2020

■女子会エアー

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「お邪魔しまーすッ」
「どうぞー」
「おハナこれ良かったら食べて、差し入れー」

 今日はおハナの部屋でお泊り。お花のカチューシャがトレードマークの射水ハナちゃんは、緑ヶ丘大学に通ってる子。インターフェイスの活動で知り合って友達になった。おハナは緑風エリアから出て来て1人暮らしをしてるから、たまにこうやって部屋に遊びに行くことがある。
 おハナとは去年のインターフェイス夏合宿で同じ班だったし、今年からは一緒にインターフェイスの定例会に出ることにもなってるから一緒になることが結構多い。ハナナナなんて一括りで呼ばれることもある。語感とか語呂がいいのかな?

「おハナの部屋っていつ来てもめちゃキレイじゃない? 人が来るから無理矢理片付けたとかじゃなくて、常に部屋をキレイにしてる人の部屋だよ」
「そうだね、整理整頓するようにはしてるかなー。汚い部屋だったらしょぼんだし。エージがさ、タカティの部屋が汚いって言っていつもわーわー怒ってるワケ」
「エージって潔癖なんだっけ? 確か手作りのお菓子とか基本的にNGって」
「本人は潔癖でも神経質でもないって言ってるけど、潔癖はともかく神経質なトコはあると思うな。手作りお菓子はよっぽど信頼した人のじゃないとNGだって言ってた。レトルトとか大好きだもんね、衛生状態が確保された状態で作られてる食品は最高だべとか何とか言って。あ、そうだ奈々、ご飯食べる?」
「食べるッ! 何があるの?」
「んー、パンを使った料理になるけどいい?」
「いいよいいよー、あっ、何か手伝おうか?」
「大丈夫だよ、すぐ出来るしちょっと待ってて」

 お言葉に甘えて少し待っていると、台所からはいい匂いが。朝でも夜でもパンの焼ける匂いは幸せだね。お待たせしました~とおハナが持って来たのは、チーズトーストかな? かなり分厚いパンの上にオレンジ色のペーストか何かが塗られてて、その上に散りばめられたチーズがいい具合に溶け焦げて美味しそう。
 パンの上に粉末のカボチャポタージュを濃い目に溶かしたヤツを塗って、その上にチーズをパラパラして焼いただけの手抜きしょぼん料理って本人は言うけど、こういうアレンジはなかなか思いつかないから十分凄い。

「ごめんね、即興だけど」
「ううん、美味しそうだよッ! パン屋でバイトしてたらやっぱりフレンチトーストとか焼くの上手くなる?」
「それはわかんないけど、パン屋でバイトしてなかったらフレンチトーストを日常的に作ろうっていう発想にはならなかったかな」
「バイトの影響って大きいよねえ」
「でも、パン屋でバイトしてても自分の部屋でパンを焼こうなんて気にはならないよ」
「カズ先輩は趣味でパン焼いてたらしいじゃん」
「あの人は特別。……ちょっと待って、カズ先輩で思い出した!」
「なになにー?」
「今日から高崎先輩のラジオ始まるんだって! 聞こうと思ってたんだよ」

 食事の途中でおハナは急に立ち上がり、待機状態だったパソコンを呼び戻した。カチカチと操作をすれば、パソコンのスピーカーから流れて来るのはラジオCM。危ない危ない、聞き逃したらしょぼんだよー。そんな風に本当に一安心した様子のおハナの様子を見てると、よっぽど楽しみだったんだろうなって思う。
 高崎先輩というのは緑ヶ丘の4年生の先輩で、サークルの現役時代にはその圧倒的な実力から「アナウンサーの双璧」と呼ばれたスーパースター。ちなみに双璧のもう1人はMMPが誇る菜月先輩ですッ! その高崎先輩が、今日から一般の人に向けたラジオ番組を始めるんだって。

「おハナ、これどこの局?」
「FMにしうみだって。西海市のコミュニティラジオの」
「あ、コミュニティなんだ」
「何か、この番組を始めるのも卒論のフィールドワークなんだって。実証実験とかって」
「へー、卒論のために局に頼んで番組を始めるって規模が凄すぎ」
「ハナも聞いた話だからよくわかんないんだけど、インターフェイスの中にFMにしうみでバイトしてる人がいるとかで、その人のツテで潜入に成功したとか」
「それでも凄いよ。ちょっと頼んですぐ出来ることでもないじゃんッ」
「去年FMむかいじまのコンテストで審査員特別賞取ってるしね。実力はそりゃあありますよ、しょぼーん」

 そうこうしているといよいよ番組が始まった。知ってる人の声がラジオ番組として流れて来るのが変な感じ。うちのお姉ちゃんをテレビで見るのは慣れてるけど、それとは違う変な高揚感がある。と言うかコミュニティラジオの番組がエリア外でもネットで聞けるって凄いね。

「高崎先輩ってやっぱカッケーっすね!」
「こうやって聞いてる分にはすごいなーって思うけど、サークルではホントに怖かった」
「あー……すごい厳しいんだっけ」
「おかげでいろいろ身についてる面はあるけど、ハナとエージはアナじゃん。タカティとか壮平がカズ先輩の優しい指導を受けてる横で? 鉄拳指導も辞さないスパルタ教育ですよ」
「さすが緑ヶ丘。あっ、明日って定例会だよねッ?」
「そうだよ。ファンフェスの班決めだからちょっと長くなるかもってL先輩が言ってた」
「ファンフェスかー。もうそんな季節なんだねッ!」

 ……とか何とか喋っていたら、おハナがあれだけ気合を入れてスタンバってた高崎先輩の番組が全然聞けてないっていう。おハナ風に言えばしょぼーん。でもネットで聞けるくらいだから聞き逃し配信とかやってないのかな、どうかな。
 でもしょうがないよね。こうやって一緒にいたらついついお喋りが弾んじゃうのは女子だからってことにしておこう。明日も会うことにはなってるけど、明日は明日で真面目な会議だからね。ちゃんとしないとまた怒られちゃうからねッ!


end.


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初期の頃を彷彿とするハナナナのガールズトークです。言うほど初期の頃もやってないし。ハナちゃんのお部屋とかもなかなかなかったね
ハナナナはたまにこうした交流なんかをしていたようですが、まさかここで高崎の番組を聞くことになろうとは。
だけどもエイジの裏話じゃないけど、神経質なことやレトルトうんぬんの話よ。これからこの設定ももっと大っぴらになるのかしら

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