2020
■空回るおもてなしの心
++++
「ただいまー」
「お帰り。洗濯物あるなら出しといて」
「はいはーい」
サークルが終わって部屋に帰ると、台所からカズが出迎えてくれる。洗濯物を普通の服と小物に分けてカゴの中に入れて、ちょいと冷蔵庫から失礼しますよとお茶を一杯。くーっ、おいしい。おうちでのんびりしながら飲むお茶最高。
4年に進級するのを機にマンションの部屋を引き払って実家に戻った体のカズだけど、週3から4くらいのペースでうちの部屋にいるから名実ともに実質的半同棲って言えるようになってるかもしれない。
付き合って丸5年が経った去年の記念日に、カズからちゃんとしたプロポーズをされた。その1年後、つまり今年の記念日に入籍出来るように準備してるトコ。いろんな手続きとか保険とか、家のこととか。大学を卒業してから一緒に住み始める予定。
「今日のご飯はなーあに」
「今日は鶏とカシューナッツの炒め煮とちゃんぽん風野菜スープ」
「絶対おいしいヤツ…!」
「一応鍋の予約セットしたけどそんな時間かかんないから今は下拵えしてるだけだけどな。先に洗濯しても余裕なくらい」
一人暮らしをする中で、カズは家事の腕を格段に向上させた。そのきっかけはうちが家事全般苦手なことと、ほっとくと趣味に夢中でご飯を食べるのも忘れちゃうこと。最初はうちにご飯を食べさせるために練習し始めたんだって。
洗濯は花粉や梅雨の季節の室内干しを極めた。料理はうちだけじゃなくてサークルの子たちとの飲み会で振る舞うためのレパートリーを増やし続けた。家事を極めるために買った道具の一部は、今はうちの部屋に置いてある。
今日の料理も電気圧力鍋や真空保温調理鍋っていうのを駆使して作ってる料理。カズの一人暮らしの部屋で使ってたオーブンレンジは実家で使うことになったそうだけど、この鍋2つは絶対にうちで使うんだって言って持ってきたって。
「GREENsはどう? 1年生入った?」
「うん、ちょこちょこ入ってるね。今は7人くらいかな?」
「めっちゃいるじゃん」
「でもウチは毎年そんなモンだよ。バスケサークルだけでいくつもあるくらいだし、バスケやりたい人はいるんだと思うし」
「そっか」
「カズはMBCCのことは何か聞いた?」
「あー、俺のバイト先に来た1年の子がMBCCに入ったって」
「おー、それはカズの影響で?」
「ううん、普通にそういうのに興味ある子っつってたな。社学だし」
GREENsは4年でもバリバリ現役。うちの話を聞いていると、カズはちょっと羨ましいんだって。MBCCは3年の秋学期で引退するから時間が有り余って仕方ないって暇を持て余してる様子。自分の部屋もないからお菓子作りもご無沙汰って。
バイト先に入ってきたMBCCの子からサークルの近況を聞いてはいいなーいいなーってちょっとうずうずしてるみたい。実家のパソコンには一人暮らしの部屋でしてたみたいに音響機材が接続されたみたいだけど、1人でやっててもすぐ飽きちゃうって。
うちは1人で引きこもるのが日常だからそういうのが苦にならないけど、カズは1人での過ごし方を知らないし、それが出来ないタイプだからただ時間だけがあっても困っちゃうんだろうね。うちだったらひたすら原稿やるんだけどね。
「カズ、たまにはサークルに遊びに行ってみてもいいんじゃない?」
「行ったらダメってこともないだろうけど、まだちょっと早くないかって気もしてて。あんま4年が出しゃばってもなーと思わないこともないし」
「そんなモンかなあ」
「その1年の子はお菓子作って遊びに来てくださいーって言ってたけど、世の中には社交辞令という言葉もあるだろ」
「だーいじょうぶだって! まあ、遊びに行くならあんま忙しくなさそうな時を見計らう必要はあるだろうけど、大丈夫大丈夫」
「つか最近お菓子作ってないし絶対腕が鈍ってる。練習しないと」
「お菓子作るなら実家の方がいいよねえ、オーブンレンジあっちにあるんでしょ」
「まあな。鍋で作れるお菓子って基本生物だし」
「うちもカズの作るお菓子食べたいから練習してくれて全然いいんですよ」
一人暮らしを終えてからは、友達みんなで集まって宅飲みをするっていうこともなくなって、カズ的にはちょっと物足りなさを感じてるみたいだった。カズ本人はあんまりお酒が飲めないけど飲み会の雰囲気が好きだったり、みんなをもてなすのが好きで。
お菓子作りも自分がお菓子好きっていうのもあるけど、誰かに食べてもらう方がメインっていう感じ。だから、人との交わりが3年当時と比べると減っちゃってる今はうずうずの発散場所もそうそうないみたくって。
「高崎クンが部屋に入れてくれればカズの腕も遺憾なく発揮出来るんだろうけどね。言って、こんなに豪華な道具がなくたってカズは料理上手なんだから」
「まあ、高ピーはなかなか入れてくんないからね」
「浅浦クンの部屋は?」
「アイツの部屋は俺が働くところじゃない」
「実家より実家感ある発言」
「一人暮らししてて、そこそこ人を集められて、俺がガッツリ台所に籠城しても怒らなさそうな子って誰かいたかなー」
「それこそカズの人脈で探せばいるでしょうよ」
どうやら、溜まってるおもてなし欲を発散するための計画が始まったみたい。うち1人じゃどうにもこうにも口が足りないって感じかな。2人だと楽しい飲み会っていうよりまったりしたいつもの食事だもんね。
end.
++++
学年が上がってもやってることは変わらないいちえりちゃんです。ただ、自分の部屋がなくなったいち氏、時間を持て余している様子。
慧梨夏の部屋でもそれなりに暇潰しの家事は出来るんだろうけど、それでも前の自分の部屋が良すぎたんでしょうね。それは本格的に同居を始めてからだね
だけどもいち氏のめっちゃご飯作りたい、飲み会を捌きたい欲って何なんだw で、どこでその欲を発散する気で?
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「ただいまー」
「お帰り。洗濯物あるなら出しといて」
「はいはーい」
サークルが終わって部屋に帰ると、台所からカズが出迎えてくれる。洗濯物を普通の服と小物に分けてカゴの中に入れて、ちょいと冷蔵庫から失礼しますよとお茶を一杯。くーっ、おいしい。おうちでのんびりしながら飲むお茶最高。
4年に進級するのを機にマンションの部屋を引き払って実家に戻った体のカズだけど、週3から4くらいのペースでうちの部屋にいるから名実ともに実質的半同棲って言えるようになってるかもしれない。
付き合って丸5年が経った去年の記念日に、カズからちゃんとしたプロポーズをされた。その1年後、つまり今年の記念日に入籍出来るように準備してるトコ。いろんな手続きとか保険とか、家のこととか。大学を卒業してから一緒に住み始める予定。
「今日のご飯はなーあに」
「今日は鶏とカシューナッツの炒め煮とちゃんぽん風野菜スープ」
「絶対おいしいヤツ…!」
「一応鍋の予約セットしたけどそんな時間かかんないから今は下拵えしてるだけだけどな。先に洗濯しても余裕なくらい」
一人暮らしをする中で、カズは家事の腕を格段に向上させた。そのきっかけはうちが家事全般苦手なことと、ほっとくと趣味に夢中でご飯を食べるのも忘れちゃうこと。最初はうちにご飯を食べさせるために練習し始めたんだって。
洗濯は花粉や梅雨の季節の室内干しを極めた。料理はうちだけじゃなくてサークルの子たちとの飲み会で振る舞うためのレパートリーを増やし続けた。家事を極めるために買った道具の一部は、今はうちの部屋に置いてある。
今日の料理も電気圧力鍋や真空保温調理鍋っていうのを駆使して作ってる料理。カズの一人暮らしの部屋で使ってたオーブンレンジは実家で使うことになったそうだけど、この鍋2つは絶対にうちで使うんだって言って持ってきたって。
「GREENsはどう? 1年生入った?」
「うん、ちょこちょこ入ってるね。今は7人くらいかな?」
「めっちゃいるじゃん」
「でもウチは毎年そんなモンだよ。バスケサークルだけでいくつもあるくらいだし、バスケやりたい人はいるんだと思うし」
「そっか」
「カズはMBCCのことは何か聞いた?」
「あー、俺のバイト先に来た1年の子がMBCCに入ったって」
「おー、それはカズの影響で?」
「ううん、普通にそういうのに興味ある子っつってたな。社学だし」
GREENsは4年でもバリバリ現役。うちの話を聞いていると、カズはちょっと羨ましいんだって。MBCCは3年の秋学期で引退するから時間が有り余って仕方ないって暇を持て余してる様子。自分の部屋もないからお菓子作りもご無沙汰って。
バイト先に入ってきたMBCCの子からサークルの近況を聞いてはいいなーいいなーってちょっとうずうずしてるみたい。実家のパソコンには一人暮らしの部屋でしてたみたいに音響機材が接続されたみたいだけど、1人でやっててもすぐ飽きちゃうって。
うちは1人で引きこもるのが日常だからそういうのが苦にならないけど、カズは1人での過ごし方を知らないし、それが出来ないタイプだからただ時間だけがあっても困っちゃうんだろうね。うちだったらひたすら原稿やるんだけどね。
「カズ、たまにはサークルに遊びに行ってみてもいいんじゃない?」
「行ったらダメってこともないだろうけど、まだちょっと早くないかって気もしてて。あんま4年が出しゃばってもなーと思わないこともないし」
「そんなモンかなあ」
「その1年の子はお菓子作って遊びに来てくださいーって言ってたけど、世の中には社交辞令という言葉もあるだろ」
「だーいじょうぶだって! まあ、遊びに行くならあんま忙しくなさそうな時を見計らう必要はあるだろうけど、大丈夫大丈夫」
「つか最近お菓子作ってないし絶対腕が鈍ってる。練習しないと」
「お菓子作るなら実家の方がいいよねえ、オーブンレンジあっちにあるんでしょ」
「まあな。鍋で作れるお菓子って基本生物だし」
「うちもカズの作るお菓子食べたいから練習してくれて全然いいんですよ」
一人暮らしを終えてからは、友達みんなで集まって宅飲みをするっていうこともなくなって、カズ的にはちょっと物足りなさを感じてるみたいだった。カズ本人はあんまりお酒が飲めないけど飲み会の雰囲気が好きだったり、みんなをもてなすのが好きで。
お菓子作りも自分がお菓子好きっていうのもあるけど、誰かに食べてもらう方がメインっていう感じ。だから、人との交わりが3年当時と比べると減っちゃってる今はうずうずの発散場所もそうそうないみたくって。
「高崎クンが部屋に入れてくれればカズの腕も遺憾なく発揮出来るんだろうけどね。言って、こんなに豪華な道具がなくたってカズは料理上手なんだから」
「まあ、高ピーはなかなか入れてくんないからね」
「浅浦クンの部屋は?」
「アイツの部屋は俺が働くところじゃない」
「実家より実家感ある発言」
「一人暮らししてて、そこそこ人を集められて、俺がガッツリ台所に籠城しても怒らなさそうな子って誰かいたかなー」
「それこそカズの人脈で探せばいるでしょうよ」
どうやら、溜まってるおもてなし欲を発散するための計画が始まったみたい。うち1人じゃどうにもこうにも口が足りないって感じかな。2人だと楽しい飲み会っていうよりまったりしたいつもの食事だもんね。
end.
++++
学年が上がってもやってることは変わらないいちえりちゃんです。ただ、自分の部屋がなくなったいち氏、時間を持て余している様子。
慧梨夏の部屋でもそれなりに暇潰しの家事は出来るんだろうけど、それでも前の自分の部屋が良すぎたんでしょうね。それは本格的に同居を始めてからだね
だけどもいち氏のめっちゃご飯作りたい、飲み会を捌きたい欲って何なんだw で、どこでその欲を発散する気で?
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