2020(02)

■イケメンの噂を確かめろ

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「なーなー当麻! 知ってっか?」
「何を?」
「丸の池公園にさ、すげーカッコいいストリートミュージシャンがいるんだって!」
「へー、近所だけど知らなかったな。でも雨竜、音楽とか興味あったっけ?」
「いや、そんなないけど、音楽分野の作品って作ったことないだろ? だからワンチャン頼み込んで素材撮らしてくれないかな的な!? なー、丸の池公園に行こうぜ! ダメでも公園の風景とか撮ればよくねー!?」

 俺、本浦当麻と清田雨竜、それから上川北星の3人は、青浪敬愛大学のメディア造形学部映像メディア学科で出会い、同じ放送サークルに入った友達だ。雨竜は活動的でガンガン動けるのが凄いし、北星は作品制作の技術が既に凄いし何より目を引くのは作業中の集中力だ。
 AKBCというサークルでも映像制作を主に活動していて、今日も雨竜が新しい題材に挑戦しようと俺たちを誘って来る。だけど北星は聞いているのかいないのか、起きているのかいないのか。だから雨竜が言ったことをもう1回言ってあげないとなかなか返事が返ってこない。

「北星、雨竜が、丸の池公園に映像作品の題材にしたいモチーフがあるんだって。行ってみるか?」
「ん~、いいけど~」
「いいって。そしたら先輩らに言って出かけて来るかあ」
「よっしゃ! 行くぞ当麻、北星!」

 サークル活動は、必ずしも大学の敷地内、サークル室の中でやらなきゃいけないというワケでもないらしい。映像作品の素材を撮るというのも立派な活動で、出掛けますと一言先輩に許可を取って、戻って来るのか直帰するのかということを連絡すればいいという感じだ。
 地下鉄に乗り込んで、丸の池公園を目指す。ここは星港市の中でも大きな公園だ。公園の中にはイベントを開けるステージがあって、そこでは野外ライブが行われていたり、屋台が立っていたり。地域の人の憩いの場としても活用されている。

「本当にいるのかな、そのストリートミュージシャン」
「今日いるかどうかは賭けだな!」
「暑い……アイス食べたいよ~」
「今は探すのが先だ! 終わったら食っていいから!」

 そもそも、雨竜の話でもそういう人がいるらしいと伝聞調だから、本当にその人が実在するのかというところからのスタートだ。実在しなければ、その人を何日も待つことになるのだろうか。そもそも梅雨時に路上で楽器を弾くなんてそうそうギャンブルだと思うけど。

「あっ! 当麻! あっちの方から音がする!」
「え? 北星、わかる?」
「ん~……ああ、あっちだね~。ピアノっぽい音がしてる、気がする~」
「行こうぜ! ほら北星、早くしろ!」
「痛いよ~、歩くから引っ張らないで~」
「歩くんじゃ遅い! 走れ! 当麻、お前北星を押して来い!」

 押す力と引っ張る力に北星は足がもつれそうになっている。雨竜はその音の方に向かってガンガン近付いて行っている。ピアノか何かの音がどんどん近付いて来ると、ストリートミュージシャンが本当にいたんだという驚きも一緒に大きくなる。

「おー! いたー! ストリートミュージシャン! しかもすげーイケメン! 被写体として言うことなしじゃね!?」
「――って、彩人?」

 木陰になるところでキーボードを弾いていたのは、夏合宿の顔合わせで知り合った星ヶ丘大学の谷本彩人君だった。あの独特な髪の色や、端正な顔立ちは本人で間違いない。住んでるところも比較的近いし。俺が名前を呼んだのが聞こえたのか、あっちもこっちのことに気付いたようで、音が止まる。

「あれ、当麻。奇遇だな。あ、近所って言ってたもんな」
「俺は大学のサークル活動中で、映像素材を撮りに来たんだ。あ、こっちは俺の同期で、今度の夏合宿にも出るんだ。パーマ髪で背高いのが上川北星で、こっちの活動的な方が清田雨竜」
「星ヶ丘の谷本彩人。よろしく」
「当麻、このバリイケメンと知り合いか!?」
「夏合宿で同じ班なんだ」
「すげー偶然だな! なーなー、そしたらちょっと頼んでくれよ!」
「ええー……俺が頼むのかよ。雨竜が撮りたいんだろ」
「でも、お前が頼んだ方が成功確率上がりそうだろ友達なんだから!」
「いや、撮りたい本人が頼むべきだ」

 俺と雨竜のやり取りに、彩人はきょとんとして頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。コイツらは何をぎゃあぎゃあ言っているのかと。北星は……っと。ええー!?

「突然すみません。谷本君をモチーフに、映像作品を制作させてもらえませんか。ミュージックビデオ形式で1曲分の長さに収めようと」
「映像作品? 俺をモチーフに? あと谷本君ってのむず痒いから彩人って呼んでくれた方が嬉しい」
「彩人が弾いてるのを見て、イメージが湧いてきて。今は機材がないのでまた後日改めて出向くことになると思いますが」
「俺は何をすればいいですか?」
「好きに曲を弾いてくれれば、あとはこちらがいい感じに撮ります」

 俺と雨竜が言い合っている間に、北星が彩人に撮影交渉をしていた。北星は、普段はぼやぼやしてるけど、作品制作のスイッチが入った瞬間集中力やコミュニケーション能力が一気に高まるんだ。そこに全振りしてるって感じで。

「当麻、雨竜~、撮らせてくれるって~。今日はおしまい。アイス食べよ~」
「あ、おう。アイスな」
「俺もそろそろ練習終わろう」


end.


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青敬の1年生3人組がなかなか活動的でよく動いてくれるのでナノスパ的にはとても助かります
3人のキャラがいい具合に立って来たけど、確かにこの感じだと当麻が埋もれそうだというあやめの心配もご尤も。
そしてモチーフとしてスカウトされた彩人である。そう言えば趣味でやってるんだもんね。家以外の場所でもやってたのね

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