2020(02)
■return in triumph
++++
「やあ、僕だよ」
これまで、全くその予兆はなかった。開け放っていたサークル室のドアの向こうから、目を開けていられない程の目映いオーラが。華麗で、美しくて、神々しい! 第8代MMPを統べた王が今、帰還されたのだ。
「うわああーっ! ナ、ナンダッテー!?」
「野坂、お前は本当に変わりないな」
「け、圭斗先輩こそ、相変わらずお素敵でいらっしゃいます…!」
「はーっ……相変わらずだな、このヘンクツ理系男は」
「なぁああ!? な、菜月先輩まで!? ナニ? 死ぬの? 今日が俺の命日か!?」
何と何と、4年生の先輩方がサークルに遊びに来られたという……何だこの神イベントは! と言うか割と真面目に俺がこっちに完全復帰してる後でよかったぁー! もしこれで初心者講習会の準備期間で緑ヶ丘に浮気してる時だったら……想像するのも恐ろしい。
「やァー、圭斗先輩菜月先輩、お揃いで。今日は何のご用事で?」
「ん、久し振りに顔でも出してみようと思ってね。何でも、1年生も入ったそうじゃないか」
「この2人すわ。こっちがカノンで、こっちが萌香す」
「カノンこと春日井希です」
「露崎萌香です」
「どうも始めまして。僕はMMPの前代表会計で4年の松岡圭斗。で、こちらの女性が」
「あ、うちは面識あるから大丈夫だぞ」
「え、いつの間に」
「と言うか、うちがこの2人をここまで道案内してきたからな」
「その話はまた今度聞かせてもらうことにするよ」
いやぁー、4年生の先輩がサークル室に遊びに来られるというイベントがこれほど輝きをもって受け入れられる物であっただろうか。いや、べっ、別にこの間卒業された先輩方がどうとは一言も言っていないんだからねっ! 圭斗先輩が1年生たちに自己紹介する様もまた紳士的で素晴らしいじゃないか。
「圭斗、本題はどうした」
「ああ、そうだったよ。お前たち、この季節が来たからには、やっておかないとね」
そう言うなり、圭斗先輩はどこから出してきたのか大きな袋を机の上でバサーッとひっくり返した。その中からは、多種多様なうまい棒30本パックがずさずさと音を立てて出て来る。この季節、うまい棒の山、そして遊びに来る悪乗りベースの4年生……。縁起でもない!
「あーっ! 圭斗先輩、これって、チキンカレー味じゃないですか!?」
「よくぞ気付いたねカノン。終売するというチキンカレー味だよ。ニュースで見た瞬間、これは買わないとと思ってね」
「でも凄い量のうまい棒ですねー。差し入れですか?」
「……ノサカ、無知って怖いな」
「はい。このうまい棒の山を喜んでなどいられないというのに」
圭斗先輩は間違いなくあのクッソ下らない行事の第2弾をやろうとしてうまい棒の山を用意して来られたのに違いない。だけど、経験者のこちらがビビる前にカノンがこのうまい棒に食い付いてしまったのだ。それはそれはもう無垢な瞳をキラキラさせているものだから、絶望に叩き落とすのも憚られるじゃないか。
「去年の今頃、うまい棒レースという至極下らない大食い&我慢比べレースというのがあってだな」
「なんすかそれ」
「そういうのがあったんだよ。水分を取るなというルール付きでね。あのクソ野郎が……本来はアイツを招集してごめんなさいと跪くまでうまい棒を口に詰め込んでやらないといけないっていうのに」
「圭斗、憎悪がはみ出してるぞ。1年生がいるんだ、おじちゃんには個人的に復讐してくれ」
「ん、そうさせてもらおうかな」
かの村井さんを知っている世代は、圭斗先輩の村井さんへの憎悪があまりにもガチで、ああ、何も変わってないなあって安心すら覚えるんだぜ! 素晴らしく紳士的で素晴らしい圭斗先輩を唯一キャラ崩壊させられる人と言えば聞こえはとてもいいのだけど。圭斗先輩のレアな一面を見られるという意味では。
で、カノンは相変わらずうまい棒には食い付いている。だけど、レースじゃなくて終売されるチキンカレー味を美味しく食べたいという要望があったので今回はレースの開催は見送られることになった。おかしい……仮にその要望をしたのが俺たちだったら問答無用でレースに突入していたというのに。
机の上にばらまかれた無数のうまい棒の中から各々が好きな味をつまみ、サクサクと音を立てながら食べ進める。今回はレースではないので好きなように食べられてとてもいいですね! たこ焼き味だって、たくさん食べなきゃ口を切る心配はない。
「でも、圭斗先輩って話に聞く通り凄いイケメンですね!」
「ん、どこから聞いたのかな? 野坂かな?」
「インターフェイスの夏合宿で青敬のあやめさんっていう先輩とペアを組むことになったんですけど、その人から「去年は圭斗先輩の撮影会が開かれてたんだよー」って話を聞いて、どんな凄い規模だったんだって思って」
「そういやあったなー、そんなことも。懐かしいね」
「撮影会では野坂先輩が一番きゃっきゃしてたって」
「でしょうね」
「菜月先輩!? 圭斗先輩の撮影会ですよ!? きゃっきゃするでしょう! この分厚いアルバムに挟まれた全ての写真を撮影して来られた菜月先輩でしたらお分かりになられませんか!?」
「でも、被写体は圭斗なんだろ? それもガッツリキメた。やっぱり、不意を突かないとなあ」
「律! 圭斗先輩の撮影会を開催しよう! 誰が最も圭斗先輩を素晴らしく撮影出来るかの大会を」
「却下で」
end.
++++
やったー! 圭斗さんがMMPサークル室に凱旋したぞー! しかもこの季節にうまい棒、縁起でもないね!
しかし圭斗さんの企みは無垢な1年生によって打ち砕かれてしまったので、さすがの圭斗さんでも1年生には少々甘いらしい。もしくは初回サービスか。
ノサカが安定のノサカなんだけど、そんなだからドン引きされるんだろ当たり前じゃないか意味がわからない
.
++++
「やあ、僕だよ」
これまで、全くその予兆はなかった。開け放っていたサークル室のドアの向こうから、目を開けていられない程の目映いオーラが。華麗で、美しくて、神々しい! 第8代MMPを統べた王が今、帰還されたのだ。
「うわああーっ! ナ、ナンダッテー!?」
「野坂、お前は本当に変わりないな」
「け、圭斗先輩こそ、相変わらずお素敵でいらっしゃいます…!」
「はーっ……相変わらずだな、このヘンクツ理系男は」
「なぁああ!? な、菜月先輩まで!? ナニ? 死ぬの? 今日が俺の命日か!?」
何と何と、4年生の先輩方がサークルに遊びに来られたという……何だこの神イベントは! と言うか割と真面目に俺がこっちに完全復帰してる後でよかったぁー! もしこれで初心者講習会の準備期間で緑ヶ丘に浮気してる時だったら……想像するのも恐ろしい。
「やァー、圭斗先輩菜月先輩、お揃いで。今日は何のご用事で?」
「ん、久し振りに顔でも出してみようと思ってね。何でも、1年生も入ったそうじゃないか」
「この2人すわ。こっちがカノンで、こっちが萌香す」
「カノンこと春日井希です」
「露崎萌香です」
「どうも始めまして。僕はMMPの前代表会計で4年の松岡圭斗。で、こちらの女性が」
「あ、うちは面識あるから大丈夫だぞ」
「え、いつの間に」
「と言うか、うちがこの2人をここまで道案内してきたからな」
「その話はまた今度聞かせてもらうことにするよ」
いやぁー、4年生の先輩がサークル室に遊びに来られるというイベントがこれほど輝きをもって受け入れられる物であっただろうか。いや、べっ、別にこの間卒業された先輩方がどうとは一言も言っていないんだからねっ! 圭斗先輩が1年生たちに自己紹介する様もまた紳士的で素晴らしいじゃないか。
「圭斗、本題はどうした」
「ああ、そうだったよ。お前たち、この季節が来たからには、やっておかないとね」
そう言うなり、圭斗先輩はどこから出してきたのか大きな袋を机の上でバサーッとひっくり返した。その中からは、多種多様なうまい棒30本パックがずさずさと音を立てて出て来る。この季節、うまい棒の山、そして遊びに来る悪乗りベースの4年生……。縁起でもない!
「あーっ! 圭斗先輩、これって、チキンカレー味じゃないですか!?」
「よくぞ気付いたねカノン。終売するというチキンカレー味だよ。ニュースで見た瞬間、これは買わないとと思ってね」
「でも凄い量のうまい棒ですねー。差し入れですか?」
「……ノサカ、無知って怖いな」
「はい。このうまい棒の山を喜んでなどいられないというのに」
圭斗先輩は間違いなくあのクッソ下らない行事の第2弾をやろうとしてうまい棒の山を用意して来られたのに違いない。だけど、経験者のこちらがビビる前にカノンがこのうまい棒に食い付いてしまったのだ。それはそれはもう無垢な瞳をキラキラさせているものだから、絶望に叩き落とすのも憚られるじゃないか。
「去年の今頃、うまい棒レースという至極下らない大食い&我慢比べレースというのがあってだな」
「なんすかそれ」
「そういうのがあったんだよ。水分を取るなというルール付きでね。あのクソ野郎が……本来はアイツを招集してごめんなさいと跪くまでうまい棒を口に詰め込んでやらないといけないっていうのに」
「圭斗、憎悪がはみ出してるぞ。1年生がいるんだ、おじちゃんには個人的に復讐してくれ」
「ん、そうさせてもらおうかな」
かの村井さんを知っている世代は、圭斗先輩の村井さんへの憎悪があまりにもガチで、ああ、何も変わってないなあって安心すら覚えるんだぜ! 素晴らしく紳士的で素晴らしい圭斗先輩を唯一キャラ崩壊させられる人と言えば聞こえはとてもいいのだけど。圭斗先輩のレアな一面を見られるという意味では。
で、カノンは相変わらずうまい棒には食い付いている。だけど、レースじゃなくて終売されるチキンカレー味を美味しく食べたいという要望があったので今回はレースの開催は見送られることになった。おかしい……仮にその要望をしたのが俺たちだったら問答無用でレースに突入していたというのに。
机の上にばらまかれた無数のうまい棒の中から各々が好きな味をつまみ、サクサクと音を立てながら食べ進める。今回はレースではないので好きなように食べられてとてもいいですね! たこ焼き味だって、たくさん食べなきゃ口を切る心配はない。
「でも、圭斗先輩って話に聞く通り凄いイケメンですね!」
「ん、どこから聞いたのかな? 野坂かな?」
「インターフェイスの夏合宿で青敬のあやめさんっていう先輩とペアを組むことになったんですけど、その人から「去年は圭斗先輩の撮影会が開かれてたんだよー」って話を聞いて、どんな凄い規模だったんだって思って」
「そういやあったなー、そんなことも。懐かしいね」
「撮影会では野坂先輩が一番きゃっきゃしてたって」
「でしょうね」
「菜月先輩!? 圭斗先輩の撮影会ですよ!? きゃっきゃするでしょう! この分厚いアルバムに挟まれた全ての写真を撮影して来られた菜月先輩でしたらお分かりになられませんか!?」
「でも、被写体は圭斗なんだろ? それもガッツリキメた。やっぱり、不意を突かないとなあ」
「律! 圭斗先輩の撮影会を開催しよう! 誰が最も圭斗先輩を素晴らしく撮影出来るかの大会を」
「却下で」
end.
++++
やったー! 圭斗さんがMMPサークル室に凱旋したぞー! しかもこの季節にうまい棒、縁起でもないね!
しかし圭斗さんの企みは無垢な1年生によって打ち砕かれてしまったので、さすがの圭斗さんでも1年生には少々甘いらしい。もしくは初回サービスか。
ノサカが安定のノサカなんだけど、そんなだからドン引きされるんだろ当たり前じゃないか意味がわからない
.