2020

■GREENs春のネギ祭り

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「それでは、今年もGREENs春のネギ祭りを始めたいと思います!」
「やったー! ぱふぱふどんどーん!」
「さっちゃん、元気があって大変よろしい。今年も会場提供は鵠っちでーす、どうもありがとー!」
「ぱふぱふどんどーん」

 七輪の支度をしておけと言われると、この季節が来たんだなと感じる。今日これから始まるのは慧梨夏サンのタイトルコール通り、春のネギ祭りだ。バスケサークルGREENsは、バスケもちゃんとやるけどイベントにも力を入れているサークルだ。で、今年度一発目のイベントがこれ。
 このテの行事の会場は大体のケースで大学から近い俺のアパートだ。コムギハイツは学生の溜まり場になりやすいという性質があって、ちょっとわいわいしているくらいでは住人もそんなに怒らない。溜まり場にされるのはお互い様という暗黙の了解だ。

「今年はさすがにネギの神がいらっしゃらないということで、露地物のネギを探して買って来たんだけど、これもきっと美味しいでしょう」
「おおー、ちゃんと根っこがくっついてますね!」
「根っこついてた方が新鮮さを保てそうな感じしない?」
「わかるっす」

 慧梨夏サンと三浦が前説代わりに喋っている中、尚サンや景サンは台所でネギ料理の調理真っ最中だし、俺は七輪の支度をしている。今日この行事に参加している1年生は5人くらいだけど、圧倒的物量のネギに引いているのがわかる。
 元々このネギ祭りというのはこの春に卒業した伊東サンという人の誕生パーティーだった。あの人がガチの薬味狂で、特にネギが好きだった。慧梨夏サンが誕生日プレゼントとしてネギの栽培キットをプレゼントしていたけど、そこで育ったネギが大学祭で出て来た時にはかなりビビった。

「そーだ鵠沼クン!」
「ん? どうした三浦」
「ご飯ってある?」
「飯? 炊けばあると思うけど」
「じゃあ炊いて! 三浦はねえ、最強のレシピを入手したんですよ! これを食べればみんな三浦を天才だって言うよ!」
「お前が天才かどうかはともかく、飯だな」
「よろしくー。あっ、ちょっと固めね!」

 言われるがままに炊飯器にマックスの米をセットし、自分の持ち場に戻る。俺は七輪の担当だから、1年生たちにGREENsの洗礼を浴びせる例のヤツが最大の仕事ということになる。例のヤツというのは、ネギのホイル焼きだ。
 日頃からネギをこんな食い方で楽しむ奴なんかそうそういやしない。1年生たちも本当に丸ごと食うのかという反応だったけど、いざ食ってみると思った以上に甘くて美味いんだ。そうやって落としていくのが伊東サンのやり方だった。例に漏れず今年の1年生たちもネギ教にオチた。
 3年生らが作ってくれたネギ料理の数々を美味しくいただくという主旨の行事。なんなら今日だけで1年分くらいのネギを食ってるんじゃないかっていうレベルだ。慧梨夏サンのやることはいつだって規模がデカい。用意されたネギの量や種類の数も冗談では済まないレベルだ。

「鵠沼クーン、七輪空いてるー?」
「今は大丈夫だけど、何焼く気だ」
「ふっふーん、三浦の天才レシピですよ!」
「ドヤってるのが腹立つな。わかったから、焼きたいモンがあるなら焼いてけ」
「あー、鵠沼クンそんな態度とる!? 三浦のことをバカにしていますね!?」
「してないじゃん? いいから早くしろ、次がつかえてんだ」
「あーごめんて。ふふん、三浦の天才レシピの仕上げですよ!」

 そう言って三浦は七輪の上に白いものをおいた。よく見るとそれはおにぎりだ。焼きおにぎりを作ろうというのか。まあ、確かに七輪で焼けば美味いことには違いないけど、これの何がどう天才レシピなのか。

「これをこうして、どーん!」
「あー、そうきたか…! これはマズいワケないじゃん!?」
「ふっふーん、米ちゃん監修、ネーギーみーそーおーにーぎーりー!」
「米ちゃんが誰かはともかく、ネギ味噌はダメじゃん!?」

 三浦がおにぎりにネギ味噌を塗りたくると、食欲をそそる匂いが一段と広がるんだ。今回はネギの祭りといえ主食らしい主食の登場にGREENsメンバーがアップを始める。当然俺も。今まで食ってたものも美味かったけど、言っちまえばおかずばっかだったじゃんな。

「あー、これは美味い。三浦を褒めるのは癪だけどこの発想はなかった」
「でしょー? 三浦も捨てたモンじゃないんですよ鵠沼クン」
「これ何個でもイケるし、なんなら鶏肉とかに塗っても美味そう」
「あっいいね! 米ちゃんもネギ味噌は汎用性がありそうって言ってたよ」
「つかちょこちょこ出て来る米ちゃんって誰だ? お前の友達か」
「お米同好会の子だよ」
「あー、お米同好会か。でも、お米同好会なら米の味を楽しむための塩むすびとかに特化してそうだけど」
「ネギ味噌は三浦のリクエストで考えてくれたんだよ。お米との相性が最高になるように配合を考えてくれたんだって」
「ふーん。うまっ。まだ食えるな」

 いろんなおかずが出て来たけど、もしかしたら今日一番美味かったのは三浦のネギ味噌おにぎりだったかもしれない。ネギ味噌はおにぎりに塗るだけでなく焼いたネギにそのままディップして食う奴も出て来るなど大人気調味料となった。
 俺は七輪の番をしながら延々と1年生と喋っていた。1年生は毎年この行事をやってるのかとか、イベントはこのノリなのかということを少し引き気味に聞いていたけど、もっと普通のイベントの方が多いと答えておいた。まあ、普通……だろう。

「慧梨夏サン! そのネギの根っこ水に浸けたら伸びるんでしたっけ!?」
「あー、どうだったかな。伸びそうだけどね。ちょっと神にLINE入れるわ」


end.


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ネギ味噌焼きおにぎりという単語が突如として降って来て、これはGREENsやろとこの形に。
三浦さっちゃんの友達の米ちゃんという人がお米同好会にいるらしいけど、お米同好会で米ちゃんというのはなかなか短絡的ですね
しかし、鵠さんも米を食べなければ食事をした気にならないタイプの人種? でも朝食はパンだよね。

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