2020(02)
■飛び散る火花が夏模様
++++
「さーて、夏合宿の話も結構だけど、こっちはこっちで丸の池まであと1ヶ月だからね、気合い入れてくよ」
「はーい」
8月上旬の土日に行われる丸の池ステージは、星ヶ丘放送部を代表するステージイベントだ。大きなステージなら大学祭もあるけど、それよりはこっちの方に比重を置いている班が多いらしい。
最近では丸の池公園でキーボードの練習をすることもあるからわかるけど、あそこはデカい公園だから何だかんだ人がいる。実際ステージ当日には観覧席にテントも立てるらしいから、日除けがあればここで休もうかという気にもなる。
「マリン、台本は?」
「もうすぐ仕上がるです! 今しばらくお待ちくださいです!」
俺はプロデューサー(見習い)として、一応は出た枠の分の台本を見よう見まねで書いてみてはいる。だけど、夏はやっぱりマリンさんの本が採用される雰囲気が濃厚って感じかなー。いや、つばめさんにはまだ見せてもないんだけど。
監査の白河さんに頼んで戸棚に保管されてる台本も読ませてもらったし、前の班長でPである朝霞さんに師事を仰いではいる。だけども実際のステージをまだ見たことがないからどうしても想像止まりになって、具体的なイメージがつかめないんだ。
せめてステージの映像でもあればそこからイメージを広げていくことも出来そうなモンだけど、代々流刑地と呼ばれた班にはステージの映像を撮る余裕などなく、動画での記録が全く残っていないらしかった。
「彩人、苦虫噛み潰したような顔してんね」
「戸田さん、さすがにこの夏は無理かもっすけど、この先俺の書いた本がステージに本格採用されることってありますか」
「それはもちろん。いいモンを書けば採用だよ」
「彩人、私を出し抜くつもりです?」
「出し抜くとかじゃないっすよ。ただ、俺も一応はプロデューサーなんで? 書くモンは書いてますし日々修行してるとはお伝えしときますよ」
「っつーコトだから、アンタもうかうかしてらんないよ、マリン」
「喧嘩上等です」
「ま、学年とか経験とか、そんなことだけで優劣を決めるのが一番嫌いだからねアタシは。内容のいい方が採用される、それだけだ」
戸田さん自身、台本同士を競わせるということはこれまで経験がなかったそうだけど、これはこれでヒリヒリしていーじゃねーのと楽しそうにしている。前々から思ってたけど、戸田さんってやっぱりオーラからして只者じゃないんだよな。
「でも、彩人はかなり本気でマリンさんを出し抜こうと考えてますよ」
「おい海月!」
「海月、アンタ彩人の野望について何か知ってんの?」
「こないだから、私が何文字を何秒で喋るかとか、一歩の歩幅が何センチで、何メートルをどれだけの早さで動くかとか、そんなようなことを計測されてるんですよ」
「はっはーん。彩人、やろうとしてるコトは見えた」
「さすが戸田さんっす」
これは、朝霞さんに聞いたことだ。ステージをやる上で、MCの役割はかなり重要だ。Pとして、ステージを上手く構成しようとするならMCを勤める人間のことを信頼し、熟知していないといけない、と。
その経験に倣い、俺は海月の各種データを採り始めた。喋るペースを知っていなければ、持ち時間につき何文字喋らせていいか見ることが出来ない。動くペースを知っていなければ、どう動かせるかを見ることが出来ない。
海月には「これもグレミューとしてよりお前を引き立てるためだ」とか何とか適当なことを言ってこの計測に協力させた。もちろん、丸の池公園の現地ではどういう風に音が聞こえるかもキーボード練習の時に何となく見ている。
ちゃんと機材をセットして、マイクを通したときに声がどう聞こえるかが見られれば一番いいのだけど、さすがにこの段階ではそれを取りに行くことは難しい。だからせめて、地上で出来る範囲のことをやろうと。
「ところで戸田さん、後で発声聞いてもらっていいですか? 昨日からちょっと練習法を変えてみたんですよ」
「いいよ、聞いてみようか。練習法を変えたって?」
「夏合宿の打ち合わせでエージさんに相談したんですよ。発声と滑舌を訓練したいって言ったら、演劇部時代に使ってたっていう練習用のレジュメをもらったんで、それに則った練習を始めたんですよ」
「おー、さすがエージ。こっちが求めた以上に返してくれんね」
「ただ、ラジオとステージでは発声の仕方も変わってくるらしいんで、ステージの発声については大学に戻って聞いてくれって言われました」
「ステージの発声ね。ゴメンけど、さすがにそれはアタシもカバー出来んわ。マリン、アンタならイケるっしょ、一応アナもかじってるし」
「そうは言っても、ステージではPなので自信ないです。ステージはラジオより動きがあるので難しいには難しいです」
それぞれに、夏に向けて虎視眈々と訓練をしているようだった。みちるがやけに静かで不気味だけど、みちるは日々戸田さんの後ろについてディレクター修行をしているし、こっちはめきめきと実力を付けているんだろう。
「いいか? 1年だろうと3年だろうと、何のパートであろうと、ステージの前には平等だ。全員がガチでやらねーと、いいモンなんか出来っこないぞ。ガチでやりつつも健康はキープ。特に熱中症には気をつける。いい?」
「はい!」
「彩人、夜通し修行すんのもいいけどちゃんと寝ろよ」
「はい」
end.
++++
最近は夏合宿関係の話ばっかりでなかなか他の様子を見ることが出来なかったのですが、久々に星ヶ丘の戸田班です
この時期は丸の池に向かって動き始めているのでそちらの方もガツガツ動いてますが、つばちゃん的にはどうかしら。物足りてる?
そして、この夏は無理にしても自分の本を早々にやりたいと隠れていろいろ修行しているようですね。これが立地の良さか……
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「さーて、夏合宿の話も結構だけど、こっちはこっちで丸の池まであと1ヶ月だからね、気合い入れてくよ」
「はーい」
8月上旬の土日に行われる丸の池ステージは、星ヶ丘放送部を代表するステージイベントだ。大きなステージなら大学祭もあるけど、それよりはこっちの方に比重を置いている班が多いらしい。
最近では丸の池公園でキーボードの練習をすることもあるからわかるけど、あそこはデカい公園だから何だかんだ人がいる。実際ステージ当日には観覧席にテントも立てるらしいから、日除けがあればここで休もうかという気にもなる。
「マリン、台本は?」
「もうすぐ仕上がるです! 今しばらくお待ちくださいです!」
俺はプロデューサー(見習い)として、一応は出た枠の分の台本を見よう見まねで書いてみてはいる。だけど、夏はやっぱりマリンさんの本が採用される雰囲気が濃厚って感じかなー。いや、つばめさんにはまだ見せてもないんだけど。
監査の白河さんに頼んで戸棚に保管されてる台本も読ませてもらったし、前の班長でPである朝霞さんに師事を仰いではいる。だけども実際のステージをまだ見たことがないからどうしても想像止まりになって、具体的なイメージがつかめないんだ。
せめてステージの映像でもあればそこからイメージを広げていくことも出来そうなモンだけど、代々流刑地と呼ばれた班にはステージの映像を撮る余裕などなく、動画での記録が全く残っていないらしかった。
「彩人、苦虫噛み潰したような顔してんね」
「戸田さん、さすがにこの夏は無理かもっすけど、この先俺の書いた本がステージに本格採用されることってありますか」
「それはもちろん。いいモンを書けば採用だよ」
「彩人、私を出し抜くつもりです?」
「出し抜くとかじゃないっすよ。ただ、俺も一応はプロデューサーなんで? 書くモンは書いてますし日々修行してるとはお伝えしときますよ」
「っつーコトだから、アンタもうかうかしてらんないよ、マリン」
「喧嘩上等です」
「ま、学年とか経験とか、そんなことだけで優劣を決めるのが一番嫌いだからねアタシは。内容のいい方が採用される、それだけだ」
戸田さん自身、台本同士を競わせるということはこれまで経験がなかったそうだけど、これはこれでヒリヒリしていーじゃねーのと楽しそうにしている。前々から思ってたけど、戸田さんってやっぱりオーラからして只者じゃないんだよな。
「でも、彩人はかなり本気でマリンさんを出し抜こうと考えてますよ」
「おい海月!」
「海月、アンタ彩人の野望について何か知ってんの?」
「こないだから、私が何文字を何秒で喋るかとか、一歩の歩幅が何センチで、何メートルをどれだけの早さで動くかとか、そんなようなことを計測されてるんですよ」
「はっはーん。彩人、やろうとしてるコトは見えた」
「さすが戸田さんっす」
これは、朝霞さんに聞いたことだ。ステージをやる上で、MCの役割はかなり重要だ。Pとして、ステージを上手く構成しようとするならMCを勤める人間のことを信頼し、熟知していないといけない、と。
その経験に倣い、俺は海月の各種データを採り始めた。喋るペースを知っていなければ、持ち時間につき何文字喋らせていいか見ることが出来ない。動くペースを知っていなければ、どう動かせるかを見ることが出来ない。
海月には「これもグレミューとしてよりお前を引き立てるためだ」とか何とか適当なことを言ってこの計測に協力させた。もちろん、丸の池公園の現地ではどういう風に音が聞こえるかもキーボード練習の時に何となく見ている。
ちゃんと機材をセットして、マイクを通したときに声がどう聞こえるかが見られれば一番いいのだけど、さすがにこの段階ではそれを取りに行くことは難しい。だからせめて、地上で出来る範囲のことをやろうと。
「ところで戸田さん、後で発声聞いてもらっていいですか? 昨日からちょっと練習法を変えてみたんですよ」
「いいよ、聞いてみようか。練習法を変えたって?」
「夏合宿の打ち合わせでエージさんに相談したんですよ。発声と滑舌を訓練したいって言ったら、演劇部時代に使ってたっていう練習用のレジュメをもらったんで、それに則った練習を始めたんですよ」
「おー、さすがエージ。こっちが求めた以上に返してくれんね」
「ただ、ラジオとステージでは発声の仕方も変わってくるらしいんで、ステージの発声については大学に戻って聞いてくれって言われました」
「ステージの発声ね。ゴメンけど、さすがにそれはアタシもカバー出来んわ。マリン、アンタならイケるっしょ、一応アナもかじってるし」
「そうは言っても、ステージではPなので自信ないです。ステージはラジオより動きがあるので難しいには難しいです」
それぞれに、夏に向けて虎視眈々と訓練をしているようだった。みちるがやけに静かで不気味だけど、みちるは日々戸田さんの後ろについてディレクター修行をしているし、こっちはめきめきと実力を付けているんだろう。
「いいか? 1年だろうと3年だろうと、何のパートであろうと、ステージの前には平等だ。全員がガチでやらねーと、いいモンなんか出来っこないぞ。ガチでやりつつも健康はキープ。特に熱中症には気をつける。いい?」
「はい!」
「彩人、夜通し修行すんのもいいけどちゃんと寝ろよ」
「はい」
end.
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最近は夏合宿関係の話ばっかりでなかなか他の様子を見ることが出来なかったのですが、久々に星ヶ丘の戸田班です
この時期は丸の池に向かって動き始めているのでそちらの方もガツガツ動いてますが、つばちゃん的にはどうかしら。物足りてる?
そして、この夏は無理にしても自分の本を早々にやりたいと隠れていろいろ修行しているようですね。これが立地の良さか……
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