2020(02)
■クソ野郎共の交信
++++
6月下旬の情報センターは、人の入りで言うと最盛期とは言い難い。現在B番は高山が入っているが、利用者数もそこまででもないから1人で何ら問題はない。受付には川北がいるが、こちらも仕事がなく暇を持て余しているという状態だ。
オレはと言えば、バイトリーダーとして書類仕事をこなしているのだが、それ以外に特にすることはないので例に漏れず暇を持て余し、カンノから渡された楽譜に目を通すなどしている。USDXのアルバムに収録されている曲をやれるようになれというノルマが課せられているのだ。
「しかし、川北のおかげで何とかジャガイモが少し捌けたが、まだもう少し残っているな」
「サークルの方でも新しく人のつながりが出来る季節なので、そっちの方でも少し聞いてみようかと思います」
「ジャガイモだけでなくプレッツェルの方も頼む」
「はーい」
春山さんという極悪非道の前バイトリーダーが残したプレッツェルは負の遺産としてセンターの事務所に未だ聳え立ったままだ。それに加え、先日はジャガイモの箱が大量に……厳密には青山さんに送られてきたそうだが、青山さんがここに投棄しやがったのだ。
芋の処理なら川北に任せればある程度何とかなることはわかったが、それでも捌き切れん量のジャガイモをどうして個人が送って来るのかと。郵送料とてバカになるまい。嫌がらせにしては手が込み過ぎている。
「林原さん、電話が鳴ってますよ」
「む。……業務時間中だが」
『6月下旬の情報センターなんざ、利用者もクソもあるかよ。すぐ電話に出てる時点でヒマなんだろォ』
「何の用だ」
電話の主は、気配だけはセンターに残したまま姿をくらませた春山さん、その人だ。今春大学を卒業し、現在は長篠の山奥でホテル清掃員をしているそうだが、それは公には言ってくれるなという重要機密らしい。しかし、就活を早々に辞めても何だかんだ就職は決まるのか。
『何の用もクソもあるか! 何だあのCDは!』
「ジャガイモの山を返送した方が良かったですか」
『つか、何でお前が返送すんだよ。和泉に送ったモンをよ』
「青山さんが高山を使ってアンタから送られてきた芋を情報センターに投棄したんですよ。おかげでこっちは芋に埋もれて大変な目に遭ってるので、責任を取って北辰土産でも送って来いとは先に送った通りだが」
『和泉のやったことを私が知るかよ』
「元はと言えばアンタだろう。ああ、川北がバターサンドを食いたいと言っていましたよ」
「えっ、そこで俺の名前を出します!?」
『川北のリクエストには応えてやってもいいが、屯屯おかきホタテ味なんざ送らねーからな! ぜーったいにだ!』
とりあえず、先のジャガイモの件についての苦情は改めて伝えることが出来た。しかし、苦情を言ったところでその言動を改めないのが春山さんなので、恐らく北辰の芋の季節にはまず青山さんの家が芋で押し潰され、それが情報センターに押し込められることになるだろう。
「ちなみに、件のCDですが」
『その話だよ。何でお前から「芹さんへ」なんてサインの入った須賀さんのCDが送られてくんだよ。何があった、吐け』
「年末の音楽祭で、須賀誠司の娘の男と知り合った話はしましたか」
『あー、聞いたような聞かないような』
「アンタはオレたちを正座させて怒り狂っていましたからね。それはそうと、最近はその男とセッションをやる機会も増え、須賀邸に上がることがまあある。そこでたまたま帰宅した須賀誠司本人と鉢合わせ、ブルースプリングのピアノということでいろいろ話を聞かれてだな」
『何だよ……須賀さんに存在認知されてるとか何だよお前、クソ野郎なのに……』
オレはサックス奏者の須賀誠司から、西海の洋食屋でピアノを弾いている奴としても認知されているらしかった。スガノ経由でブルースプリングというジャズバンドの話も聞いていたそうで、オレと話をしてみたかったそうだ。
去年の誕生日に春山さんから押し付けられた布教用音源集の中に須賀誠司のCDもいくらか入っていたから、話題には事欠かなかった。そうすると、どこで自分のことを知って~という話になる。これには「バンドメンバーが須賀さんのファンで、その人から音源をいただきました」と答える。
「――という経緯で、その人によろしくとサイン入りのCDを寄こされたからアンタに送ったまでです。アンタの名前の入ったCDをオレが持っていても仕方ないからな」
『何だよクソ野郎、クソ野郎のクセに最高かよ』
「春山さんの送ったジャガイモをセンターにほぼ全量投棄した青山さんとかいう人よりはクソではないかと」
『それな。和泉はクソとかいう次元じゃないクソだからな。あ、お前私が今長篠だってアイツに言ってないよな』
「言いませんよ。アンタに繋がりがあると知れた時点で面倒ですからね」
『ま、そーゆーこった。CDはどーもです』
「そういうことですから、返礼品として屯屯おかきホタテ味を――」
土産物を請求しようとしたら容赦なく電話がブチ切られた。まあ、あの人はそういう人だ。一応は業務時間中にこうして電話が出来るくらいには暇なのだが、こうしているのもまた苦行だ。さて、どうしたものか。プレッツェルでもつまみながら考えるか。
end.
++++
リン様の誕生日のはずですが、特にそれらしいイベントもなく久々に春山さんと電話をしています。
春山さんがいないと情報センターがなかなか控えめになるので、エキスをちょっとでも補給しておこうという試み。
そうよな、今ではセンターの良心と化したリン様も実際クソ野郎なんだよなあ。しょーもないくらいがちょうどいいっす
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6月下旬の情報センターは、人の入りで言うと最盛期とは言い難い。現在B番は高山が入っているが、利用者数もそこまででもないから1人で何ら問題はない。受付には川北がいるが、こちらも仕事がなく暇を持て余しているという状態だ。
オレはと言えば、バイトリーダーとして書類仕事をこなしているのだが、それ以外に特にすることはないので例に漏れず暇を持て余し、カンノから渡された楽譜に目を通すなどしている。USDXのアルバムに収録されている曲をやれるようになれというノルマが課せられているのだ。
「しかし、川北のおかげで何とかジャガイモが少し捌けたが、まだもう少し残っているな」
「サークルの方でも新しく人のつながりが出来る季節なので、そっちの方でも少し聞いてみようかと思います」
「ジャガイモだけでなくプレッツェルの方も頼む」
「はーい」
春山さんという極悪非道の前バイトリーダーが残したプレッツェルは負の遺産としてセンターの事務所に未だ聳え立ったままだ。それに加え、先日はジャガイモの箱が大量に……厳密には青山さんに送られてきたそうだが、青山さんがここに投棄しやがったのだ。
芋の処理なら川北に任せればある程度何とかなることはわかったが、それでも捌き切れん量のジャガイモをどうして個人が送って来るのかと。郵送料とてバカになるまい。嫌がらせにしては手が込み過ぎている。
「林原さん、電話が鳴ってますよ」
「む。……業務時間中だが」
『6月下旬の情報センターなんざ、利用者もクソもあるかよ。すぐ電話に出てる時点でヒマなんだろォ』
「何の用だ」
電話の主は、気配だけはセンターに残したまま姿をくらませた春山さん、その人だ。今春大学を卒業し、現在は長篠の山奥でホテル清掃員をしているそうだが、それは公には言ってくれるなという重要機密らしい。しかし、就活を早々に辞めても何だかんだ就職は決まるのか。
『何の用もクソもあるか! 何だあのCDは!』
「ジャガイモの山を返送した方が良かったですか」
『つか、何でお前が返送すんだよ。和泉に送ったモンをよ』
「青山さんが高山を使ってアンタから送られてきた芋を情報センターに投棄したんですよ。おかげでこっちは芋に埋もれて大変な目に遭ってるので、責任を取って北辰土産でも送って来いとは先に送った通りだが」
『和泉のやったことを私が知るかよ』
「元はと言えばアンタだろう。ああ、川北がバターサンドを食いたいと言っていましたよ」
「えっ、そこで俺の名前を出します!?」
『川北のリクエストには応えてやってもいいが、屯屯おかきホタテ味なんざ送らねーからな! ぜーったいにだ!』
とりあえず、先のジャガイモの件についての苦情は改めて伝えることが出来た。しかし、苦情を言ったところでその言動を改めないのが春山さんなので、恐らく北辰の芋の季節にはまず青山さんの家が芋で押し潰され、それが情報センターに押し込められることになるだろう。
「ちなみに、件のCDですが」
『その話だよ。何でお前から「芹さんへ」なんてサインの入った須賀さんのCDが送られてくんだよ。何があった、吐け』
「年末の音楽祭で、須賀誠司の娘の男と知り合った話はしましたか」
『あー、聞いたような聞かないような』
「アンタはオレたちを正座させて怒り狂っていましたからね。それはそうと、最近はその男とセッションをやる機会も増え、須賀邸に上がることがまあある。そこでたまたま帰宅した須賀誠司本人と鉢合わせ、ブルースプリングのピアノということでいろいろ話を聞かれてだな」
『何だよ……須賀さんに存在認知されてるとか何だよお前、クソ野郎なのに……』
オレはサックス奏者の須賀誠司から、西海の洋食屋でピアノを弾いている奴としても認知されているらしかった。スガノ経由でブルースプリングというジャズバンドの話も聞いていたそうで、オレと話をしてみたかったそうだ。
去年の誕生日に春山さんから押し付けられた布教用音源集の中に須賀誠司のCDもいくらか入っていたから、話題には事欠かなかった。そうすると、どこで自分のことを知って~という話になる。これには「バンドメンバーが須賀さんのファンで、その人から音源をいただきました」と答える。
「――という経緯で、その人によろしくとサイン入りのCDを寄こされたからアンタに送ったまでです。アンタの名前の入ったCDをオレが持っていても仕方ないからな」
『何だよクソ野郎、クソ野郎のクセに最高かよ』
「春山さんの送ったジャガイモをセンターにほぼ全量投棄した青山さんとかいう人よりはクソではないかと」
『それな。和泉はクソとかいう次元じゃないクソだからな。あ、お前私が今長篠だってアイツに言ってないよな』
「言いませんよ。アンタに繋がりがあると知れた時点で面倒ですからね」
『ま、そーゆーこった。CDはどーもです』
「そういうことですから、返礼品として屯屯おかきホタテ味を――」
土産物を請求しようとしたら容赦なく電話がブチ切られた。まあ、あの人はそういう人だ。一応は業務時間中にこうして電話が出来るくらいには暇なのだが、こうしているのもまた苦行だ。さて、どうしたものか。プレッツェルでもつまみながら考えるか。
end.
++++
リン様の誕生日のはずですが、特にそれらしいイベントもなく久々に春山さんと電話をしています。
春山さんがいないと情報センターがなかなか控えめになるので、エキスをちょっとでも補給しておこうという試み。
そうよな、今ではセンターの良心と化したリン様も実際クソ野郎なんだよなあ。しょーもないくらいがちょうどいいっす
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