2020
■もしやまさかの遭遇劇
++++
「お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
今日は朝霞クンとの定例会議。今回は趣味の話ではなくて、自分たちのリアルに関する近況報告なんかの予定。元々が就活で知り合った友達だから、そっち方面の話題もなかなかにディープになっていくんだよね。
世音坂周辺にあるオタク御用達の店をぐるりと回ったその帰り、星ヶ丘大学近くのカフェで待ち合わせ。コーヒーゼリーがこんもり盛られたパフェとカフェラテを注文。朝霞クンはバニラアイスが乗ったコーヒーゼリーとブラックコーヒーを。
「いやぁ~……こないだの面接は本当に」
「ああ、本当に」
同じような仕事に興味があるから志望する会社も似たり寄ったりで、面接会場でも度々顔を合わせてたよね。で、こないだ受けた会社での面接は複数人数での面接だったんだけど、まさかの同時面接っていうね。
「ぶっちゃけ内定いくつか持ってるよね?」
「そういう宮林さんこそ」
「何個? ……せーのっ」
2つ。そう声が揃う。とりあえずはお互い内定があるということで、どこの会社でいただきましたかという話になりますよね。そしたらそれも同じ会社だったからもう笑うしかないよね。最終的に同じ会社にいそうだねえと飲み物をずずずーと啜り。
「彼氏さんはどんな感じ?」
「本命のトコの1次試験が終わって、次は7月に2次試験があるって」
「あー、そうなんだ。頑張って欲しいね」
「ホントに」
「……ところで、婚約までしてる宮林さんに相談なんだけどさ」
ずず、と浅くコーヒーを啜り、朝霞クンが話を切り出した。何でも、少し前に彼女が出来たんだって! おめでたいね! でも、これまでに彼女がいたことはあっても当時の記憶が乏しく、基本自分のペースを乱さない彼は彼女との付き合い方がよくわからないんだって。
お相手は同じゼミの友達で、読書や映画鑑賞という共通の趣味があるということ。そして映画研究会の部活でお話の脚本を書いているんだそう。だから必然的に一緒にすることもそっちに寄って行っちゃうんだけど、それが彼女的にはちょっと不満らしく。
「俺にどうしろっていうんだ。俺に出来ることって言ったらアイツの脚本を読んでやることくらいでだな」
「ああ~、実際作品として出す前に読んでもらっていろいろ指摘してもらえるのは心底助かる!」
「よなあ! さすが宮林さん! 心の友よ!」
「心の友って。チータかな? でも、世の女の子がみんなうちと同じ価値観かって言ったらそうじゃないからねえ」
「そうなんだよなあ~……どっちかって言ったら宮林さんが俺の立場じゃん」
「ですね」
「そこで、結婚にまで漕ぎ付けた宮林さんの彼氏さんの話を聞きたくて。相手がこんなんで本当はどう思うとか」
確かに、うちは朝霞クンと同レベルで趣味に夢中になる人間だから彼女としての話はあんまり参考にならないけど、その人間に振り回されるパートナーの話をすることは出来るかも。問題は、カズもなかなか訓練されちゃってるってトコなんだけど。
「ただ、問題が1コあって。朝霞クンと彼女さんは同じ趣味じゃん。読書に映画にって。物書き属性だし」
「ですね」
「うちと彼氏さんは趣味が重ならないの。彼氏さん結構なサッカーオタクで、お互いの趣味には相互不干渉っていうルールを設けてるんですね。基本放置なんだよ」
「でも、デートとかはしてるよね」
「誕生日とか記念日とか、イベントでは積極的に外に出ましょうって」
「その時にどういうことしてるのかって」
「んー、そうねえ」
――と、いろいろなデートを思い起こしていたときのことだった。向こうの方からやって来たメガネの女の子が、こっちに向かって来る。
「朝霞クン!」
「ああ、伏見。よう」
「え、えーと……そちらの方は…?」
「就活友達で緑ヶ丘の宮林さん」
女の子は何かを疑うように、声が震えてる。これは、もしかしてもしかするヤツ…? そしてうちはこそこそっと朝霞クンに確認をする。
「朝霞クン朝霞クン、もしかしなくても……彼女さん」
「です、はい」
「えー!」
「ほら、伏見。彼女のことは前に話しただろ。ほら、こないだの」
「はっ。もしかして……もしかして……」
「はい…?」
「織りなす生活感の妙、無限リロード散弾銃、神速の筆を持つ神作家の雨宮珠希さん!?」
「そ、そうですけど……」
「朝霞クンの部屋で本を読みました! 日常の中にある繊細な機微が本当に素敵で、こんなお話を書きたいなあって! BLだけどそれを意識せずにするりと読めて、あのっ、今度は自分でちゃんと本を買って読ませてください!」
「あ、どうもありがとうございます……あの、まだ在庫はありますのでいつでも……」
朝霞クンの彼女さんも友達と一緒に来てたみたいだから、少し話してそっちに戻って行ったみたいだけど、まさかのまさかでしたよ。まあ、浮気を疑われて「この泥棒猫!」ってされなかったのは良かったけど。って言うかこの二つ名的な物ですよ。
「朝霞クン、ちょっといいですか?」
「ハイ、スミマセン」
「何をどこまで喋ってるのかな~?」
「え、ええと……2人は比較的近い作風なので、きっと好きだろうなあと思ってこないだの新刊を、つい」
end.
++++
久々にUSDX云々の話抜きで就活の情報交換をしていたらしい慧梨夏とPさんです。多分6月になる前からちょこちょこ受けてたんだな面接
最近の朝霞Pはケーキ作りの特訓をしているはずなのだけど、それを除けばやっぱり映画メインのデートなどになってたのね
やっぱり、ふしみんは朝霞Pと付き合おうと思う人間だけあってやっぱ只者じゃないんだなあ……普通の子のはずなんだけどね
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「お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
今日は朝霞クンとの定例会議。今回は趣味の話ではなくて、自分たちのリアルに関する近況報告なんかの予定。元々が就活で知り合った友達だから、そっち方面の話題もなかなかにディープになっていくんだよね。
世音坂周辺にあるオタク御用達の店をぐるりと回ったその帰り、星ヶ丘大学近くのカフェで待ち合わせ。コーヒーゼリーがこんもり盛られたパフェとカフェラテを注文。朝霞クンはバニラアイスが乗ったコーヒーゼリーとブラックコーヒーを。
「いやぁ~……こないだの面接は本当に」
「ああ、本当に」
同じような仕事に興味があるから志望する会社も似たり寄ったりで、面接会場でも度々顔を合わせてたよね。で、こないだ受けた会社での面接は複数人数での面接だったんだけど、まさかの同時面接っていうね。
「ぶっちゃけ内定いくつか持ってるよね?」
「そういう宮林さんこそ」
「何個? ……せーのっ」
2つ。そう声が揃う。とりあえずはお互い内定があるということで、どこの会社でいただきましたかという話になりますよね。そしたらそれも同じ会社だったからもう笑うしかないよね。最終的に同じ会社にいそうだねえと飲み物をずずずーと啜り。
「彼氏さんはどんな感じ?」
「本命のトコの1次試験が終わって、次は7月に2次試験があるって」
「あー、そうなんだ。頑張って欲しいね」
「ホントに」
「……ところで、婚約までしてる宮林さんに相談なんだけどさ」
ずず、と浅くコーヒーを啜り、朝霞クンが話を切り出した。何でも、少し前に彼女が出来たんだって! おめでたいね! でも、これまでに彼女がいたことはあっても当時の記憶が乏しく、基本自分のペースを乱さない彼は彼女との付き合い方がよくわからないんだって。
お相手は同じゼミの友達で、読書や映画鑑賞という共通の趣味があるということ。そして映画研究会の部活でお話の脚本を書いているんだそう。だから必然的に一緒にすることもそっちに寄って行っちゃうんだけど、それが彼女的にはちょっと不満らしく。
「俺にどうしろっていうんだ。俺に出来ることって言ったらアイツの脚本を読んでやることくらいでだな」
「ああ~、実際作品として出す前に読んでもらっていろいろ指摘してもらえるのは心底助かる!」
「よなあ! さすが宮林さん! 心の友よ!」
「心の友って。チータかな? でも、世の女の子がみんなうちと同じ価値観かって言ったらそうじゃないからねえ」
「そうなんだよなあ~……どっちかって言ったら宮林さんが俺の立場じゃん」
「ですね」
「そこで、結婚にまで漕ぎ付けた宮林さんの彼氏さんの話を聞きたくて。相手がこんなんで本当はどう思うとか」
確かに、うちは朝霞クンと同レベルで趣味に夢中になる人間だから彼女としての話はあんまり参考にならないけど、その人間に振り回されるパートナーの話をすることは出来るかも。問題は、カズもなかなか訓練されちゃってるってトコなんだけど。
「ただ、問題が1コあって。朝霞クンと彼女さんは同じ趣味じゃん。読書に映画にって。物書き属性だし」
「ですね」
「うちと彼氏さんは趣味が重ならないの。彼氏さん結構なサッカーオタクで、お互いの趣味には相互不干渉っていうルールを設けてるんですね。基本放置なんだよ」
「でも、デートとかはしてるよね」
「誕生日とか記念日とか、イベントでは積極的に外に出ましょうって」
「その時にどういうことしてるのかって」
「んー、そうねえ」
――と、いろいろなデートを思い起こしていたときのことだった。向こうの方からやって来たメガネの女の子が、こっちに向かって来る。
「朝霞クン!」
「ああ、伏見。よう」
「え、えーと……そちらの方は…?」
「就活友達で緑ヶ丘の宮林さん」
女の子は何かを疑うように、声が震えてる。これは、もしかしてもしかするヤツ…? そしてうちはこそこそっと朝霞クンに確認をする。
「朝霞クン朝霞クン、もしかしなくても……彼女さん」
「です、はい」
「えー!」
「ほら、伏見。彼女のことは前に話しただろ。ほら、こないだの」
「はっ。もしかして……もしかして……」
「はい…?」
「織りなす生活感の妙、無限リロード散弾銃、神速の筆を持つ神作家の雨宮珠希さん!?」
「そ、そうですけど……」
「朝霞クンの部屋で本を読みました! 日常の中にある繊細な機微が本当に素敵で、こんなお話を書きたいなあって! BLだけどそれを意識せずにするりと読めて、あのっ、今度は自分でちゃんと本を買って読ませてください!」
「あ、どうもありがとうございます……あの、まだ在庫はありますのでいつでも……」
朝霞クンの彼女さんも友達と一緒に来てたみたいだから、少し話してそっちに戻って行ったみたいだけど、まさかのまさかでしたよ。まあ、浮気を疑われて「この泥棒猫!」ってされなかったのは良かったけど。って言うかこの二つ名的な物ですよ。
「朝霞クン、ちょっといいですか?」
「ハイ、スミマセン」
「何をどこまで喋ってるのかな~?」
「え、ええと……2人は比較的近い作風なので、きっと好きだろうなあと思ってこないだの新刊を、つい」
end.
++++
久々にUSDX云々の話抜きで就活の情報交換をしていたらしい慧梨夏とPさんです。多分6月になる前からちょこちょこ受けてたんだな面接
最近の朝霞Pはケーキ作りの特訓をしているはずなのだけど、それを除けばやっぱり映画メインのデートなどになってたのね
やっぱり、ふしみんは朝霞Pと付き合おうと思う人間だけあってやっぱ只者じゃないんだなあ……普通の子のはずなんだけどね
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