2020

■Look who's talking.

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「野坂先輩! ちょっと練習相手になってもらっていいですか!」
「いいよ、どっちの練習する?」
「今日はアナの練習したいんで、ミキサーをお願いしていいですか」
「オッケー。そしたらマイク立ててくれる?」

 アナミキの二刀流という、多分MMP始まって以来初めてとなる形式を採ったカノンは、日によって練習する内容を変えてとても意欲的に活動をしている。アナウンサーのことを練習していてもミキサーのことは気にするし、その逆も然り。案外これもいい風に働いているのかもしれない。
 今日はアナウンサーとしての練習がしたいということで、練習に付き合う。ウチの1年生は初心者講習会に出ていないから、俺が個別に講習めいたことをした。だからなのか、カノンは俺に何でも聞いて来る。答えられる範囲では答えてるけど、やっぱアナの細かい事は厳しい。

「これ、基本3分でトーク回すじゃないですか、その中で上手く起承転結を付けるのが難しいんですよね」
「起承転結って言うよりは、気持ち“結起承転結”くらいな感じで持ってくとやりやすいみたい。ファンフェスとかだとリクエストやインフォメーションっつって急に横から入って来て番組構成が変わることも多々ある。先に結論を言っておけば、話の途中でも半ば強引に切ることも出来るから」
「へー、オチから言うって手法もあるんですね」
「実際に合う合わないはともかく、やってみるだけやってみたらいいかもしれない。合わなければ上手く起承転結をまとめられるようになればいいだけだから」
「そうですね。じゃあ、今日は結起承転結の練習をします」

 これを律は「よくやってやすわァー」と感心しているのか他人事を決め込んでいるのかよくわからない顔で見ている。まあ、律もMMPの代表として日頃からいろいろ頑張ってるのは見てはいるけれどもだ。全員揃えばサークルが正式に始まるんだ。

「……カノン、ちょっと嫌なこと聞いていい?」
「何ですか?」
「萌香のこと。あの子、本当にMMPに入りたくて来てるのかな。どうもやる気がないと言うか、正式加入しようという気が感じられないと言うか。バドサーの方でもああいう感じならそういう子かって納得出来るけど、そうじゃないなら何でここに来てんのかなって」
「野坂、随分ストレートに行きヤしたね」
「でも、実際そうだろ」
「確かに、バドの方ではこっちの時より活動的ではあります。バドでなんですけど、まだあのサークルに行くのかって感じのことを聞かれたんで、多分正式加入はないなーって俺も思ってます」
「まァ、見てればわかるコトなんで今更っちゃ今更すけど、正式に辞めない限り頭数としてこっちも利用させてもらうだけスわ」
「律。お前も随分ストレートに言ったな」

 萌香という1年の女子だ。カノンと一緒にサークル見学に来て、そのままお試し参加という形でサークルに籍を置いている。一応夏合宿にも出るそうだけど、サークルの中でこの調子なのにインターフェイスに出て大丈夫なのかという心配が出て来る。

「所詮持ちつ持たれつなんスよ。スタンスが合わないのにムリする必要はねーンで? お試しを終了するならいつでも終了してもらッて」
「いや、それでも合宿に出る以上それが終わるまではいてもらわないと」
「合宿って他の学校の人もいるんですよね」
「そースね。むしろ他の学校の人と絡む行事スわ」
「野坂先輩の方がインターフェイスの人のことには詳しいですよね、初心者講習会の講師ですし」
「ん? どうした?」
「インターフェイスって、顔がいい男子いますか?」

 カノンの突然の質問に、俺と律は目が点になる。俺ならともかくカノンからそんな質問が出るとは思わないじゃないか、意味がわからない。インターフェイスの中で学年を問わなければ顔がいい人ならいくらでもいる。特に4年生の先輩は素晴らしく豊作の年でだな。失礼な発言だとは承知している。

「やァー、イケメンなら野坂の得意分野スわァー! でも、現役の方がいースよね」
「バドサーでもなんですけど、多分萌香ってイケメン好きなんですよ。彼氏を探してると言うか」
「は? 下心しかないとか断じて許せないんだが?」
「野坂、今日のおまいうスよ」
「コホン。それはともかく、今年の1年生にもイケメンは何人かいる。だけど、それを目的にしたところで相手にされないのがインターフェイスだとは言っておく。アイツとは関わるなって避けられるだけだ」

 過去に遡れば青女のシーナさんという人や三井先輩、インターフェイスの中で男だの女漁りをしようとしたところで危険人物扱いされて冷ややかな目で見られるだけなんだ。シーナさんという人に関して言えば、関わった人間が廃人になるというリアルな危険人物だったそうだけど。
 今年のイケメンと言えば緑ヶ丘のササや星ヶ丘の彩人など、他にも何人かいたことは講習会で確認済みだ。だけど、正直そういう明らかな男狙いの女に引っかかって欲しくないんだよなー、俺が認めたイケメンであるとするならば。これもまた身勝手な発言だとは分かっている。

「最初は野坂先輩を狙うつもりだったみたいですけど、イケメンについて熱く語ってるのにドン引きしたって」
「は!? これこそおまいうじゃね!? 律! イケメンを語って何が悪い! 下心しかないカボチャ如きが男を語るな!」
「野坂、一応サークルメンバーなンすから穏便に頼みヤすよ」
「おっと、ついうっかり」
「ま、それを抜きにしてもそこらの女如きを野坂は相手にしヤせんよ」


end.


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りっちゃんはノサカからの矢印が向いてる先に気付いてるからなあ。そこらの女如きをノサカが相手にしない理由もちゃんとわかってるぞ!
と言うか俺が認めたイケメンなら男狙いの女には引っかかるなって何だよお前、何様だw 今年のノサカはイケメン評論家か何か?
結局、来る者は拒まず去る者は追わずな感じですね。りっちゃんも何やかんや現実的な物の見方です。利用できるうちはお互い様ということで。

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