2020
■最後の仕上げに一筆
++++
「……よーし、出来たぁー…!」
「朝霞クン、お疲れさま!」
「問題は味だけど」
「今まで練習したのも美味しく出来てたんでしょ? その通りにやってるなら大丈夫だよ」
「そうだといいけど」
いよいよ山口の誕生日が明日に迫っている。そして今日の夜にやることは、ケーキを焼くことだ。明日は朝から山口と一緒に遊ぶことになっている。アイツは明日も普通にバイトだけど、そのバイト先を借り切って誕生会的な物をやらせてもらうんだ。もちろん本人には内緒で。
その誕生会が佳境になって来た頃合いに出す小さなケーキを、伏見監督の下で猛特訓したんだ。これでもかと練習していたから、USDXのメンバーたちは特訓成果のケーキばっかり食べさせられて、甘い物が苦手な菅野はげんなりとしていたのが印象的だ。
で、とうとう本番で出すそれが完成したところだ。練習作を2つほど作って、現在時刻は午前0時過ぎ。厳密にはアイツの誕生日になってるんだけど、俺がアイツを祝うのは朝になってからだから今は目の前のケーキに向き合って。で、ケーキを焼いたまではいい。まだ作業は残っている。
「ところで伏見、作業はまだ終わってないんだよ」
「えっ、デコレーションも綺麗に出来てるよ?」
「誕生日のケーキと言えば?」
「ロウソク?」
「それもだけど、名前を書いたチョコレートの板だろ」
「あっ、そうだね! それも作るの?」
「さすがにチョコの板を作るのはハードルが高いし時間がないから、既製品の板とチョコぴつを買って来た。これで今から板を作ろうかと」
ただ、チョコレートで文字を書くのはきっと俺の想像以上に難しいだろう。だからどれだけ失敗しても大丈夫なように、材料はたくさん買って来た。袋に印刷された説明書きを読みながら、この作業に必要なもの……お湯などを用意する。
「……で、先をハサミなどでカットし、うわあっ!」
「大丈夫!?」
「切り過ぎた! うわー……めっちゃこぼれた」
「大丈夫?」
「こぼれたのは台の上だけだから大丈夫だろ。でもこんなんじゃ文字なんか書けやしないな。次のチョコぴつを溶かすか」
切り口を大きくし過ぎたチョコぴつを咥え、中身のチョコを吸いながら次が溶けるのを待つ。次はもうちょっと切り口を小さくしないと。切り口を小さく出来たところでちゃんと文字を書けるかどうかという問題が残ってるんだ。
「あんまり溶かし過ぎると文字が書けなくなるから、ちょっと硬いくらいの方がいいよ」
「あー、なるほど。じゃあもう上げないと。切り口は小さく、っと……よーし……y、о、h……あークソ! 下手糞だ! 次だ次! y、о……」
わかっちゃいたけど難しい。普通に書く字は綺麗な方だと思うけど、チョコぴつで書くとなるとまた話は別で。手でこすると悲惨なことになるから、ペンの角度を気を付けなきゃいけなかったりとか。アルファベットの筆記体は左手で書くにはかなり過酷だ。
「よーし、出来たぁー……」
「納得のいく文字になりましたか」
「なりました」
「そしたらこの板を冷蔵庫で少し固めて、乗っけたら完成です」
「はい! 監督、ありがとうございました」
「いえいえ」
「はぁー……長かったぁー……多分一生分のケーキを作ったぞ」
「作らない人はケーキなんて一生作らないからねえ」
まだ、今の板をケーキに乗せて、店に預けて来るという工程が残ってるんだけど、ひとまず作業は一段落。ようやく肩の力が抜けて、一気に脱力感が襲う。今ベッドに横たわったらすぐ落ちそうだ。まあ、伏見がいるからまだ寝ないけど。
「って言うか今何時だ!? お前終電」
「とっくにないです!」
「あー……悪い。そしたら今日は泊まってもらって」
「朝霞クン明日朝何時だっけ」
「9時に山口がうちに来る」
「わかった。それまでお世話になります」
さて、どうしたものか。ただ、これから休もうというのに伏見の服装がちょっとかっちりしてるから、適当な部屋着を貸す。服を渡すと、伏見はそれを握りしめたままわなわなと震えている。挙動不審というのがピッタリだ。
「朝霞クン! これが噂の彼シャツ的な!?」
「あー、まあ、世間的にはそう言うんだろうけど、着るなら着る、要らないなら要らないで」
「着ます! あー……えーと」
「ん?」
「あっち向いてて!」
「はいはい」
もーいーよ、という声で元の向きに戻ると、俺の服を着た伏見がへらへらとしている。
「明日は早いぞ。寝るなら寝ろ、ベッド使っていいから」
「朝霞クンは?」
「座椅子でも、どっかその辺でも」
「朝霞クン、ここは添い寝だと思うんです?」
「添い寝?」
「ケーキ作りも無事に終了したということで、監督を頑張ったあたしへのご褒美添い寝」
「今度ちゃんとしたお礼はするつもりだったんだけどな」
「えっ」
「まあ、それはそれとして、添い寝か。……添い寝か。とりあえず、板乗っけたら俺も寝支度するし」
「あたしもメイク落とさなきゃ」
とりあえず、さっき作った板をケーキに乗せれば本日のミッションは完遂。明日は9時だからまあまあの時間寝ることは出来そうだけど。プレゼントよーし、ケーキよし。あとは明日の天気がいいことを祈ろう。
end.
++++
朝霞Pにご褒美添い寝とかそんなことを言えるのはふしみんくらいだなあ。彼女だからとかじゃなくて、たまに勢いで圧倒するじゃないこの子
だけどもふしみん相手のご褒美添い寝よりも洋平ちゃんとのクリスマスデートの時の寝起きの方がそれらしさがありそうなのがPさんだと思うの
一応彼氏彼女として付き合ってるんだけど、本格的に彼女とは一体っていう感じですね。彼氏彼女の付き合い方とは。
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「……よーし、出来たぁー…!」
「朝霞クン、お疲れさま!」
「問題は味だけど」
「今まで練習したのも美味しく出来てたんでしょ? その通りにやってるなら大丈夫だよ」
「そうだといいけど」
いよいよ山口の誕生日が明日に迫っている。そして今日の夜にやることは、ケーキを焼くことだ。明日は朝から山口と一緒に遊ぶことになっている。アイツは明日も普通にバイトだけど、そのバイト先を借り切って誕生会的な物をやらせてもらうんだ。もちろん本人には内緒で。
その誕生会が佳境になって来た頃合いに出す小さなケーキを、伏見監督の下で猛特訓したんだ。これでもかと練習していたから、USDXのメンバーたちは特訓成果のケーキばっかり食べさせられて、甘い物が苦手な菅野はげんなりとしていたのが印象的だ。
で、とうとう本番で出すそれが完成したところだ。練習作を2つほど作って、現在時刻は午前0時過ぎ。厳密にはアイツの誕生日になってるんだけど、俺がアイツを祝うのは朝になってからだから今は目の前のケーキに向き合って。で、ケーキを焼いたまではいい。まだ作業は残っている。
「ところで伏見、作業はまだ終わってないんだよ」
「えっ、デコレーションも綺麗に出来てるよ?」
「誕生日のケーキと言えば?」
「ロウソク?」
「それもだけど、名前を書いたチョコレートの板だろ」
「あっ、そうだね! それも作るの?」
「さすがにチョコの板を作るのはハードルが高いし時間がないから、既製品の板とチョコぴつを買って来た。これで今から板を作ろうかと」
ただ、チョコレートで文字を書くのはきっと俺の想像以上に難しいだろう。だからどれだけ失敗しても大丈夫なように、材料はたくさん買って来た。袋に印刷された説明書きを読みながら、この作業に必要なもの……お湯などを用意する。
「……で、先をハサミなどでカットし、うわあっ!」
「大丈夫!?」
「切り過ぎた! うわー……めっちゃこぼれた」
「大丈夫?」
「こぼれたのは台の上だけだから大丈夫だろ。でもこんなんじゃ文字なんか書けやしないな。次のチョコぴつを溶かすか」
切り口を大きくし過ぎたチョコぴつを咥え、中身のチョコを吸いながら次が溶けるのを待つ。次はもうちょっと切り口を小さくしないと。切り口を小さく出来たところでちゃんと文字を書けるかどうかという問題が残ってるんだ。
「あんまり溶かし過ぎると文字が書けなくなるから、ちょっと硬いくらいの方がいいよ」
「あー、なるほど。じゃあもう上げないと。切り口は小さく、っと……よーし……y、о、h……あークソ! 下手糞だ! 次だ次! y、о……」
わかっちゃいたけど難しい。普通に書く字は綺麗な方だと思うけど、チョコぴつで書くとなるとまた話は別で。手でこすると悲惨なことになるから、ペンの角度を気を付けなきゃいけなかったりとか。アルファベットの筆記体は左手で書くにはかなり過酷だ。
「よーし、出来たぁー……」
「納得のいく文字になりましたか」
「なりました」
「そしたらこの板を冷蔵庫で少し固めて、乗っけたら完成です」
「はい! 監督、ありがとうございました」
「いえいえ」
「はぁー……長かったぁー……多分一生分のケーキを作ったぞ」
「作らない人はケーキなんて一生作らないからねえ」
まだ、今の板をケーキに乗せて、店に預けて来るという工程が残ってるんだけど、ひとまず作業は一段落。ようやく肩の力が抜けて、一気に脱力感が襲う。今ベッドに横たわったらすぐ落ちそうだ。まあ、伏見がいるからまだ寝ないけど。
「って言うか今何時だ!? お前終電」
「とっくにないです!」
「あー……悪い。そしたら今日は泊まってもらって」
「朝霞クン明日朝何時だっけ」
「9時に山口がうちに来る」
「わかった。それまでお世話になります」
さて、どうしたものか。ただ、これから休もうというのに伏見の服装がちょっとかっちりしてるから、適当な部屋着を貸す。服を渡すと、伏見はそれを握りしめたままわなわなと震えている。挙動不審というのがピッタリだ。
「朝霞クン! これが噂の彼シャツ的な!?」
「あー、まあ、世間的にはそう言うんだろうけど、着るなら着る、要らないなら要らないで」
「着ます! あー……えーと」
「ん?」
「あっち向いてて!」
「はいはい」
もーいーよ、という声で元の向きに戻ると、俺の服を着た伏見がへらへらとしている。
「明日は早いぞ。寝るなら寝ろ、ベッド使っていいから」
「朝霞クンは?」
「座椅子でも、どっかその辺でも」
「朝霞クン、ここは添い寝だと思うんです?」
「添い寝?」
「ケーキ作りも無事に終了したということで、監督を頑張ったあたしへのご褒美添い寝」
「今度ちゃんとしたお礼はするつもりだったんだけどな」
「えっ」
「まあ、それはそれとして、添い寝か。……添い寝か。とりあえず、板乗っけたら俺も寝支度するし」
「あたしもメイク落とさなきゃ」
とりあえず、さっき作った板をケーキに乗せれば本日のミッションは完遂。明日は9時だからまあまあの時間寝ることは出来そうだけど。プレゼントよーし、ケーキよし。あとは明日の天気がいいことを祈ろう。
end.
++++
朝霞Pにご褒美添い寝とかそんなことを言えるのはふしみんくらいだなあ。彼女だからとかじゃなくて、たまに勢いで圧倒するじゃないこの子
だけどもふしみん相手のご褒美添い寝よりも洋平ちゃんとのクリスマスデートの時の寝起きの方がそれらしさがありそうなのがPさんだと思うの
一応彼氏彼女として付き合ってるんだけど、本格的に彼女とは一体っていう感じですね。彼氏彼女の付き合い方とは。
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