定例会です。えー、去年よりはちょっと連絡が遅くなりましたが、今年も向舞祭のスタッフとして出てくれという依頼がフィネスタさんから入ってますのでよろしくお願いします」
向舞祭というのは星港を中心に、向島エリア全体にサテライトステージを設けて行われるヨサコイ系の祭りだ。インターフェイスが世話になっているフィネスタという企業がこの向舞祭の協賛だか何だかのスポンサーなので、夏になると俺たちに働けと声がかかる。
フィネスタが世話してる学生団体は他にもいるはずだけど、多分向島インターフェイス放送委員会がこういう祭りのステージイベントとは相性がいいんだろう。やることがステージMCと音響スタッフ、それぞれの補佐がメインだから。
「L先輩、向舞祭のスタッフって具体的に何をするんですか?」
「アナウンサーはステージMC、ミキサーは音響スタッフだな。もちろん本職の人がいるから俺たちは補佐になるワケだけど、それでもまあまあ仕事はある」
「もしかして向舞祭が終わるまで帰れない系ですか? お盆ですよね? だったらしょぼんなんですけど」
「あーそうだそうだ。それは本当に申し訳ない。地方から出て来てる子はちょっと帰るタイミングがアレになるんですけど」
「えー! 夏合宿もあるのに! しょぼーん!」
「地方から出て来てるのってハナと? ミドリと、あやめか」
「私は所詮白影なのでいつでも帰れますし問題ないですよ」
「そうか。ハナとミドリには申し訳ないけど、お願いします」
「俺は大丈夫です。元々帰省は9月の予定でしたし」
俺も去年圭斗先輩とカズ先輩から圧力を掛けられたなあと淡い記憶が蘇る。あの人たちホント俺に対しては容赦なかったもんなあ、いろいろな意味で。それはそうと、地方組にも何とか帰省時期の事には納得してもらい、次の内容に進む。
「ちなみに、今年は時給930円の短期アルバイト扱いになりますのでよろしくお願いします」
「あ、今年は最初から時給が発生する前提だったんだね」
「そうだな。その点に関しては圭斗先輩様様で」
「あ、給料が入るんですねー」
「今から契約書を配るんで、次の会議には署名とハンコをして提出してください」
本当に、短期アルバイト扱いになったのはせめてもの救いだと思う。向舞祭のスタッフとしての働きに時給が発生するようになったのは、去年からだ。それまでは完全なボランティアで慈善事業だったそうだ。
だけど「このクソ暑い中やりがいだけで働けるか、金寄こせやボケ(意訳)」と前議長の圭斗先輩がお上と交渉した結果、俺たちは時給900円のスタッフとして働くことになったのだ。今年は向こうから時給の話が振られたので軽く感動した。先人に感謝。
「練習はみんな一緒にやってた感じだけど、前日のリハーサルからはみんなバラバラになって行くことになります。で、場合によっては別の仕事が入って来るケースもあるっぽくて」
「別の仕事?」
「自分が付くMCさんの母体によってはいろいろあるよっていう話。去年で言うと大石先輩のケースがな。例えば、MCがテレビ局のアナウンサーさんだったりすると、テレビ中継の補佐もすることになる。食レポしたり、想定外のことをやらなきゃいけなくなる場合もあるよってことも念頭に入れといてください」
「L先ぱーい」
「どうしたあやめ」
「ミキサーは音響のお手伝いがメインだそうですけど、映像のお手伝いをさせてくれるところはありませんかー?」
ミキサーは音響の手伝いをするものだと思ってるけど、確かに向舞祭の本体でも動画やカメラでの写真撮影を結構やってんだよな。多分動画サイトやSNS用にやってるんだろうけど。去年は青敬さんがいなかったから想像もしなかったけど、映像に強い大学さんだしアリっちゃアリだよな。でもなあ。
「それはフィネスタじゃなくて向舞祭の本体に聞かないとわからない」
「あっ、あやめお前抜け駆けすんな! 撮影スタッフだったら俺もやりたい! 合法的にドローン飛ばしたい!」
「――って、ハマちゃん、アナウンサーにそれをやられるとツラいんだけどな」
「あ、そっか。でもさ、やっぱAKBCの血なワケよ」
「まあ、アナは他に4人いるし、撮影スタッフ関係の仕事があるか聞いてみて、あったら青敬さんはそっちに回ってもらう感じで行こうか」
「ありがとうございます!」
「Lお前マジパねえ! 最高かよ!」
「まだそうなるって確定したワケじゃないからな。それだけは覚えといてくれ」
「おうよ!」
向舞祭の話ひとつ取って見ても、年が変わると空気も変わるなって感じがする。去年は絶望感が強い感じだったけど、今年は何となく前向きというか、ポジティブな感じがする。多分最初から時給があるおかげでもあるだろうけど。詳細がわかってるって強いなやっぱ。
「もしかして、奈々って姉妹共演あったりする? 水鈴さんMCやるよね?」
「ミーちゃんは向舞祭のMCのお仕事受けてるけど、うちはミキサーだから会場が同じでも共演とは言えなくない?」
「あ、そうだ。一応定例会がスタッフとして出る体になってますけど、誰でも参加してもらって大丈夫なので、一応各々でスタッフ募集の声をかけてみてください」
「水鈴さんの名前で釣れそうなのが1人いるですよ……」
end.
++++
今年の向舞祭の話は何となくいい感じに丸くまとまってますね。去年は圭斗さんが不穏すぎたんや。帝王の圧ってヤツです。
ところで、Lって定例会議長として結構ちゃんと働いてるような感じですね。議長が板について来てると言うか。やるねえ。
そして青敬の存在感が増して来てるのと、水鈴さんの名前で釣れそうな某グレミュー……。果たしてどうなる。
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