2020

■21歳当時の恐怖と

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「さ、ただいま」
「お邪魔しま~す」

 朝霞クンの部屋に来るのも久し振り。今日は朝から朝霞クンと一緒に遊んで、その後はバイトだ~って思ってたら、何と店は朝霞クンによって貸し切られてた。そこで何が行われたのかと言うと、何と俺の誕生会。いろんな人が来てくれて、本当に嬉しかったな。
 その誕生会が終わって午後10時半、俺と朝霞クンは店を出て、朝霞クンの部屋で改めて飲み直すために閉店ギリギリのスーパーへ買い物に。ビールや冷凍の枝豆、その他もろもろを買い込んで。部屋は相変わらず足の踏み場が申し訳程度に作られた感じ。片付けが苦手なのは相変わらず。

「買った物冷蔵庫に入れるね」
「ああ、頼む」
「……って言うか、まだケーキあるんだけど?」
「ああ、昨日は練習も込みで3台作ったからな」
「あずさチャンと?」
「だな。監督なしで俺がケーキなんか作れると思うか?」
「難しいだろうね。はい朝霞クンビール」
「サンキュ」
「それじゃ、改めまして乾杯」
「乾杯」

 俺はバイトしてる間は飲んでなかったから、これが初めての乾杯になる。で、バイトしてる間は食べてなかったから、夕飯も今から。ケーキは食べたけど、本当にそれだけだから今はご飯っぽい物が食べたいかな。とりあえず枝豆をレンチンして、ウインナーをボイルする。

「今日の会で何がビックリしたってさあ、先輩たちが来てくれたっていうのはもちろんなんだけど、つばちゃんたちだよ。まさか俺たちがいなくなった後に3人も班に来てくれたんだね!」
「そうみたいだな。今年は1年生に対する班の紹介ツアーみたいなモンが開かれて、自分たちの目で見た上で行きたい班を判断させてたらしい」
「へ~、時代だねえ。そんなだったら流刑地の班なんて、ロクでもない紹介されそうだけど」
「今年の監査は白河だからな。どこの班だろうと偏見のない紹介の仕方だったとは聞いた。戸田班が談話室を借りて個別に練習してる様子に惚れ込んだのがあの3人だそうだ」
「随分と詳しいね?」
「山口、彩人はわかるか? 今日いた緑メッシュの」
「あの子だね、わかるわかる。カッコいい子だな~って思ったもん」
「アイツがこの隣に住んでるらしくてさ」
「え~!?」
「――と、お前が叫んだ声も多分あっちに筒抜けてる」
「ごめん」
「まあ、多少はご愛嬌だ。最近ちょっとアイツと話す機会があって、それでいろいろ聞いたんだ」

 こないだ、お隣の彩人クンが朝霞クンの部屋を訪ねて来たんだって。ここが朝霞クンの部屋だってつばちゃんから聞いて。それでお茶を出したら同郷だってこともわかって話が盛り上がっちゃったんだって。部屋の汚さについてもつばちゃんから聞いてたから驚かれなかったって言うけど部屋はこまめに片付けようね~。
 朝霞クンの話によれば、戸田班は丸の池ステージに向けて動き始め、インターフェイスの行事にも出た。その辺は去年より部長たちの理解があっていろいろ充実しているそうだけど、必ずしもいいことばかりじゃなくて、不穏な空気も漂っているそうだ。

「――とまあ、そんな感じで戸田は平和ボケもしてられないんだ。めでたい日なのに悪いな、暗い話で」
「ううん、つばちゃんたちのことは俺たちにも大事じゃない。何が出来るわけでもないかもだけど、知っとかなきゃ」
「旧日高班の残党が暗躍してるとかで、つい最近もいろいろあったらしい」
「誰かケガしたりとかしなかった?」
「……あんまベラベラと話せるようなことでもないんだ」
「朝霞クンは、聞いてるんだね」
「戸田、宇部、それから彩人から聞いたから、事情だけは」
「でも、よっぽど重大なことが起きたのだけはわかったよ」
「掻い摘むと、高萩が彩人に色仕掛けを仕掛けようとしてかわされたのに逆切れして無理矢理ヤろうとしたんだと。コト自体は未遂だけど手の自由が奪われて脅された上での行為だから十分強制わいせつっつー犯罪になるとは」
「うわあ……なかなかエグイね」

 この件については部長と文化会監査のメグちゃんが動いてくれてるらしく、近く何らかの処分があるだろうとのこと。そして事件に揺れた戸田班は、必ず2人以上での行動を心がけるなど自衛しながらの活動になっているそうだ。
 で、問題の彩人クンだ。まだ事件があってから日が経ってないけど少し落ち着いてよくよく考えてみたら、何で被害者の自分が隠れたり、ビクビクしながら動かなきゃならないんだって腹が立って吹っ切れたらしい。だけど知らない女の子に対する恐怖心がちょっと芽生えてしまったとのこと。

「って言うか朝霞クン、彩人クンと知り合ってすぐなのにもう仲良しだね?」
「ああ、プロデューサー修行をしたいとかで過去の台本読ませてくれっつってうちに来てたんだよ」
「え。朝霞クンにプロデューサー修行を申し込むとか、相当な猛者じゃない……」
「戸田班のPは浦和もいるから台本が競合するだろ。だけど、学年・経験に関係なく、採用されるとかベースになるのはいい本であるべきだ」
「それはそうだね」
「教えてて思ったのは、なかなか見込みのある奴だなあと。過去の台本を読みながらどこにどういう意図があったとか、部のテンプレートと俺の台本の違いを教えたりな。台本の書き方だけじゃなくて、ステージをやるにあたって現地を知ることの重要さだとか、班員、特にアナウンサーを知ることを説いて」
「あああ~っ! やめて~! 楽しくも苦しかった日々の記憶が!」
「――と、お前が叫んだ声もあっちに筒抜けてるだろうな」

 だけど、ステージの台本っていう青春の1ページを振り返るときの朝霞クンがもうそれはもうイキイキとした鬼の朝霞Pの顔に戻ってて。大学4年、22歳になったはずの俺は去年の今頃感じてた恐怖に再び震えてるんだ。


end.


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洋朝本に収録された「22歳のワンデー・プラン」のその後のお話。朝霞P宅で飲み直す洋朝のお話のつもりが部活の話になっちゃった。
引退はしたけど戸田班の面々を見ていいなあって思ったり、大丈夫かなって心配する気持ちがあるのかな。去年のこっしーさんポジ。
彩人は彩人で吹っ切れ方が短気のそれ。あんまりうじうじ考え込んでなくてよかったと言えばよかったけど。切り替えが早いわね、Pさんと知り合うなり修行だもの。

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