2020
■挟み込む夢と現実
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「唯香さん! これから発表会の準備ですか?」
「実苑。そうだけど、アンタも来る?」
「もちろん! 発表会の準備って、夜遅くまでやるんですよね。役員にもなると帰らない人もいるとかいないとか」
「そーね。てか、アンタホント物好きだわ、いつ解放されるかもわからない準備にわざわざ首突っ込むなんて」
文化会発表会がいよいよ明日に迫っている。この日の授業が終われば、発表会の関係者が続々と4号館401教室へと集まり始める。文化会発表会では、4号館全体が各部の活動発表の場として飾り付けされ、普段と違うか顔を見せる。
美術部の作品はこの建物の至る所に展示される。4号館3階には美術部だとか、その他に展示物のある部活がいろいろ物を置いたり貼ったりするけど、アタシの写真はエレベーターや401教室までの通路に飾られたりする。
実苑の作品は401教室の前に展示されることになった。発表会を見に来た人が絶対に通る場所。発表会を見に来た人は出版部の作った部活紹介冊子をもらって席に着く。受付には文化会役員の誰かがいるから壊されはしないだろうということで。
「それで、準備は具体的に何をすればいいんでしょうか」
「アタシらは自分の展示物を配置したら後はもう見てるだけでいいような感じ。会場の中の準備はステージを使う部活がやるような感じだし。で、何かあったときに動けるように待機するっていう体で喋ってればオッケー、的な?」
「思ったよりも準備らしい準備はしないような感じですか?」
「実質ね。アタシも去年は出版の関さんと喋ってただけだったわ」
上に言ってエレベーターを一回止めてもらい、エレベーターの中に写真をこれでもかと敷き詰め、踏まれても問題ないように上から透明なフィルムを貼る。ついでに教室まで続く通路の方にも写真を敷き詰めていく。
写真の枚数だけは無駄にある。しっかりと見せたいヤツ以外のよくある風景はみんな背景だ。バッチリキマったヤツ以外をコラージュにしたりしてまた再利用するという風には考えていた。結果デカくなったコラージュは廊下の壁に貼らせてもらう。
「唯香さん、作業はどうですか?」
「ああ、実苑。アンタは?」
「僕はもう飾る物は飾ってしまったので何かあればお手伝いしますが」
「アタシもそろそろキリ良しだから手伝ってもらうことは特にないな」
「そうですか」
「それより、アンタこれから先何して時間潰すつもり? どーせアンタが今日居残るのってアレが見たいためっしょ」
「それはそうですが、他の部活の人ともコミュニケーションを取りたいと思っているので適当にお手伝いが必要か尋ね回ろうかと」
「物好きだねえ」
「ついでなので、息抜きに作った物たちもその辺りに飾ってもらえませんかね。一応持ってきてみたんですけど」
「いいんじゃない? その辺にいる役員の人にでも聞いてみたら?」
すると実苑はわかりましたと言って本当に文化会役員の人を探しに行くんだから、大人しそうに見えて恐ろしくアグレッシブだ。アタシなんかは去年の準備中も早く帰りたくて仕方なかったけど、実苑は何でこんなにやる気に満ち溢れているのか。
実苑がこの文化会発表会の準備で何を一番楽しみにしているのかを知っているから、その時間帯まで本当にやる気なのかとアタシは呆れて物が言えない。今5時過ぎとかだけど。って言うか実苑いるしアタシは帰っても良さそうだけどな。てか帰りたい。
例のハンバーガータワーの実物を見るのが実苑の目的だろう。軽く100個から始まるハンバーガーが積み重ねられている異様な光景。たまにチーズバーガーも混ざってるけど、それは獲得できたらラッキーくらいの代物。
「唯香さん、許可をもらったのでその他の物も飾ってきます!」
「おー、いってら」
――と実苑を送り出してしばらくした後、401教室からなんじゃこりゃあという叫び声がいくつも聞こえてきた。写真の配置を微修正していたアタシは、何が起きたかと思ってちょっと覗いてみる。すると、後ろの方の席には縁起でもないアレが。
「ちょっ! 実苑アイツやりやがったし!」
後ろの方の席には実苑が部室から持ってきたらしい息抜き作品の数々。その中に混ざっていたのがそう、ハンバーガータワーの模型。それを見た人らが、もうアレが出てきやがったかと騒いでいたんだ。
実苑が作った模型は実物よりもかなり小規模だけど、それでも縁起でもない物であることには違いない。今もそれを囲んでやいやいと喋ってる人らがいる中、呑気な顔をした実苑が戻ってきた。あーあ、どーなってもアタシは知らないし。
遠巻きに実苑の様子を見ていると、例の模型を囲んでいた人たちに作品の解説をしているようだった。そして紙袋から取り出したのは、ハンバーガータワーの断面図の模型。そんなのまであるのかと、そしてその作りの精巧さにみんなドン引きしてる。
「あっ、唯香さん! 見てください、この模型、好評なんですよ!」
「ちょっ、同類だと思われたくないし話しかけんなし」
「これを見た人には大体受けてますよ!」
「今日のテンションだからウケてるだけだし。あんま調子に乗んなし」
「あっ、深夜に実物と並べて比較してみたいですね! あわよくばこの模型に香料を塗布しても良かったですね」
「やめろ、それ以上のリアリティを求めるなし」
作品の展示を終えてしまえば美術部員はもう待機するのが仕事のようなもの。待機とは名ばかりで実際は冷やかしだ。夜食のハンバーガーだけ食べて帰るくらいでちょうどいいんだ、本来なら。あーあ、しかしながら実苑はどうしたモンかね。
end.
++++
文化会発表会の準備回ですが、相変わらず実苑が自由だしあずみんは遠巻きに見ている
他に部活の人と話したいからやることはなくても探しに行くというのが実苑らしい。自分からガンガンコミュニケーションを取りに行く方ですね
ハンバーガータワーは前日の深夜にこそネタ模型として輝くのであった
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「唯香さん! これから発表会の準備ですか?」
「実苑。そうだけど、アンタも来る?」
「もちろん! 発表会の準備って、夜遅くまでやるんですよね。役員にもなると帰らない人もいるとかいないとか」
「そーね。てか、アンタホント物好きだわ、いつ解放されるかもわからない準備にわざわざ首突っ込むなんて」
文化会発表会がいよいよ明日に迫っている。この日の授業が終われば、発表会の関係者が続々と4号館401教室へと集まり始める。文化会発表会では、4号館全体が各部の活動発表の場として飾り付けされ、普段と違うか顔を見せる。
美術部の作品はこの建物の至る所に展示される。4号館3階には美術部だとか、その他に展示物のある部活がいろいろ物を置いたり貼ったりするけど、アタシの写真はエレベーターや401教室までの通路に飾られたりする。
実苑の作品は401教室の前に展示されることになった。発表会を見に来た人が絶対に通る場所。発表会を見に来た人は出版部の作った部活紹介冊子をもらって席に着く。受付には文化会役員の誰かがいるから壊されはしないだろうということで。
「それで、準備は具体的に何をすればいいんでしょうか」
「アタシらは自分の展示物を配置したら後はもう見てるだけでいいような感じ。会場の中の準備はステージを使う部活がやるような感じだし。で、何かあったときに動けるように待機するっていう体で喋ってればオッケー、的な?」
「思ったよりも準備らしい準備はしないような感じですか?」
「実質ね。アタシも去年は出版の関さんと喋ってただけだったわ」
上に言ってエレベーターを一回止めてもらい、エレベーターの中に写真をこれでもかと敷き詰め、踏まれても問題ないように上から透明なフィルムを貼る。ついでに教室まで続く通路の方にも写真を敷き詰めていく。
写真の枚数だけは無駄にある。しっかりと見せたいヤツ以外のよくある風景はみんな背景だ。バッチリキマったヤツ以外をコラージュにしたりしてまた再利用するという風には考えていた。結果デカくなったコラージュは廊下の壁に貼らせてもらう。
「唯香さん、作業はどうですか?」
「ああ、実苑。アンタは?」
「僕はもう飾る物は飾ってしまったので何かあればお手伝いしますが」
「アタシもそろそろキリ良しだから手伝ってもらうことは特にないな」
「そうですか」
「それより、アンタこれから先何して時間潰すつもり? どーせアンタが今日居残るのってアレが見たいためっしょ」
「それはそうですが、他の部活の人ともコミュニケーションを取りたいと思っているので適当にお手伝いが必要か尋ね回ろうかと」
「物好きだねえ」
「ついでなので、息抜きに作った物たちもその辺りに飾ってもらえませんかね。一応持ってきてみたんですけど」
「いいんじゃない? その辺にいる役員の人にでも聞いてみたら?」
すると実苑はわかりましたと言って本当に文化会役員の人を探しに行くんだから、大人しそうに見えて恐ろしくアグレッシブだ。アタシなんかは去年の準備中も早く帰りたくて仕方なかったけど、実苑は何でこんなにやる気に満ち溢れているのか。
実苑がこの文化会発表会の準備で何を一番楽しみにしているのかを知っているから、その時間帯まで本当にやる気なのかとアタシは呆れて物が言えない。今5時過ぎとかだけど。って言うか実苑いるしアタシは帰っても良さそうだけどな。てか帰りたい。
例のハンバーガータワーの実物を見るのが実苑の目的だろう。軽く100個から始まるハンバーガーが積み重ねられている異様な光景。たまにチーズバーガーも混ざってるけど、それは獲得できたらラッキーくらいの代物。
「唯香さん、許可をもらったのでその他の物も飾ってきます!」
「おー、いってら」
――と実苑を送り出してしばらくした後、401教室からなんじゃこりゃあという叫び声がいくつも聞こえてきた。写真の配置を微修正していたアタシは、何が起きたかと思ってちょっと覗いてみる。すると、後ろの方の席には縁起でもないアレが。
「ちょっ! 実苑アイツやりやがったし!」
後ろの方の席には実苑が部室から持ってきたらしい息抜き作品の数々。その中に混ざっていたのがそう、ハンバーガータワーの模型。それを見た人らが、もうアレが出てきやがったかと騒いでいたんだ。
実苑が作った模型は実物よりもかなり小規模だけど、それでも縁起でもない物であることには違いない。今もそれを囲んでやいやいと喋ってる人らがいる中、呑気な顔をした実苑が戻ってきた。あーあ、どーなってもアタシは知らないし。
遠巻きに実苑の様子を見ていると、例の模型を囲んでいた人たちに作品の解説をしているようだった。そして紙袋から取り出したのは、ハンバーガータワーの断面図の模型。そんなのまであるのかと、そしてその作りの精巧さにみんなドン引きしてる。
「あっ、唯香さん! 見てください、この模型、好評なんですよ!」
「ちょっ、同類だと思われたくないし話しかけんなし」
「これを見た人には大体受けてますよ!」
「今日のテンションだからウケてるだけだし。あんま調子に乗んなし」
「あっ、深夜に実物と並べて比較してみたいですね! あわよくばこの模型に香料を塗布しても良かったですね」
「やめろ、それ以上のリアリティを求めるなし」
作品の展示を終えてしまえば美術部員はもう待機するのが仕事のようなもの。待機とは名ばかりで実際は冷やかしだ。夜食のハンバーガーだけ食べて帰るくらいでちょうどいいんだ、本来なら。あーあ、しかしながら実苑はどうしたモンかね。
end.
++++
文化会発表会の準備回ですが、相変わらず実苑が自由だしあずみんは遠巻きに見ている
他に部活の人と話したいからやることはなくても探しに行くというのが実苑らしい。自分からガンガンコミュニケーションを取りに行く方ですね
ハンバーガータワーは前日の深夜にこそネタ模型として輝くのであった
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