2020(02)
■アドバンテージは余裕じゃない
++++
「ふあ~ああ」
「シノ、お前本当に大丈夫か、授業中も寝てばっかだけど」
「起きようとは思ってる! でも……ふわ~ああ」
「おはようございます」
「おあようございまふ」
大きなあくびをしながらやってきたシノに、サークル室にいたみんなが苦笑い。そんなに眠たいのかなって。眠そうだねえとつつくと、ササが「授業中もずっと居眠りしてるんですよ」と溜め息混じりに訴える。いや、俺はシノのことを言えないんだけど。
「もうすぐテストじゃないですか。こんな調子で大丈夫かなって今から心配ですよ」
「ササは大丈夫そうだけどね」
「俺も自分の心配はそんなにしてないです。問題はシノなんですよ。シノとは履修がほぼ一緒なんですけど、どの授業でもほぼ寝てますからね。これだけ寝てて逆にいつ起きてるのかって不思議で仕方ないです」
「えー! シノ、大丈夫!? 初めてのテストなのに単位落としちゃうよ!?」
「さすがにテストはササの助けも得られないしなあ。そこは自分で頑張ってけ?」
「テスト週間にはちゃんとする! 大丈夫だ!」
なんだろう、1年生たちが話してるのを聞いてると精神的にちょっとしんどくなってくるなあ。そんな調子で本当に大丈夫かって言われてるのはシノのはずなんだけど、俺が言われてるように感じちゃうと言うか。人の振り見て我が振り直せってヤツかなこれが。2年生だし俺もちゃんとしないと。
「そう言えばさ、ササとシノって佐藤ゼミに入りたいって言ってたっけ?」
「あっはい、そうです」
「えっ、果林先輩口利きしてくれるんすか!?」
「話は最後まで聞きなさい。口利きはしないけど、佐藤ゼミに入りたいって言うんなら、このテスト、本っ当に! ちゃんとやった方がいいよ」
「ゼミに入るのに学力での線引きがあるってことですか?」
「そーね。佐藤ゼミってさ、何だかんだ目立つからゼミ募集の倍率が毎年そこそこあるんだよ。2倍とかそれくらいかな。ゼミ固有のエントリーシートとか面談とかで合否を判断するんだけど、最近になってヒゲは学力も重視し出したんだよね」
俺はMBCCのミキサーというアドバンテージがあったから学力のボーダーも実質ないような物だったけど、もし学力の線引きが適用されていたとすれば確実に佐藤ゼミの選考からは漏れていただろう。実際、先生からはよく成績のことをチクチクと言われている。
普段の様子を見ている分には、ササは多分問題ないと思う。アナウンサーなのが先生的にはガッカリポイントだろうけど、それ以上に学力があれば。だけど、やっぱり問題はシノだ。MBCCのミキサーというのは多分アドバンテージだろうけど、2年連続残念な成績だったら、っていう問題が。
「シノ、そのボーダーがどれくらいかはわかんないけど、今の調子だったら結構マズくないか?」
「ヤっバい……どーする」
「だから、今から死にもの狂いで勉強するんだよ。友達からプリントやノートかき集めてさ。友達も結構出来たっしょ?」
「ちなみに、成績が悪くてもワンチャンイケる可能性とか方法とかってないですか?」
「ないことはないね」
「教えてください!」
「なんなら今年の2年生に成績がそこまで良くない、佐藤ゼミ的なサブカルの趣味もない、固有エントリーシートがそんな面白くないの3拍子でも通った子がいるから」
――と果林先輩が言っているのが他でもない自分の事であると気付くのにさほど時間は必要なかった。成績が良くない、趣味が佐藤ゼミっぽくない、エントリーシートが面白くないの3拍子でも、MBCCのミキサーであるというだけの理由で合格した俺がいる。
「その人は何して通ったんすか!?」
「タカちゃん、何して通ったんですか」
「何もしてませんけど」
「え、その面白くない人ってもしかして高木先輩っすか?」
「事実だけど面白くない人って言われるのはあんまりいい気はしないなあ」
「すんません! でもそんだけないない尽くしでどーやって佐藤ゼミに入ったんすか!?」
「MBCCのミキサーだったから拾われたってだけ」
「おおお~! そしたら俺もワンチャン!?」
「――あるかもしれないけど、成績が悪いと延々と先生から突かれ続けるし、何なら俺は果林先輩にも迷惑かけてるからねそれで。しっかり勉強してるに越したことはないよ」
果林先輩が俺の成績をどうにかしろと言われ続けてげんなりしているのも見ていたし、それに関しては本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もしシノがこの調子のまま佐藤ゼミに入ったとすれば、間違いなく俺と果林先輩は先生からさらにいろいろ言われることになるだろう。
「でも、佐藤ゼミに入れる可能性がまあまああるってわかっただけで気が楽になったわ。テストもヨユーヨユー」
「シノ、今まではMBCCのミキサーがいなかったから成績を無視して合格にしたってだけかもしれないんだぞ。今はもう高木先輩がいるんだから、成績が悪いなら要らないって言われる可能性も考えろ」
「げっ、ササお前、そんな怖いこと言うなよ! お前は俺と一緒に佐藤ゼミでラジオやりたくないのか!?」
「やりたいから心配してるんだろ。わかったら勉強しろ。プリントとノートは貸してやるから。わかんないトコあったらLINEでも何でもしてくれれば教えるし」
「ササ~! お前と友達になれて良かったよ~いおいおい」
「……タカちゃん、君の後輩はこんなに優秀なのにって言われないようにね」
「はい」
end.
++++
テスト前にお世話する側が積極的に助けるコンビってそうそういなかったですね。ササシノはササが優しすぎる。何だよ一緒にラジオやりたいから頑張れって
というワケで緑大のテスト前のあれこれですが、佐藤ゼミ生と佐藤ゼミに入りたい子たちの学力は……多分成績的にはササが一番だろうなあ。
17年度(+2年)にやった佐藤ゼミ話によれば、タカちゃんはシノについてチクチク言われてるようなので、この心配も正しかった
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「ふあ~ああ」
「シノ、お前本当に大丈夫か、授業中も寝てばっかだけど」
「起きようとは思ってる! でも……ふわ~ああ」
「おはようございます」
「おあようございまふ」
大きなあくびをしながらやってきたシノに、サークル室にいたみんなが苦笑い。そんなに眠たいのかなって。眠そうだねえとつつくと、ササが「授業中もずっと居眠りしてるんですよ」と溜め息混じりに訴える。いや、俺はシノのことを言えないんだけど。
「もうすぐテストじゃないですか。こんな調子で大丈夫かなって今から心配ですよ」
「ササは大丈夫そうだけどね」
「俺も自分の心配はそんなにしてないです。問題はシノなんですよ。シノとは履修がほぼ一緒なんですけど、どの授業でもほぼ寝てますからね。これだけ寝てて逆にいつ起きてるのかって不思議で仕方ないです」
「えー! シノ、大丈夫!? 初めてのテストなのに単位落としちゃうよ!?」
「さすがにテストはササの助けも得られないしなあ。そこは自分で頑張ってけ?」
「テスト週間にはちゃんとする! 大丈夫だ!」
なんだろう、1年生たちが話してるのを聞いてると精神的にちょっとしんどくなってくるなあ。そんな調子で本当に大丈夫かって言われてるのはシノのはずなんだけど、俺が言われてるように感じちゃうと言うか。人の振り見て我が振り直せってヤツかなこれが。2年生だし俺もちゃんとしないと。
「そう言えばさ、ササとシノって佐藤ゼミに入りたいって言ってたっけ?」
「あっはい、そうです」
「えっ、果林先輩口利きしてくれるんすか!?」
「話は最後まで聞きなさい。口利きはしないけど、佐藤ゼミに入りたいって言うんなら、このテスト、本っ当に! ちゃんとやった方がいいよ」
「ゼミに入るのに学力での線引きがあるってことですか?」
「そーね。佐藤ゼミってさ、何だかんだ目立つからゼミ募集の倍率が毎年そこそこあるんだよ。2倍とかそれくらいかな。ゼミ固有のエントリーシートとか面談とかで合否を判断するんだけど、最近になってヒゲは学力も重視し出したんだよね」
俺はMBCCのミキサーというアドバンテージがあったから学力のボーダーも実質ないような物だったけど、もし学力の線引きが適用されていたとすれば確実に佐藤ゼミの選考からは漏れていただろう。実際、先生からはよく成績のことをチクチクと言われている。
普段の様子を見ている分には、ササは多分問題ないと思う。アナウンサーなのが先生的にはガッカリポイントだろうけど、それ以上に学力があれば。だけど、やっぱり問題はシノだ。MBCCのミキサーというのは多分アドバンテージだろうけど、2年連続残念な成績だったら、っていう問題が。
「シノ、そのボーダーがどれくらいかはわかんないけど、今の調子だったら結構マズくないか?」
「ヤっバい……どーする」
「だから、今から死にもの狂いで勉強するんだよ。友達からプリントやノートかき集めてさ。友達も結構出来たっしょ?」
「ちなみに、成績が悪くてもワンチャンイケる可能性とか方法とかってないですか?」
「ないことはないね」
「教えてください!」
「なんなら今年の2年生に成績がそこまで良くない、佐藤ゼミ的なサブカルの趣味もない、固有エントリーシートがそんな面白くないの3拍子でも通った子がいるから」
――と果林先輩が言っているのが他でもない自分の事であると気付くのにさほど時間は必要なかった。成績が良くない、趣味が佐藤ゼミっぽくない、エントリーシートが面白くないの3拍子でも、MBCCのミキサーであるというだけの理由で合格した俺がいる。
「その人は何して通ったんすか!?」
「タカちゃん、何して通ったんですか」
「何もしてませんけど」
「え、その面白くない人ってもしかして高木先輩っすか?」
「事実だけど面白くない人って言われるのはあんまりいい気はしないなあ」
「すんません! でもそんだけないない尽くしでどーやって佐藤ゼミに入ったんすか!?」
「MBCCのミキサーだったから拾われたってだけ」
「おおお~! そしたら俺もワンチャン!?」
「――あるかもしれないけど、成績が悪いと延々と先生から突かれ続けるし、何なら俺は果林先輩にも迷惑かけてるからねそれで。しっかり勉強してるに越したことはないよ」
果林先輩が俺の成績をどうにかしろと言われ続けてげんなりしているのも見ていたし、それに関しては本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もしシノがこの調子のまま佐藤ゼミに入ったとすれば、間違いなく俺と果林先輩は先生からさらにいろいろ言われることになるだろう。
「でも、佐藤ゼミに入れる可能性がまあまああるってわかっただけで気が楽になったわ。テストもヨユーヨユー」
「シノ、今まではMBCCのミキサーがいなかったから成績を無視して合格にしたってだけかもしれないんだぞ。今はもう高木先輩がいるんだから、成績が悪いなら要らないって言われる可能性も考えろ」
「げっ、ササお前、そんな怖いこと言うなよ! お前は俺と一緒に佐藤ゼミでラジオやりたくないのか!?」
「やりたいから心配してるんだろ。わかったら勉強しろ。プリントとノートは貸してやるから。わかんないトコあったらLINEでも何でもしてくれれば教えるし」
「ササ~! お前と友達になれて良かったよ~いおいおい」
「……タカちゃん、君の後輩はこんなに優秀なのにって言われないようにね」
「はい」
end.
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テスト前にお世話する側が積極的に助けるコンビってそうそういなかったですね。ササシノはササが優しすぎる。何だよ一緒にラジオやりたいから頑張れって
というワケで緑大のテスト前のあれこれですが、佐藤ゼミ生と佐藤ゼミに入りたい子たちの学力は……多分成績的にはササが一番だろうなあ。
17年度(+2年)にやった佐藤ゼミ話によれば、タカちゃんはシノについてチクチク言われてるようなので、この心配も正しかった
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