2020
■明けの強制モーニング
++++
「あー……しんど」
「つってお前が朝しんどいの何か今更だっていう」
「まあね? ……お湯沸かそ」
最近では、長めの休み明けには大体高木の部屋に招集されて、朝になったらアイツを叩き起こす役目を担わされているような気がする。ゴールデンウィーク明けの一発目の授業が始まる今日も例に漏れずそれを頼まれていて、ちょうど叩き起こしたところだ。
ゴールデンウィークを過ぎたくらいから大学の学内から人が格段に減る傾向にある。それまでは学期始めの緊張感があったのか、みんなちゃんと来るんだ。だけど、それを過ぎると糸が切れてサボり始める奴が一気に増える。特に長い休みになるゴールデンウィークなんかは休み癖が付きがちだ。
高木も去年の今頃から授業への出席が飛び飛びになり始めたのだという。それから後のことはお察し。授業どころか1人暮らしが破綻し始め、とんでもない生活になっている。奴曰く、今年は2年になって専門的な授業も増えているからここで踏ん張りたいのだという。
「ホント、朝型の人が羨ましい」
「生活習慣を変えれば朝型夜型なんてのは簡単に変わるんじゃないのかっていう」
「遺伝子で決まってるってネットで見た」
「だとしたってお前が朝起きれないのにはちゃんと説明付くべ。まずこの遮光カーテンが良くないっていう。おはようカーテンつけろって何遍言えば」
「まあ、実際何回も聞いてるけどね。お金がさ」
「バイト代はどうした。3月末に3万ちょい入ってたんじゃないのか」
「机買ったりしたじゃない」
人は朝日を浴びて体内時計をリセットするという風には聞いたことがある。多分俺なんかはそれを意識するでもなく自然にやっていて、朝の5時半起きでも6時起きでも割と苦じゃない。逆に夜はあまり長いこと起きていられない。
高木はその逆で、朝の5時半だの6時まで起きていることはあまり苦じゃないが、朝はあまり早くから起きられないんだと。だから2年になって履修は最低でも10時40分からの2限スタートにしてある。ただ、家から大学までの距離がそこそこあるから起きる時間的にはそこまで遅くならない。
「ゼミの友達にも朝型の子がいてさ、しかもその子コムギハイツに住んでるんだって。朝早くから起きて授業始まるまで何やってるんだろう」
「1人暮らしだったら掃除とか洗濯とかいろいろやれるだろ。優雅に朝飯食うとか。コムギハイツなら大学に近いし俺は図書館に行くな」
「あ、お湯沸いた」
コーヒー用のお湯が沸き、高木は重い腰を上げ自分と俺、2人分のコーヒーをドリップする。コーヒーと食パンという簡素な朝食だけど、それでもないよりはいい。高木は寝坊で朝飯どころか昼飯も抜かなきゃいけなくなることもあるから。
「つかこんな調子で昼放送は大丈夫なのかっていう」
「大丈夫。番組のある日はちゃんと起きるよ」
「信用ならねー」
「元々、番組やるのは絶対サボれない日にした方がいいとは思ってたんだよね」
「そもそも授業はサボるサボらないで論ずるモンじゃないっていう」
「俺もサボろうと思ってサボってるワケじゃないんだけど、不可抗力ってあるじゃない」
「ねーよ」
今期の昼放送で俺と組むのはコイツだ。打ち合わせはこうやってコイツの部屋で飲みながらとかでも全然出来るけど、逆にコイツがちゃんと昼放送の時間に大学にいるのかっていう不安も大きい。なんなら昼放送の日もこうやって叩き起こす必要が出て来るんじゃないかって。
「水曜は一般教養しかないし、木曜日はゼミがあるから昼ご飯食べときたいし回避したかったけどね。だから火曜日で本当に良かった」
「火曜はサボれない授業があるんだな」
「そうだね。マスコミ論とか。先生の講義だからサボるといろいろ問題が起きそうで」
「あー、MBCCのミキサーであること以外に現状特に秀でたトコも武器もないから目ぇ付けられたらアウトだっていうゼミな」
佐藤ゼミはセンタービルで昼にやってるラジオの公開生放送がとにかく派手なゼミだ。ガラス張りのブースにすげー機材を積み上げて、スピーカーで外にも音を流してる。ただ、やってることが派手な割に、やってる番組の技量があれだけの設備を必要とするのかって甚だ疑問ではある。
すげー高い機材とか、すげーいいマイクを使ってとにかく派手にやってる印象が強い。実際人気のあるゼミで選考の倍率もすげー高かったらしいけど、高木は実質無競争当選だったらしい。理由はMBCCのミキサーだからだ。成績度外視でコイツは合格って感じで通ったとか。
「事実だけど改めて言われるとちょっと辛いなあ」
「それはお前の成績が問題なんだろっていう。授業サボるとか寝てるとか平気でやりやがるから」
「果林先輩からも成績のことに関しては釘を刺されててさ」
「果林先輩が?」
「君の後輩はどうなってるのって先生からチクチク言われたって」
「そりゃ果林先輩的には自分に言われてもって話じゃね」
「言うならせめてエイジだよね」
「どーしてそうなるんだっていう!」
「いたっ」
「ふざけたこと言ってないでさっさと飯食って支度しろっていう」
そうこう言っている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。早く起きたってここでもたもたして電車に乗り遅れればアウトなんだ。大学に着くまで油断は禁物だ。コイツの巻き添えで俺まで遅刻したくない。
「ほら、皿とマグカップ洗うからはよ貸せ」
「ん」
end.
++++
2年生になっているのでエイジはもうタカちゃんのことを諦めてそんなモンだと納得しかけている模様。
今年度になってもおはようカーテン(正式名称は違う)のことを言い続けるエイジだけど、実際日光って結構凄い効果があるからね。大事。
番組をやるのは絶対サボれない日にっていうのはどこかで聞いたような気がしますね、“去年”の向島辺りで
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「あー……しんど」
「つってお前が朝しんどいの何か今更だっていう」
「まあね? ……お湯沸かそ」
最近では、長めの休み明けには大体高木の部屋に招集されて、朝になったらアイツを叩き起こす役目を担わされているような気がする。ゴールデンウィーク明けの一発目の授業が始まる今日も例に漏れずそれを頼まれていて、ちょうど叩き起こしたところだ。
ゴールデンウィークを過ぎたくらいから大学の学内から人が格段に減る傾向にある。それまでは学期始めの緊張感があったのか、みんなちゃんと来るんだ。だけど、それを過ぎると糸が切れてサボり始める奴が一気に増える。特に長い休みになるゴールデンウィークなんかは休み癖が付きがちだ。
高木も去年の今頃から授業への出席が飛び飛びになり始めたのだという。それから後のことはお察し。授業どころか1人暮らしが破綻し始め、とんでもない生活になっている。奴曰く、今年は2年になって専門的な授業も増えているからここで踏ん張りたいのだという。
「ホント、朝型の人が羨ましい」
「生活習慣を変えれば朝型夜型なんてのは簡単に変わるんじゃないのかっていう」
「遺伝子で決まってるってネットで見た」
「だとしたってお前が朝起きれないのにはちゃんと説明付くべ。まずこの遮光カーテンが良くないっていう。おはようカーテンつけろって何遍言えば」
「まあ、実際何回も聞いてるけどね。お金がさ」
「バイト代はどうした。3月末に3万ちょい入ってたんじゃないのか」
「机買ったりしたじゃない」
人は朝日を浴びて体内時計をリセットするという風には聞いたことがある。多分俺なんかはそれを意識するでもなく自然にやっていて、朝の5時半起きでも6時起きでも割と苦じゃない。逆に夜はあまり長いこと起きていられない。
高木はその逆で、朝の5時半だの6時まで起きていることはあまり苦じゃないが、朝はあまり早くから起きられないんだと。だから2年になって履修は最低でも10時40分からの2限スタートにしてある。ただ、家から大学までの距離がそこそこあるから起きる時間的にはそこまで遅くならない。
「ゼミの友達にも朝型の子がいてさ、しかもその子コムギハイツに住んでるんだって。朝早くから起きて授業始まるまで何やってるんだろう」
「1人暮らしだったら掃除とか洗濯とかいろいろやれるだろ。優雅に朝飯食うとか。コムギハイツなら大学に近いし俺は図書館に行くな」
「あ、お湯沸いた」
コーヒー用のお湯が沸き、高木は重い腰を上げ自分と俺、2人分のコーヒーをドリップする。コーヒーと食パンという簡素な朝食だけど、それでもないよりはいい。高木は寝坊で朝飯どころか昼飯も抜かなきゃいけなくなることもあるから。
「つかこんな調子で昼放送は大丈夫なのかっていう」
「大丈夫。番組のある日はちゃんと起きるよ」
「信用ならねー」
「元々、番組やるのは絶対サボれない日にした方がいいとは思ってたんだよね」
「そもそも授業はサボるサボらないで論ずるモンじゃないっていう」
「俺もサボろうと思ってサボってるワケじゃないんだけど、不可抗力ってあるじゃない」
「ねーよ」
今期の昼放送で俺と組むのはコイツだ。打ち合わせはこうやってコイツの部屋で飲みながらとかでも全然出来るけど、逆にコイツがちゃんと昼放送の時間に大学にいるのかっていう不安も大きい。なんなら昼放送の日もこうやって叩き起こす必要が出て来るんじゃないかって。
「水曜は一般教養しかないし、木曜日はゼミがあるから昼ご飯食べときたいし回避したかったけどね。だから火曜日で本当に良かった」
「火曜はサボれない授業があるんだな」
「そうだね。マスコミ論とか。先生の講義だからサボるといろいろ問題が起きそうで」
「あー、MBCCのミキサーであること以外に現状特に秀でたトコも武器もないから目ぇ付けられたらアウトだっていうゼミな」
佐藤ゼミはセンタービルで昼にやってるラジオの公開生放送がとにかく派手なゼミだ。ガラス張りのブースにすげー機材を積み上げて、スピーカーで外にも音を流してる。ただ、やってることが派手な割に、やってる番組の技量があれだけの設備を必要とするのかって甚だ疑問ではある。
すげー高い機材とか、すげーいいマイクを使ってとにかく派手にやってる印象が強い。実際人気のあるゼミで選考の倍率もすげー高かったらしいけど、高木は実質無競争当選だったらしい。理由はMBCCのミキサーだからだ。成績度外視でコイツは合格って感じで通ったとか。
「事実だけど改めて言われるとちょっと辛いなあ」
「それはお前の成績が問題なんだろっていう。授業サボるとか寝てるとか平気でやりやがるから」
「果林先輩からも成績のことに関しては釘を刺されててさ」
「果林先輩が?」
「君の後輩はどうなってるのって先生からチクチク言われたって」
「そりゃ果林先輩的には自分に言われてもって話じゃね」
「言うならせめてエイジだよね」
「どーしてそうなるんだっていう!」
「いたっ」
「ふざけたこと言ってないでさっさと飯食って支度しろっていう」
そうこう言っている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。早く起きたってここでもたもたして電車に乗り遅れればアウトなんだ。大学に着くまで油断は禁物だ。コイツの巻き添えで俺まで遅刻したくない。
「ほら、皿とマグカップ洗うからはよ貸せ」
「ん」
end.
++++
2年生になっているのでエイジはもうタカちゃんのことを諦めてそんなモンだと納得しかけている模様。
今年度になってもおはようカーテン(正式名称は違う)のことを言い続けるエイジだけど、実際日光って結構凄い効果があるからね。大事。
番組をやるのは絶対サボれない日にっていうのはどこかで聞いたような気がしますね、“去年”の向島辺りで
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