2020
■ランチタイムの競争
++++
「あっ! ササ、レナ!」
「くるみ」
「2人とも、時間あるなら一緒にご飯食べない? あたし今日テイクアウト丼にしようと思ってるんだー」
「ああ、丼か。海鮮丼てテイクアウトやってたかな」
「私はネギトロ丼があるか見てみようかな。くるみ、一緒に行こう」
「うんっ!」
2限の授業が終わり、昼食にしようとセンタービルに向かっているとたまたま玲那と会い、また磁石が引き寄せるように同じサークルメンバーの依田 くるみが駆けて来た。くるみは一言で言えば小動物系だ。小柄で、跳ねるような雰囲気で。一番の特徴は即興の歌だ。
センタービルに入り、佐藤ゼミのラジオブースを横目に階段を下りれば第2食堂だ。階段のすぐ下にテイクアウト丼のコーナーが設けられ、時には丼を買い求める列が階段の上まで続く。今日はそこまで多くない。階段の中腹に並び、ラインナップを上から覗き見る。
「あっレナ、ネギトロ丼はあるみたいだよ!」
「くるみ、階段の上でジャンプすると危ない。ササに見てもらう方が視点が高くて確実」
「えー、あたし目はいいんだよ! 子供の頃からずっと視力2.0なんだから!」
ぴょんぴょんと跳ねて丼のラインナップと残り個数を確認しようとするくるみの危なっかしさだ。玲那がくるみを窘めるけど、相変わらずくるみはひょこひょこと人の壁を掻き分けるように体を動かし、丼の個数を計る。
「ところで、くるみは何食べるか決まってるのか?」
「きょっおのごっはんはソースカツ丼~、衣はサクサクソースしみっしみ~」
「出た、くるみの歌」
「ほら、もう私たちの番だから。あ、ネギトロ丼1つ」
「海鮮丼は――」
「海鮮丼は今日はやってないっすね」
「あー、じゃあカツ丼(大)で。くるみ」
「ソースカツ丼1つで! ありますか!?」
「ラス1っすね。じゃ、ネギトロとソースカツ丼は420円、カツ丼(大)は450円っす」
「はーい」
白いジャージを着た厳つい感じの店員さん(ジャージだし体育会系の人かな?)から丼を受け取り、また来た道を戻る。緑ヶ丘大学のメインストリートの中央には芝生に囲まれた池があって、その近くにある1号館の階段が絶好のランチスポットなんだ。
ラス1のソースカツ丼を手にしたくるみはご機嫌でラス1丼の歌を歌っているけど、俺はくるみがラス1のソースカツ丼を注文した瞬間後ろの方から「クソッ、マジかよ」という声がしたのを聞いていた。食べたい物が食べられて嬉しいのはわかるけど、少し怖いなとも感じていて。
「はー、ご飯食べよっ。いい天気ー。青空ランチ日和だね!」
1号館の階段に3人横並びに腰掛け、割り箸を割る。海鮮丼が食べられなかったのは残念だけど、テイクアウト丼はラインナップが曜日によって違うらしい。カツ丼みたいなよくあるメニューは毎日出てるみたいだけど。海鮮丼は金曜日、っと。
「わっ、びっくりした! 耳がビリビリしたよー」
「スピーカーの真横だから。くるみ、耳大丈夫? ササの横行く?」
「ううん、スピーカーを気持ち背にすれば平気。ありがとー。って言うか、このスピーカーってそこのラジオのヤツだよね?」
「そうだな。佐藤ゼミのラジオブースでやってる番組」
「ササって社会学部でしょ? あそこでラジオやったりするの?」
「あー、俺とシノは佐藤ゼミに入ってあそこでラジオやりたいなって話をしたりしてるけど、3年生にならないとここでレギュラー番組は持てないっぽくて」
「えー! まだまだ先じゃん!」
「高木先輩がまだここに入ってなくて、果林先輩すら隔週でしか番組やってないことからするとなかなか厳しい道ではあるけど、やってみたいなとは」
佐藤ゼミのラジオは曜日によって番組のテーマが違うらしい。月曜が時事、火曜がスポーツ、水曜が文化、木曜がサブカル、金曜がフリーという具合に。今日は火曜日だからスポーツのカテゴリで、緑ヶ丘大学にいるアスリートをゲストにしたトーク番組だ。
「今日の番組はまだマシだけど、たまに聞いてられないレベルの番組もある気がする」
「まあ、広く公の場で流すには内容がコアすぎて入り口が狭すぎる気はするんだ。好きなことをとことん突き詰めたマニアックな集団ってのがあのゼミの色と言えば色だけど、昼のラジオとしてやるにはどうかなとは俺も正直思う」
「どーゆーこと?」
「好きなことを話したい、布教したいって思いが強すぎるが故に空回りしてると言うか。劇薬をそのままぶっかけに行ってるような感じなんだよ。甘いシロップ状にするなり、カプセルにするなりして広く受け入れやすくしてほしいかなとは」
「そもそもが耳障りでもあるから。チャンネル選択権がない中での垂れ流しで聞く番組ではない」
「レナ、バッはリ行っはねえ」
「飲み込んでから喋りな。変なとこ入るよ」
言って俺たちもまだまだMBCCに入って2ヶ月も経たない素人同然の連中ではあるんだけど、そういう素人同然の人間にすら頭を抱えられる番組というのもどうなのかと。社会学的な内容を伴っていれば問題ないのか。佐藤先生の考え方はどういうスタンスなんだろうか。
何だかんだこの番組にツッコミを入れながら楽しんでいたのだから文句ばかり言うのもどうかと思う。それに自分たちがいつかやるであろうMBCC昼放送、俺とシノならこのブースからの番組が、耳障りだと言われないようにしなければならないなと。
「なあ、今度は第1学食でご飯食べるか。MBCCの昼放送聞きに」
「あっ、いいね! 行こう行こう!」
「賛成」
end.
++++
依田くるみ嬢初登場。小動物系のくるちゃんは、MBCC1年生の和みキャラになるのかな? かわいーん。
あと、栗山玲那嬢もちゃんといっぱい喋ったのは初めて。ファンフェス回でチラ見せはしていたのだけど所詮チラ見せでした。
ソースカツ丼を売っていた体育会系は鵠さんだし、ササが聞いた「マジかよ」の声の主……ソースカツ丼と言えば……
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「あっ! ササ、レナ!」
「くるみ」
「2人とも、時間あるなら一緒にご飯食べない? あたし今日テイクアウト丼にしようと思ってるんだー」
「ああ、丼か。海鮮丼てテイクアウトやってたかな」
「私はネギトロ丼があるか見てみようかな。くるみ、一緒に行こう」
「うんっ!」
2限の授業が終わり、昼食にしようとセンタービルに向かっているとたまたま玲那と会い、また磁石が引き寄せるように同じサークルメンバーの
センタービルに入り、佐藤ゼミのラジオブースを横目に階段を下りれば第2食堂だ。階段のすぐ下にテイクアウト丼のコーナーが設けられ、時には丼を買い求める列が階段の上まで続く。今日はそこまで多くない。階段の中腹に並び、ラインナップを上から覗き見る。
「あっレナ、ネギトロ丼はあるみたいだよ!」
「くるみ、階段の上でジャンプすると危ない。ササに見てもらう方が視点が高くて確実」
「えー、あたし目はいいんだよ! 子供の頃からずっと視力2.0なんだから!」
ぴょんぴょんと跳ねて丼のラインナップと残り個数を確認しようとするくるみの危なっかしさだ。玲那がくるみを窘めるけど、相変わらずくるみはひょこひょこと人の壁を掻き分けるように体を動かし、丼の個数を計る。
「ところで、くるみは何食べるか決まってるのか?」
「きょっおのごっはんはソースカツ丼~、衣はサクサクソースしみっしみ~」
「出た、くるみの歌」
「ほら、もう私たちの番だから。あ、ネギトロ丼1つ」
「海鮮丼は――」
「海鮮丼は今日はやってないっすね」
「あー、じゃあカツ丼(大)で。くるみ」
「ソースカツ丼1つで! ありますか!?」
「ラス1っすね。じゃ、ネギトロとソースカツ丼は420円、カツ丼(大)は450円っす」
「はーい」
白いジャージを着た厳つい感じの店員さん(ジャージだし体育会系の人かな?)から丼を受け取り、また来た道を戻る。緑ヶ丘大学のメインストリートの中央には芝生に囲まれた池があって、その近くにある1号館の階段が絶好のランチスポットなんだ。
ラス1のソースカツ丼を手にしたくるみはご機嫌でラス1丼の歌を歌っているけど、俺はくるみがラス1のソースカツ丼を注文した瞬間後ろの方から「クソッ、マジかよ」という声がしたのを聞いていた。食べたい物が食べられて嬉しいのはわかるけど、少し怖いなとも感じていて。
「はー、ご飯食べよっ。いい天気ー。青空ランチ日和だね!」
1号館の階段に3人横並びに腰掛け、割り箸を割る。海鮮丼が食べられなかったのは残念だけど、テイクアウト丼はラインナップが曜日によって違うらしい。カツ丼みたいなよくあるメニューは毎日出てるみたいだけど。海鮮丼は金曜日、っと。
「わっ、びっくりした! 耳がビリビリしたよー」
「スピーカーの真横だから。くるみ、耳大丈夫? ササの横行く?」
「ううん、スピーカーを気持ち背にすれば平気。ありがとー。って言うか、このスピーカーってそこのラジオのヤツだよね?」
「そうだな。佐藤ゼミのラジオブースでやってる番組」
「ササって社会学部でしょ? あそこでラジオやったりするの?」
「あー、俺とシノは佐藤ゼミに入ってあそこでラジオやりたいなって話をしたりしてるけど、3年生にならないとここでレギュラー番組は持てないっぽくて」
「えー! まだまだ先じゃん!」
「高木先輩がまだここに入ってなくて、果林先輩すら隔週でしか番組やってないことからするとなかなか厳しい道ではあるけど、やってみたいなとは」
佐藤ゼミのラジオは曜日によって番組のテーマが違うらしい。月曜が時事、火曜がスポーツ、水曜が文化、木曜がサブカル、金曜がフリーという具合に。今日は火曜日だからスポーツのカテゴリで、緑ヶ丘大学にいるアスリートをゲストにしたトーク番組だ。
「今日の番組はまだマシだけど、たまに聞いてられないレベルの番組もある気がする」
「まあ、広く公の場で流すには内容がコアすぎて入り口が狭すぎる気はするんだ。好きなことをとことん突き詰めたマニアックな集団ってのがあのゼミの色と言えば色だけど、昼のラジオとしてやるにはどうかなとは俺も正直思う」
「どーゆーこと?」
「好きなことを話したい、布教したいって思いが強すぎるが故に空回りしてると言うか。劇薬をそのままぶっかけに行ってるような感じなんだよ。甘いシロップ状にするなり、カプセルにするなりして広く受け入れやすくしてほしいかなとは」
「そもそもが耳障りでもあるから。チャンネル選択権がない中での垂れ流しで聞く番組ではない」
「レナ、バッはリ行っはねえ」
「飲み込んでから喋りな。変なとこ入るよ」
言って俺たちもまだまだMBCCに入って2ヶ月も経たない素人同然の連中ではあるんだけど、そういう素人同然の人間にすら頭を抱えられる番組というのもどうなのかと。社会学的な内容を伴っていれば問題ないのか。佐藤先生の考え方はどういうスタンスなんだろうか。
何だかんだこの番組にツッコミを入れながら楽しんでいたのだから文句ばかり言うのもどうかと思う。それに自分たちがいつかやるであろうMBCC昼放送、俺とシノならこのブースからの番組が、耳障りだと言われないようにしなければならないなと。
「なあ、今度は第1学食でご飯食べるか。MBCCの昼放送聞きに」
「あっ、いいね! 行こう行こう!」
「賛成」
end.
++++
依田くるみ嬢初登場。小動物系のくるちゃんは、MBCC1年生の和みキャラになるのかな? かわいーん。
あと、栗山玲那嬢もちゃんといっぱい喋ったのは初めて。ファンフェス回でチラ見せはしていたのだけど所詮チラ見せでした。
ソースカツ丼を売っていた体育会系は鵠さんだし、ササが聞いた「マジかよ」の声の主……ソースカツ丼と言えば……
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