2020
■安心と信頼のネームバリュー
++++
「みんなー、パン持ってってー」
「おっ、久々だっていう」
ハナ先輩がパン屋の袋を持って来た。紙袋いっぱいにパンが詰められていて、これだけ食べるのかとビックリしてしまうのは、これくらいの量なら1人で食べてしまう果林先輩を知っているからだと思う。
もちろん、ハナ先輩はこれを1人で全部食べるのではない。バイト先で商品として出すにはちょっと残念だけど味は変わりない物をこうしてたまにもらってくるらしい。MBCCの不定期イベントとしてみんな楽しみにしているそうだ。
「え、ハナ先輩ナチュールでバイトしてるんですか?」
「ササは豊葦市民だし、知ってる?」
「はい。有名なお店ですよね。俺の行動範囲の中にはないのであんまり行かないですけど、情報誌とかで見る度に美味しそうだなーって」
「これ、商品にならなくなったのを適当に持って来てるんだ。今日は1年生から持って行っていいよー」
「え、先輩たちはいいんですか」
「2年生はそんなに好き嫌いないし、3年生の先輩は別の意味で選ばないから。1年生の好みとか知りたいしさ、持ってってー」
「ありがとうございます」
「やったー! いいんですかハナ先輩!」
「いいよー、早い者勝ちねー」
さっそくくるみとすがやんがどんなのがあるかなーって紙袋の前に張り付いている。これまでの感じを見ていると、多分俺はMBCCの1年生の中ではあまり好みが重ならなさそうなんだよな。だから多分今回も競合しなさそう。
くるみが甘いパンがいいなーって悩んでいる横から、シノがひょいっとコロッケパンを摘み上げた。選ぶのがガッツリ系の総菜パンなのがシノらしい。履修が似たり寄ったりだから昼を一緒に食べることもまああるけど、結構量を食べるんだよな。
「あの、くるみ、すがやん。決まってないならいい?」
「あっ、いいよー。ごめんねサキー」
「サキは何食べるんだ?」
「くるみパン。ハナ先輩、いただきます」
「どうぞー」
くるみパンの素朴さがまたサキらしいと言うか何と言うか。くるみは相変わらずうーんうーんって悩んでて、すがやんはそれに付き合う形でそれも美味しそうだなーって相槌を打っている。俺と玲那は後から選ぶつもりで様子を見てたんだけど、この様子だとなかなか決まらなさそうだ。
「あれいいな」
「玲那、何かいいの見つけた?」
「くるみ、先に選んでいい?」
「あっうん、いいよー。レナはどれにするのー?」
「私は、このオレンジのにする」
玲那が選んだのはオレンジの輪切りが敷き詰められたパイかデニッシュか。ハナ先輩によれば、このオレンジも意外にそこまで甘すぎず、さっぱりと食べられるんだそうだ。さて、俺はどうする。
「もしかして、ササも先に決まりそう?」
「この感じだと、そうかもね」
「えーどーしよー! ねえすがやん、どれが甘くて美味しいかな!」
「甘くて美味しいっつってもいろいろあるじゃんな。すっきりとかずっしりとか、さっぱりとかもったりとか」
「それじゃ、俺はぶどうパンをいただきます」
「あーん、ササにも先越されちゃったー」
「ぶどうパンが良かった?」
「ううん、違うので悩んでる」
「ならよかった」
「すがやん、あたしにはおかまいなくー。好きなの選んでいいよー。あーもう決まらなーい!」
くるみがこうまで優柔不断とは。すがやんは多分決めようと思えばすぐに決まるんだろうけど、くるみに付き合ってあげてるような感じだ。ぶどうパンは、真ん中で割るとほんのりとレーズンのいい匂いがする。レーズンのバランスも多すぎず少なすぎずちょうどいい。
「くるみ、決まんなさそう?」
「ハナせんぱーい! どれもこれも美味しそうなんですー!」
「そしたらこれ食べてみる? メープルくるみカステラ。この中で1番甘いのはこれ。あとあんまり持って来れないレアなヤツ」
「どれっくらい美味しいですか?」
「うーん、ハナはあんまり食べないけど……あっ、そう言えばこれ、高崎先輩がうちの店で一番好きなパンだったかな」
「えー! だったら本当に甘くて美味しいんじゃないですか! これにしまーす!」
「あっでもカロリーに気を付けなよ、ホントにしょぼんだから。すがやんはどうする?」
「俺はチョコチップメロンパンにします」
「それじゃあ次、2年生ー」
あれだけずっとうんうん唸って悩んでいたくるみが、高崎先輩という単語ひとつであっさりとメープルくるみカステラという四角いパンに決めてしまったのが言葉の魔力というヤツか。あと、すがやんは本当に付き合ってただけっぽくて、自分の食べたいものはとっくに決まってたみたいだ。
くるみが例のカステラパンを割ると、メープルの香りがふわっと漂って来る。俺のぶどうパンも結構強い匂いだと思ってたけど、このメープルもなかなかに負けてない。そしてこれを一口、くるみの顔がほわ~っと綻ぶ。
「ん~っ…! おいっしい! すがやん! 美味しい!」
「よかったな」
「ん~、なにこれホントに美味しい! ……さすが高崎先輩、豊葦の美味しい物はチェック済みってことなんですね…!」
end.
++++
半期に1回くらいのペースでやるおハナのパンまつりのお話。今回は1年生の好みが知りたかったの巻!
このテのイベントで一番楽しみながら悩むのはやっぱくるちゃんやろなと。すがやんと一緒にうーんうーん言ってるのが可愛いに決まってる
そして安心と信頼の高崎ブランドである。まあソースカツ丼が好きなくらいだし高崎に美味しいものはくるちゃんにもきっと美味しいのね
.
++++
「みんなー、パン持ってってー」
「おっ、久々だっていう」
ハナ先輩がパン屋の袋を持って来た。紙袋いっぱいにパンが詰められていて、これだけ食べるのかとビックリしてしまうのは、これくらいの量なら1人で食べてしまう果林先輩を知っているからだと思う。
もちろん、ハナ先輩はこれを1人で全部食べるのではない。バイト先で商品として出すにはちょっと残念だけど味は変わりない物をこうしてたまにもらってくるらしい。MBCCの不定期イベントとしてみんな楽しみにしているそうだ。
「え、ハナ先輩ナチュールでバイトしてるんですか?」
「ササは豊葦市民だし、知ってる?」
「はい。有名なお店ですよね。俺の行動範囲の中にはないのであんまり行かないですけど、情報誌とかで見る度に美味しそうだなーって」
「これ、商品にならなくなったのを適当に持って来てるんだ。今日は1年生から持って行っていいよー」
「え、先輩たちはいいんですか」
「2年生はそんなに好き嫌いないし、3年生の先輩は別の意味で選ばないから。1年生の好みとか知りたいしさ、持ってってー」
「ありがとうございます」
「やったー! いいんですかハナ先輩!」
「いいよー、早い者勝ちねー」
さっそくくるみとすがやんがどんなのがあるかなーって紙袋の前に張り付いている。これまでの感じを見ていると、多分俺はMBCCの1年生の中ではあまり好みが重ならなさそうなんだよな。だから多分今回も競合しなさそう。
くるみが甘いパンがいいなーって悩んでいる横から、シノがひょいっとコロッケパンを摘み上げた。選ぶのがガッツリ系の総菜パンなのがシノらしい。履修が似たり寄ったりだから昼を一緒に食べることもまああるけど、結構量を食べるんだよな。
「あの、くるみ、すがやん。決まってないならいい?」
「あっ、いいよー。ごめんねサキー」
「サキは何食べるんだ?」
「くるみパン。ハナ先輩、いただきます」
「どうぞー」
くるみパンの素朴さがまたサキらしいと言うか何と言うか。くるみは相変わらずうーんうーんって悩んでて、すがやんはそれに付き合う形でそれも美味しそうだなーって相槌を打っている。俺と玲那は後から選ぶつもりで様子を見てたんだけど、この様子だとなかなか決まらなさそうだ。
「あれいいな」
「玲那、何かいいの見つけた?」
「くるみ、先に選んでいい?」
「あっうん、いいよー。レナはどれにするのー?」
「私は、このオレンジのにする」
玲那が選んだのはオレンジの輪切りが敷き詰められたパイかデニッシュか。ハナ先輩によれば、このオレンジも意外にそこまで甘すぎず、さっぱりと食べられるんだそうだ。さて、俺はどうする。
「もしかして、ササも先に決まりそう?」
「この感じだと、そうかもね」
「えーどーしよー! ねえすがやん、どれが甘くて美味しいかな!」
「甘くて美味しいっつってもいろいろあるじゃんな。すっきりとかずっしりとか、さっぱりとかもったりとか」
「それじゃ、俺はぶどうパンをいただきます」
「あーん、ササにも先越されちゃったー」
「ぶどうパンが良かった?」
「ううん、違うので悩んでる」
「ならよかった」
「すがやん、あたしにはおかまいなくー。好きなの選んでいいよー。あーもう決まらなーい!」
くるみがこうまで優柔不断とは。すがやんは多分決めようと思えばすぐに決まるんだろうけど、くるみに付き合ってあげてるような感じだ。ぶどうパンは、真ん中で割るとほんのりとレーズンのいい匂いがする。レーズンのバランスも多すぎず少なすぎずちょうどいい。
「くるみ、決まんなさそう?」
「ハナせんぱーい! どれもこれも美味しそうなんですー!」
「そしたらこれ食べてみる? メープルくるみカステラ。この中で1番甘いのはこれ。あとあんまり持って来れないレアなヤツ」
「どれっくらい美味しいですか?」
「うーん、ハナはあんまり食べないけど……あっ、そう言えばこれ、高崎先輩がうちの店で一番好きなパンだったかな」
「えー! だったら本当に甘くて美味しいんじゃないですか! これにしまーす!」
「あっでもカロリーに気を付けなよ、ホントにしょぼんだから。すがやんはどうする?」
「俺はチョコチップメロンパンにします」
「それじゃあ次、2年生ー」
あれだけずっとうんうん唸って悩んでいたくるみが、高崎先輩という単語ひとつであっさりとメープルくるみカステラという四角いパンに決めてしまったのが言葉の魔力というヤツか。あと、すがやんは本当に付き合ってただけっぽくて、自分の食べたいものはとっくに決まってたみたいだ。
くるみが例のカステラパンを割ると、メープルの香りがふわっと漂って来る。俺のぶどうパンも結構強い匂いだと思ってたけど、このメープルもなかなかに負けてない。そしてこれを一口、くるみの顔がほわ~っと綻ぶ。
「ん~っ…! おいっしい! すがやん! 美味しい!」
「よかったな」
「ん~、なにこれホントに美味しい! ……さすが高崎先輩、豊葦の美味しい物はチェック済みってことなんですね…!」
end.
++++
半期に1回くらいのペースでやるおハナのパンまつりのお話。今回は1年生の好みが知りたかったの巻!
このテのイベントで一番楽しみながら悩むのはやっぱくるちゃんやろなと。すがやんと一緒にうーんうーん言ってるのが可愛いに決まってる
そして安心と信頼の高崎ブランドである。まあソースカツ丼が好きなくらいだし高崎に美味しいものはくるちゃんにもきっと美味しいのね
.