2020

■GREENsの緑は何の色?

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 緑ヶ丘大学近くのとある小学校、そこでバスケサークルGREENsは活動している。緑ヶ丘大学に体育館はたくさんあるけどそれは体育会系の部活が主に使う施設で、俺たちのような一般のサークルが使うということはほとんどない。だから公共の施設や、俺たちのように近くの学校の体育館を借りるのが主流だ。
 だから学校の行事のない日や夜に借りるのがメインで、GREENsが隔週で日曜日も活動するのはそういった理由からだ。今日は活動がある方の日曜日で、メンバーが続々と集まっている。男女関係なくワイワイと入り乱れて、好き勝手にウォーミングアップを始める。

「おざーっす」
「おはよう鵠っち!」
「鵠沼クンおはよー」

 ポニーテールの人が4年生の宮林慧梨夏サン。この人はバスケの腕の凄いけどイベントの企画運営に走り回っている印象がとても強い。それからオレンジ茶髪のおかっぱが同期の三浦祥子。バスケは去年から始めた初心者だけど、それなりに上達している。あと基本的にうるさい。
 他所のサークルとかでは主に活動するのが3年までなんてところもあるらしい(ゼミ同期の高木がいるMBCCなんかも3年までだとか)。GREENsでは4年生もバリバリ現役でやっていて、女子はムードメーカーの慧梨夏サンと、男子は宮森慧さんっつー寡黙な2人の4年生を中心に活動している。

「集合!」
「はーい」
「業務連絡がある。サークル見学希望という連絡が2名分入っている。実際に来週見学してもらうことになっているからそのように頼む」
「詳細は、男の子と女の子が1人ずつ。男の子はバスケ経験がない子で、女の子は中学3年間バスケやってた子だね。ポジションはガード。とりあえず当日はうちが車に乗っけて来ることになってます」
「男子で未経験者が来るっつーのも珍しいっすね」
「でも、どんな子でもウェルカムってスタンスのサークルではあるからね。去年のさっちゃんのこともあるし。特にサトシ、優しくしてあげてね」
「そういうのは得意ではないのだが」
「得意じゃなくてもやるの。キャップでしょう」

 今でこそキャップ……キャプテンという立場だからみんなの前で声を発することも増えたサトシさんだけど、それまでは表情を変えることもなく一歩遠巻きにみんながワイワイやっているのを見ている方だったそうだ。バスケにストイックで、あまり騒ぐ性格でもないからそれはわかる。
 だけどGREENsのカラーであるみんなで楽しくイベントというのも実は嫌いではなく、無口で無表情なりに楽しんで参加しているみたいなんだ。去年俺の誕生会という体で慧梨夏サンが開いてくれたかき氷大会では、俺の食べるかき氷を手動で削ってくれたこともあった。

「ところで慧梨夏サン!」
「どうしたさっちゃん」
「今年は1年生にアレをやるんすか!」
「アレ?」
「アレですよう」
「どれ?」
「ネギの祭典ですよ!」

 俺もGREENsに入ってビビったんだけど、とにかくネギをフィーチャーした企画の多いこと多いこと。1年への洗礼だとか登竜門とされるのが5月初旬のネギ祭りというヤツだ。ネギのフルコースをとにもかくにも詰め込まれ、どんな頑固なネギ嫌いでもこれが終わるころにはネギ教に入信するとかしないとか。

「ああ、アレ。でもあれ美弥子さんの誕生会だからね。今年の開催はどうかな」
「ええっ!? やらないんすか!?」
「それに、キャップが恨めしそうにこっちを見てるからね」
「さとぴっぴはお子ちゃまだからぁ」

 三浦は怖いもの知らずと言うか何と言うか、あのサトシさんにも臆することなく絡んでいく。サトシさんもサトシさんで三浦に絡まれるとペースが乱されるのか、三浦のことを苦手にしている感が滲んでいる。天敵と言っても強ち間違いでもないけど、それもわからないでもない。
 ネギの祭典という5月初旬のイベントは、こないだ卒業した伊東サンという人の誕生会という名目で開かれていたイベントだ。どんなネギ嫌いでもネギ嫌いが治るという触れ込みだけど、サトシさんのネギ嫌いは治っていない。GREENsが異様なまでにネギや薬味を推していたのもこの伊東サンと、慧梨夏サンの影響だ。

「サトシさんて何でまだネギ嫌いなんですか?」
「うるさい。それは今は関係ないだろう」
「関係ありありっすよ! 三浦は今年のネギの祭典ではネギの精の座を尚ちゃんパイセンから奪ってやるって決めてここに立ってるんすから」
「分けのわからないことを言ってないで、その情熱をバスケの方に注げ。あまり浮ついているとまた怪我をするぞ」
「バスケもちゃんとやってますぅー。あとケガも最近はしてませんー、ぶー」
「連絡は以上。30分後にゲームを開始する。それまで個人でアップするなり、必要な練習をすること」

 連絡が終わるや否や、慧梨夏サンとサトシさんはスリーポイント勝負を始めている。俺は準備体操もまだだから、しっかりと体をほぐしてから動き出すことに。去年からの課題はフリースローを確実に決められるようにすることだ。
 初心者の三浦は慧梨夏サンが用意した基礎メニューを毎回地道にこなしているし、2人以上が組んでの練習をしている人たちもいる。日曜日は雰囲気も特に緩く、やりたいように、思うままに練習をするという空気感。

「鵠沼クン!」
「あ? どうした三浦」
「おうちにまだ七輪置いてるっしょ!? ネギ祭りやろうよー!」
「いや、つかお前そんなにネギ祭りやりたいのか?」
「やりたい。でもさとぴっぴはケチだからやらせてくんない」
「いや、つか去年もあの人いなかったし、やりたきゃ慧梨夏サンを攻めるのが正しいんじゃん?」


end.


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GREENsは4年生も現役バリバリなので、慧梨夏やサトシなどお馴染みのメンバーもまだまだいますね。
しかしさっちゃんがなかなかフルスロットル。サトシはさとぴっぴだなんて言われるキャラクターじゃなかったはずなんだけどなあ! だから天敵なのか
そしてネギ祭り開催の危機だしネギの精候補は気合が入りまくりだしでGREENsもなかなか通常運転に近い形ですね

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