2020

■ツイステッド・チョイス

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「奥村さんの好みか。甘い物は確実だろうけど」
「甘い物でも、好みはある……」

 今日は、美奈と買い物に出ている。奥村さんが美奈に緑風のお土産として煎餅を送って来たそうだ。それを俺とリンもありがたく、煎餅の他にもお酒などもいただいたので、さすがに何かお返しをした方がいいのでは、という買い物だ。
 奥村さんの実家に郵送するという案もあったけど、とりあえず今度山口の誕生会というのに呼ばれてるから、その場で渡すことも視野に入れて。山口に縁のある人間ということで、元対策委員のメンバーにも声がかかっているそうだ。
 お菓子をもらったのでお菓子で返すのが無難だろうという話になったまでは良かった。だけど、細かい好みがわからなかったのだ。奥村さんは美奈の親友くらいのポジションだろうとは思う。だけど、美奈は甘い物が食べられないが故にその知識に疎いのだ。


「徹は、チョコレートは好きだけど、絶妙に甘党じゃないから……」
「まあな」
「私と、徹で甘い物を選ぶのは……」
「まあ、少々癪ではあるが、コイツに頼らざるを得ない」
「ほう、このオレ様を頼ろうというのにそんなふざけた態度を取るか」

 俺たち3人の中で一番奥村さんの味覚に近いのはリンだろう。コイツはミルクティーにも砂糖を入れるし、チュッパチャプスを白衣のポケットに常備している程度には砂糖菓子を絶やさない。ドーナツにしても、ハニーグレーズで甘くコーティングされた物を好む。

「そうは言ってもリンは奥村さんとさほど面識ないだろ。好みなんかわかるか?」
「……甘党の、センスに賭ける……」
「菜月には卵を使った菓子でも用意すればいいのではないか。プリンなら固い物が好きだそうだが」
「ただ、さすがに生ものはどうかと」
「それもそうか」
「……と言うか、いつの間に、そんな情報を……」
「プリンの好みについては朝霞から聞いたが。聞くに、卵好きの同士だという話ではないか」
「そもそもお前と朝霞君の繋がりが――……いや、今はそれはいい。でも、卵か。バウムクーヘンとか」
「好きそう……」
「ちなみにバウムクーヘンは春先にもらっているそうだ。別の物にした方がいい」
「いや、つかどこからその情報を得たんだ」
「朝霞とは別の、卵好きの同士がホワイトデーギフトとして贈ったらしい」

 リンと朝霞君は美奈や他の人つてに知り合い、今ではUSDXというゲーム実況グループで活動している仲だとは知っている。俺も同人絵描きの片桐さん名義でUSDXの動画に絵を描く仕事をしたことがある。だからリンの口から朝霞君という名前が出て来ることには驚かない。
 だけど、それが奥村さんの嗜好に繋がるとも思えなかったから、固いプリンの話が出て来たことには素直に驚いた。そもそも奥村さんと朝霞君の接点も見えないし。それならまだ高校の同級生繋がりで高崎の方がまだワンチャンあるだろ。

「夏らしく、ゼリーなどどうだ」
「お前にしてはいい案を出すな」
「情報センターではこの季節、北辰土産のメロンゼリーを食うことが多くてな」
「……ただ、菜月は結構な偏食……好みには気を付けたい……」
「例えば、果物なら何が嫌いなんだ」
「イチゴ、ブドウも苦手だって……それから、マンゴーや、チェリーも確か……他には……」
「もういい。逆に、何が好きなんだ」
「……缶詰の桃、スイカ、メロンなど……あと、柑橘系は、大体好きだったはず……」
「面倒な奴だな」

 奥村さんの偏食に配慮するのが面倒だという意味だろうが、言葉を端折り過ぎる所為で美奈が少々不機嫌そうな顔になっている。美奈もコイツが言葉を端折って直感のままに発することくらい知っているだろうに。まあ、面倒だと言われた相手が奥村さんだからか。

「あるいは、煎餅には煎餅で返すという手法もあるぞ。星港土産の定番から海老煎餅などを適当にチョイスし、まあ、オレはホタテ味の方が好きだが縁の手帖など」
「確かに絶対外さないけど普通過ぎないか?」
「何を言う、菜月の煎餅も緑風土産としてはド定番なのだろう。定番には定番、こちらが捻る必要は全くなかろう」
「まあ、一理ないことはない」
「……縁の手帖は買うとして、他には、どうする…? せっかくだし、百貨店限定の物にする…?」
「そうだな。駅の売店にはなさそうな感じの物がいいと思う」
「おい、美奈。あれを」
「何…?」
「バターサンドなど、どうだ。あれは確か東都に店があって、星港では限定出店なのだろう。一度食ったことがあるが、菜月は好きな系統ではないかと」

 百貨店の銘菓店がいくつも連なる所謂デパ地下の中に設置された企画のコーナーだ。期間限定出店という店がいくつも固められているんだ。そこにリンが見つけたのがバターサンド。他には、キャラメルサンドなどの甘い焼き菓子が多いようだ。

「……東都のバターサンドの話は、菜月から聞いたことがある……本当に美味しいと……」
「何だ、食ったことがあるのか」
「じゃあキャラメルサンドにしよう」
「菜月も、キャラメルは好き……大丈夫だと思う……」

 3人で金を出して候補に挙がったお菓子をお買い上げ。買った物は俺が預かり、今度の山口の誕生会で渡すことに。まあ、これでもらった分くらいは返るだろう。定番と斬新さのバランスもバッチリ。めでたしめでたし。


end.


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星大組の3人が菜月さんにお土産返しをするようです。兄さんと美奈はともかくリン様がお返しとな……槍が降りそう
ちなみにリン様が菜月さん情報を仕入れた先は朝霞Pと塩見さん。塩見さんも何気に菜月さんと仲良しなのです。ツミツミの友だからな
と言うか菜月さんはあるだけお金を使ってしまう性質なので、お土産の規模も大変なことになるんですね。春山さんまではいかないにしても結構な規模よ

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