2020

■作業と癒しのフルコース

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「はー、面白かったぁー!」
「そうだな。でも、作品全体の雰囲気とかがお前の書く話に似てる気がするな。静けさの中に一点、ぽつんと焦点が当たって、そこからじわりと染みが広がりながら溶け込んでいくような感じが」
「朝霞クンこの後どうする? お茶でもする? ご飯でも食べてく?」
「あー、そうだな。どこかカフェでも行くか」

 90分程度の映画を見終えて、スクリーンから出る。今日は短編映画を見ようってことで朝霞クンと小さな映画館にやって来た。今日見たいのは短い作品だから2本見ようかとゼミの時間に話し合って今日の日を迎えた。
 映画鑑賞は共通の趣味。こうやって一緒に映画を見て、後からお話の感想や考察を話し合うところまでをひっくるめてとても楽しい。仲のいい友達は単館上映の映画まではあんまり見ないらしくて。朝霞クンは話が通じる仲間でもある。

「伏見、最近どうだ」
「どうって? 部活?」
「いや、部活のこともひっくるめて、お前の近況? 最近はゼミでしか会ってなかっただろ」
「最近はー……まあ、いつもみたくハルちゃんのお店に飲みに行ったり、美奈ちゃんと買い物に行ったり、部活のこともしてるけど、就活のことをやったりとか」
「そうか」
「朝霞クンは? あっ、そう言えばちーから聞いてる。仲直り出来てホントに良かった」
「その件では心配かけたな。でももう大丈夫だから」
「うん」

 朝霞クンとちーのケンカも無事に丸く収まって、2人はお互い言いたいことはその時に言い合おうという感じになったとはちーから聞いた。朝霞クンは、アイツの物言いにどことなく毒を感じるとポツリ。だけどそれは致死量に至るほどじゃなく、ちょっとした苦み程度。慣れれば虜になる味だって。

「俺は趣味の物書きをしたり、山口の店に飲みに行ったり、就活のことをやったり。……つか、俺らの近況に「卒論」が含まれてなかったんだけど?」
「そ、それはご愛嬌で……」
「だよな、うん。今から今から」

 あはははは、と2人で乾いた笑いを。そして無言でずずーとアタシは紅茶、朝霞クンはコーヒーを啜る。部活や趣味の物書き、それから行きつけのお店に行ったり。卒論……も、そのうち。ペア研究と違って卒論は本当に個人戦だから、自分が頑張らなきゃいけないんだよね。

「あの、朝霞クン」
「ん?」
「卒論は基本個人戦だけど、また、ペア研究の時みたいに励ましてもらっていい?」
「ああ、それはもちろん。お前も俺のケツを叩いてくれ」
「ふふっ。趣味ばっかりやりすぎーって?」
「それは割とガチで頼みたいヤツだ。俺は自分が5人に増えないかと思ってて」
「そんなにやりたいことが多いの!?」
「いろいろあんだよ。おかげで最近またレッドブルの消費量が増えてだな」
「ちょっ、常用は良くないよ!?」

 物書きとか、あることに夢中になると朝霞クンは鬼気迫る迫力でそれにのめり込む。そんなときには食べることも寝ることも忘れて……と言うか、そんな時間が勿体無いって言わんばかりになってて。飲食をレッドブルとゼリー飲料だけで済ませちゃうから心配で。

「ご飯食べてる!? 5人に増えたいくらいの作業量なんでしょ、食べてないよね!?」
「いや、一応食ってるけど」
「ダメ! 一応じゃなくてちゃんと食べて! よーし、そうとなったら今日は朝霞クンに栄養満点のご飯を詰め込みます! それでちゃんと日付変わった頃には寝るんですよ!」
「飯を詰め込むって、それは」
「あたしが作るから! この後はお買物! いい!?」
「あ、はい。わかりました」

 あたしが一方的に捲し立ててこんなことになっちゃったけど、これって実はとんでもないことなんじゃ? 朝霞クンはあたしが急にそんな風に言うから驚いて目を丸くしてるし。でも珍しいものを見た気分。

「伏見って、どういう仕事に就きたいんだ?」
「えっ、仕事?」
「いや、言いたくないならいいけど。お前のことだから、きっと人のためにって考えてるのかなって」
「……あたしはね、人を癒す仕事がしたいなって思ってるんだ」
「癒す」
「そう。ハルちゃんやちーがずっと働いてるのを見て来て、思ったんだ。休みなく働く人には休まないだけの理由があって、信念があってやってるそれを止めることってなかなか出来ないでしょ。だから、せめてそういう人を少しでも癒してあげられたらなって」
「そうか。そういやお前、マッサージも上手かったもんな」
「はっ…! 朝霞クンに褒められてる…!? 何か裏が…?」
「いや、これは素で言ってる。なんならまたお願いしたいくらいだ。最近またちょっと肩凝りと頭痛がしんどくて」
「ちょっ、だからそれ作業のし過ぎなんだってば!」

 朝霞クンの、後頭部がふわーっとする頭痛は肩凝りが酷くなると強くなるんだって。肩凝りの原因はもちろん作業のし過ぎ。パソコンに向かってる時間の長さに比例する。映画館での映画鑑賞は、身体的負荷が少なめの趣味活動だったみたい。

「そしたら今日はこれから朝霞クンを癒すフルコースでいいですか! もちろんその間作業は禁止! わかったら返事! はいかイエスで!」
「はい、わかりました」
「よろしい」
「でも、そのドヤ顔は腹立つな」


end.


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ちーちゃんとの大喧嘩を経て朝霞Pとふしみんの掛け合いも平和的に戻りました。平和的…?
朝霞Pは趣味に卒論に就活にとちょこちょこ忙しくしているようで、レッドブルを飲むことも増えたようです。この調子だと部屋も汚そうだ。
ふしみん、わーってなると勢いよく有無を言わせずぐいっぐい押していくんですね。その結果失敗することもあるかもだけど。

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