2020

■夏の希望を重ねていく

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「対策委員からの連絡です。8月末にインターフェイスの夏合宿があります。これはこないだの初心者講習会を踏まえて、他校の人と班を組んで番組を作るっていうことをやるんだけど、皆さん良ければ参加してください」

 ――という風にゲンゴローから知らせが入って、もうそんな季節なんだなあとしみじみと思う。去年の今頃はアタシがそうやってバタバタ走り回って、朝霞サンの相手に奔走してたり本当に大変だった。普通に授業もバイトもあったからね。
 これには1年生も2年生も、そういう行事があるんだなって悪い反応ではなさそう。戸田班は元々そういう行事があるってわかってるメンツだからかもしれない。合宿は8月上旬の丸の池が終わってからが実質的に本番っていうのもあるだろうね。
 だけど、楽しそうだなっていう他にちょっと不安そうな表情を浮かべる奴が1人。彩人だ。彩人はインターフェイスではミキサーで出て番組構成のこととかを学びたいって言って意欲的だ。合宿なんか、他の大学の人と話して情報交換するのにちょうどいい。でも、それだけじゃない不安があるらしかった。

「ゴローさんすみません」
「うん、どうしたの彩人」
「これ、班ってどうやって決まるんすか」
「それは対策委員が決めるね。学年やパート、大学、実力なんかのバランスを取りながら決めてくのかな。……でいいんですよねつばめ先輩」
「だね。彩人、班編成なんか全然融通利くから不安があるならゲンゴローに言っときな。身内は大体バラバラになるから、頼れるのは自分だけだ」
「はい、それじゃあ。あの、出来れば男子多めの班にしてもらいたいなーと」
「あー、そうだよね。わかった。そのようにしてもらうよ。ペアも男子の方がいいよね」
「ホントすんません! ありがとうございます!」

 高萩の一件があって以来、彩人はどうも軽い女性恐怖症みたいな感じになってしまったらしかった。アタシとか戸田班の班員は大丈夫だけど、あんまよく知らない女がちょっと怖いと。それでバイト先でも接客をしばらく休んで裏に回っているらしい。
 そういう判断が自分で出来ている以上、ある程度持ち直してるんだろうけどね。それでも合宿に出る以上、ペアになった人間とはサシで打ち合わせをする機会が増えて来る。女と1対1になる機会を減らせるなら減らした方がいいとアタシは思う。

「は~ああ、合宿か。今年はどーなるんだろうねえ」
「今年はきっと6班しか組めなさそうだなーって話をしてるところですね」
「まあ、3年はあんま出ないだろうしね。去年がおかしかったんだよ」
「向島さんの人数が少ないとやっぱり班の数にもダイレクトに影響が出るなあっていうのを実感してます」
「ああ、何か向島ヤバいんでしょ? 話には聞いてるけど」
「一応あれから1年生が入ったそうなんですけど、それでも2人なので厳しいなーって奈々がひーひー言ってます」

 今じゃもうアタシは戸田班に籠ってやってるだけだから、インターフェイスの最前線から引いたような感じになってるよね。それでも風の噂は何となく届くもので。緑ヶ丘の機材事情が凄いとか、向島がヤバいとか、いろいろあんだわね。

「インターフェイスの合宿ってどんな番組をやるんですか?」
「初心者講習会で見たような感じだね。合宿だと1ペア15分だろうからまさにあんな。ああいうのを、他校の人とペア組んで、打ち合わせてやる。今年はそんなクセのある人もいないだろうしどこも平和にやれるっしょ。心配しなさんな」
「去年のつばめ先輩は本当に壮絶でしたです」
「ああ……去年のつばめ先輩は本当に……」
「去年の戸田さんはどういう班を率いてたんですか?」
「去年はねえ……ちゃんと話すとすげー長くなるから一言で言うと、イキリ散らかしてる3年と戦いながら、そいつとペア組んでる子をいかにして守るかみたいな」
「老害的なヤツがいたんすか」
「二言目にはその程度じゃプロになれないーとか、自分がインターフェイスで一番上手いアナウンサーなのに2年のミキサーが言うことを聞かないのはおかしいーみたいな? まあぶっちゃけアタシの地雷をピンポイントで全部踏み抜いて来るような野郎がいたワケですよ」
「実際その人は上手いんすか?」
「全然。何ならラジオは専門じゃない洋平にもボコボコにされてたからね」

 今年はあの三井みたいな奴はいないだろうし、よっぽどのことがない限りああいうことは起こらないだろうとは思う。ただ、仲が良すぎることで起こる問題もあるだろうからゲンゴローは油断も出来ないね。恋愛だとか、人間関係のもつれが一番めんどくさい。
 ついうっかりそういうめんどくさい話ばっかりしてしまったから、1年生には合宿は悪いことばっかりじゃないですよという話をする。と言うか、そういうのはアタシがするよりゲンゴローとマリンの方が説得力のある話が出来た。この2人は去年の合宿で本当によくしてもらってたみたいだから。

「え、洋平さんって、そんな人をボコボコにするとか、そういうイメージないですけど」
「キレたときのアイツの怖さはね、朝霞サンなんか目じゃないから。ガチでキレさせちゃいけないのはアイツなんだよ」


end.


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去年のつばちゃんよりは、ゲンゴローとマリンの方が確かに夏合宿を語るにはためになるんですね
というワケで夏合宿に向けていよいよ本格的に突入していきます。でも星ヶ丘はその前に丸の池があるのでそっちもちらちら見て行きたい。
山口洋平さんこそ本当に怒らせちゃいけないというのがつばちゃんの見解である。朝霞Pなんか目じゃないって相当やんけ

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