2020
■輝くおもてなしの包丁
++++
「カズ、荷物ここでいい?」
「いいよー。ちーちゃんありがと。よいしょ、っと! よーし、やりますか! それじゃあカオル、台所借りるねー」
カズから突然連絡が入ったから何かと思えば、宅飲みがしたいと。厳密には宅飲みの料理をしこたま作りたいということらしい。カズは4年になると住んでいたマンションの部屋を引き払って実家に戻ったんだけど、実家だとなかなか自由に台所に立てないらしい。
そこで、一人暮らしをしていて台所を自由に荒らせて、飲みの最中は座って飲み食いするだけの奴代表として選ばれた俺の部屋を会場に、久しく振りの定例会飲みが開催されることとなった。……ギリセーフ過ぎだろ、俺と大石的な意味で。
「とりあえず、俺は部屋の準備するわ」
「カオル、圧力鍋と真空鍋置くスペースと電源だけ確保お願い」
「僕と大石君はどうしようか」
「ゆっくりしててもらって」
そうやって少し部屋を整頓して、座って待っているとさっそくお通しを出してくるんだからカズはさすがだ。お通しと最初の一杯を手に、ひとまず乾杯。カズは持っていたお茶を机に置いて台所へ戻っていった。
「みんな、最近はどうかい?」
「どうもこうも。バイトと卒論と就活だな」
「俺もそんな感じ。そういう圭斗は?」
「バイトと卒研と就活だね」
「どいつもこいつも色気ねえな」
「ん、朝霞君には恋愛フラグが立ってると聞いたけど?」
「誰から何を聞いたか知らないけどな、俺は趣味が楽しくて楽しくてそれどころじゃない。俺は今自分が5人に増えないかなと思っていてだな」
「まあ、朝霞らしいよ。でも、恋愛に関しては朝霞が鈍すぎるんでしょ。それこそ趣味にしか目が行ってなくて。それがいいって人もいるんだろうけど」
大石の言い方に若干の棘を感じたのは奴が俺に対しては遠慮しなくなった表れだということにしておこう。最近ではUSDX関係やそれ以外の創作活動が楽しくて、ゲームの練習やどうぶつの森配信もあるしとにかく忙しい。
「はい、ポテトサラダとコロッケでーす」
「すごい、コロッケ揚げたて!?」
「前に作って冷凍しといたのを持ってきたんだ。今他の料理も作ってるからねー」
「カズは安定だし」
「圭斗、色気のある話は俺と大石じゃなくてカズに求めてくれ」
「うん。ホントに。あっ朝霞、飲んでる?」
「ああ、じゃあもらおうか」
――などと、飲み食いが進み始めたときだった。ピンポーンとインターホンが鳴る。宅配が届く予定はなかったはずだし、他に誰か招待していた覚えもない。俺を知ってる人ならアポなしで来るとはそう考えられないが(来るなら掃除する時間をくれと言ってある)。
「はーい。あれっ!? リン君に菅野、どうした」
「暇だからお前の部屋でゲームでもと思ったのだが、先客か」
「飲んでるね」
「昼間から飲んでいるのか」
「まあ、連休中だし。カズ、お前確かIFサッカー部で菅野とは顔見知りなんだろ?」
「おー、スガちゃん! えっ、リンちゃんもいるじゃん! せっかく来たならご飯だけでも食べてってよ!」
「――とのことだから、どうぞ」
「では、邪魔するぞ」
思いがけずメンバーが増えて、大石と圭斗に2人を紹介する。言ってインターフェイスだの音楽会だのと知らない人のいる現場に足を運ぶ機会の多かった面々は、こういう予期せぬ出会いなどには全く動じず順応している。
そして大石とリン君は星大で少し話したことがあるらしく、これこれこういう件で~と説明をすると圭斗が死んだ目をしてうな垂れていたので、珍しいモンを見れた気がする。かつては向島インターフェイス放送委員会を統べる帝王と呼ばれた男が。
「はーい、がっつり系のお肉でーす」
「やったー!」
「ちーちゃんいっぱい食べてね。って言うかリンちゃんとスガちゃんてどういう友達なの?」
「音楽イベントで知り合ってな。趣味が合って今はゲームをしたりしている」
「へー、そうなんだ」
「カズたちは? みんな学校違うみたいだけど」
「俺たちはインターフェイスの前定例会だね」
「ああ、部活か」
話をしていくと、圭斗と須賀が同じドラッグストアでバイトしていることが明らかになったり、案外世間が狭いらしいことがわかる。カズは延々と調理を続けてるけど、料理を運びながら会話に参加している。
程よく時間が過ぎたところで、真空鍋のふたを開けていいよと許可が出たのでご開帳タイム。中から出てきたのはタコの炊き込みご飯。これは絶対に美味いヤツだ。全員のテンションが一気に上がる。と言うかやっぱりカズは宅飲み飯ガチ勢過ぎる。
「タコ飯が美味すぎる」
「最高。ひあわへ~。カズ、おかわりしていい?」
「何故オレは車で来たのか」
「リン君、飲みたい感じ?」
「飲みたいな」
「そしたらリン君と菅野、これ解散後に延長戦やる? この会はまだ続くけど」
「ほう。意図するところはわかった。オレは飲むことにしよう」
「わかった、延長戦な。俺はもしかしてに備えてハンドルキーパーになるよ」
この会がどこまで続くかはカズの持ってきた料理の材料次第だろう。料理する物が尽きればお開き、それでなければ延々と続く。この会はカズが料理をしたいがためだけに開かれた会で、俺たちには延々と飲み食いする以外の選択肢がない。
「しかし、オレはゆくゆく甘い物も食いたいのだが。伊東、甘い物はあるのか」
「あ、冷蔵庫に冷やしてるよー」
「あるのか」
「カズ、さすがすぎるだろ」
end.
++++
タイトルはいち氏を表現しているのだけど、朝霞P視点だし飲み食いよりはお喋りがメインのナノスパによくあるアレ。
唐突にリン様とスガPが遊びに来るし、この家も何気に人の集まりやすい部屋ですね。そのクセ汚いんだもんなあ。そら予告欲しいよ
高崎が部屋に人を上げてくれるタイプだったなら高崎の部屋が会場になったんだろうけど、どうだろうね。
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「カズ、荷物ここでいい?」
「いいよー。ちーちゃんありがと。よいしょ、っと! よーし、やりますか! それじゃあカオル、台所借りるねー」
カズから突然連絡が入ったから何かと思えば、宅飲みがしたいと。厳密には宅飲みの料理をしこたま作りたいということらしい。カズは4年になると住んでいたマンションの部屋を引き払って実家に戻ったんだけど、実家だとなかなか自由に台所に立てないらしい。
そこで、一人暮らしをしていて台所を自由に荒らせて、飲みの最中は座って飲み食いするだけの奴代表として選ばれた俺の部屋を会場に、久しく振りの定例会飲みが開催されることとなった。……ギリセーフ過ぎだろ、俺と大石的な意味で。
「とりあえず、俺は部屋の準備するわ」
「カオル、圧力鍋と真空鍋置くスペースと電源だけ確保お願い」
「僕と大石君はどうしようか」
「ゆっくりしててもらって」
そうやって少し部屋を整頓して、座って待っているとさっそくお通しを出してくるんだからカズはさすがだ。お通しと最初の一杯を手に、ひとまず乾杯。カズは持っていたお茶を机に置いて台所へ戻っていった。
「みんな、最近はどうかい?」
「どうもこうも。バイトと卒論と就活だな」
「俺もそんな感じ。そういう圭斗は?」
「バイトと卒研と就活だね」
「どいつもこいつも色気ねえな」
「ん、朝霞君には恋愛フラグが立ってると聞いたけど?」
「誰から何を聞いたか知らないけどな、俺は趣味が楽しくて楽しくてそれどころじゃない。俺は今自分が5人に増えないかなと思っていてだな」
「まあ、朝霞らしいよ。でも、恋愛に関しては朝霞が鈍すぎるんでしょ。それこそ趣味にしか目が行ってなくて。それがいいって人もいるんだろうけど」
大石の言い方に若干の棘を感じたのは奴が俺に対しては遠慮しなくなった表れだということにしておこう。最近ではUSDX関係やそれ以外の創作活動が楽しくて、ゲームの練習やどうぶつの森配信もあるしとにかく忙しい。
「はい、ポテトサラダとコロッケでーす」
「すごい、コロッケ揚げたて!?」
「前に作って冷凍しといたのを持ってきたんだ。今他の料理も作ってるからねー」
「カズは安定だし」
「圭斗、色気のある話は俺と大石じゃなくてカズに求めてくれ」
「うん。ホントに。あっ朝霞、飲んでる?」
「ああ、じゃあもらおうか」
――などと、飲み食いが進み始めたときだった。ピンポーンとインターホンが鳴る。宅配が届く予定はなかったはずだし、他に誰か招待していた覚えもない。俺を知ってる人ならアポなしで来るとはそう考えられないが(来るなら掃除する時間をくれと言ってある)。
「はーい。あれっ!? リン君に菅野、どうした」
「暇だからお前の部屋でゲームでもと思ったのだが、先客か」
「飲んでるね」
「昼間から飲んでいるのか」
「まあ、連休中だし。カズ、お前確かIFサッカー部で菅野とは顔見知りなんだろ?」
「おー、スガちゃん! えっ、リンちゃんもいるじゃん! せっかく来たならご飯だけでも食べてってよ!」
「――とのことだから、どうぞ」
「では、邪魔するぞ」
思いがけずメンバーが増えて、大石と圭斗に2人を紹介する。言ってインターフェイスだの音楽会だのと知らない人のいる現場に足を運ぶ機会の多かった面々は、こういう予期せぬ出会いなどには全く動じず順応している。
そして大石とリン君は星大で少し話したことがあるらしく、これこれこういう件で~と説明をすると圭斗が死んだ目をしてうな垂れていたので、珍しいモンを見れた気がする。かつては向島インターフェイス放送委員会を統べる帝王と呼ばれた男が。
「はーい、がっつり系のお肉でーす」
「やったー!」
「ちーちゃんいっぱい食べてね。って言うかリンちゃんとスガちゃんてどういう友達なの?」
「音楽イベントで知り合ってな。趣味が合って今はゲームをしたりしている」
「へー、そうなんだ」
「カズたちは? みんな学校違うみたいだけど」
「俺たちはインターフェイスの前定例会だね」
「ああ、部活か」
話をしていくと、圭斗と須賀が同じドラッグストアでバイトしていることが明らかになったり、案外世間が狭いらしいことがわかる。カズは延々と調理を続けてるけど、料理を運びながら会話に参加している。
程よく時間が過ぎたところで、真空鍋のふたを開けていいよと許可が出たのでご開帳タイム。中から出てきたのはタコの炊き込みご飯。これは絶対に美味いヤツだ。全員のテンションが一気に上がる。と言うかやっぱりカズは宅飲み飯ガチ勢過ぎる。
「タコ飯が美味すぎる」
「最高。ひあわへ~。カズ、おかわりしていい?」
「何故オレは車で来たのか」
「リン君、飲みたい感じ?」
「飲みたいな」
「そしたらリン君と菅野、これ解散後に延長戦やる? この会はまだ続くけど」
「ほう。意図するところはわかった。オレは飲むことにしよう」
「わかった、延長戦な。俺はもしかしてに備えてハンドルキーパーになるよ」
この会がどこまで続くかはカズの持ってきた料理の材料次第だろう。料理する物が尽きればお開き、それでなければ延々と続く。この会はカズが料理をしたいがためだけに開かれた会で、俺たちには延々と飲み食いする以外の選択肢がない。
「しかし、オレはゆくゆく甘い物も食いたいのだが。伊東、甘い物はあるのか」
「あ、冷蔵庫に冷やしてるよー」
「あるのか」
「カズ、さすがすぎるだろ」
end.
++++
タイトルはいち氏を表現しているのだけど、朝霞P視点だし飲み食いよりはお喋りがメインのナノスパによくあるアレ。
唐突にリン様とスガPが遊びに来るし、この家も何気に人の集まりやすい部屋ですね。そのクセ汚いんだもんなあ。そら予告欲しいよ
高崎が部屋に人を上げてくれるタイプだったなら高崎の部屋が会場になったんだろうけど、どうだろうね。
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