2020
■スタート位置に着く前に
++++
長い春休みが終わり、とうとう明日から新年度が始まる。2年生に進級した実感はまだない。でも、いよいよ本格的に授業が始まって、規則正しい生活を送らなくてはいけなくなるのだと思うと今から気が重い。
元々が夜行性なのに、長い休みの間にばっちり昼夜逆転生活になっていた。だけどさすがに初っ端から躓くわけにはいかないし、健全な学生生活の第一歩を踏み出すための手は打っていた。それが、今日この部屋に泊まってくれるエイジの存在だ。
「おい高木、さすがにそろそろ寝ないと明日に響くべ」
「まだ全然眠くならないよね。なんなら昼より元気なんだけどどうしよう。スマホでゲームでもしてよっかなあ」
「明日痛い目に遭っても知らんべ」
「エイジがいてくれてるし大丈夫でしょ」
「言っとくけどな、起きないと判断したらその時点で俺はお前を見捨てるからな」
エイジとはサークルで知り合った。最初はお互い絶対気が合わないと思ってたけど、共通の趣味であるギターを通じて少しずつ話すようになっていった。今ではエイジがちょこちょこうちに遊びに来て、一緒にお酒を飲んだりして楽しくやっている。
俺はだらしない生活を送ってるけど、エイジはとてもきちっとしている。綺麗好き(と言うか神経質)だし、朝型人間だ。あんまり俺の生活がだらしないものだから、いつしかこの部屋の水回りはエイジが管理するようになっていた始末。
朝エイジに起こしてもらうというのはテスト前によく取っていた手段だ。エイジは向島エリアの北隣、山浪エリアの山間部に家がある。通学に2時間かかるし大雪が降ろうものなら交通網が麻痺して動けなくなる。エイジは保険のため、俺は確実に起きるために編み出した作戦だった。
「つかもっかい聞いとくわ。お前明日何時起きよ」
「えっとね、2限からだから9時前とかで平気じゃないかな」
「じゃあ8時半だな」
「えっ、早すぎない?」
「9時前っつってたらお前は絶対起きないからな。多少余裕を持っとくくらいでちょうどいいんだっていう。大体、どういう計算で9時前っつってんだ」
「2限が10時40分からだから、10時半に大学に着く計算だね」
「10分前!? せめて15分は見とけっていう! バス停から教室までもそこそこ距離あるべ」
「え、大丈夫でしょ」
「それに、何が起こるかわからんっていう。15分だ、最低でも」
「わかったよ。電車とバスに乗ってる時間が40分だから、9時45分の電車に乗って」
「そんなスムーズに乗り換え出来るか? 時刻表見てちゃんと計算してんのかっていう。地下鉄だってそう都合よく豊葦市行きのヤツが来るとは限らんべ。青池止まりだってあるっていう。スクールバスの時刻表からもっかい逆算し直せ」
俺は割と「なるようになる」っていうタイプだけど、エイジはきちんとしてないと気が済まないっていうタイプ。大学に着く時間から起きる時間を逆算するだけでこうだ。余裕を見ろとか乗り換えや電車の行き先を考えろとか。考えなきゃいけないんだろうけどめんどくさい。
ゼミの方で鵠さんから言われたけど、俺は自分の好きなことに関してはしっかり考えて動けるみたいだけど、それ以外はボケっとしてて心配になるらしい。果林先輩にもそんな風に言われたことがあるから、俺は多分そういう感じなんだろうな。うん、旅の計画で時刻表を見るのは好きだけど、通学じゃね。
「ほら、逆算し直したら乗る電車9時34分になったべ? そしたら家は何時に出るんだ」
「9時半で良くない?」
「いくら駅まで徒歩2分でもそれは遅いべ。せめて10分前には出とけ。で、24分に家を出るためには何時に起きる」
「最悪9時で行けるね」
「ガチで言ってるんだったら起こさねーからな」
「あー、ごめんって、起こしてください」
「お前自分がどんだけ寝起き悪いか自覚しろっていう」
「えっと、8時半でお願いします」
「8時半な。ちゃんと起きろよ」
「努力はします。あー、こんな時コムギハイツとかに住んでたら10時起きでも余裕だったんだろうなあ」
「近さより利便性を取ったのはお前だろっていう」
そもそも、豊葦市にある緑ヶ丘大学に通うのに電車とバスを乗り継いで40分かかる星港市郊外に住んでるのがおかしいってよく言われるよね。一人暮らしの緑大生は、大学の近くに部屋を借りて原付とかで移動するのが主流。だけど俺は徒歩や自転車圏内で生活出来る利便性を優先して今の場所に住むと決めた。
住む場所に関しては本当に一長一短だなって思う。星港市内なら自転車圏内で何でもあるし便利だ。まだ用事はないけど病院なんかもすぐそこ。だけど大学までが遠い。大学近くだと原付とかがないとなかなかしんどいけど、大学に近いというだけで朝の時間に余裕が持てるのはかなりいいなと思う。
「ま、せいぜい健全な学生生活を送って単位をしっかり取るんだな。さ、寝よ寝よ」
そう言ってエイジはベッドに上がり、すっかり寝るモードだ。俺はまだ余裕なんだけど、今何時?
「まだ12時半じゃない。エイジ、8時間も寝るの?」
「お前は8時半起きで良くても、俺は朝からこのクソきったない水回りの掃除すんだよ。ったく、ちょっと来ないだけで衛生状態を壊滅させやがって。いいから早く寝ろっていう。スマホ触んなよ、眩しくて寝れんっていう。電気消すべ。はいおやすみ」
おやすみーと返事をして俺もベッドに横にはなってみたものの。全っ然寝れそうにない。まあ、2時起きだしそんなモンでしょう。でもスマホは見るなって言われちゃってるしなあ。どうしよう。
end.
++++
やっぱり大事な時にはエイジに起こしてもらわないとやらかしかねないTKGであった。この調子だとそのうち鵠さんの部屋に泊まり出すぞ
2年生にもなるとさすがに1限から始まる日は減ってきたのではないかと思うのですが、全休が安定して作れるようになるのはもう少し先かな
当然のように一緒にベッドに上がって寝るタカエイだけど、そういやこれがデフォルトだったしこの部屋には枕がなかった
.
++++
長い春休みが終わり、とうとう明日から新年度が始まる。2年生に進級した実感はまだない。でも、いよいよ本格的に授業が始まって、規則正しい生活を送らなくてはいけなくなるのだと思うと今から気が重い。
元々が夜行性なのに、長い休みの間にばっちり昼夜逆転生活になっていた。だけどさすがに初っ端から躓くわけにはいかないし、健全な学生生活の第一歩を踏み出すための手は打っていた。それが、今日この部屋に泊まってくれるエイジの存在だ。
「おい高木、さすがにそろそろ寝ないと明日に響くべ」
「まだ全然眠くならないよね。なんなら昼より元気なんだけどどうしよう。スマホでゲームでもしてよっかなあ」
「明日痛い目に遭っても知らんべ」
「エイジがいてくれてるし大丈夫でしょ」
「言っとくけどな、起きないと判断したらその時点で俺はお前を見捨てるからな」
エイジとはサークルで知り合った。最初はお互い絶対気が合わないと思ってたけど、共通の趣味であるギターを通じて少しずつ話すようになっていった。今ではエイジがちょこちょこうちに遊びに来て、一緒にお酒を飲んだりして楽しくやっている。
俺はだらしない生活を送ってるけど、エイジはとてもきちっとしている。綺麗好き(と言うか神経質)だし、朝型人間だ。あんまり俺の生活がだらしないものだから、いつしかこの部屋の水回りはエイジが管理するようになっていた始末。
朝エイジに起こしてもらうというのはテスト前によく取っていた手段だ。エイジは向島エリアの北隣、山浪エリアの山間部に家がある。通学に2時間かかるし大雪が降ろうものなら交通網が麻痺して動けなくなる。エイジは保険のため、俺は確実に起きるために編み出した作戦だった。
「つかもっかい聞いとくわ。お前明日何時起きよ」
「えっとね、2限からだから9時前とかで平気じゃないかな」
「じゃあ8時半だな」
「えっ、早すぎない?」
「9時前っつってたらお前は絶対起きないからな。多少余裕を持っとくくらいでちょうどいいんだっていう。大体、どういう計算で9時前っつってんだ」
「2限が10時40分からだから、10時半に大学に着く計算だね」
「10分前!? せめて15分は見とけっていう! バス停から教室までもそこそこ距離あるべ」
「え、大丈夫でしょ」
「それに、何が起こるかわからんっていう。15分だ、最低でも」
「わかったよ。電車とバスに乗ってる時間が40分だから、9時45分の電車に乗って」
「そんなスムーズに乗り換え出来るか? 時刻表見てちゃんと計算してんのかっていう。地下鉄だってそう都合よく豊葦市行きのヤツが来るとは限らんべ。青池止まりだってあるっていう。スクールバスの時刻表からもっかい逆算し直せ」
俺は割と「なるようになる」っていうタイプだけど、エイジはきちんとしてないと気が済まないっていうタイプ。大学に着く時間から起きる時間を逆算するだけでこうだ。余裕を見ろとか乗り換えや電車の行き先を考えろとか。考えなきゃいけないんだろうけどめんどくさい。
ゼミの方で鵠さんから言われたけど、俺は自分の好きなことに関してはしっかり考えて動けるみたいだけど、それ以外はボケっとしてて心配になるらしい。果林先輩にもそんな風に言われたことがあるから、俺は多分そういう感じなんだろうな。うん、旅の計画で時刻表を見るのは好きだけど、通学じゃね。
「ほら、逆算し直したら乗る電車9時34分になったべ? そしたら家は何時に出るんだ」
「9時半で良くない?」
「いくら駅まで徒歩2分でもそれは遅いべ。せめて10分前には出とけ。で、24分に家を出るためには何時に起きる」
「最悪9時で行けるね」
「ガチで言ってるんだったら起こさねーからな」
「あー、ごめんって、起こしてください」
「お前自分がどんだけ寝起き悪いか自覚しろっていう」
「えっと、8時半でお願いします」
「8時半な。ちゃんと起きろよ」
「努力はします。あー、こんな時コムギハイツとかに住んでたら10時起きでも余裕だったんだろうなあ」
「近さより利便性を取ったのはお前だろっていう」
そもそも、豊葦市にある緑ヶ丘大学に通うのに電車とバスを乗り継いで40分かかる星港市郊外に住んでるのがおかしいってよく言われるよね。一人暮らしの緑大生は、大学の近くに部屋を借りて原付とかで移動するのが主流。だけど俺は徒歩や自転車圏内で生活出来る利便性を優先して今の場所に住むと決めた。
住む場所に関しては本当に一長一短だなって思う。星港市内なら自転車圏内で何でもあるし便利だ。まだ用事はないけど病院なんかもすぐそこ。だけど大学までが遠い。大学近くだと原付とかがないとなかなかしんどいけど、大学に近いというだけで朝の時間に余裕が持てるのはかなりいいなと思う。
「ま、せいぜい健全な学生生活を送って単位をしっかり取るんだな。さ、寝よ寝よ」
そう言ってエイジはベッドに上がり、すっかり寝るモードだ。俺はまだ余裕なんだけど、今何時?
「まだ12時半じゃない。エイジ、8時間も寝るの?」
「お前は8時半起きで良くても、俺は朝からこのクソきったない水回りの掃除すんだよ。ったく、ちょっと来ないだけで衛生状態を壊滅させやがって。いいから早く寝ろっていう。スマホ触んなよ、眩しくて寝れんっていう。電気消すべ。はいおやすみ」
おやすみーと返事をして俺もベッドに横にはなってみたものの。全っ然寝れそうにない。まあ、2時起きだしそんなモンでしょう。でもスマホは見るなって言われちゃってるしなあ。どうしよう。
end.
++++
やっぱり大事な時にはエイジに起こしてもらわないとやらかしかねないTKGであった。この調子だとそのうち鵠さんの部屋に泊まり出すぞ
2年生にもなるとさすがに1限から始まる日は減ってきたのではないかと思うのですが、全休が安定して作れるようになるのはもう少し先かな
当然のように一緒にベッドに上がって寝るタカエイだけど、そういやこれがデフォルトだったしこの部屋には枕がなかった
.