2020
■はたらくこと生きること
++++
午後10時から朝6時までの8時間、それが週3、4回。103万円の制限を気にする人が大多数だけど、千葉家では「働かざる者食うべからず」ということで食費のために収入が103万を超えちゃうのも仕方ないよねって納得されてる。これがアタシの働き方で、それはお腹いっぱいごはんを食べるという生き方にも直結する。
あんまり稼げ過ぎちゃってるモンだから年金とか保険とかもバイト先の会社で入った自分名義になってるし、扶養だって余裕で外れちゃってる。だけど103万とか130万の壁がどーたらこーたらとか、そんなことを気にしてたら好きにお金だって使えないしお腹だって膨れない。
アタシがバイトをしてるのは緑ヶ丘大学から坂を下って少し行ったところにあるガソリンスタンドとコーヒーチェーン店の併設店。ガソリンを入れに来る人がいれば給油承認ボタンを押したり、コーヒーを買いに来る人がいれば「アメリカンMでーす」って具合にコーヒーを淹れてお出しする。
「よーう果林」
「千葉ちゃん、今日も精が出とるねー」
「おっとぉ、3名様いらっしゃいませー」
大学から近い店ということもあって深夜帯でもぽつぽつと人が来たりするし、勉強に使う人もよくいる。日付が変わる前の23時半、これは冷やかしかな? 友達の3名様がご来店。だけど正直深夜帯は人が来なくて退屈することもあるし、適度に声が出せるのは助かるよね。
連れ立って来たのはMBCCの同期・ゴティとゼミの同期である小田ちゃんとひらっちゃん。この3人は仲が良くて、ちょこちょこ一緒に遊んでるみたい。カラオケに行ったり草野球をしたり、銭湯に行ったりってなかなか活動的。ここに辿り着いたってことはカラオケに行って来たかこれから行くかかな?
「えーとね、俺ブレンドのM」
「ゴティがブレンドのM。小田ちゃんと店長は?」
「俺はねえ、アイスティーのM。ひらっちゃんは?」
「抹茶ミルクのタピオカ」
「持ってく? 飲んでく?」
「果林いるし飲んでく? つか俺リアルに休憩したいんだわ」
「そうだね。ゴティに任せるよ」
「んだ。そーゆーことやで千葉ちゃん、飲んでくわ」
「はいはーい」
もちろん、これは深夜帯かつ友達だからこその接客の緩さもありありで。もちろん、友達じゃなかったら普通に接客するけどね。3人分のドリンクを作って、アタシもカウンター越しに仕事をしながら会話に混ざる。
「え? 千葉ちゃんてこのバイト時給いくらやっけ」
「1250円」
「いつ聞いても高いよな」
「深夜だからその分割り増しなんだよ。日給にして10000円ね」
「え、そしたら千葉さん、余裕で収入103万超えるでしょ? 親御さんとか何も言わない?」
「扶養から外れて高くなる税金などなどよりも、アタシが稼がないことで負担になる食費の方が高いからね」
「あ、不思議と納得しちゃった。千葉さんならそうか」
「小田ちゃん、千葉ちゃんは特殊やでね」
これは千葉家の体質か何かだと思うけど、うちの家族はどれだけ食べてもお腹いっぱいっていう感覚がないみたくて、とにかく量を食べなきゃ気が済まない。アタシもそう。だから収入に対する食費の割合がとんでもなくなるし、1日1万とか稼いでブルジョワって言われるけど、それもすぐ食費に消えちゃう。
「あ、つかさ果林、お前に聞きたかったんだって」
「なになに?」
「社学ガイダンスでさ、佐藤ゼミの前に来た学生にMBCCのビラ配ってたらしーじゃん。あれ手応えどーだったん?」
「手応えはちょっとわかんないなあ。今年ビラ配ってたのタカちゃんだし、アタシブースの中のことで結構手一杯だったから」
「あーそう、高木をつつけばいーワケね。了解」
「ホントMBCCはこれがあるからズルいわー」
文句があるならビラ配りを容認してるMBCC顧問の佐藤先生にどうぞ、とアタシとゴティの声が揃う。でも実際これなんだよね。今年に関しては容認とかじゃなくて推奨とか推進って言う方がそれっぽいかも。ゼミの資料に乗じてビラを配れって言ったのはむしろヒゲ。使える物は使いますよ。高ピー先輩イズムの継承ね。
「そういう小田ちゃんはどうなの? 部活の新歓」
「アーチェリー部はほら、大学から始める人も多いし緑大体育会の中でも割と緩い方だから見学者もまあまあいるね」
「うん、アーチェリー部に入るかはともかく、1回ちょっとやってみたいって気持ちはあるよね。わかる」
「そう。入るかはともかくっていう子がほとんどだから、実際に入ってくれる子はそんなでもないよ」
「店長は? 野球の勧誘とか」
「いや、俺のはサークルとかじゃないただの草野球なんよ。好きな時に集まって野球に限らず好きなことをやるっていうだけの。でも、一緒にやる仲間は増やしたいでね。ポスター書いて第1食堂の階段の踊り場に貼っといたわ」
「あー、好きな時に集まって好きなことやるのはいいよね」
明日の朝から使う食材やケーキの仕込みを始めるにはまだもう少し時間がある。お喋りついでにフロアに出てテーブルや椅子をアルコール拭きしたり、床の掃き掃除をしたり。もちろんその間にガソリンスタンドの方に目をやることも忘れない。新聞は、朝刊が届いたら入れ替え。
「てか話全然変わるけど、教科書販売っていつからやっけ」
「来週だと思うけど、えっ、店長教科書要るような授業取るの?」
「3つあるんよ、教科書買わなアカンヤツがさあ」
「えー、大変」
「大変って言うけど、ゼミも教科書新しくなるでね千葉ちゃん。買わなアカンよ」
「えっウソ!? いくら!? 何て本!?」
「『孤独な群衆』とかいう4500円くらいの本」
「高っ! 安いパンなら45個分じゃん!」
「換算の仕方よ」
「でもだよゴティ、パンが45個もあったらアタシはともかくタカちゃんなら1週間は余裕で生きるワケ。それだけのお金だよ!?」
「お前はアイツを何だと思ってんの?」
「今日のバイト代は教科書代やね千葉ちゃん」
「えー、萎えるわー」
end.
++++
果林のバイトは深夜帯なので基本の時給から2割5分増しの計算になっています。そう考えると高いですね確かに
この男子たちがちょこちょこ遊んでいるようですが、ゴティ先輩がドライバーなのかな? みんなをおうちまで送ってるんやろか……
と言うか4500円の換算の仕方よ。パンが45個もあったらタカちゃんなら1週間は余裕で生きるw まあそうだろうけどもw
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午後10時から朝6時までの8時間、それが週3、4回。103万円の制限を気にする人が大多数だけど、千葉家では「働かざる者食うべからず」ということで食費のために収入が103万を超えちゃうのも仕方ないよねって納得されてる。これがアタシの働き方で、それはお腹いっぱいごはんを食べるという生き方にも直結する。
あんまり稼げ過ぎちゃってるモンだから年金とか保険とかもバイト先の会社で入った自分名義になってるし、扶養だって余裕で外れちゃってる。だけど103万とか130万の壁がどーたらこーたらとか、そんなことを気にしてたら好きにお金だって使えないしお腹だって膨れない。
アタシがバイトをしてるのは緑ヶ丘大学から坂を下って少し行ったところにあるガソリンスタンドとコーヒーチェーン店の併設店。ガソリンを入れに来る人がいれば給油承認ボタンを押したり、コーヒーを買いに来る人がいれば「アメリカンMでーす」って具合にコーヒーを淹れてお出しする。
「よーう果林」
「千葉ちゃん、今日も精が出とるねー」
「おっとぉ、3名様いらっしゃいませー」
大学から近い店ということもあって深夜帯でもぽつぽつと人が来たりするし、勉強に使う人もよくいる。日付が変わる前の23時半、これは冷やかしかな? 友達の3名様がご来店。だけど正直深夜帯は人が来なくて退屈することもあるし、適度に声が出せるのは助かるよね。
連れ立って来たのはMBCCの同期・ゴティとゼミの同期である小田ちゃんとひらっちゃん。この3人は仲が良くて、ちょこちょこ一緒に遊んでるみたい。カラオケに行ったり草野球をしたり、銭湯に行ったりってなかなか活動的。ここに辿り着いたってことはカラオケに行って来たかこれから行くかかな?
「えーとね、俺ブレンドのM」
「ゴティがブレンドのM。小田ちゃんと店長は?」
「俺はねえ、アイスティーのM。ひらっちゃんは?」
「抹茶ミルクのタピオカ」
「持ってく? 飲んでく?」
「果林いるし飲んでく? つか俺リアルに休憩したいんだわ」
「そうだね。ゴティに任せるよ」
「んだ。そーゆーことやで千葉ちゃん、飲んでくわ」
「はいはーい」
もちろん、これは深夜帯かつ友達だからこその接客の緩さもありありで。もちろん、友達じゃなかったら普通に接客するけどね。3人分のドリンクを作って、アタシもカウンター越しに仕事をしながら会話に混ざる。
「え? 千葉ちゃんてこのバイト時給いくらやっけ」
「1250円」
「いつ聞いても高いよな」
「深夜だからその分割り増しなんだよ。日給にして10000円ね」
「え、そしたら千葉さん、余裕で収入103万超えるでしょ? 親御さんとか何も言わない?」
「扶養から外れて高くなる税金などなどよりも、アタシが稼がないことで負担になる食費の方が高いからね」
「あ、不思議と納得しちゃった。千葉さんならそうか」
「小田ちゃん、千葉ちゃんは特殊やでね」
これは千葉家の体質か何かだと思うけど、うちの家族はどれだけ食べてもお腹いっぱいっていう感覚がないみたくて、とにかく量を食べなきゃ気が済まない。アタシもそう。だから収入に対する食費の割合がとんでもなくなるし、1日1万とか稼いでブルジョワって言われるけど、それもすぐ食費に消えちゃう。
「あ、つかさ果林、お前に聞きたかったんだって」
「なになに?」
「社学ガイダンスでさ、佐藤ゼミの前に来た学生にMBCCのビラ配ってたらしーじゃん。あれ手応えどーだったん?」
「手応えはちょっとわかんないなあ。今年ビラ配ってたのタカちゃんだし、アタシブースの中のことで結構手一杯だったから」
「あーそう、高木をつつけばいーワケね。了解」
「ホントMBCCはこれがあるからズルいわー」
文句があるならビラ配りを容認してるMBCC顧問の佐藤先生にどうぞ、とアタシとゴティの声が揃う。でも実際これなんだよね。今年に関しては容認とかじゃなくて推奨とか推進って言う方がそれっぽいかも。ゼミの資料に乗じてビラを配れって言ったのはむしろヒゲ。使える物は使いますよ。高ピー先輩イズムの継承ね。
「そういう小田ちゃんはどうなの? 部活の新歓」
「アーチェリー部はほら、大学から始める人も多いし緑大体育会の中でも割と緩い方だから見学者もまあまあいるね」
「うん、アーチェリー部に入るかはともかく、1回ちょっとやってみたいって気持ちはあるよね。わかる」
「そう。入るかはともかくっていう子がほとんどだから、実際に入ってくれる子はそんなでもないよ」
「店長は? 野球の勧誘とか」
「いや、俺のはサークルとかじゃないただの草野球なんよ。好きな時に集まって野球に限らず好きなことをやるっていうだけの。でも、一緒にやる仲間は増やしたいでね。ポスター書いて第1食堂の階段の踊り場に貼っといたわ」
「あー、好きな時に集まって好きなことやるのはいいよね」
明日の朝から使う食材やケーキの仕込みを始めるにはまだもう少し時間がある。お喋りついでにフロアに出てテーブルや椅子をアルコール拭きしたり、床の掃き掃除をしたり。もちろんその間にガソリンスタンドの方に目をやることも忘れない。新聞は、朝刊が届いたら入れ替え。
「てか話全然変わるけど、教科書販売っていつからやっけ」
「来週だと思うけど、えっ、店長教科書要るような授業取るの?」
「3つあるんよ、教科書買わなアカンヤツがさあ」
「えー、大変」
「大変って言うけど、ゼミも教科書新しくなるでね千葉ちゃん。買わなアカンよ」
「えっウソ!? いくら!? 何て本!?」
「『孤独な群衆』とかいう4500円くらいの本」
「高っ! 安いパンなら45個分じゃん!」
「換算の仕方よ」
「でもだよゴティ、パンが45個もあったらアタシはともかくタカちゃんなら1週間は余裕で生きるワケ。それだけのお金だよ!?」
「お前はアイツを何だと思ってんの?」
「今日のバイト代は教科書代やね千葉ちゃん」
「えー、萎えるわー」
end.
++++
果林のバイトは深夜帯なので基本の時給から2割5分増しの計算になっています。そう考えると高いですね確かに
この男子たちがちょこちょこ遊んでいるようですが、ゴティ先輩がドライバーなのかな? みんなをおうちまで送ってるんやろか……
と言うか4500円の換算の仕方よ。パンが45個もあったらタカちゃんなら1週間は余裕で生きるw まあそうだろうけどもw
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