2020(02)
■守るものを諦めない
++++
今日は定例の班長会議ではなく、緊急会議ということで各班の班長が集められた。だけどそこに長門の姿はない。一応は緊急会議なのに全員揃わないまま柳井は話を始めてしまった。丸の池の話はこないだしたし、今日は何の話だろうとみんな不思議に思っている。
「突然集まってもらって感謝する。事後の報告にはなるが、長門班は解体し、当該班に在籍していた者には文化会規約に則り放送部からの除籍処分とした。その理由については――」
長門班解体と、班員が部からの除籍処分になったという事実に集められた班長たちは動揺しているようだった。アタシは普通の第三者じゃないし、あーそーなったんだって構えていられたけど。事情を知らない連中からすれば、何で今このタイミングでってなるわな。
確かに高萩の事は柳井と宇部サンに任せるとは言った。だけど、班ごと潰すかと。柳井の話によれば、連中は班ごと潰されても仕方ないレベルの悪行を去年やその前から繰り返していたということで、時代を遡っての処罰が科せられたという感じなのだろう。
まあ、言ってしまえば長門班が潰れたところでステージをやる上で影響は全くない。別に連中は真面目にステージやってるワケじゃないから丸の池の枠も与えられてなかったし。ただ、強いて不安要素を挙げるとすれば、野放しにされた獣がただ大人しくしてるかということ。
「皆に関しては各々の班で来たる日に向けて練習に励んでもらいたい。では、解散」
「お疲れーす」
「戸田、ちょっといいか」
「あ、やっぱアタシ居残り?」
普通の第三者じゃないアタシはやっぱり会議……と言うか報告が終わってもすんなりとは帰してもらえず、まだもうちょっと話があるらしかった。でも、もうちょっと突っ込んだトコの話も聞きたかったし、ここは素直に残ることに。柳井の他には、監査の白河がいる。
「戸田、その後、谷本の様子はどうだ」
「まあ、一応は元気よ。軽い女性恐怖症みたいになったみたいだけど」
「そうか。生活に大きな支障がないのならいい」
「そんなこと聞いてどうすんの?」
「俺個人が気になるというのもあるし、宇部さんも彼のことを案じている」
「ああそう。ただ、何かあったとしてもそうそう訴えて来ないタイプだろうし、アタシも全部はフォローしきれないとは言っとくよ」
「自らの意思で部に出席してるんだ。警戒こそ必要だが、そこまで過保護にする必要はないだろう」
彩人が何で被害者の自分がビクビクしながら過ごさなきゃいけないんだとか、怯えながら動くのが一番相手の思う壺だと半分キレながら言ってたのが少し痛々しかった。だけど言ってることと気持ちはよくわかるから、その短気で視野は狭めるなよとは忠告した。
「それでさ、長門班を班ごと潰した? って、高萩だけじゃなくて班ごと真っ黒だったってコト?」
「その通りだ。部費の私的使用、特定の班への妨害工作、SNSへの不適切投稿などなど数え上げればキリがない」
「そんだけ調べ上げたのか」
「厳密には、宇部さんがな。部の監査時代から日高ならびに日高班を潰すための証拠を積み上げていた。高萩の処分は先日の件だけでも十分だったが、他の連中はこのデータを証拠として提示させてもらった」
学年が上がる前に朝霞サンから聞いてたから知ってはいたけど、宇部恵美は日高の右腕の振りをしながらガチでアイツをぶっ潰す気だったんだと。鷹羽班から萩班に移籍したとも聞いた。アタシやうお姐とルーツは一緒なのかと思うと逆に腹立たしく思うね。やり方が頭固いんだっつーの。
柳井は長門班を部に残していたところで意味はないし、切った方が透明化が図れると考えて連中ごと切ることを選んだらしい。今では柳井班の班員だけど、日高班時代に裏工作を働いていた所沢怜央にも始末書を書かせたそうだ。だけど、それで終わったとも思っていないし、一番腹が立つことが残っている。
「柳井」
「何だ」
「これ、処分されたのって現役だけっしょ?」
「まあ、文化会の宇部さんを除き4年の籍はもうないことになっているからな」
「日高、坂戸、他の雑魚は逃げ切ったってことだよね」
「放送部の処分からはな」
「“放送部の”?」
「連中のことは学生課にも通報済みだ。高萩の件だけでなく、他の事案も十分部や文化会だけでどうにか出来る範疇ではない。収集した証拠を提示したから、後日学生課から何らかの処分が科せられるはずだ。……もちろん、部としての罰則が科せられる可能性もあるが」
「罰則の例は?」
「無期限の活動停止など」
冷静に考えればこないだの事だけでも十分それだけに値する事案なのに、さらに連中の悪事が乗っかって来るんだからそれくらいにはなっちまうだろうなと思う。アタシたちがステージを出来るか出来ないか、それらは学生課に委ねられてるのかと。
「俺たちの代ではステージをやれない可能性もある。だが、俺はステージを諦めてはいない」
「って言うかさ、仮に部が無期限の活動停止とかになるとするじゃん。それはしゃーないとして、インターフェイス関係の行事ってどうなるの? それも参加NGになんの? 朝霞サンは去年謹慎中にファンフェス出てたけど」
「今回は処分が科せられるとすれば学生課からだ。その辺りの判断が難しい」
「……だけどさ、処分された連中と関係ない子らは参加出来るようにしてやって欲しい」
「考えよう」
トンデモ展開になってきたなと思う。だけどやることは変わらない。丸の池まで日はもうないし、インターフェイスの夏合宿も1日1日近付いてくる。あんだけクソな連中も、切られるときは一瞬だ。栄枯盛衰って言うのがピッタリだなと。一生出てくんなとは思うけど。
「さーて、どうしたモンかね」
end.
++++
しばし動きのなかった星ヶ丘放送部ですが、裏では偉い人たちが動いていたようです。とうとう処分の報告がありました。
ただ、これで油断しないのがさすがのつばちゃん。逆に野放しになって危険だと考える辺りがやられ慣れているとも言える。
宇部Pとうお姐は元々同じ班員。つばちゃんは宇部Pが移籍後に鷹羽班に入ってますが、反体制派としてのタイプやルーツは全く同じだったんですね
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今日は定例の班長会議ではなく、緊急会議ということで各班の班長が集められた。だけどそこに長門の姿はない。一応は緊急会議なのに全員揃わないまま柳井は話を始めてしまった。丸の池の話はこないだしたし、今日は何の話だろうとみんな不思議に思っている。
「突然集まってもらって感謝する。事後の報告にはなるが、長門班は解体し、当該班に在籍していた者には文化会規約に則り放送部からの除籍処分とした。その理由については――」
長門班解体と、班員が部からの除籍処分になったという事実に集められた班長たちは動揺しているようだった。アタシは普通の第三者じゃないし、あーそーなったんだって構えていられたけど。事情を知らない連中からすれば、何で今このタイミングでってなるわな。
確かに高萩の事は柳井と宇部サンに任せるとは言った。だけど、班ごと潰すかと。柳井の話によれば、連中は班ごと潰されても仕方ないレベルの悪行を去年やその前から繰り返していたということで、時代を遡っての処罰が科せられたという感じなのだろう。
まあ、言ってしまえば長門班が潰れたところでステージをやる上で影響は全くない。別に連中は真面目にステージやってるワケじゃないから丸の池の枠も与えられてなかったし。ただ、強いて不安要素を挙げるとすれば、野放しにされた獣がただ大人しくしてるかということ。
「皆に関しては各々の班で来たる日に向けて練習に励んでもらいたい。では、解散」
「お疲れーす」
「戸田、ちょっといいか」
「あ、やっぱアタシ居残り?」
普通の第三者じゃないアタシはやっぱり会議……と言うか報告が終わってもすんなりとは帰してもらえず、まだもうちょっと話があるらしかった。でも、もうちょっと突っ込んだトコの話も聞きたかったし、ここは素直に残ることに。柳井の他には、監査の白河がいる。
「戸田、その後、谷本の様子はどうだ」
「まあ、一応は元気よ。軽い女性恐怖症みたいになったみたいだけど」
「そうか。生活に大きな支障がないのならいい」
「そんなこと聞いてどうすんの?」
「俺個人が気になるというのもあるし、宇部さんも彼のことを案じている」
「ああそう。ただ、何かあったとしてもそうそう訴えて来ないタイプだろうし、アタシも全部はフォローしきれないとは言っとくよ」
「自らの意思で部に出席してるんだ。警戒こそ必要だが、そこまで過保護にする必要はないだろう」
彩人が何で被害者の自分がビクビクしながら過ごさなきゃいけないんだとか、怯えながら動くのが一番相手の思う壺だと半分キレながら言ってたのが少し痛々しかった。だけど言ってることと気持ちはよくわかるから、その短気で視野は狭めるなよとは忠告した。
「それでさ、長門班を班ごと潰した? って、高萩だけじゃなくて班ごと真っ黒だったってコト?」
「その通りだ。部費の私的使用、特定の班への妨害工作、SNSへの不適切投稿などなど数え上げればキリがない」
「そんだけ調べ上げたのか」
「厳密には、宇部さんがな。部の監査時代から日高ならびに日高班を潰すための証拠を積み上げていた。高萩の処分は先日の件だけでも十分だったが、他の連中はこのデータを証拠として提示させてもらった」
学年が上がる前に朝霞サンから聞いてたから知ってはいたけど、宇部恵美は日高の右腕の振りをしながらガチでアイツをぶっ潰す気だったんだと。鷹羽班から萩班に移籍したとも聞いた。アタシやうお姐とルーツは一緒なのかと思うと逆に腹立たしく思うね。やり方が頭固いんだっつーの。
柳井は長門班を部に残していたところで意味はないし、切った方が透明化が図れると考えて連中ごと切ることを選んだらしい。今では柳井班の班員だけど、日高班時代に裏工作を働いていた所沢怜央にも始末書を書かせたそうだ。だけど、それで終わったとも思っていないし、一番腹が立つことが残っている。
「柳井」
「何だ」
「これ、処分されたのって現役だけっしょ?」
「まあ、文化会の宇部さんを除き4年の籍はもうないことになっているからな」
「日高、坂戸、他の雑魚は逃げ切ったってことだよね」
「放送部の処分からはな」
「“放送部の”?」
「連中のことは学生課にも通報済みだ。高萩の件だけでなく、他の事案も十分部や文化会だけでどうにか出来る範疇ではない。収集した証拠を提示したから、後日学生課から何らかの処分が科せられるはずだ。……もちろん、部としての罰則が科せられる可能性もあるが」
「罰則の例は?」
「無期限の活動停止など」
冷静に考えればこないだの事だけでも十分それだけに値する事案なのに、さらに連中の悪事が乗っかって来るんだからそれくらいにはなっちまうだろうなと思う。アタシたちがステージを出来るか出来ないか、それらは学生課に委ねられてるのかと。
「俺たちの代ではステージをやれない可能性もある。だが、俺はステージを諦めてはいない」
「って言うかさ、仮に部が無期限の活動停止とかになるとするじゃん。それはしゃーないとして、インターフェイス関係の行事ってどうなるの? それも参加NGになんの? 朝霞サンは去年謹慎中にファンフェス出てたけど」
「今回は処分が科せられるとすれば学生課からだ。その辺りの判断が難しい」
「……だけどさ、処分された連中と関係ない子らは参加出来るようにしてやって欲しい」
「考えよう」
トンデモ展開になってきたなと思う。だけどやることは変わらない。丸の池まで日はもうないし、インターフェイスの夏合宿も1日1日近付いてくる。あんだけクソな連中も、切られるときは一瞬だ。栄枯盛衰って言うのがピッタリだなと。一生出てくんなとは思うけど。
「さーて、どうしたモンかね」
end.
++++
しばし動きのなかった星ヶ丘放送部ですが、裏では偉い人たちが動いていたようです。とうとう処分の報告がありました。
ただ、これで油断しないのがさすがのつばちゃん。逆に野放しになって危険だと考える辺りがやられ慣れているとも言える。
宇部Pとうお姐は元々同じ班員。つばちゃんは宇部Pが移籍後に鷹羽班に入ってますが、反体制派としてのタイプやルーツは全く同じだったんですね
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