2020
■サプライズの裏方仕事
++++
「伏見、お前に頼みたいことがある」
「うん、どうしたの?」
「俺に、ケーキ作りを教えてくれないか」
「ケーキ!?」
突然朝霞クンがそんなことを言いだすから、本当にビックリした。あたしの中で、朝霞クンが料理をするっていうイメージはひとつもない。家ではスーパーやコンビニで買えるお惣菜がメインだし、外食も結構多いような気がする。
付き合う前から朝霞クンに作ってた料理も、こんなちゃんとしたご飯をこの部屋で食べることなんかそうそうないって言ってたもんね。ハルちゃんの作るプチメゾンのごはんが貴重な家庭料理みたくって。その朝霞クンが、料理を通り越して、製菓!?
「ケーキ作りなんて、急にどうしたの?」
「ちょっとこれは誰にも内緒にしといて欲しいんだけど」
「うん、大丈夫。言わない言わない」
「今月の22日が山口の誕生日なんだよ。あっ、山口はわかるよな」
「朝霞クンの友達のね」
「親友のな。アイツは今まで俺の誕生日を毎年祝っててくれたんだけど、俺はアイツの誕生日をガン無視してたワケだ。毎年この時期の俺はステージの台本を書くことが第一で、誕生日なんかステージに何の益をもたらすんだと。当然、アイツの祝ってくれてる俺の誕生日なんか丸の池の直前だから、そんな事やってんなっつってぶん殴るのが基本な」
「祝ってくれる人をぶん殴る……知ってたけど、朝霞クンてそういう人だよね……うん」
「だけど今年は部活も引退したし、今までのお礼と謝罪と、これからもよろしく的な意味を込めて丸1日かけた誕生日イベントをやろうと思ってるんだ」
山口クンがバイトしてるお店を貸し切ってパーティーをやりたいとか、サプライズでプレゼントを用意したりとかって、朝霞クンはいろいろ企画を考えてるみたい。車でドライブすることも考えてるって。計画を話す朝霞クンが本当に楽しそうで。
正直そこまで朝霞クンに想われてる山口クンにはちょっと妬いちゃうんだけど、それは積み重ねた時間と質がそうさせるんだろうから、あたしはこれから頑張ろうって。友達っていうのを「親友のな」って訂正するところがね。あたしのことは彼女って言ってくれますか!?
「それで、ケーキをだな。アイツの店にはケーキはないから持ち込ませてもらおうと思って。どうせなら作りたい」
「朝霞クンがケーキ作りってイメージにないけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないと思ったからお前に特訓してもらいたいんだ。ほら、お前、料理もお菓子作りも上手いだろ。俺のツテでケーキ作りの指導を頼めそうなのがお前しかいないっていうのもあって」
「あれっ、朝霞クンとちーの共通の友達にいなかったっけ、お菓子作りすごく上手な子。桜柄のロールケーキ作ってた子いたでしょ」
「仮にもお前、パーティーに呼ぼうとしてる奴に頼めるかよ」
「あっ、山口クンの友達でもあるんだね」
「カズは山口をヒーローだっつって仰いでるからな。まあ、高校サッカーを追ってた奴からしたらヒーローだよなあ。それはともかく、ご指導お願いできますか」
「……わかりました! 伏見あずさ、一肌脱ぎましょう!」
「ありがとうございます!」
お菓子作りはあたしの得意なことだし、それで朝霞クンの役に立てるなら、それで朝霞クンと一緒にいられるなら喜んで協力しましょう! ありがとう、よろしくお願いしますとあたしの手を強く握って来る朝霞クンが、よほどこの件に本気なんだなと。くーっ、いいなあ山口クン。
「それで、どんなケーキにする?」
「えっと、大きさはそんな大きくないのをイメージしてるんだ」
「そしたら4号くらいがいいかな」
「4号ってセンチで言うとどれくらいだ?」
「12センチだね。ケーキの号数は3センチ毎に大きくなってくんだよ。1号は1寸で」
「ああ、なるほど。12センチか。それくらいがいいな、そうしよう」
「そしたら、どういうケーキにしようか。よくある誕生日ケーキとか、タルトにロールケーキに、いろいろあるけど」
「よくあるケーキで、アイツはそこまで甘いの食ってる印象もないから甘さ控えめで、フルーツを使いたい。パイナップルとか、そういうの」
「ふんふん」
イメージとしては、と朝霞クンは絵を描き始めた。よくある誕生日ケーキの外観と、こういう感じでフルーツが挟まれていて、という断面図。って言うか絵も上手いんだもんなあ。完成図のイメージが本当にわかりやすくて、指導方針が立てやすい。
「まず、製菓はちゃんと材料を量るのが基本ね。普通の料理はちょっとくらいいい加減でも大丈夫だけど、お菓子作りはちゃんとしないと失敗しやすいの」
「量るための道具なんかうちにあったかな」
「大丈夫。あたしのキッチンスケール貸してあげるし、大さじとか小さじは100均にもあるから」
「キッチンスケール?」
「はかりのことだよ」
「へえ、カタカナで言うとそうなるんだな」
「さっそくだけど、いつから練習する?」
「えっと……なる早でお願い出来ますか。明日にでも始めたいなと」
「わかった。レシピ探すし材料揃えて明日また来るね」
「本当にありがとう。この恩は必ず返します」
「いいっていいってそんなの! 山口クンに喜んでもらえるように頑張ろうね朝霞クン!」
全くの料理初心者の朝霞クンが、5人に増えたいくらいの作業量の中でどこまで練習出来るかだけど、きっとやってくれるはず。あたしも朝霞クンの想いに応えられるように、指導をビシバシ頑張らないと。
end.
++++
朝霞Pがケーキ作りの特訓を頼むのはやっぱりふしみんよ。あといち氏がおるけどいち氏はあんま現実的じゃないわね
洋朝本参照、光属性短編「22歳のワンデー・プラン」に繋がる話なので、ここに向けた朝霞Pもただただキラキラ眩しいヤツ。
果たして朝霞Pの特訓やいかに! あんまり器用ではなさそうだからなあ。1回くらいは失敗して欲しいなあ。
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「伏見、お前に頼みたいことがある」
「うん、どうしたの?」
「俺に、ケーキ作りを教えてくれないか」
「ケーキ!?」
突然朝霞クンがそんなことを言いだすから、本当にビックリした。あたしの中で、朝霞クンが料理をするっていうイメージはひとつもない。家ではスーパーやコンビニで買えるお惣菜がメインだし、外食も結構多いような気がする。
付き合う前から朝霞クンに作ってた料理も、こんなちゃんとしたご飯をこの部屋で食べることなんかそうそうないって言ってたもんね。ハルちゃんの作るプチメゾンのごはんが貴重な家庭料理みたくって。その朝霞クンが、料理を通り越して、製菓!?
「ケーキ作りなんて、急にどうしたの?」
「ちょっとこれは誰にも内緒にしといて欲しいんだけど」
「うん、大丈夫。言わない言わない」
「今月の22日が山口の誕生日なんだよ。あっ、山口はわかるよな」
「朝霞クンの友達のね」
「親友のな。アイツは今まで俺の誕生日を毎年祝っててくれたんだけど、俺はアイツの誕生日をガン無視してたワケだ。毎年この時期の俺はステージの台本を書くことが第一で、誕生日なんかステージに何の益をもたらすんだと。当然、アイツの祝ってくれてる俺の誕生日なんか丸の池の直前だから、そんな事やってんなっつってぶん殴るのが基本な」
「祝ってくれる人をぶん殴る……知ってたけど、朝霞クンてそういう人だよね……うん」
「だけど今年は部活も引退したし、今までのお礼と謝罪と、これからもよろしく的な意味を込めて丸1日かけた誕生日イベントをやろうと思ってるんだ」
山口クンがバイトしてるお店を貸し切ってパーティーをやりたいとか、サプライズでプレゼントを用意したりとかって、朝霞クンはいろいろ企画を考えてるみたい。車でドライブすることも考えてるって。計画を話す朝霞クンが本当に楽しそうで。
正直そこまで朝霞クンに想われてる山口クンにはちょっと妬いちゃうんだけど、それは積み重ねた時間と質がそうさせるんだろうから、あたしはこれから頑張ろうって。友達っていうのを「親友のな」って訂正するところがね。あたしのことは彼女って言ってくれますか!?
「それで、ケーキをだな。アイツの店にはケーキはないから持ち込ませてもらおうと思って。どうせなら作りたい」
「朝霞クンがケーキ作りってイメージにないけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないと思ったからお前に特訓してもらいたいんだ。ほら、お前、料理もお菓子作りも上手いだろ。俺のツテでケーキ作りの指導を頼めそうなのがお前しかいないっていうのもあって」
「あれっ、朝霞クンとちーの共通の友達にいなかったっけ、お菓子作りすごく上手な子。桜柄のロールケーキ作ってた子いたでしょ」
「仮にもお前、パーティーに呼ぼうとしてる奴に頼めるかよ」
「あっ、山口クンの友達でもあるんだね」
「カズは山口をヒーローだっつって仰いでるからな。まあ、高校サッカーを追ってた奴からしたらヒーローだよなあ。それはともかく、ご指導お願いできますか」
「……わかりました! 伏見あずさ、一肌脱ぎましょう!」
「ありがとうございます!」
お菓子作りはあたしの得意なことだし、それで朝霞クンの役に立てるなら、それで朝霞クンと一緒にいられるなら喜んで協力しましょう! ありがとう、よろしくお願いしますとあたしの手を強く握って来る朝霞クンが、よほどこの件に本気なんだなと。くーっ、いいなあ山口クン。
「それで、どんなケーキにする?」
「えっと、大きさはそんな大きくないのをイメージしてるんだ」
「そしたら4号くらいがいいかな」
「4号ってセンチで言うとどれくらいだ?」
「12センチだね。ケーキの号数は3センチ毎に大きくなってくんだよ。1号は1寸で」
「ああ、なるほど。12センチか。それくらいがいいな、そうしよう」
「そしたら、どういうケーキにしようか。よくある誕生日ケーキとか、タルトにロールケーキに、いろいろあるけど」
「よくあるケーキで、アイツはそこまで甘いの食ってる印象もないから甘さ控えめで、フルーツを使いたい。パイナップルとか、そういうの」
「ふんふん」
イメージとしては、と朝霞クンは絵を描き始めた。よくある誕生日ケーキの外観と、こういう感じでフルーツが挟まれていて、という断面図。って言うか絵も上手いんだもんなあ。完成図のイメージが本当にわかりやすくて、指導方針が立てやすい。
「まず、製菓はちゃんと材料を量るのが基本ね。普通の料理はちょっとくらいいい加減でも大丈夫だけど、お菓子作りはちゃんとしないと失敗しやすいの」
「量るための道具なんかうちにあったかな」
「大丈夫。あたしのキッチンスケール貸してあげるし、大さじとか小さじは100均にもあるから」
「キッチンスケール?」
「はかりのことだよ」
「へえ、カタカナで言うとそうなるんだな」
「さっそくだけど、いつから練習する?」
「えっと……なる早でお願い出来ますか。明日にでも始めたいなと」
「わかった。レシピ探すし材料揃えて明日また来るね」
「本当にありがとう。この恩は必ず返します」
「いいっていいってそんなの! 山口クンに喜んでもらえるように頑張ろうね朝霞クン!」
全くの料理初心者の朝霞クンが、5人に増えたいくらいの作業量の中でどこまで練習出来るかだけど、きっとやってくれるはず。あたしも朝霞クンの想いに応えられるように、指導をビシバシ頑張らないと。
end.
++++
朝霞Pがケーキ作りの特訓を頼むのはやっぱりふしみんよ。あといち氏がおるけどいち氏はあんま現実的じゃないわね
洋朝本参照、光属性短編「22歳のワンデー・プラン」に繋がる話なので、ここに向けた朝霞Pもただただキラキラ眩しいヤツ。
果たして朝霞Pの特訓やいかに! あんまり器用ではなさそうだからなあ。1回くらいは失敗して欲しいなあ。
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