2020

■荒廃の(?)お宅訪問

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 高木先輩は星港市内の郊外に住んでいるらしい。豊葦にある緑ヶ丘大学に通うならL先輩みたく大学から近いところに住むのが便利でいいと思うけど、近さよりも利便性を取った結果の現住所なんだそうだ。
 俺からすれば通学に45分でも少し早いくらいだけど、元々豊葦に住んでて原付で大学まで通えるレベルのササからすれば時間がかかって仕方ないという感覚らしい。でもエージ先輩は通学に2時間くらいかかるし1時間ならまだ近いって。
 星港の中心になんかあんま行くことのなかった俺は、星港市内に住んでるという響きがとてもオシャレに聞こえた。星港市郊外にある駅徒歩2分のオートロックマンションとか、ヤバくね? というワケで、俺とササは高木先輩の部屋に遊びに来たんだ。

「お邪魔します」
「お邪魔しまーす! うわー、すげー、きれー!」
「シノ、ちょっと落ち着け」
「でも、遊びに来るってあらかじめ言っておいてくれてよかったよ。おかげで掃除する時間が取れたし」
「そうですよね。いきなりだとなかなか時間も取れませんよね」
「大したお構いも出来ないけど、好きなところに座ってもらって」

 まず、マンションに入るためにエントランスのインターホンを鳴らして、オートロックを解除してもらわなきゃいけないっていうのがオシャレ。でもって、エレベーターに乗らなきゃいけない6階の部屋っていうのがまた凄い。
 部屋の中は物が少ないなっていう印象。広さは8畳くらいらしい。机と、ちょっと大きめのベッドと、パソコンデスクと、棚とテレビと壁に立てかけられたギター。目に付くのはそれくらい。あと、何かカバーが掛かった物。

「何か、エージ先輩の話ほど荒れてるって感じではないですね」
「それはエイジが日頃から片付けてるからね」
「エージ先輩てちょっとした潔癖じゃないですか。それなのに汚いって言ってる高木先輩の部屋によく出入りするんですね」
「潔癖って言うよりは衛生にうるさくて神経質なんだよね。ちょっと汚いくらいは別に居られないこともないんだけど、整理整頓とかをいい加減にしてるのが許せないみたくて。俺はそういうトコ結構適当だからさ。何か飲む? コーヒーなら出せるけど」
「あ、じゃあいただきます」
「シノは?」
「俺も飲みます!」

 粉を溶かして飲むヤツが口に合わなくてさ、と言いながら高木先輩はコーヒーをドリップする。ミルクと砂糖は、という質問には俺はミルクたっぷりの甘め、ササはミルク普通の砂糖少なめの注文。

「って言うかコーヒーのミルクもポーションとかじゃなくて普通に牛乳なんですね」
「ポーションのフレッシュがあんまり好きじゃなくてさ。でもこの牛乳も油断するとす期限が切れちゃって」
「え」
「あっ、大丈夫。今入れた牛乳は昨日買ってきたヤツだから」

 今日の予定は、夜には何か軽く摘みながら飲もうということになっている。これが噂の宅飲みってヤツか! 先輩たちによれば、MBCCの人は酒に強い人が多いみたくて、隙さえあれば飲んでるって感じの人もいるとかいないとか。
 俺はまだ酒を飲んだことはないけど、興味はある。高木先輩は泊めてくれるって言ってくれてるから、いろんな話を聞いたりして楽しくやれたらいいなと思っている。ササはどうすんだろ、豊葦だし帰ろうと思えばまだ帰れるんだろうけど。

「そしたら、買い物に行く? 夜の準備をしなきゃ」
「ここからだと、買い物も徒歩圏内ですか?」
「そうだね、普段は自転車だけど今日は3人だから徒歩で行こうか」

 エイジ先輩と2人の時は取り締まり情報をチェックした上で自転車に2人乗りで行くそうだけど、今日は徒歩だから近い方のスーパーに行くそうだ。スーパーでは、食べたい物や飲みたい物をどんどんカゴに入れていく。
 ササは正統派っぽい料理を摘みたいと食材を中心に買っている感じ。台所は好きに使っていいって先輩が言ってくれてるのに甘えるようだ。俺はお菓子系を中心に見ている。塩っぽい物だけじゃなくて甘い物も欲しくなると思う。

「高木先輩、ホットケーキ焼きません? 生クリームとか果物とか乗っけましょ」
「ホットケーキ? うん、いいけど」
「よっしゃ! ホイップクリームと、缶詰と、あと何が欲しいかな」
「シノ、俺粒あん欲しい」
「は!? 粒あん!? お前ホットケーキにあんこは合わねーだろ!」
「どら焼きがあるし合うだろ」
「じゃどら焼きで良くね? ホットケーキでそれをやる必要性はないだろ」
「ホットケーキやるんだったらバターとハチミツ買わないとね」

 気が付くと、カゴの中がとんでもないことになり始めていた。こんなにたくさん3人で食いきれるのか、飲みきれるのかという量の買い物。だけど余ったら余ったで今後の食料にするしと高木先輩がちょっと多めにお金を出してくれることに。
 普通の料理の食材やお菓子もあるけど、今日のメインはホットケーキ大会になりそうな予感。ホットケーキに何の酒が合うのか問題が浮上したけど、なるようになるし飲むように飲むだけだ。

「ホットケーキ超楽しみなんすけど!」
「果林先輩がいたらフライパンいっぱいのふかふかなヤツが出来たんだけど、俺だけじゃ作り方も覚えてないしね」
「フライパンいっぱいのふかふかなヤツって、ぐりとぐら的なヤツですか」
「それを参考にしてるとは言ってたよね。本当のとろ火でずーっと待ってなきゃいけないんだけど、その分美味しかったよ」
「いつかそれもやりたいっすねー」
「作り方さえ調べてくれれば今日にでも出来るよ」


end.


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ササシノがタカちゃんの部屋に遊びに来たのですが、お酒飲んできゃいきゃいしてるトコはやれませんでした。ちゃんちゃん。
この話でわかることは、ササが甘くないのも好き、シノは甘いのが好き、エイジは相変わらずTKG家の整理整頓をしているということですかね。
と言うか、TKGが少し多めにお金を出してるだって…!? これも2年生になったということか……

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