2018
■嘘と誠の語り方
++++
「戸田さん、あなた、対策委員で随分と暴れてるそうね」
「言っとくけど、アタシは口以外悪くないから。処分を食らう筋合いなんかないからね」
定期的に入れている対策委員の活動報告。薄暗く、埃っぽい部室で宇部恵美と対峙して。アタシが報告を入れようとしたそのとき、向こうが切り出してきたのがその言葉だった。暴れているという表現はともかく、心当たりがないことはない。
「処分ありきでは話してないわよ。ただ、あなたの言動に関する苦情が入っているの。事実確認をしたいだけよ。心当たりはあるかしら」
「ないことはない」
「そう」
「掻い摘むと、対策委員の会議に向島の三井とかいう3年が乱入してきて好き勝手してるから、ふざけんなっつってるだけ。アタシらのことを学年が上だからとかいうだけの理由で押さえつけて来るし、頼んでもないのにプロの講師がどうとか妄言吐いてるし。で、「あの程度のステージしか出来ない星ヶ丘にラジオの何が分かる」って言われたから「テメー表出ろや」とは言った」
アタシの話を聞きながら、宇部恵美は仏頂面。呆れているのか怒っているのかはわからないけど、宇部恵美に届いているらしい苦情とやらと擦り合わせて、何が真実なのかを見極めようとしているのかもしれない。アタシは何も誇張してないし、ウソも言っていない。
力で上から押さえつけて来る無能という点では、三井もこの星ヶ丘大学放送部のクソ幹部連中と何ら大差はない。だからこそ、朝霞サンの名前を出された瞬間理性を保てなくなった感はある。朝霞サンの所為にするつもりはないけど、お前がウチの腐りきった体質や朝霞サンの何を知ってんだって。
「で? 他所の3年にケンカ売ったアタシは謹慎か何かですか」
「まだ何も言ってないじゃない」
宇部恵美の視線が、アタシからその後ろへと移った気がした。それに、外に人の気配がある。後ろを振り向いた瞬間バンッと勢いよく開くドア。それを開けたのは、朝霞サンと洋平。
「宇部、ちょっと待ってくれ」
「朝霞」
「それに、洋平も」
「対策委員の活動報告だな」
「ええ。戸田さんが暴れているという苦情を受けたから、事実確認をしているところよ」
「その件に関して、定例会で把握している状況を報告する」
朝霞サンは淡々と、現在対策委員が置かれている状況を宇部恵美に報告している。対策委員の会議に三井が乱入していて会議の進行が妨害されていること、対策委員の意見を封殺して自分の意のままにインターフェイスを動かそうとしていることなんかを。
そして、三井でも一応先輩だからという理由でみんなは強く出れないけど、学年がどうしたとか、学校がどうしたという立場に臆せず物事を言えるのはアタシなのだと朝霞サンは補足してくれた。
「そういうワケだから、口の悪さはともかく戸田への処分はどうか。寛大な対処を頼む。朝霞班班長として、向島インターフェイス放送委員会・定例会参事として。この通りだ」
「俺からもお願いします。つばちゃんは、ウチの子も含めたインターフェイスの1年生がより良い講習を受けられるように頑張ってくれてるから」
朝霞サンと洋平が深々と頭を下げている。確かに1人欠けたら終わる班だけど、そこまでしてくれなくたっていいのに。
「……頭を上げてちょうだい。言ってるでしょう、処分ありきでは話してないと」
「宇部、それじゃあ」
「まともに推敲もされていない、感情のままに文句を並べ立てただけのメールなんて、最初から信用してないわよ」
クレームを入れたいならもう少し客観的な内容の読みやすい文章を作って欲しいわ。そう言って宇部恵美は溜め息をひとつ。よほどその苦情とやらが支離滅裂な内容だったのかもしれない。何にせよ、アタシの首が繋がったことには違いない。よかった。
「宇部P、ところでそのメールって、誰からなの~?」
「そんなことをしてくる男が、三井以外にいるかしら」
「だよね~」
「あンの野郎、そんなトコにまで手ぇ回してやがったか!」
「戸田さん、私はあなたを信じるわ。大学の代表として出ている以上、口の悪さは少し改めて欲しいけれど、対策委員としてのスタンスは今のままで構わないわ」
「そう。言ったな?」
「ええ。だけど、いくらあなたが正論を言っていても、喧嘩腰だと聞く耳を持たれないわよ」
「アイツはやわやわ言ってたんじゃ自分に都合のいい解釈しかしねーんだよ」
「おい戸田、宇部に対しても口調を改めろ」
「その辺は、朝霞が班長としてこれから指導すること。いいわね」
「わかった」
部室を出れば外の空気が本当に美味しいし、光も希望のように見えて来る。対策委員の行く先は茨かもしれないけれど、少なくとも朝霞班としては希望がある。朝霞サンと洋平は、アタシに処分が下されなくて良かったと安心した様子で。
「て言うか~、朝霞クンて定例会で役職持ってたんだね~。参事? 初めて聞いた~」
「だね。三役くらいしか知らなかったし」
「いや、役職は今でっち上げた。俺はヒラだ」
「はあ!?」
「時として、必要なハッタリもあるんだよ。ほら、練習するぞ!」
「は~い」
「はいはい」
「戸田、はいは1回」
end.
++++
つばちゃんの窮地を救う洋朝がやりたいというだけの理由で物騒なことになってます。
一応星ヶ丘の幹部の中では宇部Pが最も話の分かる人であるということにはなっているのですが、やっぱ処分などの怖さもあるね
役職をでっち上げたw どーせバレんと思ったのか、それらしい役職があった方が説得力が増すと思ったのか……朝霞Pのみぞ知る
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「戸田さん、あなた、対策委員で随分と暴れてるそうね」
「言っとくけど、アタシは口以外悪くないから。処分を食らう筋合いなんかないからね」
定期的に入れている対策委員の活動報告。薄暗く、埃っぽい部室で宇部恵美と対峙して。アタシが報告を入れようとしたそのとき、向こうが切り出してきたのがその言葉だった。暴れているという表現はともかく、心当たりがないことはない。
「処分ありきでは話してないわよ。ただ、あなたの言動に関する苦情が入っているの。事実確認をしたいだけよ。心当たりはあるかしら」
「ないことはない」
「そう」
「掻い摘むと、対策委員の会議に向島の三井とかいう3年が乱入してきて好き勝手してるから、ふざけんなっつってるだけ。アタシらのことを学年が上だからとかいうだけの理由で押さえつけて来るし、頼んでもないのにプロの講師がどうとか妄言吐いてるし。で、「あの程度のステージしか出来ない星ヶ丘にラジオの何が分かる」って言われたから「テメー表出ろや」とは言った」
アタシの話を聞きながら、宇部恵美は仏頂面。呆れているのか怒っているのかはわからないけど、宇部恵美に届いているらしい苦情とやらと擦り合わせて、何が真実なのかを見極めようとしているのかもしれない。アタシは何も誇張してないし、ウソも言っていない。
力で上から押さえつけて来る無能という点では、三井もこの星ヶ丘大学放送部のクソ幹部連中と何ら大差はない。だからこそ、朝霞サンの名前を出された瞬間理性を保てなくなった感はある。朝霞サンの所為にするつもりはないけど、お前がウチの腐りきった体質や朝霞サンの何を知ってんだって。
「で? 他所の3年にケンカ売ったアタシは謹慎か何かですか」
「まだ何も言ってないじゃない」
宇部恵美の視線が、アタシからその後ろへと移った気がした。それに、外に人の気配がある。後ろを振り向いた瞬間バンッと勢いよく開くドア。それを開けたのは、朝霞サンと洋平。
「宇部、ちょっと待ってくれ」
「朝霞」
「それに、洋平も」
「対策委員の活動報告だな」
「ええ。戸田さんが暴れているという苦情を受けたから、事実確認をしているところよ」
「その件に関して、定例会で把握している状況を報告する」
朝霞サンは淡々と、現在対策委員が置かれている状況を宇部恵美に報告している。対策委員の会議に三井が乱入していて会議の進行が妨害されていること、対策委員の意見を封殺して自分の意のままにインターフェイスを動かそうとしていることなんかを。
そして、三井でも一応先輩だからという理由でみんなは強く出れないけど、学年がどうしたとか、学校がどうしたという立場に臆せず物事を言えるのはアタシなのだと朝霞サンは補足してくれた。
「そういうワケだから、口の悪さはともかく戸田への処分はどうか。寛大な対処を頼む。朝霞班班長として、向島インターフェイス放送委員会・定例会参事として。この通りだ」
「俺からもお願いします。つばちゃんは、ウチの子も含めたインターフェイスの1年生がより良い講習を受けられるように頑張ってくれてるから」
朝霞サンと洋平が深々と頭を下げている。確かに1人欠けたら終わる班だけど、そこまでしてくれなくたっていいのに。
「……頭を上げてちょうだい。言ってるでしょう、処分ありきでは話してないと」
「宇部、それじゃあ」
「まともに推敲もされていない、感情のままに文句を並べ立てただけのメールなんて、最初から信用してないわよ」
クレームを入れたいならもう少し客観的な内容の読みやすい文章を作って欲しいわ。そう言って宇部恵美は溜め息をひとつ。よほどその苦情とやらが支離滅裂な内容だったのかもしれない。何にせよ、アタシの首が繋がったことには違いない。よかった。
「宇部P、ところでそのメールって、誰からなの~?」
「そんなことをしてくる男が、三井以外にいるかしら」
「だよね~」
「あンの野郎、そんなトコにまで手ぇ回してやがったか!」
「戸田さん、私はあなたを信じるわ。大学の代表として出ている以上、口の悪さは少し改めて欲しいけれど、対策委員としてのスタンスは今のままで構わないわ」
「そう。言ったな?」
「ええ。だけど、いくらあなたが正論を言っていても、喧嘩腰だと聞く耳を持たれないわよ」
「アイツはやわやわ言ってたんじゃ自分に都合のいい解釈しかしねーんだよ」
「おい戸田、宇部に対しても口調を改めろ」
「その辺は、朝霞が班長としてこれから指導すること。いいわね」
「わかった」
部室を出れば外の空気が本当に美味しいし、光も希望のように見えて来る。対策委員の行く先は茨かもしれないけれど、少なくとも朝霞班としては希望がある。朝霞サンと洋平は、アタシに処分が下されなくて良かったと安心した様子で。
「て言うか~、朝霞クンて定例会で役職持ってたんだね~。参事? 初めて聞いた~」
「だね。三役くらいしか知らなかったし」
「いや、役職は今でっち上げた。俺はヒラだ」
「はあ!?」
「時として、必要なハッタリもあるんだよ。ほら、練習するぞ!」
「は~い」
「はいはい」
「戸田、はいは1回」
end.
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つばちゃんの窮地を救う洋朝がやりたいというだけの理由で物騒なことになってます。
一応星ヶ丘の幹部の中では宇部Pが最も話の分かる人であるということにはなっているのですが、やっぱ処分などの怖さもあるね
役職をでっち上げたw どーせバレんと思ったのか、それらしい役職があった方が説得力が増すと思ったのか……朝霞Pのみぞ知る
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