2020

■二人、傘の下で

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 しとしとと、雨が降っている。読むものを読んで図書館から出ようとしたら、入り口の前には玲那が雨宿りをしているようだった。俺は彼女に声をかけ、立ち話が始まった。一応、週3のサークルで会ってるから話も前回の続きからだ。
 俺は傘を持っているけど、玲那は持っていない様子。理系の人は、図書館の隣に聳え立つ情報棟から出ることなく1限から4限、または5限の授業を終えることも多々あるらしい。社会学部は教室移動でいろいろ歩くことを考えると、学部によって本当にいろいろ違うんだと学ぶ。

「玲那、これからどうするんだ?」
「帰るよ」
「そう言えば、雨の日ってバイクどうしてる? 乗ってる?」
「乗ってるよ。雨の日は雨の日用の装備あるから。でも、傘がないから駐輪場までが大変で」
「入ってく? 俺も駐輪場行くから」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

 玲那は赤いバイクを愛車にしている。伊東さんが乗ってる青いのよりは小さいのかな。伊東さんの免許は大型って言ってたし。だけど伊東さんは雨の日には乗らないみたいだし、その辺りが玲那とは違う。玲那は雨の日にも雨の日の装備でバイク通学している。
 駐輪場に行くまでの間、玲那と傘を半分ずつ分け合って歩く。そこで話すことは他愛ない。サークルのことや、それ以外に今日これからどう過ごすのかとか。俺はこれからバイトだ。本屋のバイトってどういうことしてるの、という質問に答えたり。

「やっぱり、いつ見ても玲那のバイクはカッコいいな」
「私はたまにいる青い大型のが来てると、いいなあって思う」
「大型に憧れる?」
「見てるだけでいいかな。自分で乗るなら中型くらいが身の丈に合ってる」

 ロボットの研究開発について学科で勉強している玲那は、機械やそのシステムといったものに興味関心が強いらしい。バイクもメカメカしいという理由で子供の頃から憧れていたそうだ。でも、だったらサークルではミキサーになりそうな物だけど。その辺りはまだ聞いてないな。

「ササ、今、彼女いる?」
「いないけど」
「いないなら、私と付き合わない?」
「本当に唐突だな」
「こういうのは、思った時に言っときたいから。私、ササの事が好きだよ」

 本当に思ってもみなかった突然の話だった。駐輪場の屋根に雨が打ち付ける音だけが響く。だけど、とても嬉しいと思う。サークルで顔を合わせていても、玲那とは合うなと思っていたし。付き合えるならそれは願ってもない話で。

「俺も玲那の事が好きだよ。だけど、付き合うとなると……」
「何か問題がある?」
「あの、ちょっと、信じてもらえないかもしれないし、長くなるけど、いいかな」
「いいよ。聞きたい」
「……その、俺さ、好きになるのが1人だけじゃないんだよ」
「同時に好きになるのがってこと?」
「そう。例えば、玲那の他にも誰かを好きになれば、その人とも付き合う、みたいな」

 浮気とかそういうのの正当化と言われてしまえばそれまでかもしれない。だけど、俺は自分の恋愛の仕方について真剣に考えてネットで調べてみた結果、そういう恋愛もあるんだって結論に辿り着いた。自分だけじゃないんだと知れて、気持ちが楽になったと言うか。

「好きな人のことはみんな同じだけ好きで、だけど社会的には普通じゃなくて……玲那は俺を好きだって言ってくれてるけど、俺みたいな恋愛の仕方が許せないなら――」
「いいんじゃない? 別に」
「えっ」
「そういう恋愛、正直初めてだけど。だけど、私の好きなササを作り上げたのは、その恋愛経験もひっくるめてだと思うから」
「あと、パートナーは女性だけに限らないんだ」
「男性とも付き合うってこと?」
「今のところ付き合ったことがあるのは大体が女性だけど、男性とも付き合ったことがある。その他の性の人とは付き合ったことがないからわからないけど、もしかしたら好きになるかもしれない。それから、セックスをする恋人としない恋人っていう感じで、付き合い方も相手によって違ったり」

 俺が大学に入る前からずっと悩んでたことを、こうもあっさりと「いいんじゃない?」って言われるとは思わなかった。何だろう、玲那は大らかなのか、それとも悟りでも開いてるのか? まあ、有り難い話ではあるけど。
 何はともあれ、俺は玲那と付き合うことになった。今は玲那が唯一の恋人だ。今後どうなるかはわからないけど、好きな人や恋人が出来る度に玲那には報告をするし、これから好きになる人にも玲那がいることを前提に話をする。

「玲那、こんな俺を受け入れてくれてありがとう」
「陸って呼んでいい?」
「うん。陸って呼んで」

 駐輪場の下なのに差しっぱなしだったビニール傘がとても役に立った。スモークホワイトで、絶妙に向こうからこちらが見えなくなるのをいいことにキスをする。唇が離れ、はにかむ玲那がとても可愛い。いつもはどちらかと言えばクールなのにとても可愛くて、ギャップが強い。

「陸、時間大丈夫? バイトでしょ?」
「あ、そうだ。俺、もう行かなきゃ」
「頑張って」
「うん。玲那も、バイク気を付けて。まだ雨降ってるし」


end.


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特に伏線も布石も何もなく、本当に唐突にくっついた感のあるササレナです。お互いなかなか手が早い。
2人が付き合い始めたことを知ったらMBCCの同期たちはどんな反応をするかしら。でもくるちゃんは純粋にお祝いしそうだからただただかわいい。
そしてササの恋愛形式がこれまでのナノスパではなかった感じですね。レナと付き合い始めたけど、それで終わりというワケでもないのね

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