2020
■その時が来ればわかる理由
++++
「タカシー、久し振りー」
「あ、ご無沙汰してます。汚いところですけどどうぞ」
「いやいや、きれいにしてるって。それじゃあお邪魔しまーす」
タカシの部屋に遊びに来るのも久し振りだ。多分、タカシの誕生日に開かれた無制限飲み以来とかになるのかな? だから大体3ヶ月半振りとかそんな。あの時は机がなかったけど、こたつ机が増えている。短期バイトの給料で買ったらしい。
2年生になってからのタカシは、授業にも出つつ、対策委員としてバタバタ走り回り始めたそうだ。佐藤ゼミでの活動も始まったそうだから、去年の果林みたいな感じで忙しくなるんだろうなあ。
「でも、タカシが俺を家に誘うなんて珍しいね。何かあった?」
「いえ、特段何かあったワケじゃないんですけど、少し飲みながら話したいなと思いまして。すみません」
「ううん、全然オッケー。って言うか飲み前提ってことは台所使っていいんでしょ?」
「むしろお願いします。俺だけじゃつまみが悲惨なので」
タカシは高ピーや果林ほどたくさん食べる子じゃないから、料理を作る量は普通でいいかな。仕込むだけ仕込んで飲むものを用意して、机の上にどんどん並べて行って。今日は俺も話を聞くことが前提だから、座っていられるように。
「かんぱーい」
「お疲れさまです」
「見た目は一緒なのになー、俺はウーロン茶でタカシは安定のウイスキーだもんな」
「まあ、多少はご愛嬌で」
「どうそれ、新作だけど美味くない?」
「美味しいです」
「そりゃよかった。ほらさ、1人暮らし終わったらこうやって自由に宅飲みも出来なくなったし、人に料理を振る舞う機会も少なくなってさ。つまんねーのなんのって」
「伊東先輩の部屋の台所は凄かったですもんね」
でも、伊東先輩の新作おつまみを独り占めなんてしたら果林先輩に怒られそうですね、とタカシは笑う。それに対して俺は、お前が部屋を開放さえしてくれればMBCCメンバーで無制限飲みなんていくらでも出来るけどな、と返す。
「それでどう? 最近は。飲みながら話したくなるような気分なんでしょ」
「そうですね、対策委員だとか、MBCCでも、最近はちょっと新しい流れになってきてるなって思って」
「へえ、新しいことが始まってんだ。どんな?」
「主に機材面ですね。MDストックの廃止が現実味を帯びていて、大量のストックをミュージックライブラリ化するっていうL先輩の構想を少しずつ進めてるところです。実際同録もパソコンで音声ファイルとして記録し始めましたし」
「へー、パソコンを使い始めたんだ」
「そうですね」
「時代だなー。PCは買ったの?」
「佐藤ゼミのお古です」
タカシの話によれば、それが実際に始まったのは3月の番組制作会からだという。発案は野坂だったそうだけど、それをLが定例会で引き継いで実験をして、いい感じになったのでファンフェスでもその形式で同録を録っていたらしい。
実際音声ファイル形式で保存するメリットはわかる。今時MDなんかで同録を録ってても、家庭でそれを聞けるかっつったら聞けないし。ファイル形式だとコピーも早いしスマホにも入れられる。編集も簡単だから、やりようによっては声だけ抽出してネットで公開も出来そうだ。
「L先輩はこの機材周りの改革にかなり本気なんだなと思います。インターフェイスでも、MBCCでも。なんなら、MBCCのそれが少し先行してるのは、ここで実験をしてインターフェイスのそれに活かそうとしてるのかとも思います」
「なるほどね」
「一朝一夕では行かない改革じゃないですか。周りの理解も要ります。伊東先輩や、その上の、もっと上の先輩たちが積み重ねて定着したものを壊すっていうのは相当の覚悟がないと出来ないなとも思って」
「でも、それにタカシは協力してるんだろ?」
「そうですね。MBCCでも対策委員でも機材管理担当なので、L先輩とはよくこの件について話してます。佐藤ゼミではどうしてるかっていうのもよく聞かれますね」
「心持ちがついてかない?」
「いえ。それはむしろ、積極的にサポートしたいなと思ってます」
「……実はさ、俺も現役の時は「今時MD!?」っつって思ってたんだよ」
「そうだったんですか」
「だけど、そういうモンだからって納得して、特に疑問にも思ってなかった。自分の部屋じゃ音声編集ソフトなんかもバンバン使ってたのにね」
自分の代で変えようと思えば変えられたかもしれない。ぶっちゃけ、俺たちの学年じゃ機材周りのことは俺に全権があるような物だったし。それに、サークルの外ではパソコンで音イジりだってバリバリやってたから。だけど、どうしてかそこには手が回らなかった。Lがそれをやろうと言うなら、相当腹括ってんなと思う。
「意外にって言ったら怒られるかもですけど、L先輩って凄いんだなって思って」
「その凄さに気付けるってことは、お前も見る目が養われてきたってことだよ」
「そうですかね」
「1コ上の凄さはその時にならないとわからないなんて言ったけどね」
「でも、インターフェイス全体のことを見ながら、MBCCではストックリストの検索アプリの開発にも着手したりして、なかなか出来ることじゃないです」
「え、アイツアプリ開発なんかしてんの」
「こんなのがあったらいいなっていうのを大まかに作って、システム系に強い人たちと話し合うみたいですね、野坂先輩とか南条先輩とか」
「はえー、3年生のチームワークパねえ」
「問題は俺たちがそれを保守できるかですけど。文系の子の方が多いので。星大勢のアオミドに賭けるしかなさそうです」
end.
++++
(※実はサドニナもちょっとそういうの齧ってる系理系なんだけど、そういう認識すらきっとされていないであろう件について)
あと、文理関係なくタカちゃん自身がそういうのにちょっと強そうだと思うんだけど実際どうかな?
Lがそこまで成長したのはいち氏の育成の結果? それともその時になればそのように動けていたタイプ? どういうタイプでしょうね。
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「タカシー、久し振りー」
「あ、ご無沙汰してます。汚いところですけどどうぞ」
「いやいや、きれいにしてるって。それじゃあお邪魔しまーす」
タカシの部屋に遊びに来るのも久し振りだ。多分、タカシの誕生日に開かれた無制限飲み以来とかになるのかな? だから大体3ヶ月半振りとかそんな。あの時は机がなかったけど、こたつ机が増えている。短期バイトの給料で買ったらしい。
2年生になってからのタカシは、授業にも出つつ、対策委員としてバタバタ走り回り始めたそうだ。佐藤ゼミでの活動も始まったそうだから、去年の果林みたいな感じで忙しくなるんだろうなあ。
「でも、タカシが俺を家に誘うなんて珍しいね。何かあった?」
「いえ、特段何かあったワケじゃないんですけど、少し飲みながら話したいなと思いまして。すみません」
「ううん、全然オッケー。って言うか飲み前提ってことは台所使っていいんでしょ?」
「むしろお願いします。俺だけじゃつまみが悲惨なので」
タカシは高ピーや果林ほどたくさん食べる子じゃないから、料理を作る量は普通でいいかな。仕込むだけ仕込んで飲むものを用意して、机の上にどんどん並べて行って。今日は俺も話を聞くことが前提だから、座っていられるように。
「かんぱーい」
「お疲れさまです」
「見た目は一緒なのになー、俺はウーロン茶でタカシは安定のウイスキーだもんな」
「まあ、多少はご愛嬌で」
「どうそれ、新作だけど美味くない?」
「美味しいです」
「そりゃよかった。ほらさ、1人暮らし終わったらこうやって自由に宅飲みも出来なくなったし、人に料理を振る舞う機会も少なくなってさ。つまんねーのなんのって」
「伊東先輩の部屋の台所は凄かったですもんね」
でも、伊東先輩の新作おつまみを独り占めなんてしたら果林先輩に怒られそうですね、とタカシは笑う。それに対して俺は、お前が部屋を開放さえしてくれればMBCCメンバーで無制限飲みなんていくらでも出来るけどな、と返す。
「それでどう? 最近は。飲みながら話したくなるような気分なんでしょ」
「そうですね、対策委員だとか、MBCCでも、最近はちょっと新しい流れになってきてるなって思って」
「へえ、新しいことが始まってんだ。どんな?」
「主に機材面ですね。MDストックの廃止が現実味を帯びていて、大量のストックをミュージックライブラリ化するっていうL先輩の構想を少しずつ進めてるところです。実際同録もパソコンで音声ファイルとして記録し始めましたし」
「へー、パソコンを使い始めたんだ」
「そうですね」
「時代だなー。PCは買ったの?」
「佐藤ゼミのお古です」
タカシの話によれば、それが実際に始まったのは3月の番組制作会からだという。発案は野坂だったそうだけど、それをLが定例会で引き継いで実験をして、いい感じになったのでファンフェスでもその形式で同録を録っていたらしい。
実際音声ファイル形式で保存するメリットはわかる。今時MDなんかで同録を録ってても、家庭でそれを聞けるかっつったら聞けないし。ファイル形式だとコピーも早いしスマホにも入れられる。編集も簡単だから、やりようによっては声だけ抽出してネットで公開も出来そうだ。
「L先輩はこの機材周りの改革にかなり本気なんだなと思います。インターフェイスでも、MBCCでも。なんなら、MBCCのそれが少し先行してるのは、ここで実験をしてインターフェイスのそれに活かそうとしてるのかとも思います」
「なるほどね」
「一朝一夕では行かない改革じゃないですか。周りの理解も要ります。伊東先輩や、その上の、もっと上の先輩たちが積み重ねて定着したものを壊すっていうのは相当の覚悟がないと出来ないなとも思って」
「でも、それにタカシは協力してるんだろ?」
「そうですね。MBCCでも対策委員でも機材管理担当なので、L先輩とはよくこの件について話してます。佐藤ゼミではどうしてるかっていうのもよく聞かれますね」
「心持ちがついてかない?」
「いえ。それはむしろ、積極的にサポートしたいなと思ってます」
「……実はさ、俺も現役の時は「今時MD!?」っつって思ってたんだよ」
「そうだったんですか」
「だけど、そういうモンだからって納得して、特に疑問にも思ってなかった。自分の部屋じゃ音声編集ソフトなんかもバンバン使ってたのにね」
自分の代で変えようと思えば変えられたかもしれない。ぶっちゃけ、俺たちの学年じゃ機材周りのことは俺に全権があるような物だったし。それに、サークルの外ではパソコンで音イジりだってバリバリやってたから。だけど、どうしてかそこには手が回らなかった。Lがそれをやろうと言うなら、相当腹括ってんなと思う。
「意外にって言ったら怒られるかもですけど、L先輩って凄いんだなって思って」
「その凄さに気付けるってことは、お前も見る目が養われてきたってことだよ」
「そうですかね」
「1コ上の凄さはその時にならないとわからないなんて言ったけどね」
「でも、インターフェイス全体のことを見ながら、MBCCではストックリストの検索アプリの開発にも着手したりして、なかなか出来ることじゃないです」
「え、アイツアプリ開発なんかしてんの」
「こんなのがあったらいいなっていうのを大まかに作って、システム系に強い人たちと話し合うみたいですね、野坂先輩とか南条先輩とか」
「はえー、3年生のチームワークパねえ」
「問題は俺たちがそれを保守できるかですけど。文系の子の方が多いので。星大勢のアオミドに賭けるしかなさそうです」
end.
++++
(※実はサドニナもちょっとそういうの齧ってる系理系なんだけど、そういう認識すらきっとされていないであろう件について)
あと、文理関係なくタカちゃん自身がそういうのにちょっと強そうだと思うんだけど実際どうかな?
Lがそこまで成長したのはいち氏の育成の結果? それともその時になればそのように動けていたタイプ? どういうタイプでしょうね。
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