2020

■壁上のリテイク

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 タカちゃんとエージが話があるって言うから、もしかしたらもしかするかなーと思ったら本当に予想した通りの展開だった。話というのは6月にあるインターフェイスの初心者講習会について。その講師をアタシにお願いしたいという主旨の話。
 初心者講習会はインターフェイスの加盟する大学の、主に1年生を対象にした行事。インターフェイスで言う学生ラジオとはということの説明をして、簡単な技術の共有だとか、いろんな大学の人と交流をするのが目的。
 講師は例年3年生の先輩にお願いするのが流れになっている。去年アタシたちが運営した時はいろいろありつつもなっち先輩とヒビキ先輩、それからいっちー先輩に講師をやってもらった。今の2年生たちも例に漏れず、アタシたちの学年に話を持って来たかと。

「――という感じで、果林先輩に講師をお願いしたいんす」
「内容的には大体去年までのそれを踏襲する感じなんですけど」

 いつ、どこで講習会をやりますから講師をお願いしますという話なんだけど、タカちゃんとエージの話には決定的に足りない部分があった。それを突っついてもいいものか。でも、突っつかないと始まらないもんな。よし、もうちょっと聞いてダメなら突っつこう。

「6月6日の土曜日に星大だよね? で、講習会のタイムスケジュールは去年と同じで午前が全体講習、午後がアナミキ別の講習ね」
「さすが果林先輩っす、前対策委員だけあって話が早いっす」
「で? アタシは具体的に何をするの?」
「や、だから講習を」
「講習って一言で言ってもいろいろあるよ。まさか、全体講習とアナウンサー講習でやって欲しい内容が同じなワケないでしょ?」
「あー……そーっすね」
「少なくとも、アタシが依頼されてるのは全体講習とアナウンサー講習のどっちなのか言ってくれないと準備出来ないよ?」

 講師をお願いしますと言われただけじゃ、具体的に何をどう準備していいのかは本当にわからない。対策委員だった立場だから、それぞれの講習でどんなものを必要とするのかは大体わかってる。だけど、毎年やることは同じじゃない。その時の対策委員が何を求めてるかを聞かなくちゃ始まらない。
 大体毎年同じだから、というのはぶっちゃけアタシたちも思ってた。だけど、その年によってインターフェイスの雰囲気は違うし必要な物も少しずつ変わって来てるはず。それをその最前線にいる子たちの言葉で伝えてもらって、打ち合わせを重ねた上でまとめなきゃ意味はない。

「ゴメンエイジ。俺、果林先輩に講師をお願いするって話になったとき、全体講習とアナ講習のどっちかちゃんと決まってないって気付いてたけど、最後まで聞けなかった」
「いや、それは最後まで話をまとめきれなかった俺の責任だっていう。……果林先輩すんません、今度また出直して来ていいすか」
「それはもちろん。だけど、その調子だとミキサー講師の候補にも何をするかあやふやなまま話が行ってるんじゃない?」
「あー、多分そうっすね。奈々はもう今日にも話すっつってたんで、きっと今頃」
「奈々ってことは、野坂だね」
「そうっすね」

 まあ妥当な人選ではあるね。でも、野坂に話がどう伝わるかっていうのは本当に問題だ。伝わり方によってはどっちも全体講習のつもりで準備してたかもだし。

「やっぱね、お願いするときには話をちゃんとまとめるトコはまとめきらないと。特にさ、こういう、経験者に話を持って行くときなんかは相手が話を大体わかってるからこっちの説明が拙くても理解して、補足してくれるだろうって考えがちになるでしょ」
「はい」
「こっちに対策委員の意図を酌んでもらって首を縦に振らせたいっていう考えなら、頼み方としては間違ってる。本当に講師候補の名前しか決まってない状態で話を持って来たんだとするなら、詰めが甘い」
「甘いっすか」
「甘い。その年によって欲しい物も変わるはず。テンプレは参考にしてもいいけど、自分の言葉で持って来て。やり直し」
「はい。出直して来るっす。あざっした」
「ありがとうございました」
「いえいえ。でも、もうちょっとやれるはずだよ」

 やり直し。それはアタシが高ピー先輩からよく言われた言葉だ。アタシも2年生の頃は、よくそうやって跳ね返されてはぶち当たって、それを繰り返して大きくて厚い壁を乗り越えてったっけ。
 高ピー先輩相手にプレゼンをするときは、いつ、どこで、誰が、みたいな必要な情報を全部揃えた上で、何故そうしたくて、そうすることによってどうなるか、何を期待するかっていうところまで伝えなきゃいけなかった。
 さすがに今はそこまで求めないけど、それでも最低限は欲しかったからやり直しを求めた。タカちゃんとエージはどう来るかな。それはそうとして楽しみだ。6月6日は土曜日だから、日中の予定を空けとけばいいかな。

「でも、果林先輩が意外に厳しくてビックリしたっす。ぶっちゃけもーちょっと軽いノリでイケるかと思ってたっす」
「それはそれ、これはこれでしょ。あと、プレゼンバトルに関してはメチャクチャ鍛えられたからね、つい」
「ほら、果林先輩は佐藤先生とも口喧嘩出来る頭の回転の速さだって言われてるし」
「はー、教授と口喧嘩出来るならそりゃつえーべ」
「え、ちょっと待ってタカちゃんそれ誰が言ってる?」
「先生が言ってました。教科書だけ読んでたんじゃ身に付かない能力だよって」
「ちょっと、何言ってんのヒゲマジでないんですけど!」


end.


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タカエイと果林の間の交渉劇。どうやら一旦果林の勝ち。対策委員は出直しを迫られたようです。
高崎に扱かれた果林ですが、自分が話を受ける側になるとどう感じるのかということが学年が上がって見えるようになりましたかね
思いもよらぬ果林の厳しさに出鼻を挫かれたタカエイ。果たして次戦はどうなる。

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