2020
■ラストロールケーキ争奪戦
++++
「あっ、すがやーん!」
「おっ、くるみ! おっす! お前も今からサークル室行くだろ?」
「うん! でもその前にコンビニ行って甘いものでも買って来ようかなーって」
「いいじゃん、俺も何か飲むモン買おうかな」
緑ヶ丘大学は大きな大学だから、購買の他にも普通にコンビニがあったりして、その日の気分によっていろいろ選べて楽しいなって。今日は授業がちょっと難しくて頭をいーっぱい使ったから、サークルの前に甘いものが食べたい。そこで会ったすがやんこと菅谷徹平くんと一緒にコンビニへ。
第2学食のカフェテリアの他にもカフェがあるんだけど、そういうところのケーキって言うよりは、コンビニスイーツがいいなって。あたしはコンビニスイーツが好きで、将来はそういうのの開発か広報がしたいとも思ってる。だからってワケじゃなくて、普通に甘いものが好きでいっぱい食べるんだけど。
「くるみ甘いモンって今日は何食うんだ?」
「何にしようかなー。エクレアにしようかな、ロールケーキにしようかな。決めた! ロールケーキにしよーっと。ぐるぐるぐるぐるふわっふわっ」
「俺はレモンティーでも買ってくかなー」
「あっ、レモンティーさわやかでいいよねー」
コンビニに入って、すがやんのレモンティーの次にスイーツのコーナーへ。ロールケーキを食べるつもりでいるけど、どうしようかな、他にもいろいろ美味しいのがあるからな。でもロールケーキって決めたもんね。
「あ、あーっ! ロールケーキがない!」
「まあ、そんなこともあるって。安くて美味いもんな」
「えー、でもあたしは口がもうロールケーキになってたんだよ~! うずうずうずうずぐーるぐる、うずうずうずうずぐーるぐる」
「こんな時でも歌うのな」
「気持ちを率直に表現する手段なんだよー。でもなー。うずうずうずうず……」
「能天気な歌が聞こえて来たと思ったら、やっぱりお前か」
その声の方を振り向くと、そこにいたのは4年生の高崎先輩。手に持たれてるのは紙パックのコーヒー牛乳とサラダチキン、それから千切りキャベツ。
「あっ! 高崎先輩! あ、あーっ!?」
「あ?」
「ロールケーキ!」
「ああ、最後の1個だな」
「ウソー! あたしのー!」
「知るかよ」
高崎先輩の買い物の中に見えるロールケーキに、あたしはその腕をゆさゆさと揺すってた。いいな、いいなーって。陳列棚にはエクレアや、他の甘い物もいっぱいあるけど、今はロールケーキが一番食べたくって仕方なかったから。
「あと、今の歌は能天気なテンションじゃなくて、悲しい歌ですから!」
「高崎先輩も甘いモンが好きなんすか?」
「ああ、まあ、好きだな」
「えー! でも、他の物になりません? ほら、ロールケーキと交換しましょう!」
「お前が他の物で妥協すればいい話じゃねえか」
「だって~、ロールケーキが食べたいんですも~ん」
「俺は先週ソースカツ丼が食いたかったが、どっかの誰かが直前でラス1を掻っ攫ってったから妥協して揚げ鶏丼にしたんだけどなあ」
「うっ…!」
「ソースカツ丼を掻っ攫ってった張本人は、俺が食いたかったことなんか知らなかったんですもんとか何とかってほざいてたように思うけどなあ。あーあ」
「もー! いいじゃないですかー!」
先週、今のこれと全く同じことを、逆の立場でやってるんだよね。あたしが買ったラスト1個のソースカツ丼は、高崎先輩が食べたいなって思ってたもので。あたしが食べたいロールケーキのラスト1個を、今は高崎先輩が持っていて。
正直そんなことは買うタイミングの話だからどうしようもないっていうのはわかってる。だけどあと一歩で手が届かなかった悔しさだとか、話せば何とかなりそうな相手だっていうところがしがみつかせちゃうワケで。
「うう……でも、ロールケーキ食べたかったよー」
「そんなにロールケーキが食いたいなら第1学食の上にでも行けばいいじゃねえか」
「えっ、第1学食にロールケーキがあるんですか!?」
「2階な。量り売りの逆サイドの方に第1学食のテイクアウト丼とかドリンクとかが売ってる陳列棚があって、ケーキ類もそこにある」
「えー、そうなんですかー!」
「量り売りなんてあるんすねー」
「何だお前ら、量り売りの弁当食ったことないのか」
「第2学食ばっかりでしたよー」
「結構美味いから食ってみたらいいぞ。個人的には和食系の惣菜がお勧めだ」
「ねえすがやん、今度量り売りのごはん食べてみようよ!」
「いいな、行こうぜ!」
高崎先輩はさらにエクレアを買い物に追加して会計を済ませた。それから、レモンティーしか買わないすがやんもサッとレジを終わらせる。うーん、あたしは何を食べよう。第1学食に行ってみる? そんな風に悶々と考えていたら。
「ほら」
「え」
「ロールケーキ。食いてえんだろ」
「えっ、でもそんな! いいんですか!? 高崎先輩もロールケーキ食べたかったんですよね?」
「どうせ俺は帰って街に出る予定だったんだ。お前らしばらく大学構内にいるんだろ。わかったらこれ以上ぎゃあぎゃあ言うな」
「ありがとうございます!」
思いがけない形で手元にやってきたロールケーキ。高崎先輩にはちょっと悪いことをしちゃったかなって気持ちもあるけど、せっかくもらった物だから、美味しく食べなくっちゃ!
「何か不愛想で怖そうだったけど悪い人じゃなさそうだな、高崎先輩って」
「きっといい人だよ! 先輩たちにどんな人だったか聞いてみようよ!」
end.
++++
すがくるちゃんの試験運転に高崎を加えて。すがやんはまだまだこれからのキャラですね。今回はくるちゃんの話なので。
さて、ソースカツ丼の因縁からしばらくして、今度は高崎がラス1のロールケーキを掻っ攫ってったんですが、アンタその気になれば1本丸ごと作らせるじゃない
この件を聞いたMBCC2・3年生たちはどんな反応をするんでしょうかね……意外に果林とLは「まあそういうトコあるよね」って感じで納得するかもだけど。
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「あっ、すがやーん!」
「おっ、くるみ! おっす! お前も今からサークル室行くだろ?」
「うん! でもその前にコンビニ行って甘いものでも買って来ようかなーって」
「いいじゃん、俺も何か飲むモン買おうかな」
緑ヶ丘大学は大きな大学だから、購買の他にも普通にコンビニがあったりして、その日の気分によっていろいろ選べて楽しいなって。今日は授業がちょっと難しくて頭をいーっぱい使ったから、サークルの前に甘いものが食べたい。そこで会ったすがやんこと菅谷徹平くんと一緒にコンビニへ。
第2学食のカフェテリアの他にもカフェがあるんだけど、そういうところのケーキって言うよりは、コンビニスイーツがいいなって。あたしはコンビニスイーツが好きで、将来はそういうのの開発か広報がしたいとも思ってる。だからってワケじゃなくて、普通に甘いものが好きでいっぱい食べるんだけど。
「くるみ甘いモンって今日は何食うんだ?」
「何にしようかなー。エクレアにしようかな、ロールケーキにしようかな。決めた! ロールケーキにしよーっと。ぐるぐるぐるぐるふわっふわっ」
「俺はレモンティーでも買ってくかなー」
「あっ、レモンティーさわやかでいいよねー」
コンビニに入って、すがやんのレモンティーの次にスイーツのコーナーへ。ロールケーキを食べるつもりでいるけど、どうしようかな、他にもいろいろ美味しいのがあるからな。でもロールケーキって決めたもんね。
「あ、あーっ! ロールケーキがない!」
「まあ、そんなこともあるって。安くて美味いもんな」
「えー、でもあたしは口がもうロールケーキになってたんだよ~! うずうずうずうずぐーるぐる、うずうずうずうずぐーるぐる」
「こんな時でも歌うのな」
「気持ちを率直に表現する手段なんだよー。でもなー。うずうずうずうず……」
「能天気な歌が聞こえて来たと思ったら、やっぱりお前か」
その声の方を振り向くと、そこにいたのは4年生の高崎先輩。手に持たれてるのは紙パックのコーヒー牛乳とサラダチキン、それから千切りキャベツ。
「あっ! 高崎先輩! あ、あーっ!?」
「あ?」
「ロールケーキ!」
「ああ、最後の1個だな」
「ウソー! あたしのー!」
「知るかよ」
高崎先輩の買い物の中に見えるロールケーキに、あたしはその腕をゆさゆさと揺すってた。いいな、いいなーって。陳列棚にはエクレアや、他の甘い物もいっぱいあるけど、今はロールケーキが一番食べたくって仕方なかったから。
「あと、今の歌は能天気なテンションじゃなくて、悲しい歌ですから!」
「高崎先輩も甘いモンが好きなんすか?」
「ああ、まあ、好きだな」
「えー! でも、他の物になりません? ほら、ロールケーキと交換しましょう!」
「お前が他の物で妥協すればいい話じゃねえか」
「だって~、ロールケーキが食べたいんですも~ん」
「俺は先週ソースカツ丼が食いたかったが、どっかの誰かが直前でラス1を掻っ攫ってったから妥協して揚げ鶏丼にしたんだけどなあ」
「うっ…!」
「ソースカツ丼を掻っ攫ってった張本人は、俺が食いたかったことなんか知らなかったんですもんとか何とかってほざいてたように思うけどなあ。あーあ」
「もー! いいじゃないですかー!」
先週、今のこれと全く同じことを、逆の立場でやってるんだよね。あたしが買ったラスト1個のソースカツ丼は、高崎先輩が食べたいなって思ってたもので。あたしが食べたいロールケーキのラスト1個を、今は高崎先輩が持っていて。
正直そんなことは買うタイミングの話だからどうしようもないっていうのはわかってる。だけどあと一歩で手が届かなかった悔しさだとか、話せば何とかなりそうな相手だっていうところがしがみつかせちゃうワケで。
「うう……でも、ロールケーキ食べたかったよー」
「そんなにロールケーキが食いたいなら第1学食の上にでも行けばいいじゃねえか」
「えっ、第1学食にロールケーキがあるんですか!?」
「2階な。量り売りの逆サイドの方に第1学食のテイクアウト丼とかドリンクとかが売ってる陳列棚があって、ケーキ類もそこにある」
「えー、そうなんですかー!」
「量り売りなんてあるんすねー」
「何だお前ら、量り売りの弁当食ったことないのか」
「第2学食ばっかりでしたよー」
「結構美味いから食ってみたらいいぞ。個人的には和食系の惣菜がお勧めだ」
「ねえすがやん、今度量り売りのごはん食べてみようよ!」
「いいな、行こうぜ!」
高崎先輩はさらにエクレアを買い物に追加して会計を済ませた。それから、レモンティーしか買わないすがやんもサッとレジを終わらせる。うーん、あたしは何を食べよう。第1学食に行ってみる? そんな風に悶々と考えていたら。
「ほら」
「え」
「ロールケーキ。食いてえんだろ」
「えっ、でもそんな! いいんですか!? 高崎先輩もロールケーキ食べたかったんですよね?」
「どうせ俺は帰って街に出る予定だったんだ。お前らしばらく大学構内にいるんだろ。わかったらこれ以上ぎゃあぎゃあ言うな」
「ありがとうございます!」
思いがけない形で手元にやってきたロールケーキ。高崎先輩にはちょっと悪いことをしちゃったかなって気持ちもあるけど、せっかくもらった物だから、美味しく食べなくっちゃ!
「何か不愛想で怖そうだったけど悪い人じゃなさそうだな、高崎先輩って」
「きっといい人だよ! 先輩たちにどんな人だったか聞いてみようよ!」
end.
++++
すがくるちゃんの試験運転に高崎を加えて。すがやんはまだまだこれからのキャラですね。今回はくるちゃんの話なので。
さて、ソースカツ丼の因縁からしばらくして、今度は高崎がラス1のロールケーキを掻っ攫ってったんですが、アンタその気になれば1本丸ごと作らせるじゃない
この件を聞いたMBCC2・3年生たちはどんな反応をするんでしょうかね……意外に果林とLは「まあそういうトコあるよね」って感じで納得するかもだけど。
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