2020
■希望の芽を育んで
++++
「えっと、ここだね。2階に上がったらいいのかな」
「それでいいと思う。あっ、飲み物買ってかないとな。高木お前、先頼んでいいべ。俺まだ決めてないっていう」
「それじゃあ、ブレンドのMで」
エイジと一緒にやってきたのは、花栄にあるコーヒーチェーン店。ここで何が始まるのかというと、向島インターフェイス放送委員会内の組織である“技術向上対策委員会”の会議だ。去年の秋から来年はあなたたちですよと指名されていたけど、自分たちだけの会議は初めてだ。
対策委員というのは元々大きな行事を運営していた組織だそうだけど、今では初心者講習会や夏合宿といった放送の技術を高めるための行事を運営するのがメインになっている。各校代表の2年生が1年間対策委員として活動するんだけど、緑ヶ丘からは俺とエイジが選ばれた。
飲み物を頼んで、今の3年生の先輩たちに交じって会議をしていた2階の一角に向かうと、そこにはもう何人かがやって来ていた。俺たちもそこに合流して、全員が揃うのを今か今かと待つ。今期の対策委員は7人だ。
「緑ヶ丘さんが来たから後は青女さんかな」
「そうだね。あっ、来たかな?」
「えー!? もうみんな来てた!? サドニナの登場を今か今かと待ち侘びてたワケだね!」
「あの、遅くなってすみません……」
「平気だべわかば、俺らも今来たっていう。ほら、そこ座ったらいいべ」
「失礼します」
「で、スーパーアイドルのサドニナがトリを」
「対策委員の会議を始めます」
「ちょっとアオ! バッサリ行き過ぎ!」
今期の対策委員は議長が星大のアオ、委員長がエイジ、会計がゲンゴロー、機材管理担当が俺、書記がサドニナ……ということになってるけど手元にノートを広げてるのは同じ青女から出ているわかばだ。あとは向島の奈々という7人でやっていくことになっている。
「過去の議事録を見てると初回は初心者講習会について話してる感じだったから、私たちもそれに沿ってやっていくのでいい?」
「それでいいべ。初心者講習会は今年もやるんだろっていう」
「初心者講習会は大体6月第1週か2週の土曜日にやってる感じ。今年もその頃にやる体で話を進めましょう」
「アオ、講習会に向けて話し合うことって何があるのかなッ」
「日時、場所、講習内容、講師が大きなポイント。日時は今年だと6日が第1候補。場所は星大になると思って覚悟はしてるけど、他にいい場所の候補がある人」
「しーん」
「ですよね。それじゃあ星大で」
と言うかアオが話を進めるスピードが速すぎる。日時や場所に関しては例年の流れを完全に踏襲してるから、さっさと決めてしまってもっと大事なことに時間を使おうっていう感じなのかな。と言うか場所に関しては星大さん以外の都合が悪すぎる。俺たちは覚悟をしてもらって感謝しなきゃいけない立場だ。
「そしたら講習内容だけど」
「去年の奥村先輩の感じだよね、イメージでは」
「そうだね。去年受けた菜月先輩の講習をどうまとめていこうか」
「……あ、あの、すみません……」
俺たちが去年受けた講習がどんなだったっけと回想を始めたとき、わかばが控えめに小さく挙手をした。それに気付いたエイジが発言を求め、みんなの視線が集中する。それにわかばはまたちょっと萎縮してしまったのか、声が上ずっている。
「私、去年の秋にサークルに入ったから、初心者講習会には出てなくて……それで、講習のイメージが、全然付かなくて……」
「そっか、そうだったね」
「去年の講習がどんなだったかって言ったら、えーと、凄かったには凄かったんだけど、どんな講習だったかっていうのは一言では~……」
「あっ、わかばわかばッ! 春の制作会ッ! こないだの制作会の前にマリンとあやめと、3人で野坂先輩から軽くラジオのこと教えてもらってなかったッ!?」
「あ、はい、教えてもらいました。本当にわかりやすくて、ラジオのことをやったことがない私でも、すんなり入っていけて……」
「初心者講習会って、多分そんな感じだよッ!」
「そうなんですか?」
「わかばみたいな初めてラジオをやる子とか、マリンやあやめみたいなステージや映像メインの子でもそれぞれの学校の活動で活かしてもらえるような放送に対する心構えみたいなことを教えてもらったんだーッ!」
「なるほど……」
奈々のまとめ方に、わかばだけじゃなくて俺たち残りの5人も「なるほど」と納得した。初めて学生ラジオに触れる子や、普段ステージや映像をやっててもその活動に活かしてもらえるような心構え。そう言われると、去年の奥村先輩の講習は確かにそうだった。
「ねえねえアオ、去年菜月先輩の講習で聞いたことを踏まえつつ、わかばに何がわからないのか聞いてみようよッ! うちらじゃ気付けないことが出て来るかもしれないし」
「確かに。奈々の言うことには一理ある。わかばにヒアリングをしよう」
「ひっ…! ヒアリング…!?」
「だーいじょうぶだって、そんな怖いことはしないっていう。アオ、わかばにいろいろ聞くのはいいけどあんま無表情で詰め寄るなよ」
「わかば、アオは怖くないよ、平気だよッ」
「すみません、すみませんっ…!」
これから始まるわかばへのヒアリング。俺の横からはぼそりと「私、そんなに怖いかな」と。わかばは割と誰に対してもこんな感じだけど、無表情なりにアオもショックは受けてるらしい。こんな感じで始まった今年の対策委員。初心者講習会の講習内容と講師は誰にお願いしようという話だけど、これは次回もっと詰めていくのかな?
end.
++++
蒼希はカメラ屋のバイトでも子供に泣かれるからそういうことには実はちょっと敏感だぞ! 鋼の議長・蒼希のデビューです。
今期の対策委員は蒼希がガンガン話を進めて、委員長エイジが周りに目を配るっていう感じですかね。なっちゃんには頼れる存在だね
定例会兼務の奈々がいろいろ情報を共有してくれると思うので、会議の方もそれでちょっと捗るといいのだけど
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「えっと、ここだね。2階に上がったらいいのかな」
「それでいいと思う。あっ、飲み物買ってかないとな。高木お前、先頼んでいいべ。俺まだ決めてないっていう」
「それじゃあ、ブレンドのMで」
エイジと一緒にやってきたのは、花栄にあるコーヒーチェーン店。ここで何が始まるのかというと、向島インターフェイス放送委員会内の組織である“技術向上対策委員会”の会議だ。去年の秋から来年はあなたたちですよと指名されていたけど、自分たちだけの会議は初めてだ。
対策委員というのは元々大きな行事を運営していた組織だそうだけど、今では初心者講習会や夏合宿といった放送の技術を高めるための行事を運営するのがメインになっている。各校代表の2年生が1年間対策委員として活動するんだけど、緑ヶ丘からは俺とエイジが選ばれた。
飲み物を頼んで、今の3年生の先輩たちに交じって会議をしていた2階の一角に向かうと、そこにはもう何人かがやって来ていた。俺たちもそこに合流して、全員が揃うのを今か今かと待つ。今期の対策委員は7人だ。
「緑ヶ丘さんが来たから後は青女さんかな」
「そうだね。あっ、来たかな?」
「えー!? もうみんな来てた!? サドニナの登場を今か今かと待ち侘びてたワケだね!」
「あの、遅くなってすみません……」
「平気だべわかば、俺らも今来たっていう。ほら、そこ座ったらいいべ」
「失礼します」
「で、スーパーアイドルのサドニナがトリを」
「対策委員の会議を始めます」
「ちょっとアオ! バッサリ行き過ぎ!」
今期の対策委員は議長が星大のアオ、委員長がエイジ、会計がゲンゴロー、機材管理担当が俺、書記がサドニナ……ということになってるけど手元にノートを広げてるのは同じ青女から出ているわかばだ。あとは向島の奈々という7人でやっていくことになっている。
「過去の議事録を見てると初回は初心者講習会について話してる感じだったから、私たちもそれに沿ってやっていくのでいい?」
「それでいいべ。初心者講習会は今年もやるんだろっていう」
「初心者講習会は大体6月第1週か2週の土曜日にやってる感じ。今年もその頃にやる体で話を進めましょう」
「アオ、講習会に向けて話し合うことって何があるのかなッ」
「日時、場所、講習内容、講師が大きなポイント。日時は今年だと6日が第1候補。場所は星大になると思って覚悟はしてるけど、他にいい場所の候補がある人」
「しーん」
「ですよね。それじゃあ星大で」
と言うかアオが話を進めるスピードが速すぎる。日時や場所に関しては例年の流れを完全に踏襲してるから、さっさと決めてしまってもっと大事なことに時間を使おうっていう感じなのかな。と言うか場所に関しては星大さん以外の都合が悪すぎる。俺たちは覚悟をしてもらって感謝しなきゃいけない立場だ。
「そしたら講習内容だけど」
「去年の奥村先輩の感じだよね、イメージでは」
「そうだね。去年受けた菜月先輩の講習をどうまとめていこうか」
「……あ、あの、すみません……」
俺たちが去年受けた講習がどんなだったっけと回想を始めたとき、わかばが控えめに小さく挙手をした。それに気付いたエイジが発言を求め、みんなの視線が集中する。それにわかばはまたちょっと萎縮してしまったのか、声が上ずっている。
「私、去年の秋にサークルに入ったから、初心者講習会には出てなくて……それで、講習のイメージが、全然付かなくて……」
「そっか、そうだったね」
「去年の講習がどんなだったかって言ったら、えーと、凄かったには凄かったんだけど、どんな講習だったかっていうのは一言では~……」
「あっ、わかばわかばッ! 春の制作会ッ! こないだの制作会の前にマリンとあやめと、3人で野坂先輩から軽くラジオのこと教えてもらってなかったッ!?」
「あ、はい、教えてもらいました。本当にわかりやすくて、ラジオのことをやったことがない私でも、すんなり入っていけて……」
「初心者講習会って、多分そんな感じだよッ!」
「そうなんですか?」
「わかばみたいな初めてラジオをやる子とか、マリンやあやめみたいなステージや映像メインの子でもそれぞれの学校の活動で活かしてもらえるような放送に対する心構えみたいなことを教えてもらったんだーッ!」
「なるほど……」
奈々のまとめ方に、わかばだけじゃなくて俺たち残りの5人も「なるほど」と納得した。初めて学生ラジオに触れる子や、普段ステージや映像をやっててもその活動に活かしてもらえるような心構え。そう言われると、去年の奥村先輩の講習は確かにそうだった。
「ねえねえアオ、去年菜月先輩の講習で聞いたことを踏まえつつ、わかばに何がわからないのか聞いてみようよッ! うちらじゃ気付けないことが出て来るかもしれないし」
「確かに。奈々の言うことには一理ある。わかばにヒアリングをしよう」
「ひっ…! ヒアリング…!?」
「だーいじょうぶだって、そんな怖いことはしないっていう。アオ、わかばにいろいろ聞くのはいいけどあんま無表情で詰め寄るなよ」
「わかば、アオは怖くないよ、平気だよッ」
「すみません、すみませんっ…!」
これから始まるわかばへのヒアリング。俺の横からはぼそりと「私、そんなに怖いかな」と。わかばは割と誰に対してもこんな感じだけど、無表情なりにアオもショックは受けてるらしい。こんな感じで始まった今年の対策委員。初心者講習会の講習内容と講師は誰にお願いしようという話だけど、これは次回もっと詰めていくのかな?
end.
++++
蒼希はカメラ屋のバイトでも子供に泣かれるからそういうことには実はちょっと敏感だぞ! 鋼の議長・蒼希のデビューです。
今期の対策委員は蒼希がガンガン話を進めて、委員長エイジが周りに目を配るっていう感じですかね。なっちゃんには頼れる存在だね
定例会兼務の奈々がいろいろ情報を共有してくれると思うので、会議の方もそれでちょっと捗るといいのだけど
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