2017(02)

■心が震えるエネルギー

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「なーつきー! 遊びに来たぞー」
「おー、真希ー! ってか黒っ!」

 真希が買って来てくれたレモンフレーバーの炭酸水を開けて、何もないところでおもてなし。真希は同じ学科の友達で、だからと言ってあんまりベタベタとはしないけど、たまにご飯を食べたりする間柄。ほっといてくれるところが心地いい。
 夏は互いに用事があったりしてなかなか都合が合わなかったんだけど、真希は向舞祭、うちは夏合宿が終わって落ち着いたということもあって帰省前に1回遊んでおこうと。

「向舞祭で踊る方で出てたとか本当にしんどそうだ。MCなのに死んでる男を見てたから尚更」
「私は普段から動いてるし食べてるから。圭斗さんは動くためのエネルギーがまず足りてない」
「間違いない」
「で、何する。バドミントンでもやるか」
「えー、暑い。日中にやるモンじゃないだろ」
「影があるから大丈夫!」

 うちは暑いのはイヤだし、眩しいのもイヤだから日中に外なんか出たくない。否応なしに動ける格好に着替えさせられ、バドミントンを本当にやるのかと。サークル上がりで来ているとは言え、本当によくやるなと。
 連れて来られたのは、入り組んだ道を入って行ったところにある広場。周りが林で影が多い。近所なのにこんな場所があるなんて全然知らなかったけど、知る人ぞ知る場所らしい。

「いくぞー」
「お~」

 スコン、スコンとラリーをしていくけど、ちょっと動くとすぐに汗が出る。まだまだ残暑が厳しい。首にタオルを巻いても意味ないんじゃないかって感じ。

「あー、疲れた」
「菜月は引きこもりなんだからたまに運動しないと」
「やるなら夜がいい。昼はイヤだ」
「日光を浴びないと腐るぞ」

 木の下で炭酸水を飲んでしばしの休憩。日中からこんなに激しい動きなんて無理だ。汗をかいたら前髪だって残念なことになるし。そんなうちを真希は呆れたような顔で見てるけど、何だかんだ付き合ってくれる。
 すると、ガサッと草木の揺れる音。風で揺れるのとは違う何かの気配。それにビックリして振り返ると、男がいた。多分この辺に住んでる向島大学の学生だろうけど。まあ、知る人ぞ知る場所だから、人くらい来るか。

「あー? 何か人がいんなと思ったら真希か」
「相変わらず貧相な面だなあマエトモは。またパチスロ負けたか」
「うっせーわ、今回はそこまで負けてねーわ」
「ん?」
「ああ、バドサーの同期の前原。そこのコンビニの裏に住んでるんだよ」
「前原でーす。あ、俺にお構いなく、続けてもらって」

 そう言えば、休憩に入って結構な時間が立っていた。再び立ち上がって、簡単なラリーを。ちなみにうちのことは真希が紹介しといてくれた。

「つーか奥村さん上手っすけど経験者すか」
「いや、素人だ」
「経験者から教えてもらったこととかは――って、真希か」
「いや、菜月は私が教える前から下手な経験者より上手かった」
「地元の悪友が中学でバドやってて、ソイツから軽く教えてもらった程度かな。同じ左だから飲み込みやすかったのかもしれない」
「へぇー。地元どこ?」
「緑風」
「マジすか! 俺も緑風! えっ、緑風のどこ!?」

 どうやらこの前原もうちと同じ緑風の出身らしい。地元あるあるで盛り上がるかと思いきや、住んでいる町自体は近くも何ともないからそこまで話は弾まなかった。
 ただ、前原はもうひとつ食いついて来た。うちにラケットの扱い方などを教えた悪友についてだ。前原もちゃんとバドミントンをやっていたそうで、名前を聞けばわかるかもしれないから、と。

「中学2年と3年の時にエリア大会で同じ奴と当たっててさ、左利きの。一番しんどい試合だったから今でもめっちゃ覚えてんだって。もしかしたらって思って。奥村さんの師匠、何て子?」
「橘亮介。大鐘西部の」
「あ~、そうそう橘亮介。高校じゃやってなかったよね?」
「高校は帰宅部だった」
「そうなんだ。会う機会があったらよろしく」
「多分年末まで会わないけど」
「さすが菜月、安定の引きこもりだな」
「真希ウルサイ」

 うちのラケットの扱い方が亮介仕込みだとわかったら、前原は自分とラリーをしようと乗り気の様子。だけどうちはもう疲れたんだ。暑いし、日中だし。
 こんな中でもバリバリで動いてる連中は本当に元気だなと思う。圭斗まではいかないけど、うちもヤバイ域まで来てるのか、もしかして。あっダメ、恐怖で震える。


end.


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去年の年末にチラッと出てきた菜月さんの悪友の件。今年度は少し早めに存在をほのめかし、前原さんとの接点も作ってみました。
しかし、引きこもりで太陽の出ている日中が大嫌いな菜月さんをお外に引っ張り出すことの出来る真希ちゃん強すぎる
秋学期にも真希ちゃんやら前原さんやらとぎゃあぎゃあやらせたいし、前原さんが来たのでそろそろバンデン来いよ!

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