2018
■spend the usual day
++++
初心者講習会の1週間前。土曜日は、俺が昼放送の収録ということで特に打ち合わせなどの予定は入れていない。番組の収録はとても順調に進んだし、そもそも俺は5分しか遅刻をしなかったという大快挙。何事も上手く回っていたんだ、対策委員のこと以外は。
対策委員に降りかかっている事情を理解してもらっているのか、菜月先輩は俺が対策委員として、初心者講習会を本当はどうしたかったのかと訊ねられた。俺はそれに感極まって、みっともなく泣いた。3年生の先輩方に生きた経験や知見を伝えて欲しかったのだと、やっとの思いで伝えて。
俺が落ち着くまで菜月先輩は背中をさすってくれて、今からでも出来る限り力になるからと仰ってくれた。その言葉だけで本当に救われた気分だったし、あと1週間頑張れる気がした。俺は本当に非力だ。無力で、どうしようもなくて。だけど、独りじゃないなと思った。
「ノサカ、今日はこれからお前のしたいことをしよう。せっかくのオフだし、せめてもの気休めだ」
「すみません、菜月先輩にご迷惑とご心配をおかけしてしまい」
「いや、この件ではアイツ以外の3年生はみんな同じ気持ちで――……いや、この話題はやめにしよう。さあ、何をしようか」
何をしようと言われても、菜月先輩と何がしたいかなんて、急にはとても思いつかないのだ。日頃からもしも菜月先輩とお出掛けが出来たら、なんていう妄想はしていたけれど、いざとなるとてんでダメだ。
「ええと、まずは菜月先輩からご提案頂いたように甘い物を食べに行って」
「何を食べよう」
「菜月先輩は何を」
「今はお前の希望を聞いてるんだぞ」
「あっ、えっと、じゃあ市駅の近くにあるというカフェに行きませんか…! 少々値が張るのですが、大きくて美味しいメロンケーキがあるということで。菜月先輩、メロンはお好きでしたよね」
「大好きだ。実に興味深い」
「ただ、この時間だと完売している可能性もあるので、もしケーキが完売していたら、その近くの髭でシロネーロを食べたいです」
「シロネーロも美味しいよな」
とりあえず、収録は終わっているからこの部屋にはもう用事はない。片付けと戸締りをしっかりとして、バス停に向かって歩き出す。土曜日のスクールバスは30分に1本しか来ないけど、どうか運よくタイミングに恵まれないものか。
「おっ、ちょうど来たな」
「よーしツイてる」
誰もいないバスは、2人だけの貸し切り状態。駅に向かう道中は、ケーキの後のプランを話し合うのだ。
正直、菜月先輩とこうやって2人でいられることが既にご褒美のようなものだし、さらに俺のしたいことをしようだなんて菜月先輩が俺に気を遣って下さっているという事実に卒倒して死んでしまうかもしれない。
菜月先輩は、「どうせお前はいつも遅刻してくる上に収録も各々の都合で時間がかかる。7時過ぎまでかかることなんてザラなんだから、今日も夕飯を一緒に食べるくらい全然余裕じゃないか。そこまで行ったらむしろ飲むくらいの勢いだな」なんて。
それもいいですねと返せば、菜月先輩は「お前の希望じゃなくて自分のしたいことを喋ってしまった」と反省される。その様がとても可愛らしい。何度でも言うけど菜月先輩と一緒にいるということが俺のしたいことなので、菜月先輩の希望を叶えて笑ってもらう方が断然嬉しい。
「で、ケーキの後な」
「せっかくショッピングビルが近いので、少し回りたいです。シャツの1枚でも新調しようかと」
「ほほう。それじゃあ、どれが似合うか見ようか」
「ぜひお願いします!」
「わ、ビックリした。そんなに食いついて来ると思わなかった。けほっ」
「いえ……そこはやはり、菜月先輩の方がファッションセンスがおありだと思いますし……」
と言うか、菜月先輩直々に俺の服を見てくれるとか、夢にまで見たデートの光景じゃないかと。神は俺を見捨てないなって思う。もし菜月先輩に服を選んでもらえたら、その服を絶対俺の勝負服にするんだ。
「その後はどうする」
「俺は、いつもと同じがいいです」
「って言うと?」
「タコのないたこ焼きを丸めたり、溜めに溜めたゴミを捨てに行ったりという、菜月先輩との過ごし方です」
「ナチュラルにうちに来る宣言してるけど、片付いてないぞ」
「今に始まったことではないかと」
「ったく、しょうがないな。それじゃあ、シャツ見たらたこ焼きの材料買い物な。荷物はお前が持つんだぞ」
「ええ、喜んで」
気晴らしと言うには贅沢過ぎるこの時間を、あと1週間を戦う力に変えて。
end.
++++
ノサカの口調がどんどん丁寧になって行ってるぞ! そのうちこれがデフォルトになるよ! 圭斗さんに対してもね!
で、ただのナツノサのデート回になっている件。まあ、菜月さんと一緒にいることがノサカにとっては何よりのご褒美なので
しかし片付いてないことに対して「今に始まったことじゃない」とは安定のノサカよ
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初心者講習会の1週間前。土曜日は、俺が昼放送の収録ということで特に打ち合わせなどの予定は入れていない。番組の収録はとても順調に進んだし、そもそも俺は5分しか遅刻をしなかったという大快挙。何事も上手く回っていたんだ、対策委員のこと以外は。
対策委員に降りかかっている事情を理解してもらっているのか、菜月先輩は俺が対策委員として、初心者講習会を本当はどうしたかったのかと訊ねられた。俺はそれに感極まって、みっともなく泣いた。3年生の先輩方に生きた経験や知見を伝えて欲しかったのだと、やっとの思いで伝えて。
俺が落ち着くまで菜月先輩は背中をさすってくれて、今からでも出来る限り力になるからと仰ってくれた。その言葉だけで本当に救われた気分だったし、あと1週間頑張れる気がした。俺は本当に非力だ。無力で、どうしようもなくて。だけど、独りじゃないなと思った。
「ノサカ、今日はこれからお前のしたいことをしよう。せっかくのオフだし、せめてもの気休めだ」
「すみません、菜月先輩にご迷惑とご心配をおかけしてしまい」
「いや、この件ではアイツ以外の3年生はみんな同じ気持ちで――……いや、この話題はやめにしよう。さあ、何をしようか」
何をしようと言われても、菜月先輩と何がしたいかなんて、急にはとても思いつかないのだ。日頃からもしも菜月先輩とお出掛けが出来たら、なんていう妄想はしていたけれど、いざとなるとてんでダメだ。
「ええと、まずは菜月先輩からご提案頂いたように甘い物を食べに行って」
「何を食べよう」
「菜月先輩は何を」
「今はお前の希望を聞いてるんだぞ」
「あっ、えっと、じゃあ市駅の近くにあるというカフェに行きませんか…! 少々値が張るのですが、大きくて美味しいメロンケーキがあるということで。菜月先輩、メロンはお好きでしたよね」
「大好きだ。実に興味深い」
「ただ、この時間だと完売している可能性もあるので、もしケーキが完売していたら、その近くの髭でシロネーロを食べたいです」
「シロネーロも美味しいよな」
とりあえず、収録は終わっているからこの部屋にはもう用事はない。片付けと戸締りをしっかりとして、バス停に向かって歩き出す。土曜日のスクールバスは30分に1本しか来ないけど、どうか運よくタイミングに恵まれないものか。
「おっ、ちょうど来たな」
「よーしツイてる」
誰もいないバスは、2人だけの貸し切り状態。駅に向かう道中は、ケーキの後のプランを話し合うのだ。
正直、菜月先輩とこうやって2人でいられることが既にご褒美のようなものだし、さらに俺のしたいことをしようだなんて菜月先輩が俺に気を遣って下さっているという事実に卒倒して死んでしまうかもしれない。
菜月先輩は、「どうせお前はいつも遅刻してくる上に収録も各々の都合で時間がかかる。7時過ぎまでかかることなんてザラなんだから、今日も夕飯を一緒に食べるくらい全然余裕じゃないか。そこまで行ったらむしろ飲むくらいの勢いだな」なんて。
それもいいですねと返せば、菜月先輩は「お前の希望じゃなくて自分のしたいことを喋ってしまった」と反省される。その様がとても可愛らしい。何度でも言うけど菜月先輩と一緒にいるということが俺のしたいことなので、菜月先輩の希望を叶えて笑ってもらう方が断然嬉しい。
「で、ケーキの後な」
「せっかくショッピングビルが近いので、少し回りたいです。シャツの1枚でも新調しようかと」
「ほほう。それじゃあ、どれが似合うか見ようか」
「ぜひお願いします!」
「わ、ビックリした。そんなに食いついて来ると思わなかった。けほっ」
「いえ……そこはやはり、菜月先輩の方がファッションセンスがおありだと思いますし……」
と言うか、菜月先輩直々に俺の服を見てくれるとか、夢にまで見たデートの光景じゃないかと。神は俺を見捨てないなって思う。もし菜月先輩に服を選んでもらえたら、その服を絶対俺の勝負服にするんだ。
「その後はどうする」
「俺は、いつもと同じがいいです」
「って言うと?」
「タコのないたこ焼きを丸めたり、溜めに溜めたゴミを捨てに行ったりという、菜月先輩との過ごし方です」
「ナチュラルにうちに来る宣言してるけど、片付いてないぞ」
「今に始まったことではないかと」
「ったく、しょうがないな。それじゃあ、シャツ見たらたこ焼きの材料買い物な。荷物はお前が持つんだぞ」
「ええ、喜んで」
気晴らしと言うには贅沢過ぎるこの時間を、あと1週間を戦う力に変えて。
end.
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ノサカの口調がどんどん丁寧になって行ってるぞ! そのうちこれがデフォルトになるよ! 圭斗さんに対してもね!
で、ただのナツノサのデート回になっている件。まあ、菜月さんと一緒にいることがノサカにとっては何よりのご褒美なので
しかし片付いてないことに対して「今に始まったことじゃない」とは安定のノサカよ
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