2020
■前線に立つタイミング
＋＋＋＋
「あ」
５月末の土曜、植物園に足を運ぶとミドリとバッタリ鉢合わせた。きっとここに来ている目的は同じだろう。ここで今日催されるのは青女のサークルがやってる子供を対象にしたステージイベントだ。俺は直から良ければ見に来てと誘われてやってきたんだ。
「Ｌ先輩。お疲れさまです」
「よっ。ミドリも青女のステージを見に来たのか」
「そうですね。ユキちゃんから「めちゃくちゃ頑張ったから絶対見に来て！」って念を押されてまして」
「ユキがめちゃくちゃ頑張ってるっていうのは俺も直から聞いてたし、どんなんなってんだろうな」
それぞれ青女に彼女がいる者同士、話が通じるのもまた早い。それから俺たちも、直もユキも定例会の人間だから、その繋がりの応援という見方も一応は出来るけど、俺は定例会議長としての視察と言うよりは普通に直の応援だな。
青女の植物園ステージは、２年生が主体となって企画する。今年は企画運営をユキがほぼ１人で担当していて、Ｋちゃんのサポートもあったと言え台本を書くのを毎日頑張っていたと。おまけに自分もMCとして壇上に立つからその練習もしなければならない。サドニナが当てにならないから自分でやらなきゃと。
一応、サドニナも一旦ステージに立ってしまえばそれなりにやるんだけど、そこに至るまでがとにかくイライラするらしい。練習する素振りもなく歌ってばかりで、衣装の細部に至るまでリクエストを出すなどそれはもう好き放題。それでどうして本番がそれなりになるのかは青女の七不思議だそうだ。
「ユキちゃんからサドニナに対する愚痴をこれでもかって聞かされてましたしねー……」
「あはは。青女での様子が話の通りなら、愚痴のひとつも出るよな」
「練習してないのに何で出来るんだろうって不思議がってましたもん」
「実は密かにやってんのかな」
「家ではアニメ見るのに忙しくしてるっていう話ですけどね。本当はどうなんでしょう」
一応まだ時間前。ここでやりますよと示された場所に近付くと、ステージの周りには親子連れがいくらか既に集まっていて、子供がきゃいきゃいとしている声が反響して広がる。俺たちはあんまり邪魔にならない場所で見守ることにしようと少し離れた場所のベンチに陣取った。
例年通りだと直は着ぐるみの中に入ってるんだけど、今年はわかばのサポートがあるから生身でいるそうだ。実は、植物園ステージを生身で迎えるのが初めてで緊張するという相談を受けていた。直はミキサーだから実際壇上に立つワケではないのにだ。
「着ぐるみの中と外だと見え方ってやっぱり違うんですかねー」
「どうだろうな。俺、着ぐるみなんか着たことないからどうにもわかんなくてさ」
「そうですよね。俺だってわかんないですもん。あっ、着ぐるみの中だと見える範囲が違うとかですかね」
「あー、なるほどな。見える範囲のことだけに集中出来ると言えば出来るのかな」
実は去年のステージも見に来てたんだけど、その時はこの季節にあんなの着て大変だなって思ってスポーツドリンクを差し入れてた。今年は今年でリラックス効果のある飲み物を差し入れた。GABAが入ってるようなヤツを。
そんなことを喋ってるうちに、ステージ上にはサドニナとユキ。それから着ぐるみのウサギ。ウサギ？ えっ!? 直は、ミキサー席の方にいる。えっ、それじゃああの中身は誰だ？ いよいよステージが始まるようだけど。
「あれっ。Ｌ先輩、着ぐるみいますよ」
「いや、中身は直じゃねーな。えっ、マジで誰だ？」
「誰がいないんでしょう」
「青女の行事だしワンチャン向島の可能性もあるけど、さすがに２年生主動でそれはないか」
「３年生主動だったら向島さんの可能性があったんですか？」
「去年とか、普通に向島勢が裏方として駆り出されてた。Ｋちゃんの圧力で」
「あ、あー……まあ、深くは突っ込まない方がいいところなんでしょうね」
テレビの幼児番組のような感じで、にいなお姉さんとみゆきお姉さんが子供たちに挨拶をしている。子供たちのこーんにーちはーという声が、ショッピングモールとかでよくあるヒーローショーみたいな、ああいう風景を思い起こさせる。
「うわー……でも、すごいなあ。青女さんは、これを２年生が主体となってやってるんですよね。俺なんてまだ何にも出来てないのに、凄いなあ」
「俺も去年思った」
「そうなんですねー。ちなみに、去年はどういうきっかけでステージを見に来たんですか？」
「直から誘われたのもそうだったけど、カズ先輩から言われてたんだよ。「今いる３人で来期のインターフェイスを引っ張って行かなきゃいけない。この３人なら、誰が先頭に立つのか」って。当時定例会にハマちゃんがいなかったからさ、俺と直とテルの３人だけで。暗に俺が次期定例会の要職に就くんだって言われて、その時の俺に出来ることっつったら、いろいろ見て回ることかなって思ったんだ」
「来期の定例会かー……」
「正直、この先２、３年は向島に期待出来ない以上、そろそろ他の大学にも要職が回ってもいい頃合いだとは思うんだよな。逆に言えば、今までがウチと向島に偏り過ぎてた。っとっと、今はそんな話をする場じゃなかったな」
子供たちがきゃいきゃいと楽しそうにしている様子を見ると、本当によくやってるよなあと思う。単純に、凄いなあという気持ちだ。別に、これからは活動の場がラジオに限らなくたって全然アリなんだよなあ。
「あ。Ｌ先輩、もしかして、ウサギの中身ってＫちゃん先輩なんじゃないですか？」
「まさか。え、まさか、な…？」
end.
＋＋＋＋
青女の植物園ステージ当日、見学に来た彼氏たちの一コマです。ユキちゃん、結構強めにお願いしてたのね。
そして青女の七不思議にカウントされたサドニナである。練習してないように見せかけて実際は練習……多分してないな
この先２、３年は向島に期待出来ないって言っちゃったＬである。実際そうだけど、ダメそうなところに期待しないっていうのは現実的ね。
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＋＋＋＋
「あ」
５月末の土曜、植物園に足を運ぶとミドリとバッタリ鉢合わせた。きっとここに来ている目的は同じだろう。ここで今日催されるのは青女のサークルがやってる子供を対象にしたステージイベントだ。俺は直から良ければ見に来てと誘われてやってきたんだ。
「Ｌ先輩。お疲れさまです」
「よっ。ミドリも青女のステージを見に来たのか」
「そうですね。ユキちゃんから「めちゃくちゃ頑張ったから絶対見に来て！」って念を押されてまして」
「ユキがめちゃくちゃ頑張ってるっていうのは俺も直から聞いてたし、どんなんなってんだろうな」
それぞれ青女に彼女がいる者同士、話が通じるのもまた早い。それから俺たちも、直もユキも定例会の人間だから、その繋がりの応援という見方も一応は出来るけど、俺は定例会議長としての視察と言うよりは普通に直の応援だな。
青女の植物園ステージは、２年生が主体となって企画する。今年は企画運営をユキがほぼ１人で担当していて、Ｋちゃんのサポートもあったと言え台本を書くのを毎日頑張っていたと。おまけに自分もMCとして壇上に立つからその練習もしなければならない。サドニナが当てにならないから自分でやらなきゃと。
一応、サドニナも一旦ステージに立ってしまえばそれなりにやるんだけど、そこに至るまでがとにかくイライラするらしい。練習する素振りもなく歌ってばかりで、衣装の細部に至るまでリクエストを出すなどそれはもう好き放題。それでどうして本番がそれなりになるのかは青女の七不思議だそうだ。
「ユキちゃんからサドニナに対する愚痴をこれでもかって聞かされてましたしねー……」
「あはは。青女での様子が話の通りなら、愚痴のひとつも出るよな」
「練習してないのに何で出来るんだろうって不思議がってましたもん」
「実は密かにやってんのかな」
「家ではアニメ見るのに忙しくしてるっていう話ですけどね。本当はどうなんでしょう」
一応まだ時間前。ここでやりますよと示された場所に近付くと、ステージの周りには親子連れがいくらか既に集まっていて、子供がきゃいきゃいとしている声が反響して広がる。俺たちはあんまり邪魔にならない場所で見守ることにしようと少し離れた場所のベンチに陣取った。
例年通りだと直は着ぐるみの中に入ってるんだけど、今年はわかばのサポートがあるから生身でいるそうだ。実は、植物園ステージを生身で迎えるのが初めてで緊張するという相談を受けていた。直はミキサーだから実際壇上に立つワケではないのにだ。
「着ぐるみの中と外だと見え方ってやっぱり違うんですかねー」
「どうだろうな。俺、着ぐるみなんか着たことないからどうにもわかんなくてさ」
「そうですよね。俺だってわかんないですもん。あっ、着ぐるみの中だと見える範囲が違うとかですかね」
「あー、なるほどな。見える範囲のことだけに集中出来ると言えば出来るのかな」
実は去年のステージも見に来てたんだけど、その時はこの季節にあんなの着て大変だなって思ってスポーツドリンクを差し入れてた。今年は今年でリラックス効果のある飲み物を差し入れた。GABAが入ってるようなヤツを。
そんなことを喋ってるうちに、ステージ上にはサドニナとユキ。それから着ぐるみのウサギ。ウサギ？ えっ!? 直は、ミキサー席の方にいる。えっ、それじゃああの中身は誰だ？ いよいよステージが始まるようだけど。
「あれっ。Ｌ先輩、着ぐるみいますよ」
「いや、中身は直じゃねーな。えっ、マジで誰だ？」
「誰がいないんでしょう」
「青女の行事だしワンチャン向島の可能性もあるけど、さすがに２年生主動でそれはないか」
「３年生主動だったら向島さんの可能性があったんですか？」
「去年とか、普通に向島勢が裏方として駆り出されてた。Ｋちゃんの圧力で」
「あ、あー……まあ、深くは突っ込まない方がいいところなんでしょうね」
テレビの幼児番組のような感じで、にいなお姉さんとみゆきお姉さんが子供たちに挨拶をしている。子供たちのこーんにーちはーという声が、ショッピングモールとかでよくあるヒーローショーみたいな、ああいう風景を思い起こさせる。
「うわー……でも、すごいなあ。青女さんは、これを２年生が主体となってやってるんですよね。俺なんてまだ何にも出来てないのに、凄いなあ」
「俺も去年思った」
「そうなんですねー。ちなみに、去年はどういうきっかけでステージを見に来たんですか？」
「直から誘われたのもそうだったけど、カズ先輩から言われてたんだよ。「今いる３人で来期のインターフェイスを引っ張って行かなきゃいけない。この３人なら、誰が先頭に立つのか」って。当時定例会にハマちゃんがいなかったからさ、俺と直とテルの３人だけで。暗に俺が次期定例会の要職に就くんだって言われて、その時の俺に出来ることっつったら、いろいろ見て回ることかなって思ったんだ」
「来期の定例会かー……」
「正直、この先２、３年は向島に期待出来ない以上、そろそろ他の大学にも要職が回ってもいい頃合いだとは思うんだよな。逆に言えば、今までがウチと向島に偏り過ぎてた。っとっと、今はそんな話をする場じゃなかったな」
子供たちがきゃいきゃいと楽しそうにしている様子を見ると、本当によくやってるよなあと思う。単純に、凄いなあという気持ちだ。別に、これからは活動の場がラジオに限らなくたって全然アリなんだよなあ。
「あ。Ｌ先輩、もしかして、ウサギの中身ってＫちゃん先輩なんじゃないですか？」
「まさか。え、まさか、な…？」
end.
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青女の植物園ステージ当日、見学に来た彼氏たちの一コマです。ユキちゃん、結構強めにお願いしてたのね。
そして青女の七不思議にカウントされたサドニナである。練習してないように見せかけて実際は練習……多分してないな
この先２、３年は向島に期待出来ないって言っちゃったＬである。実際そうだけど、ダメそうなところに期待しないっていうのは現実的ね。
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