2020

■MCのメッキ

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「ゴローさん、初心者講習会ってどういうことするんですか」
「あっ、まだ説明してなかったっけ」
「そうですね。そういう行事があるとは聞いてますけど、詳しくはあんまり」
「インターフェイスはウチを含めて6校で活動してるんだけど、基本的にはその1年生を対象にインターフェイスでやってる学生ラジオの基本とか、ラジオだけじゃなくて、人に対して発信することの心構えみたいなことを学んでおこうっていう行事だね」
「ステージにも関係するんですね」
「そうだね。ラジオの話が基本だけどステージにも生かせる内容だし、他校に友達も出来るし楽しかったよ。今年も上手く行くように頑張ってるよ」

 戸田班に入って来た1年生3人は、部活に来る度練習に一生懸命だなって思う。部活棟の談話室を借りて練習するようになってから、自前の機材なのもあってやりたい放題だし本当に楽しい。正直、今までは思うように練習出来てなかったし。
 3人はインターフェイスの行事にも興味があるみたいで、初心者講習会には参加しますと返事をもらっていた。だけど詳しいことはあんまり聞いてなかったみたいだ。そこは俺が対策委員として補足説明をしていく。

「星ヶ丘を除く5校にも私というグレイトフルマスターオブセレモニーの卵がいることを知らしめる機会!?」
「海月、他校の人の前でそのキャラはやめた方がいいと思う。見てるこっちが恥ずかしい」
「キーッ! 彩人! ナニ恥ずかしいって!」
「あー、ケンカはダメ。大丈夫だよ。他校にもそういうキャラの人いるし」
「マジですか」
「ホントに。アイドル声優を目指してる子がいるよ」
「キャラかぶり乙」
「うーん、目指してる物が違うとは言え確かにそれは面白くない」

 少し活動して、1年生3人のキャラクターもわかって来た。P志望の彩人は、冷静で落ち着いた印象だったけど案外アツい面もあるみたいだ。アナ志望の海月は見ての通りグイグイ来る子だけど、間違えたと思った時のキャラ修正も早い。そんな彩人と海月のやり取りを、D志望のみちるが見守ってるって感じ。
 マロ先輩主催の班見学ツアーを経て、1年生はそれぞれ自分に合ってるかなあと思う班を探し始めたそうだ。この3人は戸田班に入ると正式に決めたらしく、つばめ先輩がブースの敷地を広げてくれと交渉した結果、1.5倍くらいにしてもらえることになったそうだ。

「他の学校って、どういうことやってるんですか?」
「緑ヶ丘さんや向島さんは正統派エンタメラジオ番組が主で、星大さんはみっちり企画された長編番組の印象かなあ。青女さんはウチと一緒でステージをやってるよ。青敬さんは映像メイン。作品はネットにも上げてるって。あっ、作品出展の作品ならあるし、見てみる?」
「また今度お願いします。じゃあ、戸田班ってどういうステージをやってきてたんですか」
「前提として、マリンが戸田班に合流したのは学年が上がる直前で、一緒にステージをやったことはないんだ」
「え、そうなんですか」
「マリンは柳井班から戸田班に移籍してきたんだよ。だから、戸田班になる前の班でステージをやってたのは俺とつばめ先輩だね。戸田班になる前のここは朝霞班っていう名前で活動してて――」

 俺が朝霞班に入ってからどういう活動を、どういうステージをやって来たかという話をする。朝霞先輩がいて、山口先輩がいて。朝霞先輩はレッドブル片手に台本を書いてて、山口先輩はステージスターとして立ちまわっていた。懐かしいなあ。
 ステージに関わる何事にも妥協しないのはその当時から。それぞれの能力を生かし、パート関係なく仕事を覚え、学年関係なく指導し合う。戸田班の基礎にあるのは間違いなく朝霞班のスタンスだ。そこに、宇部班育ちのマリンが別の視野を加えてくれる。

「――っていう感じで目まぐるしく動いてたなあ」
「前のアナウンサーがステージスターなら、私はミューズで!」
「それはそれで引くわ」
「志は高くないとそこに辿り着けないの! 頂上に行くまではぜーんぶ通過点なんだから!」
「言いたいことはわかるけどよくもまあそこまで自信あるな」
「自信なんかまだないよ!」

 彩人と海月のいつものやり取りだなと思ってた。だけど、海月の様子が突然変わる。声が震えて、表情も辛そう。目からは涙が今にも溢れそう。

「こんなキャラやってて引かれるのなんか当たり前じゃん! わかっててやってるの! 強がらないと強くあれないんだもん! うう~っ……わかってるもん! 根暗だし、人前なんか恥ずかしいけど、水鈴ちゃんみたくキラキラになりたくって~…!」
「いや、つか海月お前、キャラ崩壊早くね…? 貫くなら貫けよ」
「うう~っ……ぐすっ」
「大丈夫。海月、大丈夫。今からだから」
「みちる~…!」
「彩人」
「あー……ごめんって。まさか泣くとは思わないじゃんか」
「寿さし屋でソフトクリーム奢ってくれたら許す」
「わかった。明日の昼な」

 インターフェイスでのあり方に関しては、あるがままの自然体で行ったらいいよとだけアドバイスしておいた。変に取り繕ってもいいことはあまりない。海月のキャラに関しては、今のままがいいよと答えた。せめてステージ上だけでも、自分を信じて前を向いていられる方がいい。

「そう言えば水鈴さんって寿さし屋の牛乳寒天が好きなんだって」
「……ソフトから牛乳寒天にチェンジで」
「はいはい」
「ゴローさん水鈴ちゃん情報どーもです」


end.


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6人になった戸田班は随分賑やかになりましたね。その分つばちゃんが面倒見るのに最初のうちは大変なのかも。ゲンゴローも先輩です。
彩人って今じゃねえなと思ったら「また今度お願いします」って言って話をどんどん進めて行くわね。でも、そうして後回しにした物事も後から回収してそう。
憧れの水鈴ちゃんに少しでも近付きたくて、同じことから始めてみるっていうのが基本なのね。でも、作られたキャラは今後どうなる?

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