2020

■冒険のきょろきょろアワー

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「わー、すげー! ここでやってんだな」
「そのはず。確かブースは南ステージに近い方って聞いたけど」

 向島エリアの中心街、花栄にある広場でファンタジックフェスタというイベントが開催されている。MBCCはそこに向島インターフェイス放送委員会として参加しているということで、そのDJブースを見に来た。実際どんな活動なのか見に来てみるといいよと先輩たちから勧められていたんだ。
 今日一緒に来たのは俺とシノ、それからレナの3人。年度が始まって1ヶ月と少し、サークルの同期は自分込みで6人。アナウンサーとミキサーは現段階で3人ずつ。レナは俺と同じアナウンサーの同期で、落ち着いた雰囲気のある女子だ。

「あっ、あれじゃね?」
「ああ、多分そうだ」

 それらしい音がする方へ行ってみるとテントの下にはサークル室と同じように機材がセットされていて、足元には配線隠しの垂れ幕がされていた。無数に並べられた丸椅子は休憩スペースや控えスペースのようにして使われているようだ。
 ステージイベントやそれぞれの露店からも音が発せられているからインターフェイスのラジオが目立つわけではない。だけど、それでもテント近くに行けば何かやっているなというのがわかる。通りかかったときにちょっと聞ける程度だろうか。聞こうとして聞いてくれる人を待つ感じでもなさそうだ。

「あっ、それではちょうど通りかかった学生さんでしょうか、話を聞いてみたいと思いまーす。すみませんちょっとお時間いいですかー?」
「えっ、あっ、はい」
「なになに、なんすかこれ」

 ちょうどテント前に差し掛かると、マイクを持ったハナ先輩が俺たちに話しかけて来た。これはもしかしなくても番組の真っ最中だろうか。状況を飲み込めない俺たち3人は、たどたどしくハナ先輩からの質問に答えていく。
 今日はファンフェスに何をしにとか、どこからとかいう質問に答えていると、俺たちの真後ろにあるスピーカーからはその質問に対する返しが飛んでくる。今来たならおいしい物食べてったらいいよ、とかそんなようなことが。
 質問と簡単なインタビューを終えると、ハナ先輩はまた別の人に声を掛けに行ってしまった。俺たちは突然の番組出演(?)に動揺したまま辺りをきょろきょろと見渡した。番組真っ最中のハナ先輩以外に誰かMBCCの人はいないかなと助けを求めるように。

「ササ」
「あっ、高木先輩。おはようございます」
「ああ、シノとレナも。おはよう」
「おはようございます」
「ビックリしちゃったでしょ、ハナちゃんの中継」
「はい、急だったんで」
「つか何だったんすか今の」
「ワイヤレスの機材を使った中継だね。普段はあんまりやらないけどね。今アナウンサー席に座ってるのが向島の佐久間先輩て人なんだけど、あの人が去年の夏に復刻させた手法なんだよ。実戦でやるのは初めてで」
「へー、そうなんすね」
「ホントにいろんな大学の人がいるんすね」
「そうだね。今ミキサーやってるのは星ヶ丘の先輩と青敬の子だし、俺とピントークでペアを組むのは青女の先輩だよ」

 丸椅子に座っているのは大体インターフェイスの人だというから驚きだ。今日のDJブースは7時間に亘る番組リレー。それをここにいる人がみんなで1時間ずつ繋いでいくのだという。俺たちがこれをやるのは来年になるそうだ。

「見どころっつーか、上手い人って誰すか?」
「上手い人ねえ……ミキサーだったら向島さんのいる班がおすすめかな」
「向島はミキサーに特化した学校なんすか?」
「去年は今の4年生にアナウンサーの双璧って呼ばれた上手い人がいたけど、今はミキサーに特化してるね。元々機材王国って呼ばれてたみたいだし」
「へー、そーなんすね」
「3年生の先輩は3人ともタイプが全然違うけど、それぞれの上手さがあって面白いし」
「アナウンサーの双璧……確か、もう1人ってウチの高崎先輩ですよね。もう1人のその人も気になりますね」

 番組自体はサークルで練習している感じのそれとあまり違いを感じない。ただ、今日はダブルトークという形式でやっているそうで、それがパッと見た違いだろうか。だけど、他校の人と打ち合わせて番組を作るということが身内だけでやるより難しいのかもしれない。

「タカティ、リクのAD作業お願いしていい?」
「あっはい、わかりました」
「緑ヶ丘の子?」
「はい。ウチの1年生です。この大きい子がササ、そっちがシノ、女の子がレナです」
「緑ヶ丘って6人いるんだっけ? ウチはまだ1年生が入ってないから素で羨ましい」
「ああ、こちら、向島の野坂先輩です」
「向島の野坂雅史。DJネームはマーシー。何卒よろしく」

 そんな風に話していると、中継から帰って来たらしいハナ先輩がアナウンサー席からこっちに向かってひらひらと手を振っている。俺たちはそれに会釈で返し、これからどうするかを考える。ここでこのまま見学するか、この会場を回って時折番組を聞くスタイルか。

「ササ、俺めっちゃ腹減った」
「そしたら何か食べるか、いい時間だし。レナもそれでいい?」
「うん、いいよ」
「――そういうことなんで、ちょっと会場を回ってきます」
「うん、いってらっしゃい」


end.


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緑ヶ丘の1年生たちがファンフェスを見に来たようです。でも急に中継に巻き込まれたら誰だってビックリする。ハナちゃんの悪乗りか?
どちらかと言うと今回はインターフェイスの説明回に近くなってるかな。いろんな大学の人とこういう活動をしますよ的な。
菜月さんのフラグも立ったけど、全然本人が登場する気配はありませんね。前3年のメイン4人はまだいち氏しか出て来てないはずだものね

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