2020

■黒の世界より舞い戻る

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 ファンタジックフェスタが終わって最初のサークル。シノとファンフェスを見に行ったけど、こういう現場は楽しいなって思う。俺たちがこうやって一般の人のいる場で放送をするのはもう少し先になるとは思うけど、憧れはする。
 心機一転今日から頑張ろう。そう思ってサークル室に足を運ぶ。先輩たちはみんなそれぞれ凄かった。それから、他校にもいろんな人たちがいるんだなって勉強にもなったし、6月の初心者講習会が今から楽しみだ。

「さ、そういうことで今日もやっていきましょう」
「はーい」
「そしたらササ、レナ、すがやんは発声に。シノ、サキ、くるみはミキサーの練習を――」

 と、いつものようにパート別に分かれた練習が始まろうとしていたときのことだった。

「かりーん! Lー!」

 果林先輩とL先輩にガバッと飛びついた髪の長い女の人。おいおいと泣き真似をする様子に、2年生の先輩も唖然とした様子。だけど、2年生の中でも動じていないのが1人。いつものように淡々とした顔をしているのは高木先輩だ。

「ゴティもつっちゃんも久し振りだねえ!」
「ゆず! お前どうした!?」
「今日からサークル復帰するー! えーん、部屋が広くなってるけどみんな懐かしいよー!」
「サークルに復帰するって、ゆずアンタ、バイトはどうしたの? 大丈夫?」

 ゆずと呼ばれた女の人は、3年生の先輩と感動の再会(?)を果たしているようだった。だけど、2年生の先輩もこの人のことは知らないようで、何者なのかはまだ闇の中だ。ただ、この登場に動じてない高木先輩ならもしかしたら。

「高木先輩、この人は?」
「北村ゆずさんっていって、5人いる3年生の最後の1人だね。何か、バイトがブラック過ぎてサークルどころか授業にもまともに出れてなかったって」
「2年生の先輩もみんな知らないみたいですけど」
「実際サークルでは1度も見てないからね。俺は果林先輩と学食でご飯食べてるときにたまたま会ったことがあって」
「高木お前強運過ぎるっていう。ムトーさんもお前先行して会ってたもんな。レアキャラ引く率高いべ」
「たまたまが重なるんだよね」

 1年以上振りとなる北村先輩のサークル復帰に、3年生の先輩たちはみんな嬉しそうにしている。きっとそれだけ北村先輩の置かれていた境遇が過酷だったんだろう。ブラック過ぎるバイトって、どんなバイトだ…? こわっ。

「バイトはねえ、辞めたりましたよ!」
「どうやって? 辞めたいって言ったら脅されるようなトコでしょ?」
「退職代行会社を使ってスパーン! っすわ! 職場の人間の顔を見ずに、詰め寄られる事無く辞められる! お金で解決出来るなら払うわ! 3万円? 安ぅ~い!」
「サビ残の分とかはどうしたの? 未払い分の給料の交渉とか。退職代行ってそういうの出来ないっしょ?」
「出来る会社探してぶんどった! ひゃっほう! 車買おうかなって検討中です!」
「未払い分がそのレベルかよ……」
「ほら、ゆずはアタシより働いてるのにアタシより稼いでなかったから。あっゆず、そのレベルになると税金対策必要になるから気をつけるんだよ」

 3年生の先輩たちが話していることを聞いている1・2年生は戦々恐々としている。北村先輩の語るこれまでのあらすじが壮絶すぎるというのがある。この1年とちょっと、ほとんどバイトしかしていなかったという話だ。
 オープンからクローズまで働いて、タイムカードは6時間分しか通せないとか。辞めたいと言えば損害賠償を取るとか家に押し掛けると脅され、大学の授業に出たいと訴えても勉強とバイトのどっちが大事なんだと行かせてもらえなかったと。
 働き始めの時間と上がる時間をスマホで記録して、それと給与明細の差を退職代行会社の担当者にLINEで送ったりしていろいろ手続きを済ませる。辞める日になって代行会社から完了しましたとお知らせが来るまでは本当にそわそわしたそうだ。

「知らない子たちは1年生かー。タカティは知ってる。果林と仲良しの2年生」
「お久し振りです」
「この子は大きいから2年生?」
「1年です。佐々木陸っていいます」
「えーウソー!? ホントに1年生!? 落ち着きすぎじゃない!?」
「ゆーず。アンタがそそっかしいだけ。大体、背の高さとか雰囲気だけで学年を判別するんじゃないの。今の2年生なんかみんな小さいんだからね。大体アンタが女子としては大きいんでしょうが」

 確かに背の大きさだけでは判別出来ないなと思う。女子としては大きな北村先輩が小さな果林先輩に窘められている様は、果林先輩がしっかり者のお姉さんで、北村先輩がどこかほっとけない妹感がある。俺を本当に1年かとまじまじと見る目がまた。

「ところでゆず、アンタちゃんと進級出来てたの?」
「そう! ギリギリ進級出来てたんですよ~! L様のおかげ~! 足向けて寝れないし今度何かご馳走します」
「進級出来てたんなら良かった。そしたら今度飲もうぜ」
「いいねえ! そういうことなんで、今日からまたよろしくお願いしまーす! いろいろブランクが大きいんで学年通りの働きは出来ないと思うけど、それはご愛敬ということで」
「そしたらゆずもミキサーの方に入るか。今からパート別練習だから」


end.


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フェーズ1でチラッと出て来たゆず嬢がフェーズ2から本格的に登場です。ブラックバイトからの脱出が出来たようです。
前から果林とは果林がお姉さん的ポジションでという風に考えていたので現状はこんな感じ。もっとそそっかしい可能性もある。
3年制5人のわちゃわちゃとかも見たいし、そのためにはつっちゃんのキャラも考えて行かないとなあ

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